召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき

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スリッピー帝国編

第36話 新たな話はピンチから

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「あっ、使い魔のことを忘れていた!!」

 俺は助手席でハッとした。
 既に魔導カーは、ワンザブロー帝国の都を抜けた後である。

 崩壊しつつある帝国は、もはや遠く。

 ワンザブローデビルなる動物を捕まえることは、ついぞ叶わないかも知れない。

「使い魔なのだ?」

 後部座席で寝転んでいるカオルンが、にゅっと顔を突き出してきた。
 俺、天啓を得たり。

「カオルンが使い魔なのかもしれない……」

「違うのだ!」

 否定されてしまった。

「そうですよマナビさん! カオルンはわたしの妹なんですよ!!」

「おお……ルミイが完全にこの魔神戦士を妹認定している」

 話を聞く限りでは、ルミイは末っ子らしい。
 ずっとその心中に、お姉さんぶりたいという欲求を抱えていたのだ。

 確かに、ルミイは母性に満ちたタイプだと思っていたのだ。
 水浴びやお風呂場で俺が感じたのだから間違いない。

「うんうん、カオルンもお姉ちゃんができるとは驚きだったのだ! ちょっと感服したので妹であることもやぶさかではないのだ!」

「カオルンは難しい言葉を知ってるなあ。偉い」

 俺は感心してしまった。
 年若い少女の見た目をしているが、魔神とホムンクルスの融合体であるカオルンは、凄まじい戦闘力と高い知能を持っているのだ。きっと中身も相応に大人びている。
 まあ、口調が口調なのでそれを微塵も感じさせないんだが。

「おっ、カオルン褒められたのだ? えへへ、もっと褒めるといいのだー」

 おっ、前言撤回。
 見た目通りの精神年齢かもしれないぞ!

 このように和気あいあいとしながら、魔導カーは道なき道を突っ走る。
 足元は、魔力切れで瓦礫と化した道路。

 まあ、元、道だ。
 今は荒野だが。

 しばらく行くと、遠くから砂煙が上がっているのが見えた。
 あれはなんだろう。

「ちょっと見てみるのだ」

 カオルンが、魔導カーからぴょいっと飛び降りた。
 そして凄まじい速度で、砂煙に向かって走っていく。

 チーターみたいな速さだな。
 少ししたら、砂煙の元になったモノが見えてきた。

 大量の魔導カー……いや、魔導戦車とでも言うべき連中だ。
 さらには、空に魔導ヘリみたいなのが飛んでいる。

 なんだなんだ。

「お隣の国の侵攻なのだー!」

 カオルンが戻ってきて報告した。

「なるほど。俺もこの目で見てそうかなーって思った」

「マナビも分かったのだ!? 凄いのだー」

「見れば分かるからな……」

「あひー、もうだめですー!」

 ルミイがまた弱音を吐いたぞ。
 いつものことだ。

「ここはヘルプ機能に頼ってみよう。あの軍隊はなあにっと」

「ヘルプ機能?」

 カオルンが首を傾げる。
 そんな俺たちの目の前に、表示が出現した。

『スリッピー帝国の魔導アーミーによる進軍です。彼らは力を蓄え、ずっとワンザブロー帝国を狙っていました。帝国を包む結界が破られたことで、ワンザブロー帝国の保有する魔力量が大幅に減少していることを感知、即座に進軍を開始しました』

「ははあ、あちこちから恨みを買ってるだろうと思ったが、いつでも攻撃できるようにしてる国があるレベルで恨まれていたか」

「な、な、なんなのだこれは!? カオルンはこんなの知らないのだー!!」

「カオルンはヘルプ機能初めてです? これはマナビさんのよく分かんない能力なんですよー」

「ほえー、説明されても全く情報が増えなかったけど、マナビは凄いのだなー」

 うむ、これは素直に凄い能力だと思う。

『スリッピー帝国はワンザブロー帝国の関係者を許しません。例えばワンザブロー帝国の紋章が刻まれた魔導カーとか』

「ほうほう、ワンザブロー帝国の紋章が刻まれた魔導カー……」

「これのことなのだなー」

 車に乗り込んだカオルンが、ドアをカンカン叩いた。
 そうそう、ドアとフロントグリルに紋章が刻まれてた……。

「あっ、やべえー」

「あひー」

 俺が天を仰ぎ、ルミイがだばーっと涙を流した。

 魔導アーミーの一部が、明らかにこちらを標的にして攻撃態勢に入っている。
 一言も掛けてこない。
 突然攻撃モードで、今まさに発砲してきそうなのだ。

「よっしゃ、この状況を突破するー! チュートリアル行くぞー!!」

「うわーん! ワンザブロー帝国を抜けてもひどいことばっかり起きるですー!!」

「なんなのだなんなのだ!? また新しいことをするのだ!? カオルンは楽しみなのだー!!」

 三人になって、賑やかさが増してしまったなあ!
 わいわいと騒ぎながら、俺たちはチュートリアルモードへと突入するのだ。

 飛び込んだ、解像度の低いゲーム的な空間。
 俺とルミイにとっては慣れ親しんだものだが、カオルンには初体験である。

「うわー!! なんなのだーここはー!! カオルンが全然知らないことが起こっているのだー! 世界は広いのだー!!」

 喜んでもらえて嬉しいよ。
 そして、現実とは時間の流れが違うチュートリアルの世界にやってきて、ルミイはようやく落ち着いたようだ。

「よく考えたらカオルンもいるんですから、大変な事になってても突破は簡単なのでは? そうか! そうですよねー! 今までみたいな大変な目には遭わなくて済みますよねー!」

 自分に言い聞かせているかのようだ。
 俺は、世界はそんなに甘くないと知っているぞ。

「カオルンのことなのだ? カオルンは強いけど、魔導アーミーの総攻撃を受けたら流石に死ぬのだなー。ちょっと強い魔法兵くらいの防御力しかないのだ。カオルンは避ける専門なのだ!」

「そしてカオルンが回避できても、俺たちも回避できないと意味がないからな。つまり……ルミイの運転技術に全てが掛かっているのは変わらない」

「あひー!」

 ルミイの悲鳴が響くのだった。
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