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レクリエーションはダンジョンで

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 勝手知ったる我が庭とばかりに、ダンジョンを進む。
 実際、このダンジョンは何度か最下層まで潜っている。
 全体的な構造は把握していた。

 ただ、ダンジョンという奴は、細かな間取りがちょこちょこ変化する。
 これもまた、ダンジョンそのものが魔物だと言われる所以だ。
 マメにモンスターを狩らなければ外に溢れ出してくるし、かと言って、危険なモンスターがひしめく下層にはそれなりの腕利きでなければ挑めない。
 最下層のどこかに、ダンジョンの心臓部である迷宮核なるものが存在していると言われている。
 これを入手できれば、そのダンジョンを破壊できるのだが。

「こんないい稼ぎどころ、壊しちまったらもったいないよなあ。あ、トラップ見っけ」

 俺の起こりスキルが発動する。
 何も起きるはずがない、壁の一角で、何かが起こるのを察知する。

「全員後退ー」

「リードさんのスキル、優秀なんだけど回避するんじゃなくて、発動させたのを避けるんだよね……」

 カオルラーナ王女、改め戦士のカオルが口をへの字にしている。
 本日、何度めかの罠発動だ。

「すっごく精度高くって便利なんだけど、罠が発動し切るまで待つから、時間がかかるです……」

 リュミナリア王女、改め僧侶のリュミも難しそうな顔だ。
 対して、二人の腹違いの姉であるゼノビア王女は、済ましたものだ。

「あら、わたくしはこうやって待つ分には構いませんわよ? 何事も、安全が一番。ねえ、ノリン?」

「ええ、その通りだよ姫。もっとも、何かあっても僕が姫を守るけれどね」

 パーティの中で、一番の重装甲であるノリンが、さり気なくゼノビアの手を取った。

「ノリン……」

「姫……」

 ああ、こいつら見つめ合って。
 デキてるのか、おい。
 なんか他人がイチャイチャしているのを見るとイライラする俺である。
 早く帰って、ジェニファーちゃんとイチャつきたい……!!

 ここでティンと来る俺である。
 あれっ。
 ジェニファーちゃん、種族がオーガなんだから、普通にダンジョン潜って戦えるんじゃないか……?
 そうすれば、四六時中イチャイチャできるではないか。
 やばい、俺天才。

「あっ、リードさんがキモチワルい顔してる」

「なにをニヤニヤしてるですか! 早くいくですよ!」

 二人の王女が俺の尻をぺちぺち叩いた。

「へいへい。ダブル殿下には叶いませんよ。あっ、あとそこにまだ罠の残りが」

 ここの罠は、壁から槍が突き出してくるタイプ。
 一度出来ると、引っ込むまで起動しないのだが、わざと一つだけ残しておいた。

「えっ!?」

「きゃあっ」

 先行した俺についてきていた二人は、突き出してきた槍にびっくりする。
 ちなみに、穂先は俺が切り飛ばしてある。
 結果、棒で二人がつっつかれて、俺にぎゅっと押し付けられる形になるのだ。

「お……おお……。二人とも感触が違って、なかなか……」

 カオルはスレンダーだが、ちゃんと柔らかい感触があってこれからの成長が楽しみだ。年齢もこの中で一番若いし、この長身にふっくらと肉が乗る将来を想像すると、俺の心も豊かになるというものだ。
 リュミは小柄で出るところが出て引っ込むところが引っ込んでいる。素晴らしい完成度合いだ。特に胸の大きさはゼノビア王女より上だな。けしからん。素晴らしい。

「ふふふ、役得役得」

「リードさんっ!?」

「まさかわざと……」

「ハハハ、そんなわけないだろ。ベテランの冒険者である俺にだって、ミスはある。だが咄嗟に危険な穂先は破壊したから、大事はなかったはずだ」

「た、確かに……」

 スルスルと口から飛び出る俺の言い訳に、カオルもリュミも言いくるめられてしまう。
 まだまだ純粋な二人だ。
 ちなみに、冒険者として返送していると、リュミよりもカオルの方がよく喋るし、前に出る。
 リュミナリアとカオルラーナになれば、妹姫であるカオルラーナは後ろに引っ込む感じになるんだが。
 姿かたちが変わると、二人の関係性が変わるみたいでちょっと面白いな。

 ちなみに、俺とゼノビア王女の間にノリンが立ちはだかっている。
 その笑顔は、ゼノビアに触れたら殺すぞこの野郎と言っている。
 うん、実にわかりやすい。
 ゼノビア王女も、大人になる直前の、少女と女の境目辺りで大変いい感じなのだが……。

「さあリード君、先に行こうじゃないか」

「分かった分かった。肩を凄い力で掴まないでくれ手出ししないから」

「手を出したら殺す」

 あっ、言っちゃったよこの人。
 ということで、一部にギスギスとした空気を漂わせながら、俺たちは下層へと潜っていくのだった。
 ちなみに、ダンジョン内の道行きは順調。
 俺がスキルを利用して敵の動きを察し、不意打ちを食い止める。
 そして、俺が足止めしたモンスターを、ノリンが輝く槍で仕留める。
 時折、ゼノビアにとどめを刺させるために、ノリンがお膳立てをしたりするくらいだ。

 カオルとリュミはお客さん、という感じで、ぼーっとそれを見ている。
 二人の実力では、とても戦闘を任せられないのだ。
 今度、カオルはマンツーマンで鍛えてやらないとな、でへへ。

 年若い女の子に、手取り足取り教える妄想をしながら、俺は立ちはだかるキメラを足止めする。

『起こり、発動』

 王国がスポンサーなのだ。
 幾らでも武器はある。
 手の中には、指弾にするためのコイン状の金属片が握られている。
 これを、挙動を見せたキメラの部位へ向けて、的確に打ち込む。
 蛇の頭が連続の指弾を受けて、仰け反った。
 呪いの言葉を吐きかけた山羊の頭は、口の中に指弾を叩き込まれてむせる。

 一見すると、攻撃のでかかりを察知できる起こりのスキルは便利に見えるが、分かるだけだ。
 実際に攻撃の発生を妨害するには、それをするための技術を鍛えねばならない。
 結局本人が強くないと意味が無いスキルなんだよなあ。
 はー、地味だ。

「いい動きだ、リード君! はあーっ!!」

 別のモンスターをゼノビアと二人で片付けたノリンが、動きを鈍らせたキメラ目掛けて襲いかかる。
 今まさに、炎のブレスを吐こうとしていたドラゴンの頭を切り落とし、返す刃でライオンの頭を刺し貫く。
 キメラは声も上げられず、どう、と膝を突いた。

「凄まじい腕前だなあ。あー、ノリンとは勝負したくないわー」

「どうも。僕は、最後に当たるのは絶対にリード君だと思っているけれどね。君のスタイルは、相手を選ばない。どんな相手でも、自分のペースで戦えるんだ」

「そいつは買い被りだよ。さ、次で最下層だ。行こうぜ」

 俺は意識して話を変えた。
 何せ、俺も代理決闘士選抜戦の最後に当たるのは、ノリンになると思うからだ。
 俺とノリンが組めば、モルドとアダムのコンビなど敵ではない。
 ま、俺一人でも連中には負ける気がしないが。
 だが、だからこそノリンに、手の内をあまり見せたくないんだよな。

 下層に向かう階段を降りていく。
 ここを降りてきた、カオルとリュミと出会ってから、色々おかしな方向に話が進んだんだよな。
 いやいや、そもそも最初は、俺をこんな最下層に一人放置していったバカモノがいたからで……。

「……おっ」

「あっ」

 脳裏に思い浮かべていた顔が、眼の前に来ると、人間言葉を失うものらしい。
 そこには、見覚えのある四人の姿があった。
 今まさに、最下層のモンスターを倒したところだったようだ。
 戦士ヴィクターを中心とした、Aランクパーティ、マイティ・ホーク。

「リード……! お前か……!」

 忌々しげに、奴は呟いたのだった。
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