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あけちともあき

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真夏な私の遭遇編

第247話 力を見せよ、と告げドラゴンはドリンクバーに行った伝説

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「げげえっ、ド、ドラゴン!!」

 トリットさんが驚き立ち上がる。
 カナンさんが飲んでいたドリンクでむせた。
 イノシカチョウの三人はポカーンとしている。

 そう、ドラゴンさんなのだ。

 店員さんに席を一つ増やしてもらい、ドラゴンさんにはそこに座ってもらった。
 体重も自由自在だそうで、椅子がみしみし言わないくらいの重さにコントロールしてもらう。

『ふむ、ファールディアの民がおるようだな。わしは見ての通り、グリーンドラゴン。本来はあの山は火竜が住んでおったのだが、魔王に逆らったために滅ぼされた。空き家になったのでわしが潜り込んでいたら、バルログめが攻めてきたので慌てて籠城したところ封じられてしまった。ということで、わしは【家を奪う】ウェスパース』と呼ばれておる」

「アヒェーなんか凄そうな凄くなさそうな人だ……!」

 はぎゅうちゃんの感想は正直だなあ。

「ひとまずグリーンドラゴンさん、何かお料理おごります」

『ほう、捧げ物か? いや、魔将と同格のお主からすると、友誼のための贈り物と言ったところか……。そうだな……命の数が多いものを食べたい……』

 ウェスパース氏の言葉に、カナンさんとトリットさんが真っ青になって震え上がった。
 ここでぼたんちゃん、ハッとする。

「つまり……じゃこイクラ丼ね!!」

「それだ! 生き物だったものがたくさん載ってるもんね!!」

 ぼたんちゃん頭いい!
 たくさんの鮭の卵とちりめんじゃこを乗せた丼。
 多くの命をいただく冒涜的丼なのだ。

 ということで、丼が到着するまでの間に、私はウェスパース氏にドリンクバーの入れ方を教える。
 うーん、相手が人間ではないので緊張はあんまりしない。
 接しやすい人だなあ。

『ほう? 器をこの箱の下に? そしてこの突起を押す……うほう! 何か出てきたぞ! 小粒な氷か! 次は何々? 隣の箱の下に? この突起は……ぬおおお褐色の液体が泡立っておる!! なんだこれは!』

 反応が楽しい。
 ファミレスからは注目されてしまっているので、私は念のためにバーチャライズしてあるのだ。

「はづきっちがドラゴンにドリンクバーのやり方教えてる……!!」「また新しいことやってるのか!!」「いつも何をやらかすのか分からない人だ……!」

 パシャパシャ写真を撮られたので、私とウェスパース氏がドリンクバーしてるところはSNSで話題になるに違いない。
 ちなみに彼が入れたのはコーラだ。
 ウェスパース氏はコーラをストローで吸うと、目を細めた。

『ほう、安っぽいが甘い。活力の味がする。わしを信奉するドラゴニュートたちにこれを飲ませてやれば、あの戦も分からなかったかも知れんなあ』

 遠い目をする。
 人に歴史ありなのだ。

 ちょっとしたら、配膳ロボットがやって来た。

『お待たせしましたワン』

『おお、ご苦労。この世界でもゴーレムを使役しているのだな……。しっかり働くのだぞ』

 自分でお皿を受け取るウェスパース氏。

『ありがとうだワン!』

『しっかり礼も言えるとは大したゴーレムだ』

 配膳ロボットは顔の画面ににっこりマークを浮かべて、去っていった。

「い、意思の疎通をしている……。私よりもこの世界の機構を使いこなしてる……」

 衝撃を受けるカナンさん。

「だってドラゴンだもんね。ウェスパースさん、お箸の使い方は……」

『一度使い方を見せよ。我はドラゴン。圧倒的な知能でその扱いをすぐにマスターする』

「はあい」

 ということで、頼んであったパーティサイズのフライドポテトを箸でつまむ私なのだ。
 これを見て、ウェスパース氏が何か呪文を唱えた。

『ある程度のところまではマスターしたぞ。だがハヅキよ。その動きではこの盛られた供物を食べるには向いていないのではないか?』

「お米だもんね」

 私は彼に食べ方を見せるために、大ライスを注文した。
 すぐ出てくる。
 トリットくんがスーッとイカフライを差し出してきたので、これをありがたく受け取り、オンザライス。

「こう食べます」

 さっとご飯をお箸で持ち上げ、イカフライごと食べてみせた。

『おおーっ!!』

 感嘆するウェスパース氏。

「なんだこれ」

「なんだこれ」

 カナンさんとトリットさんが困惑した。
 もみじちゃんは目をキラキラさせながら、私とウェスパース氏のやり取りを見守っており、はぎゅうちゃんはSNSをチェックして「話題になってる!」と声を上げた。
 ぼたんちゃんは何か考え込んでいる。

「他愛もないことをしているようだけど、これはつまり、ドラゴンがはづきちゃんを同格の存在だと認めているから会話が成立しているのではないの?」

 箸の使い方をそれなりにマスターしたウェスパース氏は、じゃこイクラ丼をガーッと食べた。

『うほう! これは凄いぞ! 一度に多くの命を取り込んでいる感触がある! 死んではいるが、彼奴らの本質がここには満ちておる。あと味がいいな……』

 大変満足いただけたようだ。
 私もニコニコしながら大ライスを平らげた。

『良き贈り物であった……。良かろう。この『家を奪う』ウェスパース、汝、きら星はづきと同盟を結ぼう』

「あれ? 名乗りましたっけ」

『わしらドラゴンは相手の魂に刻まれた名を見ることができる。弱き人族が何度もわしに同盟を願い出てきたが、弱き者どもなどわしに頼るばかりで助けにはならん。だが、この世界は違うようだ』

 ウェスパース氏はニヤリと笑った。
 ドラゴンって表情豊かなのね。

「じゃあこれから仲良くということで……」

『うむ、いつでも呼ぶがいい。これ、わしのウロコ。装飾品にして身につけておれ。これを使えばいつでもわしを呼べるぞ。まあ来るかどうかはその時の都合によるが』

「それはそうですよねー。じゃあウェスパースさんこれで帰ります?」

『いや……ドリンクバーなるものをもう少し堪能していく……』

「あ、じゃあ教えます! あのですねー。プレーンで一通り飲んでから、ミックスして楽しむ方法がですね」

『なんと!? ここは贅沢な世界なのだな……』

「もっと美味しいものがたくさんあってですねえ……。今度回転寿司食べに行きましょう」

『ほう!? お主が勧めるということはかなりイケるのであろうな……』

 私たちの後ろから、イノシカチョウの三人の声が聞こえてきた。

「やっぱり……。ドラゴンは気さくなわけではなく、はづきちゃんだからあの態度になっているようね。ドラゴン……きっと強大な存在なのだと思うけれど、彼らの力を借りるにはこちらも力を示さないと……」

「具体的には?」

「同接は最低でも三千人越さないとダメかもね」

「アヒェー」

「はひー」

 そんな基準が……!?
 とにかく、この日、イカルガエンターテイメンに外部相談役ウェスパース氏が加わったのだった。
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