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第22話 ガルフス、因縁をつけるが……
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兵士たちと談笑をしているところに、ちょうど城から戻る途中の馬車が通りかかった。
当然、乗っているのは大臣のガルフスである。
彼は窓から顔を出すと、
「何を油を売っている!! 働け!!」
そう叫んだ。
兵士たちが首をすくめて、立ち去っていく。
後に残ったのは俺。そしてイングリド。
「全く……。暇があればサボることばかり考えおって……。我が国にはもう兵士を一人でも遊ばせておく余裕など……」
「おや、マールイ王国は平和な国であったはずですがね?」
俺の声を聞くと、ガルフスが目を剥いた。
「そ、そ、その声はオーギュスト!? お前、お前どうしてここにっ!!」
「だから、俺は冒険者をしていると言っただろう。それでどうだったんだ? ガットルテの王は、今は青年王ブリテインだったな。ブリテイン陛下はお許しくださったのかな?」
「う、ううう、何故貴様にそんな事を言わねばならん!!」
おや、どうやら寛大にも、ガットルテ王国はマールイ王国の蛮行を許してやったようだ。
その代わり、大臣が自ら頭を下げたということで、国家間では、マールイ王国はガットルテの下、という序列が生まれてしまったことだろう。
国のトップが他国に謝るなど、あってはならないのだ。
「オーギュスト! 相変わらず無礼な男だ! ここがマールイ王国ならば、兵をけしかけて貴様を囚えて極刑に処しているところだ! くそっ、くそっ! 何もかもお前のせいで……! この私がこんな苦労をしている時に、貴様は女連れだなどと……」
そう言いながら、ガルフスの目が俺の横に注がれた。
そこには、ガルフスの尊大な物言いに腹を立てているらしいイングリドがいる。
ガルフスの目が見開かれた。
「え? は? ま、まさか、イングリッド姫……?」
「は?」
「むっ、違うぞ。私はイングリッド姫ではない。私はイングリドだ」
イングリドが堂々と否定する。
姫……?
彼女は否定しているが、俺の中で彼女に感じていた様々な印象が一つ一つ、腑に落ちていく。
しかし、俺はイングリッド姫という王女のことは知らないが……。
そもそも、ガットルテ王国がブリテイン国王に代替わりした辺りからは会っていなかったな。
俺がまじまじとイングリドをみるので、彼女は少し焦ったようだった。
「な、なんだ。私をそんなに見ても、何も出てこないぞ」
「いや、なるほどなと思ってね……」
「何がなるほどなんだ!」
俺たちのやり取りを見ていたガルフスは、ちょっと青ざめていた。
「ま……まさかな。病弱ゆえに、国家間の社交パーティにも一度も顔を見せなかった王女だ。それがそんな、冒険者のような格好をして道化師の隣にいるなど、あるわけがない。そうだ、そうに違いない……! おい、出せ! そうだ。道化師があの王女と関わりになっているなど、あってはならないことだ! そんなこと、まるで運命が味方しているようではないか!」
馬車が走り出す。
かくして、ガルフスとの再会は終わった。
あの男は国に帰るのだろう。
できるならば、一生顔を合わせたくないものだ。
「ふむ、あれはストーム公爵家のガルフス様だったか……危ない危ない。昔顔合わせをしたのを忘れていた」
イングリドがぼそぼそ呟いたのを、俺の聞き耳スキルがしっかりとキャッチしていた!
なんだと、本当に王女なのか……!?
仲間を死なせて、死神と呼ばれて、一人で冒険者ギルドの酒場で飲んだくれていたあれが!
王女!
さすがの俺も動揺を禁じえない。
よりによって、ガットルテ王国の王女が俺の仲間だというのか……。
そして彼女は、どういういきさつがあって冒険者などになったのだろうか?
ガルフスは彼女を病弱だと言っていたな。
冗談ではない。
エルダーマンティコアをたった一人で食い止められる女傑のどこが病弱なのか。
あんな事ができる冒険者は、男女問わず、ほとんどいない。
「な、なんだ! 私を怪しんでいるのか!? 失礼だぞオーギュスト! イングリッド王女と私では名前が違うじゃないか!」
「そ、そうだね……」
イングリッドとイングリド……。
ほぼ一緒である。
これで改名したつもりになって、しかもほぼ本人の顔のまま、堂々と城下町で暮らしている訳か……!
豪気すぎる。
事情はあえて詮索はすまい。
きっと、俺以外の人々も、「まさかこんなところに王女が! しかもこんな健康無比な女豪傑として、のほほんとほぼそのまんまの名前で暮らしているわけがない!」という、いわゆる正常化バイアスにやられているのだろう。
待てよ。これこそが幸運スキルの力か!
たまたまみんな忖度し、イングリドがイングリッドと同一人物だとは思わずにこれまでやってきたのだ。
おお……。
なんだこれ。
下手な芸よりも面白い状況ではないか。
芸人殺しというやつだ。
「イングリド。俺は絶対に深くは詮索しない。これからも仲良くやっていこうじゃないか」
「? ああ、よろしく頼むぞ、オーギュスト!」
俺たちは、固く握手を交わした。
戻ってきた番頭が、不思議そうにこれを眺めているのだった。
よし、俺は真実を知った後も、知らんぷりを貫き通すぞ。
そう固く決意した日の夕方。
「イングリッド様!!」
冒険者ギルドに、いかつい大男が飛び込んできたのである。
髭面に傷だらけの顔、そしてガットルテ王国の紋章が刻まれた鎧。
背後には、顔なじみの騎士ダガンを引き連れている。
「ガオンではないか。……ごほん、イングリッドとは誰かな?」
「おっと、これは失礼しました。冒険者イングリド殿……依頼がございます」
「ほう」
俺はこの茶番を!
横で聞きながら!
痙攣していた!
やめてくれ!
普通の芸よりも面白いやり取りを大真面目にやるのは、やめてくれ!
それからイングリド。
君は、ほんとに素性とか隠す気全く無いんじゃないのか!?
当然、乗っているのは大臣のガルフスである。
彼は窓から顔を出すと、
「何を油を売っている!! 働け!!」
そう叫んだ。
兵士たちが首をすくめて、立ち去っていく。
後に残ったのは俺。そしてイングリド。
「全く……。暇があればサボることばかり考えおって……。我が国にはもう兵士を一人でも遊ばせておく余裕など……」
「おや、マールイ王国は平和な国であったはずですがね?」
俺の声を聞くと、ガルフスが目を剥いた。
「そ、そ、その声はオーギュスト!? お前、お前どうしてここにっ!!」
「だから、俺は冒険者をしていると言っただろう。それでどうだったんだ? ガットルテの王は、今は青年王ブリテインだったな。ブリテイン陛下はお許しくださったのかな?」
「う、ううう、何故貴様にそんな事を言わねばならん!!」
おや、どうやら寛大にも、ガットルテ王国はマールイ王国の蛮行を許してやったようだ。
その代わり、大臣が自ら頭を下げたということで、国家間では、マールイ王国はガットルテの下、という序列が生まれてしまったことだろう。
国のトップが他国に謝るなど、あってはならないのだ。
「オーギュスト! 相変わらず無礼な男だ! ここがマールイ王国ならば、兵をけしかけて貴様を囚えて極刑に処しているところだ! くそっ、くそっ! 何もかもお前のせいで……! この私がこんな苦労をしている時に、貴様は女連れだなどと……」
そう言いながら、ガルフスの目が俺の横に注がれた。
そこには、ガルフスの尊大な物言いに腹を立てているらしいイングリドがいる。
ガルフスの目が見開かれた。
「え? は? ま、まさか、イングリッド姫……?」
「は?」
「むっ、違うぞ。私はイングリッド姫ではない。私はイングリドだ」
イングリドが堂々と否定する。
姫……?
彼女は否定しているが、俺の中で彼女に感じていた様々な印象が一つ一つ、腑に落ちていく。
しかし、俺はイングリッド姫という王女のことは知らないが……。
そもそも、ガットルテ王国がブリテイン国王に代替わりした辺りからは会っていなかったな。
俺がまじまじとイングリドをみるので、彼女は少し焦ったようだった。
「な、なんだ。私をそんなに見ても、何も出てこないぞ」
「いや、なるほどなと思ってね……」
「何がなるほどなんだ!」
俺たちのやり取りを見ていたガルフスは、ちょっと青ざめていた。
「ま……まさかな。病弱ゆえに、国家間の社交パーティにも一度も顔を見せなかった王女だ。それがそんな、冒険者のような格好をして道化師の隣にいるなど、あるわけがない。そうだ、そうに違いない……! おい、出せ! そうだ。道化師があの王女と関わりになっているなど、あってはならないことだ! そんなこと、まるで運命が味方しているようではないか!」
馬車が走り出す。
かくして、ガルフスとの再会は終わった。
あの男は国に帰るのだろう。
できるならば、一生顔を合わせたくないものだ。
「ふむ、あれはストーム公爵家のガルフス様だったか……危ない危ない。昔顔合わせをしたのを忘れていた」
イングリドがぼそぼそ呟いたのを、俺の聞き耳スキルがしっかりとキャッチしていた!
なんだと、本当に王女なのか……!?
仲間を死なせて、死神と呼ばれて、一人で冒険者ギルドの酒場で飲んだくれていたあれが!
王女!
さすがの俺も動揺を禁じえない。
よりによって、ガットルテ王国の王女が俺の仲間だというのか……。
そして彼女は、どういういきさつがあって冒険者などになったのだろうか?
ガルフスは彼女を病弱だと言っていたな。
冗談ではない。
エルダーマンティコアをたった一人で食い止められる女傑のどこが病弱なのか。
あんな事ができる冒険者は、男女問わず、ほとんどいない。
「な、なんだ! 私を怪しんでいるのか!? 失礼だぞオーギュスト! イングリッド王女と私では名前が違うじゃないか!」
「そ、そうだね……」
イングリッドとイングリド……。
ほぼ一緒である。
これで改名したつもりになって、しかもほぼ本人の顔のまま、堂々と城下町で暮らしている訳か……!
豪気すぎる。
事情はあえて詮索はすまい。
きっと、俺以外の人々も、「まさかこんなところに王女が! しかもこんな健康無比な女豪傑として、のほほんとほぼそのまんまの名前で暮らしているわけがない!」という、いわゆる正常化バイアスにやられているのだろう。
待てよ。これこそが幸運スキルの力か!
たまたまみんな忖度し、イングリドがイングリッドと同一人物だとは思わずにこれまでやってきたのだ。
おお……。
なんだこれ。
下手な芸よりも面白い状況ではないか。
芸人殺しというやつだ。
「イングリド。俺は絶対に深くは詮索しない。これからも仲良くやっていこうじゃないか」
「? ああ、よろしく頼むぞ、オーギュスト!」
俺たちは、固く握手を交わした。
戻ってきた番頭が、不思議そうにこれを眺めているのだった。
よし、俺は真実を知った後も、知らんぷりを貫き通すぞ。
そう固く決意した日の夕方。
「イングリッド様!!」
冒険者ギルドに、いかつい大男が飛び込んできたのである。
髭面に傷だらけの顔、そしてガットルテ王国の紋章が刻まれた鎧。
背後には、顔なじみの騎士ダガンを引き連れている。
「ガオンではないか。……ごほん、イングリッドとは誰かな?」
「おっと、これは失礼しました。冒険者イングリド殿……依頼がございます」
「ほう」
俺はこの茶番を!
横で聞きながら!
痙攣していた!
やめてくれ!
普通の芸よりも面白いやり取りを大真面目にやるのは、やめてくれ!
それからイングリド。
君は、ほんとに素性とか隠す気全く無いんじゃないのか!?
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