57 / 196
スリッピー帝国編
第57話 いきなりの迷宮は侮ってくる将校から
しおりを挟む
「そなたたちがワンザブロー帝国より来たという使者たちね。異世界召喚者の力を使い、シクスゼクスの異世界召喚者を打ち倒したと聞いている」
謁見の間は、ファンタジー的な見た目ではなかった。
ぱっと見、でかい応接間のような……。
皇帝は、大仰な冠もローブも纏っていない。
機械仕掛けっぽい額冠と、仕立てがめちゃくちゃ良さそうなスーツを着ていた。
妙齢のお姉さんだ。
「いかにもいかにも。だけど今回は、俺のやらなきゃならんことだったから始末したというのもありますけどね」
俺のちょいちょいぞんざいな物言いに、皇帝の護衛らしき女性将校たちが剣呑な空気に包まれた。
それを手で制する皇帝。
「やらなくてはいけないこと?」
「あいつは女性を無条件でたぶらかす能力を持ってましてね。俺の仲間はご覧の通り世界一の美少女なので、絶対にヤツの魔手が掛かる前に仕留めねばと思って、仕留めました」
俺は肩をすくめた。
皇帝がちょっと真顔になり、護衛の将校たちの表情がこわばる。
「彼は有言実行ですよ」
教授が笑いながら、俺の肩を叩いてみせた。
将校たちのこわばりがひどくなる。
おいおい、リラックスしてないぞ。
「皇帝さんは、マナビさんを侮ってないですね」
ルミイの目は確かだ。
これまで散々、俺をバカにした連中を見てきたからなあ。
この国は魔法だけに頼らないだけあって、相手が魔力を持っていなくても、大きな事を成し遂げたやつはリスペクトするようだ。
「軍からの報告は上がっている。大混乱だったようだ。それほどの状況をたった一人でもたらす怪物を打ち倒し、しかも無傷。そなたが凄まじい力を持つ異世界召喚者であることは分かった。では、その功績をもって余に何を望む?」
「自動運転装置を。あと、食料と水。以上だ」
俺は即答した。
皇帝も将校たちも、ポカンとしている。
皇配はこの状況が面白いらしく、俺と皇帝の顔を交互に見ていた。
「それだけで良いのか? そなたは我が夫も救った。ならば、スリッピー帝国における地位を与えることもできるのだぞ?」
「いや、こっちには住まないんで。俺はルミイを実家に送り届けるという大きな任務があるからな」
「ルミイとは、そのハーフエルフ……?」
「陛下、危険です。強大な魔力を感じます」
「カオルンもいるのだ!」
「陛下、危険です! 強大な魔力を感じます!」
「カオルン、座って座って」
「陛下、その男からはやっぱり何も感じません。本当のことを言っているのですか? いつもの詐欺師では?」
おい。
俺だけ疑われていないか?
将校たちは、この世界の規範と同じように魔力の有無で相手の強さを測るタイプではあるということか。
結局、俺の要求は全て通ることになった。
本日は一泊させてくれるということで、部屋と素晴らしいお風呂を用意してくれるそうだ。
分かってるじゃないか。
俺はお風呂という単語を聞くと、知能指数がスーッと下がるぞ。
だが、部屋に案内される途中、女子たちは女子部屋、俺が一人部屋だったので、おや? おかしいなーとちょっと思った。
俺は冷静になってきたぞ。
なお、女子たちは、風呂と美味しいご飯と広い部屋で、やっぱり知能指数がスーッと下がっていたので気付かなかった。
「陛下は人が良すぎる。故に、貴様のような詐欺師が近づいてくる事が多いのだ」
俺を先導する女性将校が、振り返らずに呟く。
「おや?」
俺はすぐさまチュートリアルモードを起動した。
だが、ちょっと遅かった。
足元が無くなっていたのだ。
ああいや、この状況ならチュートリアルモードはバッチリだ。
無事に底まで降りることができるだろう。
奈落へ向かって落ちていく俺。
そこへ、女性将校が言葉を放った。
「宮殿の地下は深き迷宮だ。何の力も持たないお前が抜けられるものではない。そこで己の罪を悔いて死んでいけ」
冷たい目を俺に向けていたわけだ。
あー、こりゃあいかんな。
俺は腹が立ったぞ。
落下しながら、俺は女性将校に向かって……ダブルピースをした。
「今日中に戻るわ!」
「なっ!?」
彼女が絶句したところで、落とし穴が閉じた。
さて、チュートリアルで落下の状況をチェックだ。
意外とあちこちにでっぱりがある。
ヘルプ機能をやったり、ストップをかけたりしながら細かくチェックしていく。
よし、こんな感じか。
何度かやり直して、感覚を掴んだ。
俺はゲイルハンマーを振り回した。
風で落下速度を落とし、方向制御をし、出っ張りを蹴りながらゆったりと降りていく。
そして、無事に着地だ。
宮殿までの距離は……。
『上に向かって300mです』
「でかいなあ。あと、暗いな。明かり付けられる?」
『付けられます。古代遺跡の照明装置が存在します』
「はいはい。じゃあそれを起動するパスワードは?」
『こちらです』
表示されたパスワードを読み上げた。
すると、地の底の迷宮……いや、古代遺跡と言ったな? これがパッと点灯した。
ふむふむ、壁が赤かったり黒かったりするな。
金属製の腕や足みたいなのがあちこちから突き出している。
通路はあちこちに枝分かれしており、なるほど迷宮か。
で、ひどい臭いだ。
スリーズシティのあれに近いな。
……ってことは。
「ヘルプ機能。これ、魔法工学で作られた遺跡だったりする?」
『魔法と魔法工学の区別が存在しなかった時代に作られた遺跡です』
「なるほど。じゃあ色々ありそうだな。よし、行こう。ルミイのお風呂タイムまでにはクリアして戻るぞ。それからあの将校はダメだな。戻ってぶっ飛ばそう。で、ヘルプ機能。迷宮の地図出して」
『表示します』
謁見の間は、ファンタジー的な見た目ではなかった。
ぱっと見、でかい応接間のような……。
皇帝は、大仰な冠もローブも纏っていない。
機械仕掛けっぽい額冠と、仕立てがめちゃくちゃ良さそうなスーツを着ていた。
妙齢のお姉さんだ。
「いかにもいかにも。だけど今回は、俺のやらなきゃならんことだったから始末したというのもありますけどね」
俺のちょいちょいぞんざいな物言いに、皇帝の護衛らしき女性将校たちが剣呑な空気に包まれた。
それを手で制する皇帝。
「やらなくてはいけないこと?」
「あいつは女性を無条件でたぶらかす能力を持ってましてね。俺の仲間はご覧の通り世界一の美少女なので、絶対にヤツの魔手が掛かる前に仕留めねばと思って、仕留めました」
俺は肩をすくめた。
皇帝がちょっと真顔になり、護衛の将校たちの表情がこわばる。
「彼は有言実行ですよ」
教授が笑いながら、俺の肩を叩いてみせた。
将校たちのこわばりがひどくなる。
おいおい、リラックスしてないぞ。
「皇帝さんは、マナビさんを侮ってないですね」
ルミイの目は確かだ。
これまで散々、俺をバカにした連中を見てきたからなあ。
この国は魔法だけに頼らないだけあって、相手が魔力を持っていなくても、大きな事を成し遂げたやつはリスペクトするようだ。
「軍からの報告は上がっている。大混乱だったようだ。それほどの状況をたった一人でもたらす怪物を打ち倒し、しかも無傷。そなたが凄まじい力を持つ異世界召喚者であることは分かった。では、その功績をもって余に何を望む?」
「自動運転装置を。あと、食料と水。以上だ」
俺は即答した。
皇帝も将校たちも、ポカンとしている。
皇配はこの状況が面白いらしく、俺と皇帝の顔を交互に見ていた。
「それだけで良いのか? そなたは我が夫も救った。ならば、スリッピー帝国における地位を与えることもできるのだぞ?」
「いや、こっちには住まないんで。俺はルミイを実家に送り届けるという大きな任務があるからな」
「ルミイとは、そのハーフエルフ……?」
「陛下、危険です。強大な魔力を感じます」
「カオルンもいるのだ!」
「陛下、危険です! 強大な魔力を感じます!」
「カオルン、座って座って」
「陛下、その男からはやっぱり何も感じません。本当のことを言っているのですか? いつもの詐欺師では?」
おい。
俺だけ疑われていないか?
将校たちは、この世界の規範と同じように魔力の有無で相手の強さを測るタイプではあるということか。
結局、俺の要求は全て通ることになった。
本日は一泊させてくれるということで、部屋と素晴らしいお風呂を用意してくれるそうだ。
分かってるじゃないか。
俺はお風呂という単語を聞くと、知能指数がスーッと下がるぞ。
だが、部屋に案内される途中、女子たちは女子部屋、俺が一人部屋だったので、おや? おかしいなーとちょっと思った。
俺は冷静になってきたぞ。
なお、女子たちは、風呂と美味しいご飯と広い部屋で、やっぱり知能指数がスーッと下がっていたので気付かなかった。
「陛下は人が良すぎる。故に、貴様のような詐欺師が近づいてくる事が多いのだ」
俺を先導する女性将校が、振り返らずに呟く。
「おや?」
俺はすぐさまチュートリアルモードを起動した。
だが、ちょっと遅かった。
足元が無くなっていたのだ。
ああいや、この状況ならチュートリアルモードはバッチリだ。
無事に底まで降りることができるだろう。
奈落へ向かって落ちていく俺。
そこへ、女性将校が言葉を放った。
「宮殿の地下は深き迷宮だ。何の力も持たないお前が抜けられるものではない。そこで己の罪を悔いて死んでいけ」
冷たい目を俺に向けていたわけだ。
あー、こりゃあいかんな。
俺は腹が立ったぞ。
落下しながら、俺は女性将校に向かって……ダブルピースをした。
「今日中に戻るわ!」
「なっ!?」
彼女が絶句したところで、落とし穴が閉じた。
さて、チュートリアルで落下の状況をチェックだ。
意外とあちこちにでっぱりがある。
ヘルプ機能をやったり、ストップをかけたりしながら細かくチェックしていく。
よし、こんな感じか。
何度かやり直して、感覚を掴んだ。
俺はゲイルハンマーを振り回した。
風で落下速度を落とし、方向制御をし、出っ張りを蹴りながらゆったりと降りていく。
そして、無事に着地だ。
宮殿までの距離は……。
『上に向かって300mです』
「でかいなあ。あと、暗いな。明かり付けられる?」
『付けられます。古代遺跡の照明装置が存在します』
「はいはい。じゃあそれを起動するパスワードは?」
『こちらです』
表示されたパスワードを読み上げた。
すると、地の底の迷宮……いや、古代遺跡と言ったな? これがパッと点灯した。
ふむふむ、壁が赤かったり黒かったりするな。
金属製の腕や足みたいなのがあちこちから突き出している。
通路はあちこちに枝分かれしており、なるほど迷宮か。
で、ひどい臭いだ。
スリーズシティのあれに近いな。
……ってことは。
「ヘルプ機能。これ、魔法工学で作られた遺跡だったりする?」
『魔法と魔法工学の区別が存在しなかった時代に作られた遺跡です』
「なるほど。じゃあ色々ありそうだな。よし、行こう。ルミイのお風呂タイムまでにはクリアして戻るぞ。それからあの将校はダメだな。戻ってぶっ飛ばそう。で、ヘルプ機能。迷宮の地図出して」
『表示します』
21
あなたにおすすめの小説
剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!
月芝
ファンタジー
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。
不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。
いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、
実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。
父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。
ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。
森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!!
って、剣の母って何?
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。
役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。
うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、
孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。
なんてこったい!
チヨコの明日はどっちだ!
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~
灰色サレナ
ファンタジー
とある片田舎で貧困の末に殺された3きょうだい。
その3人が目覚めた先は日本語が通じてしまうのに魔物はいるわ魔法はあるわのファンタジー世界……そこで出会った首が取れるおねーさん事、アンドロイドのエキドナ・アルカーノと共に大陸で一番大きい鍛冶国家ウェイランドへ向かう。
魔物が生息する世界で生き抜こうと弥生は真司と文香を護るためギルドへと就職、エキドナもまた家族を探すという目的のために弥生と生活を共にしていた。
首尾よく仕事と家、仲間を得た弥生は別世界での生活に慣れていく、そんな中ウェイランド王城での見学イベントで不思議な男性に狙われてしまう。
訳も分からぬまま再び死ぬかと思われた時、新たな来訪者『神楽洞爺』に命を救われた。
そしてひょんなことからこの世界に実の両親が生存していることを知り、弥生は妹と弟を守りつつ、生活向上に全力で遊んでみたり、合流するために路銀稼ぎや体力づくり、なし崩し的に侵略者の撃退に奮闘する。
座敷童や女郎蜘蛛、古代の優しき竜。
全ての家族と仲間が集まる時、物語の始まりである弥生が選んだ道がこの世界の始まりでもあった。
ほのぼののんびり、時たまハードな弥生の家族探しの物語
ざまぁされた馬鹿勇者様に転生してしまいましたが、国外追放後、ある事情を抱える女性たちの救世主となっていました。
越路遼介
ファンタジー
65歳で消防士を定年退職した高野健司、彼は『ざまぁ』系のネット小説を好み、特に『不細工で太っている補助魔法士の華麗な成り上がり』と云う作品を愛読していた。主人公アランの痛快な逆転劇、哀れ『ざまぁ』された元勇者のグレンは絶望のあまり…。そして、85歳で天寿を全うした健司は…死後知らない世界へと。やがて自身が、あのグレンとなっていることに気付いた。国外追放を受けている彼は名を変えて、違う大陸を目指して旅立ち、最初に寄った国の冒険者ギルドにて女性職員から「貴方に、ある事情を抱えている女性たちの救世主になってもらいたいのです」という依頼を受けるのであった。そして、そのある事情こそ、消防士である高野健司が唯一現場で泣いた事案そのものだったのである。
継母の嫌がらせで冷酷な辺境伯の元に嫁がされましたが、噂と違って優しい彼から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアーティアは、継母に冷酷無慈悲と噂されるフレイグ・メーカム辺境伯の元に嫁ぐように言い渡された。
継母は、アーティアが苦しい生活を送ると思い、そんな辺境伯の元に嫁がせることに決めたようだ。
しかし、そんな彼女の意図とは裏腹にアーティアは楽しい毎日を送っていた。辺境伯のフレイグは、噂のような人物ではなかったのである。
彼は、多少無口で不愛想な所はあるが優しい人物だった。そんな彼とアーティアは不思議と気が合い、やがてお互いに惹かれるようになっていく。
2022/03/04 改題しました。(旧題:不器用な辺境伯の不器用な愛し方 ~継母の嫌がらせで冷酷無慈悲な辺境伯の元に嫁がされましたが、溺愛されています~)
勇者パーティーを追い出された大魔法導士、辺境の地でスローライフを満喫します ~特Aランクの最強魔法使い~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
クロード・ディスタンスは最強の魔法使い。しかしある日勇者パーティーを追放されてしまう。
勇者パーティーの一員として魔王退治をしてくると大口叩いて故郷を出てきた手前帰ることも出来ない俺は自分のことを誰も知らない辺境の地でひっそりと生きていくことを決めたのだった。
【完結】腹ペコ貴族のスキルは「種」でした
シマセイ
ファンタジー
スキルが全てを決める世界。
下級貴族の少年アレンが授かったのは、植物の種しか生み出せない、役立たずの『種』スキルだった。
『種クズ』と周りから嘲笑されても、超がつくほど呑気で食いしん坊なアレンはどこ吹く風。
今日もスキルで出した木の実をおやつに、マイペースな学院生活を送る。
これは、誰もがクズスキルと笑うその力に、世界の常識を覆すほどの秘密が隠されているとは露ほども知らない、一人の少年が繰り広げる面白おかしい学院ファンタジー!
能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました
御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。
でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ!
これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる