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マシロ、配信を目論む編
第60話 生活に潤いが欲しいんスよ
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春。
世の中では新生活が始まる頃だろう。
俺は黒胡椒スパイスとして、新たな季節も元気に配信活動を行っていた。
ファイアボールはかなりの完成度になったぞ。
ここに浮遊の魔法系統を組み合わせることで、変化球だってぶっ放せる。
そんな研究の日々の中、あまりに毎日楽しくてちょっとマシロの事を忘れていたら……。
なんかツイッピーで聞いたことがある声を耳にしたのだった。
『えっと、そういうわけで……ちょーっと路地裏ダンジョンに挑んでみようと思うッス! えっと……この、護身用スタンガンを使ってッスね』
同接は一応どうにか二桁。
弱いダンジョンなら問題ない数だ。
俺は動画の編集作業をしながら、ふとその配信を横目で流していた。
「なんかこう、聞き馴染みのある声なんだよな。誰だっけ」
紅と白のおめでたいカラーなショートカットの女子で、やっぱり赤い制服っぽいコスチュームを身に着けている。
ところどころに白いワンポイントがあるから、紅色と白がイメージカラーなんだろうな。
顔はなかなかかわいいアバターを使ってる。気が強そうだ。
『主様の知り合いなんか数えるくらいしかいないじゃないですか』
「あっフロータてめーこの野郎言ってはならぬことを」
『ん魔女の襲撃もなくぅ! 俺は暇であるぅ!』
「こんこん」
『充電が完了しました。編集作業のお手伝いをいたします主様』
「おっ、どこぞの魔導書と違ってフロッピーは気が利くなあ」
『むきー!』
今日も我が家は賑やかだ。
人間は俺一人しかいないのに。
画面の中の配信に目を戻すと、『アヒィー』とか悲鳴を上げながらゴブリンをスタンガンで仕留めているところだった。
あんな至近距離でしか使えない武器で、よくやるよなあ。
威力はあると思うけど、危険すぎない?
『し、し、死ぬかと思ったッス! あの、きょ、今日はここまで!』
配信が終わってしまった。
コメント欄の面々も解散する。
※『今回もヘタレで良かった』『なんで毎回肉薄しないといけない武器を選択するんだろうw』『応援したくはなるよなあ』『毎回、無事でいるかどうかハラハラしてるよw』
この配信者のヘタレを楽しむリスナーがついているようだ。
さて、彼女の名前は……。
紅野シロコか。
……マシロじゃね?
「絶対あいつマシロだよな」
『フロータもそう思います。っていうかまんまですよ。そして配信者の才能はない!』
『ん危険なダンジョンに飛び込んだらぁ、死ぬなあ!』
「だよなー」
俺の足元をうろうろしていたシノが、ムラカミさんモードになった。
「スパイスさんが上澄みなだけで、一般的な冒険配信者はこんなものですよ。一度の配信ではダンジョンを殲滅しきれず、ちょこちょこ訪れてはモンスターをちょっとずつ間引きして、パワーバランスを保ってくれているのです」
まあ犠牲者もそれなりに出るのですが、と続けるムラカミ。
冗談ではない。
俺はマシロに連絡を取るのだった。
当然、すぐ繋がった。
あの路地は見覚えがある。
立川市の南口だろう。
なので、同じ駅前で待ち合わせた。
やって来るマシロ。
民生Aフォンがカバンからはみ出ているぞ……。
俺の視線に気づき、マシロが慌ててAフォンを隠した。
社会人をやっていて、しかも実家暮らしなら買えない価格ではないもんな。
「ど、ど、どうしたんスか先輩。誘ってくれるなんて珍しいッスねー」
「いや、最近あんまり会えて無いから飯でもどうかなーと思ってさ」
「そうッスか! いいッスね! どこ行くんですか!」
「軽くイタリアンが食べられる店があるからそこに行こう」
「先輩がお洒落な店を知ってる……」
「仕事仲間と一緒に飲みに行ったんだ」
「まさか女性……!?」
「残念だけど男だなあ……」
チャラウェイとか八咫烏とか。
あれ以来、機会があるとちょくちょくあちこちで一緒に飯を食ったりしている。
さて到着。
入口を大きく開き、外にテーブルや椅子を出している開放的な雰囲気のイタリア料理店だ。
なんと石窯まであるので、この場でピザを焼いてくれる。
二人だけならどこにでも座れるので、外のテーブルを選んだ。
食前酒を頼み、幾つかの料理を注文だ。
さて……どう切り出す?
「最近どう? 変わったことしてない?」
いきなり直接的な質問を投げかけることにした。
マシロがビクッとする。
「な、な、な、なんスか!? べべべ、別に変わったことはしてないッスよ!」
「そう? それならいいんだけど。なんかツイッピーで聞いたことがある声が流れてきた気がしてさ」
「ぶふっ」
お冷を飲もうとしていたマシロが吹き出した。
な、なんて分かりやすいんだ!!
「どうした?」
「ななななな、なんでもないッス!! そのう……先輩は変わったことはないんスか?」
「無いなあ……。ちょっと変化が起きて欲しいというか、そろそろ目標の一つとやり合うつもりなんだけど接触手段がなあ」
次なる魔女と戦うには、異世界に誘い込んだらいいのではないかと画策しているところだ。
どうやら、あの異世界への入口は世界のあちこちに開き始めているらしい。
俺が迷宮省を伴い、遠距離移動実験をした配信は世界に流れている。
つまり、誰かが異世界を経由した遠距離移動を試している可能性も高いわけだ。
やる気のある魔女なら、きっとチャレンジしているのではないか。
それを手がかりとして、残る魔女と戦いたいところだ。
「そうッスかあ……。実はッスね、あたし、会社は慣れてきたんスけど。こう、生活の潤いが無くてッスね。潤いが欲しいんスよ」
「ほうほう」
その潤いがダンジョン配信だと!?
「でも危ないことは良くないと思うなあ」
「ま、ま、まあそうなんスけど!! 分かってるッスけどー! ねえ、先輩もちょっとは気持ち分かんないッスか? ほら、先輩だって前にAフォン買ってたじゃないッスか」
「むぐう」
そうだった!
マシロが民生Aフォンを買って配信をやっているということは、俺が彼女を連れてAフォンを買った意味も理解されているということだ。
彼女は、俺がダンジョン配信をやっているのではないかと疑っているのだろう。
うーむ、これはバレてしまうかも知れない。
どうしたものか……。
「あのなマシロ」
「実は先輩」
「お待たせしましたー! カルパッチョお持ちしましたー!!」
お互いに話しかけたところで、注文していた料理が来始めてしまった!
仕方ない、食事をしながら切り出すチャンスを伺うぞ。
世の中では新生活が始まる頃だろう。
俺は黒胡椒スパイスとして、新たな季節も元気に配信活動を行っていた。
ファイアボールはかなりの完成度になったぞ。
ここに浮遊の魔法系統を組み合わせることで、変化球だってぶっ放せる。
そんな研究の日々の中、あまりに毎日楽しくてちょっとマシロの事を忘れていたら……。
なんかツイッピーで聞いたことがある声を耳にしたのだった。
『えっと、そういうわけで……ちょーっと路地裏ダンジョンに挑んでみようと思うッス! えっと……この、護身用スタンガンを使ってッスね』
同接は一応どうにか二桁。
弱いダンジョンなら問題ない数だ。
俺は動画の編集作業をしながら、ふとその配信を横目で流していた。
「なんかこう、聞き馴染みのある声なんだよな。誰だっけ」
紅と白のおめでたいカラーなショートカットの女子で、やっぱり赤い制服っぽいコスチュームを身に着けている。
ところどころに白いワンポイントがあるから、紅色と白がイメージカラーなんだろうな。
顔はなかなかかわいいアバターを使ってる。気が強そうだ。
『主様の知り合いなんか数えるくらいしかいないじゃないですか』
「あっフロータてめーこの野郎言ってはならぬことを」
『ん魔女の襲撃もなくぅ! 俺は暇であるぅ!』
「こんこん」
『充電が完了しました。編集作業のお手伝いをいたします主様』
「おっ、どこぞの魔導書と違ってフロッピーは気が利くなあ」
『むきー!』
今日も我が家は賑やかだ。
人間は俺一人しかいないのに。
画面の中の配信に目を戻すと、『アヒィー』とか悲鳴を上げながらゴブリンをスタンガンで仕留めているところだった。
あんな至近距離でしか使えない武器で、よくやるよなあ。
威力はあると思うけど、危険すぎない?
『し、し、死ぬかと思ったッス! あの、きょ、今日はここまで!』
配信が終わってしまった。
コメント欄の面々も解散する。
※『今回もヘタレで良かった』『なんで毎回肉薄しないといけない武器を選択するんだろうw』『応援したくはなるよなあ』『毎回、無事でいるかどうかハラハラしてるよw』
この配信者のヘタレを楽しむリスナーがついているようだ。
さて、彼女の名前は……。
紅野シロコか。
……マシロじゃね?
「絶対あいつマシロだよな」
『フロータもそう思います。っていうかまんまですよ。そして配信者の才能はない!』
『ん危険なダンジョンに飛び込んだらぁ、死ぬなあ!』
「だよなー」
俺の足元をうろうろしていたシノが、ムラカミさんモードになった。
「スパイスさんが上澄みなだけで、一般的な冒険配信者はこんなものですよ。一度の配信ではダンジョンを殲滅しきれず、ちょこちょこ訪れてはモンスターをちょっとずつ間引きして、パワーバランスを保ってくれているのです」
まあ犠牲者もそれなりに出るのですが、と続けるムラカミ。
冗談ではない。
俺はマシロに連絡を取るのだった。
当然、すぐ繋がった。
あの路地は見覚えがある。
立川市の南口だろう。
なので、同じ駅前で待ち合わせた。
やって来るマシロ。
民生Aフォンがカバンからはみ出ているぞ……。
俺の視線に気づき、マシロが慌ててAフォンを隠した。
社会人をやっていて、しかも実家暮らしなら買えない価格ではないもんな。
「ど、ど、どうしたんスか先輩。誘ってくれるなんて珍しいッスねー」
「いや、最近あんまり会えて無いから飯でもどうかなーと思ってさ」
「そうッスか! いいッスね! どこ行くんですか!」
「軽くイタリアンが食べられる店があるからそこに行こう」
「先輩がお洒落な店を知ってる……」
「仕事仲間と一緒に飲みに行ったんだ」
「まさか女性……!?」
「残念だけど男だなあ……」
チャラウェイとか八咫烏とか。
あれ以来、機会があるとちょくちょくあちこちで一緒に飯を食ったりしている。
さて到着。
入口を大きく開き、外にテーブルや椅子を出している開放的な雰囲気のイタリア料理店だ。
なんと石窯まであるので、この場でピザを焼いてくれる。
二人だけならどこにでも座れるので、外のテーブルを選んだ。
食前酒を頼み、幾つかの料理を注文だ。
さて……どう切り出す?
「最近どう? 変わったことしてない?」
いきなり直接的な質問を投げかけることにした。
マシロがビクッとする。
「な、な、な、なんスか!? べべべ、別に変わったことはしてないッスよ!」
「そう? それならいいんだけど。なんかツイッピーで聞いたことがある声が流れてきた気がしてさ」
「ぶふっ」
お冷を飲もうとしていたマシロが吹き出した。
な、なんて分かりやすいんだ!!
「どうした?」
「ななななな、なんでもないッス!! そのう……先輩は変わったことはないんスか?」
「無いなあ……。ちょっと変化が起きて欲しいというか、そろそろ目標の一つとやり合うつもりなんだけど接触手段がなあ」
次なる魔女と戦うには、異世界に誘い込んだらいいのではないかと画策しているところだ。
どうやら、あの異世界への入口は世界のあちこちに開き始めているらしい。
俺が迷宮省を伴い、遠距離移動実験をした配信は世界に流れている。
つまり、誰かが異世界を経由した遠距離移動を試している可能性も高いわけだ。
やる気のある魔女なら、きっとチャレンジしているのではないか。
それを手がかりとして、残る魔女と戦いたいところだ。
「そうッスかあ……。実はッスね、あたし、会社は慣れてきたんスけど。こう、生活の潤いが無くてッスね。潤いが欲しいんスよ」
「ほうほう」
その潤いがダンジョン配信だと!?
「でも危ないことは良くないと思うなあ」
「ま、ま、まあそうなんスけど!! 分かってるッスけどー! ねえ、先輩もちょっとは気持ち分かんないッスか? ほら、先輩だって前にAフォン買ってたじゃないッスか」
「むぐう」
そうだった!
マシロが民生Aフォンを買って配信をやっているということは、俺が彼女を連れてAフォンを買った意味も理解されているということだ。
彼女は、俺がダンジョン配信をやっているのではないかと疑っているのだろう。
うーむ、これはバレてしまうかも知れない。
どうしたものか……。
「あのなマシロ」
「実は先輩」
「お待たせしましたー! カルパッチョお持ちしましたー!!」
お互いに話しかけたところで、注文していた料理が来始めてしまった!
仕方ない、食事をしながら切り出すチャンスを伺うぞ。
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