召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき

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シクスゼクス帝国編

第69話 賢者モードとテレパシー

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 そろそろ日が暮れる。
 つまり、ライカンスロープ化した村人たちが動き始める頃合いだろう。
 さっさと準備しておかなければ。

 何の準備かというと、風呂である。
 俺が旅をするためのエネルギーを充填する、大切なイベントになっている。

「ライカンスロープたちは、夜になると昇る月の影響で変身します。凶暴性を増し、殺人衝動に駆られます。これらは魔力の星によって抑制されていたのですが、昨今、魔力の星の力が弱まったことで、ライカンスロープはその能力を発揮しやすくなっています」

「ヘルプ機能から解説を引き出してくれたな。アカネルありがとう。じゃあ変身だ」

「外でやる意味は……」

 小さいアカネルが、地面の上に立って首を傾げ、すぐに納得した顔になった。

「そうでした。そろそろ大きくなるためのマテリアルが欠乏しているのでした。屋内では建物を削り取ってしまいます」

「ああ。何日か過ごすことになりそうな家だから、大切にしないとな」

「了解です。それにマスターは当機能が大きくならないと入浴の喜びを実感しないでしょうから。えっち」

 うひょー、ドキドキする物言いだなあ。
 アカネルが一番、普通の女子っぽい気がする。
 おかしい……。ヘルプ機能の端末なのに。

「何が起きるのだ? 楽しみなのだなー」

「がんばってくださいアカネルー」

 他の女子たちは無責任に応援などしている。

 アカネルが大きくなるためには、周囲の物質をマテリアルとして取り込む必要がある。
 一定期間は、このマテリアルを使って人間の姿になれるらしいが、やっぱり一定期間を過ぎるとマテリアルが枯渇するんだそうだ。
 で、補充するというわけ。

 周辺の物質を分解するから、近くに居たら大変だ。
 俺たちは距離をとって、アカネルを眺めていた。

「では行きます。マテリアル分解開始」

 アカネルがフワッと浮き上がり、光り始める。

「あっ」

 そこでカオルンが何かに気付いたようだ。

「変身しかかった村人が凄い顔でこっちに走ってくるのだ!」

「なにっ、思ったよりも早く襲撃してきたなあ。先走ったやつがいたのか」

 その村人は、浮かび上がった小さいアカネルに、猛然と掴みかかる。
 だが、アカネルは今まさにマテリアル分解中。

「グアハハハハ! まずは一匹……な、なんだこれは!? ウグワーッ!!」

 アカネルを包む光が、ピカピカと点滅する。
 点滅する度に、村人はサクサクと削れていった。
 で、最後に「お助けー! ウグワー!」と叫んだと思ったら全部光に分解されてしまった。

「アホだ」

「普通、近づいたら死ぬって思わないですからねー」

 ルミイは呑気に、家にあったお菓子などを食べているのだ。

「じゃあ、最初のお風呂はアカネルと入るんですか? 次がわたしとカオルンですねえ。ここのお風呂はどんななんでしょうねー」

「カオルンは別に入らなくてもいいのだ!」

「ダメです! 入るんです!」

「うえー、面倒なのだー!」

 ということで、村人を一人分解したアカネル。
 いつもの大きな姿になって戻ってきた。

 ……。
 なんか、狼の耳と尻尾が生えてるんだが?

「ライカンスロープをマテリアル化して吸収したので、耳と尻尾が生えてしまいました。ですがこれは便利ですよマスター」

「ほう、どう便利なんだ? こう、触って遊べるとか……」

「きゃっ、敏感なので触らないで下さい! あーん、尻尾を触ってはいけませーん!」

 ドンッと突き飛ばされてしまった。

「ウグワーッ! だがすごく素敵な反応だ。詳しい話はお風呂でよろしくお願いします」

「当機能は貞操の危険を感じます」

 こうして、お風呂となった。
 湯船の大きさは、ユニットバスのそれよりも一回り大きいくらい。
 二人入るといっぱいだ。

 どうにか足を伸ばせるけれど、お互いの足が触れ合ってしまう。
 いいぞいいぞ。

 アカネルの肌があらわで、大変に心の健康に良い。
 彼女は俺のイメージから、黄色人種系の見た目になっている。

 ルミイやカオルンとも全然違っているのだ。
 胸元とかプロポーションのボリュームとか、二人の中間のほどよい感じですね……!!

「マスターのご子息が大変なことに」

「すまない。隠すスペースを作れない……」

「受肉する前は気になりませんでしたが、当機能が対象になったと考えると、なかなか感慨深いものがあります。アカシックレコードにはあえて接触しておりませんが、人間と当端末で行為は可能なものでしょうか。どうも可能っぽい」

「ほんと!?」

 俺は驚いて飛び上がるところだったが、湯船が狭いのでそれもできない。

「それはそうとマスター。先程ライカンスロープを吸収しましたが」

「あっはい」

「気もそぞろ! 仕方ありませんマスター、ちょっと洗い場に」

「あっはい。ウグワー!」

 俺は賢者になった。

「なんて大胆なことを……。だが頭がスッキリした」

「当機能の説明を聞いていただくためです。いいですか。ライカンスロープはどうやら、ある種のテレパシーで繋がっています。当機能はライカンスロープを取り込んだことで、このテレパシーのラインにアクセスできるようになりました」

「おおっ! そいつは便利だな」

「村人たちのテレパシーラインでは、この村人の反応が消滅したことを訝しんでいましたが、当機能が参加したことで平穏さを取り戻しています。今は、いかにしてマスターと当機能たちに絶望を与えるかをなんとなくぼんやり話し合っています」

「なんとなくぼんやり」

 つまり、ライカンスロープはテレパシーで通じ合うが、具体的なイメージを伝え合うほどその力は強くないらしい。
 ぼんやりしたイメージをやり取りするのがせいぜいなんだそうだ。

「このテレパシーは、真夜中に最も強まり、明け方に向けて弱まります。真夜中にライカンスロープを殺害すると、感づかれるでしょう」

「明け方にやれってことだな。よしよし」

 作戦方針が決まった。
 カオルンにこれを伝えに行くのだ。

 ホカホカになって出てくると、ルミイが俺を見て「ははーん」と訳知り顔になった。

「さっきまでおかしい感じになってたマナビさんが、冷静なマナビさんになってます! これは、この間わたしとカオルンがマナビさんを洗った時のようなことがありましたね!」

「ルミイ、そこら辺を深掘りするのはやめるんだ……!!」

 幾ら俺でも、賢者モードの時にビーストモードの時の話をされるとちょっと恥ずかしいのである。
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