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第3章(完結)
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あの電話のあと、あたしは外に出た。理由を挙げるなら、「好奇心」と「暇だから」だろうか。
──この暑い中、暇つぶしもないか。
いい加減にそう思って帰ろうとした頃、三つ目の公衆電話のそばでそれらしい二人組を発見した。
近寄って声を聞いてみるが、電話の声は少し作った声だったし、そうでなくても判別できたかどうかは疑わしい。
そこはバス停の脇にある公衆電話だった。予想に反してボックスタイプ。一人が電話をして、もう一人はドアを開けてその内容を聞いていたのだろうか。今のところその可能性が一番しっくり来る。
今あたしがいるこのあたりは、今の時間帯は大きな日陰になっている。それも手伝って、あたしは近くに自転車を止めて、バスを待つフリをして二人を観察していた。
すると。
一人の女性が二人に近づいた。第一印象は「背が高い」。あたしの目測だと百七十近くありそうだ。二十代半ばくらいに見える。髪はストレートで、背中の中程まである。色は茶色がかった黒。化粧といえるほどのメイクはしていないように見える。顔やプロポーションを含めた外見は、同性から見れば羨望や嫉妬の対象になるだろう。女のあたしがいうのだから間違いはない。はずだ。
「あ……お母さん、買い物?」
と、二人のうち、年上だと思われる方がいった。何かにおびえているように見えなくもないが──そんなことよりも。
お母さん?
あたしの主観だが、この女性は絶対に子持ちには見えない。
あたしの怠惰な頭脳は、考えるより早く結論をはじき出した。
──後妻ッ!
今の時代、珍しいことではない。きっと、その美貌を武器に金持ち妻子持ちの男を──まあ、多くは語るまい。
「……二回電話したの?」
「え……うん」
義理の親子(推定)の会話を、引き続き盗み聞き。
ひきつづきぬすみぎき。早口言葉になりそうなフレーズだ。というか、実際喋りにくい。
──?
親子(義理)の会話を聞いていると、どうにも引っかかることがあった。
問いつめる母。次第に語調が真剣味を帯びてくる。それに伴いおびえる息子。
会話の内容から察するに、二人は兄弟らしい。で、兄はずるがしこく、弟は引っ込み思案。二回電話したが、そのうち一回は宛先が不明。なんで二回電話したかといえば、身代金の受け渡し方法をいい忘れたから──
これを偶然ですませるほどあたしの頭は柔らかくない。
お母さん(子供との血縁関係はない)の顔が蒼白になった。
そりゃそうだろう。あたしはたまたまそうしなかっただけで、一歩違えば無駄に警察沙汰になっていた可能性があるのだから。その場合、「人の噂も七十五日」ということわざを信用するにしても、この人とその家族は二ヶ月半ぐらい外に出られなくなってしまう。
ただ、今回は最悪のパターンにはならなかった。これにおける最悪のパターンとは、「間違い電話に出た人が気の小さい人で、電話は一回で成功。電話をとった人は即警察に連絡。二回目の電話もないために、お母さんは気付かない。その後、警察からの連絡ですべてを知る」といったところだろうか。
とまあ、そんな仮定は置いといて。
あたしの鶴の一声でそれらの不安はスパッと解消できるわけである。
「……あのー、ちょっといいですか」
「──あっ、なっ、なんでしょうか?」
あたしの接近に気付かなかったのだろうか。あわてる母を、きょとんとした顔で見上げる兄弟。
宛先不明の電話はうちにかかって来たのだということを説明した。結果、齟齬もなくバッチリ解決。
お母さんは、膝から崩れ落ちそうになり、安堵した表情を浮かべ、深呼吸を繰り返した。
「あ、あの、本当にすいませんでした!」
落ち着いたあと、勢いよくぐいっと頭を下げた。体はすごい柔らかいようだ。
大きな声に、周囲の視線がちらちらと向けられる。
「あー……別にいいですよ、ちょうどいい暇つぶしになりましたから」
気を使っているわけではない。本音だ。
「そうはいっても……何かお詫びを……お礼? ……お詫び?」
それなりにパニクっているらしい。見ている分には面白い。
二、三言かわしただけなのに、一つわかったことがあった。
この人はちゃんとした、まぎれもない「お母さん」なのだと。
子供のために頭を下げる様を見て、なんとなくだけどわかってしまった。本当の親子とはこんなものなのだろうか。
今の「お母さん」は、第一印象のときよりも少し老けて見える。それを抜きにしても、見た目より年はいっているのだろうという確信に近い予感があった。
なんで警察に電話しなかったんですか? と彼女は訊いてきた。
「……子供の声を使った脅迫っていうのは昔もあったらしいですけど……身代金がそれですからね。危機感も何もあったものじゃないですよ」
あたしが指さした先には、お母さん(実母)の手にあるカプセルがある。
その中で、百円硬貨が二枚、こすれて小さな音を立てた。
──この暑い中、暇つぶしもないか。
いい加減にそう思って帰ろうとした頃、三つ目の公衆電話のそばでそれらしい二人組を発見した。
近寄って声を聞いてみるが、電話の声は少し作った声だったし、そうでなくても判別できたかどうかは疑わしい。
そこはバス停の脇にある公衆電話だった。予想に反してボックスタイプ。一人が電話をして、もう一人はドアを開けてその内容を聞いていたのだろうか。今のところその可能性が一番しっくり来る。
今あたしがいるこのあたりは、今の時間帯は大きな日陰になっている。それも手伝って、あたしは近くに自転車を止めて、バスを待つフリをして二人を観察していた。
すると。
一人の女性が二人に近づいた。第一印象は「背が高い」。あたしの目測だと百七十近くありそうだ。二十代半ばくらいに見える。髪はストレートで、背中の中程まである。色は茶色がかった黒。化粧といえるほどのメイクはしていないように見える。顔やプロポーションを含めた外見は、同性から見れば羨望や嫉妬の対象になるだろう。女のあたしがいうのだから間違いはない。はずだ。
「あ……お母さん、買い物?」
と、二人のうち、年上だと思われる方がいった。何かにおびえているように見えなくもないが──そんなことよりも。
お母さん?
あたしの主観だが、この女性は絶対に子持ちには見えない。
あたしの怠惰な頭脳は、考えるより早く結論をはじき出した。
──後妻ッ!
今の時代、珍しいことではない。きっと、その美貌を武器に金持ち妻子持ちの男を──まあ、多くは語るまい。
「……二回電話したの?」
「え……うん」
義理の親子(推定)の会話を、引き続き盗み聞き。
ひきつづきぬすみぎき。早口言葉になりそうなフレーズだ。というか、実際喋りにくい。
──?
親子(義理)の会話を聞いていると、どうにも引っかかることがあった。
問いつめる母。次第に語調が真剣味を帯びてくる。それに伴いおびえる息子。
会話の内容から察するに、二人は兄弟らしい。で、兄はずるがしこく、弟は引っ込み思案。二回電話したが、そのうち一回は宛先が不明。なんで二回電話したかといえば、身代金の受け渡し方法をいい忘れたから──
これを偶然ですませるほどあたしの頭は柔らかくない。
お母さん(子供との血縁関係はない)の顔が蒼白になった。
そりゃそうだろう。あたしはたまたまそうしなかっただけで、一歩違えば無駄に警察沙汰になっていた可能性があるのだから。その場合、「人の噂も七十五日」ということわざを信用するにしても、この人とその家族は二ヶ月半ぐらい外に出られなくなってしまう。
ただ、今回は最悪のパターンにはならなかった。これにおける最悪のパターンとは、「間違い電話に出た人が気の小さい人で、電話は一回で成功。電話をとった人は即警察に連絡。二回目の電話もないために、お母さんは気付かない。その後、警察からの連絡ですべてを知る」といったところだろうか。
とまあ、そんな仮定は置いといて。
あたしの鶴の一声でそれらの不安はスパッと解消できるわけである。
「……あのー、ちょっといいですか」
「──あっ、なっ、なんでしょうか?」
あたしの接近に気付かなかったのだろうか。あわてる母を、きょとんとした顔で見上げる兄弟。
宛先不明の電話はうちにかかって来たのだということを説明した。結果、齟齬もなくバッチリ解決。
お母さんは、膝から崩れ落ちそうになり、安堵した表情を浮かべ、深呼吸を繰り返した。
「あ、あの、本当にすいませんでした!」
落ち着いたあと、勢いよくぐいっと頭を下げた。体はすごい柔らかいようだ。
大きな声に、周囲の視線がちらちらと向けられる。
「あー……別にいいですよ、ちょうどいい暇つぶしになりましたから」
気を使っているわけではない。本音だ。
「そうはいっても……何かお詫びを……お礼? ……お詫び?」
それなりにパニクっているらしい。見ている分には面白い。
二、三言かわしただけなのに、一つわかったことがあった。
この人はちゃんとした、まぎれもない「お母さん」なのだと。
子供のために頭を下げる様を見て、なんとなくだけどわかってしまった。本当の親子とはこんなものなのだろうか。
今の「お母さん」は、第一印象のときよりも少し老けて見える。それを抜きにしても、見た目より年はいっているのだろうという確信に近い予感があった。
なんで警察に電話しなかったんですか? と彼女は訊いてきた。
「……子供の声を使った脅迫っていうのは昔もあったらしいですけど……身代金がそれですからね。危機感も何もあったものじゃないですよ」
あたしが指さした先には、お母さん(実母)の手にあるカプセルがある。
その中で、百円硬貨が二枚、こすれて小さな音を立てた。
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