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シクスゼクス帝国編
第70話 三人称視点・人狼、狩られる側になる
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人狼の村である。
人狼たちは、迷い込んでくる獲物を待ち構えている。
シクスゼクスは不毛の土地である。
いや、人間にとって害のある動植物なら数多く存在している。
人間が生きていくには難しい場所。
それがこの帝国だった。
始まりは、帝国が七つに分裂した時、シクスゼクスが魔族と繋がりを持ったことだ。
魔力に長けたワンザブロー、陣形と戦術を選んだツーブロッカー、魔法技術を生み出したスリッピー、魔獣と共生するフィフスエレ、神の力を使うセブンセンス。
フォーホース帝国は謎に包まれていてわからないが、とにかく周辺国家は油断ができぬものばかり。
困っていたシクスゼクスに接触してきたのが魔族だった。
こうして、この国は、初代魔法王が追放したはずの魔族と友誼を結んだのである。
シクスゼクス帝国は、魔族との混血を推奨した。
最初は抵抗感を持つ者もいたが、何世代も重ねるうちに、国内全ての者が人と魔族の血が流れる半魔となった。
純粋な人間など一人もいない。
異世界召喚者を除いて、だ。
異世界召喚者など、この世界の人間からすれば魔族以上の化け物である。
脅し、あるいはなだめすかし、騙してどうにか使役する。
異世界召喚者をぞんざいに扱えるのは、全盛期のワンザブロー帝国くらい。
……というところで。
半魔たちの中でも、比較的人に近い形質を持つ人狼たちは、国境線近くのこの村に住んでいた。
不毛なるシクスゼクスに入り込んだ旅人を迎え入れ、弄んで殺すためである。
『さて、今宵の獲物だが』
村長のバルゲは念話で告げた。
魔族としては肉体的に弱い人狼たちだが、彼らには群れを維持するための能力、念話がある。
誰が発言しているのかは曖昧だが、それでも離れた存在と意思疎通ができるのだ。
『男が一匹、女が三匹! 大漁だ!』
『ヤッフウウウウウウ!!』『祭だあああああああああ!!』『男は私が殺すわ!!』『ほうほう、念話はこのように行われるのですね』
大盛りあがりの念話。
バルゲは彼らに落ち着くよう言い聞かせた。
だが、彼自身も久々の狩りに、ワクワクである。
『日も暮れた。だが、彼らはまだ起きているだろう。夜半を過ぎた辺りで動き出そうではないか』
『うちの子が早まって外に出ちゃったんだけど』『えっ、まずいじゃん。抜け駆けを許すな』『まあまあ子どものやることだから』『ははあ、当機能が分解して取り込んだあれですね』
抜け駆けが出たか、とバルゲは難しい顔をする。
それは困る。
ゲームと言う名の狩りが成立しなくなる。
それに、子どもだったらまだゲーム参加はしておるまい。
気をつけておかねば。
『では手が空いている村人は、獲物の家の周辺巡回をして欲しい。優先的に次回のゲーム参加権を与えよう』
『ヤッフー!』
念話が歓声で満たされる。
これでよし。
バルゲは満足気に頷いた。
後は時間を待つばかりだ。
夕食に、魔獣の骨付き肉などをガツガツやりつつ、遠目で獲物たちの家を眺める。
窓から明かりが漏れている。
まだ襲うのは早い。
そして騒ぎの兆候も無いから、飛び出していった子どもというのも騒ぎを起こしてはいないのだろう。
何の心配もない。
安心だ。
何名かの村人が見張りに飛び出していったようだが、連絡は一切ない。
便りが無いのは良い知らせとも言う。
順調ではないか。
──一ウグワーと聞こえた気がした。
だが念話は何も言ってこないから問題あるまい。
人狼は念話で強く繋がり合っているのである。
それが裏目に出ることもあるのだが。
さて、いよいよ夜も更けてきた。
今回の狩り役は、二名の男女。
彼らに任せて、バルゲは惨劇を想像しながらゆっくりと休む。
そして翌朝。
獲物たちがどうなっただろう、と期待に胸を膨らませながら、人狼村の人々は起床した。
広場に集まってくる。
ここで行われる報告と、裁判が何よりの娯楽なのだ。
だが。
あろうことか、獲物四人は勢ぞろいだった。
しかも、全員が熟睡したらしくて肌艶もいい。
一人は犬っぽい耳まで頭の上に生やしている。
「どういうことだ……?」
バルゲは訝しんだ。
そしてもう一つ、おかしなことが起きている。
狩り役に任命された二名が、いつまで経っても起きて来ないのだ。
「寝坊しているのか……? 仕事を果たさないとは。あいつらはしばらく、狩り役禁止だな」
バルゲは毒づきながら、村人たちを様子見に行かせる。
狩り役の家をノックする村人。
村の扉に鍵はない。
誰もが念話で繋がり合う、仲のいい村だからだ。
故に、ノックをせずに入った。
昼間は念話の精度が著しく落ちるため、実際に確認するしか無いのだ。
「ウ、ウグワーッ!! し、死んでる!!」
「ウグワーッ! こっちもバラバラ死体!!」
村人たちの叫びが聞こえてきた。
「な、な、なんだとぉーっ!?」
慌てて、村人たちは二軒の家に駆け込んだ。
そこでは、狩り役だったはずの男女が無惨な死体になっているではないか。
人狼は通常の武器で攻撃されても、すぐに再生することができる。
急激な損壊に対して、肉体の時間を戻す呪いがその身に掛かっているのだ。
だが、魔法の武器が相手ならば再生ができない。
これは、魔法の武器で殺されたと言えよう。
どういうことなのだ……!?
バルゲは混乱した。
「ありゃー、こりゃあ凄惨な事件現場ですなあ」
後ろから声がした。
振り返ると、獲物……いや、旅人のリーダーらしき男がいる。
彼はニヤニヤ笑いながら、こう告げた。
「俺の予想……いや、簡単な推理なんだけどね。犯人はこの中にいる!」
「「「「「「「「「「な、なんだってー!!」」」」」」」」」」
今、壮大な茶番劇が幕を開ける。
人狼たちは、迷い込んでくる獲物を待ち構えている。
シクスゼクスは不毛の土地である。
いや、人間にとって害のある動植物なら数多く存在している。
人間が生きていくには難しい場所。
それがこの帝国だった。
始まりは、帝国が七つに分裂した時、シクスゼクスが魔族と繋がりを持ったことだ。
魔力に長けたワンザブロー、陣形と戦術を選んだツーブロッカー、魔法技術を生み出したスリッピー、魔獣と共生するフィフスエレ、神の力を使うセブンセンス。
フォーホース帝国は謎に包まれていてわからないが、とにかく周辺国家は油断ができぬものばかり。
困っていたシクスゼクスに接触してきたのが魔族だった。
こうして、この国は、初代魔法王が追放したはずの魔族と友誼を結んだのである。
シクスゼクス帝国は、魔族との混血を推奨した。
最初は抵抗感を持つ者もいたが、何世代も重ねるうちに、国内全ての者が人と魔族の血が流れる半魔となった。
純粋な人間など一人もいない。
異世界召喚者を除いて、だ。
異世界召喚者など、この世界の人間からすれば魔族以上の化け物である。
脅し、あるいはなだめすかし、騙してどうにか使役する。
異世界召喚者をぞんざいに扱えるのは、全盛期のワンザブロー帝国くらい。
……というところで。
半魔たちの中でも、比較的人に近い形質を持つ人狼たちは、国境線近くのこの村に住んでいた。
不毛なるシクスゼクスに入り込んだ旅人を迎え入れ、弄んで殺すためである。
『さて、今宵の獲物だが』
村長のバルゲは念話で告げた。
魔族としては肉体的に弱い人狼たちだが、彼らには群れを維持するための能力、念話がある。
誰が発言しているのかは曖昧だが、それでも離れた存在と意思疎通ができるのだ。
『男が一匹、女が三匹! 大漁だ!』
『ヤッフウウウウウウ!!』『祭だあああああああああ!!』『男は私が殺すわ!!』『ほうほう、念話はこのように行われるのですね』
大盛りあがりの念話。
バルゲは彼らに落ち着くよう言い聞かせた。
だが、彼自身も久々の狩りに、ワクワクである。
『日も暮れた。だが、彼らはまだ起きているだろう。夜半を過ぎた辺りで動き出そうではないか』
『うちの子が早まって外に出ちゃったんだけど』『えっ、まずいじゃん。抜け駆けを許すな』『まあまあ子どものやることだから』『ははあ、当機能が分解して取り込んだあれですね』
抜け駆けが出たか、とバルゲは難しい顔をする。
それは困る。
ゲームと言う名の狩りが成立しなくなる。
それに、子どもだったらまだゲーム参加はしておるまい。
気をつけておかねば。
『では手が空いている村人は、獲物の家の周辺巡回をして欲しい。優先的に次回のゲーム参加権を与えよう』
『ヤッフー!』
念話が歓声で満たされる。
これでよし。
バルゲは満足気に頷いた。
後は時間を待つばかりだ。
夕食に、魔獣の骨付き肉などをガツガツやりつつ、遠目で獲物たちの家を眺める。
窓から明かりが漏れている。
まだ襲うのは早い。
そして騒ぎの兆候も無いから、飛び出していった子どもというのも騒ぎを起こしてはいないのだろう。
何の心配もない。
安心だ。
何名かの村人が見張りに飛び出していったようだが、連絡は一切ない。
便りが無いのは良い知らせとも言う。
順調ではないか。
──一ウグワーと聞こえた気がした。
だが念話は何も言ってこないから問題あるまい。
人狼は念話で強く繋がり合っているのである。
それが裏目に出ることもあるのだが。
さて、いよいよ夜も更けてきた。
今回の狩り役は、二名の男女。
彼らに任せて、バルゲは惨劇を想像しながらゆっくりと休む。
そして翌朝。
獲物たちがどうなっただろう、と期待に胸を膨らませながら、人狼村の人々は起床した。
広場に集まってくる。
ここで行われる報告と、裁判が何よりの娯楽なのだ。
だが。
あろうことか、獲物四人は勢ぞろいだった。
しかも、全員が熟睡したらしくて肌艶もいい。
一人は犬っぽい耳まで頭の上に生やしている。
「どういうことだ……?」
バルゲは訝しんだ。
そしてもう一つ、おかしなことが起きている。
狩り役に任命された二名が、いつまで経っても起きて来ないのだ。
「寝坊しているのか……? 仕事を果たさないとは。あいつらはしばらく、狩り役禁止だな」
バルゲは毒づきながら、村人たちを様子見に行かせる。
狩り役の家をノックする村人。
村の扉に鍵はない。
誰もが念話で繋がり合う、仲のいい村だからだ。
故に、ノックをせずに入った。
昼間は念話の精度が著しく落ちるため、実際に確認するしか無いのだ。
「ウ、ウグワーッ!! し、死んでる!!」
「ウグワーッ! こっちもバラバラ死体!!」
村人たちの叫びが聞こえてきた。
「な、な、なんだとぉーっ!?」
慌てて、村人たちは二軒の家に駆け込んだ。
そこでは、狩り役だったはずの男女が無惨な死体になっているではないか。
人狼は通常の武器で攻撃されても、すぐに再生することができる。
急激な損壊に対して、肉体の時間を戻す呪いがその身に掛かっているのだ。
だが、魔法の武器が相手ならば再生ができない。
これは、魔法の武器で殺されたと言えよう。
どういうことなのだ……!?
バルゲは混乱した。
「ありゃー、こりゃあ凄惨な事件現場ですなあ」
後ろから声がした。
振り返ると、獲物……いや、旅人のリーダーらしき男がいる。
彼はニヤニヤ笑いながら、こう告げた。
「俺の予想……いや、簡単な推理なんだけどね。犯人はこの中にいる!」
「「「「「「「「「「な、なんだってー!!」」」」」」」」」」
今、壮大な茶番劇が幕を開ける。
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