召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき

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フィフスエレ帝国跡編

第138話 国境越えと水浴びと積もる話

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「よくもまあ、あのドラゴンを説得できたもんだな!」

 バルクが呆れ顔でやって来た。
 ちょっと感心もしてるな。

「これは簡単な話でな。あいつは相手の力とかが深いところまで分かるんだ。んで、俺がやばいってちゃんと理解した。つまり同格の力があるから、話を聞くに足るって思ったんだな」

「それであんなに話が分かるやつになったのか! つまり、俺たちは舐められていたんだな!」

 激怒するバルク。
 このバーバリアン王、瞬間湯沸かし器である。
 だが、普通、人間はドラゴンの相手にならないからなあ。

 どれだけ強かろうが仕方ないのではないか。
 双子の王子が頑張ったから、ドラゴンは感心してちょっとだけ見逃してくれたのではないか、と言う気はする。

 あのドラゴン、ルインマスターに善悪はない。
 あいつ単体で完結してる存在だからな。
 気分次第で世界も滅ぼすし、誰かの味方になることもある。

 そういうやつであろう。

「良かったですよ。当機能、マスターと一線を超えないうちに燃やされたくはないですからね。さあマスター、出発しましょう。ちゃんとした街で一線を超えぬことには、当機能は浮かばれません! ルミイとカオルンがマスターと夜のイチャイチャをしたのに、当機能はまだお預け状態なのですから!」

「こだわるなあアカネル」

 こうして、再び馬車の列は走り出した。
 ドラゴンさえ退けてしまえば、後は邪魔するものなどない。

 あっという間にフィフスエレの国境を超えた。

「アカネルはどうしてそんなに、俺と夜のイチャイチャをしたがるのだ」

「抜け駆けしようとしてましたもんねー。わたし焦りましたよ」

 ルミイがこの間のことを思い出し、憤慨して鼻息を荒くした。
 お陰で俺とルミイが燃え上がり、夜は大変なことになったのだが。

「当機能は、あれは興奮のためのエッセンスみたいな気持ちでした。別に一線超えなくても構わなかったのです」

「ほうほう」

「じゃあ超えなくていいじゃないですか」

「今は超えなくてはならないのです! みんな経験してて、当機能だけ経験していないのは嫌なのです!!」

「あっ、日本人だ!!」

 俺は納得した。
 アカネルは俺の影響を強く受けているがために、日本人的な要素も強く現れているのだ。
 なお、俺は他人と一緒でなくても別に構わない。

 俺の中から排斥された同調主義的なものが、彼女の中に流れ込んだのかもしれない。

 そりゃあ焦るよなあ。
 そして最後発だから、ちゃんとした場所で一線を超えなくちゃ嫌ってなるもんなあ。

 男女問わず婚活であぶれた側が、どんどん要求が高くなっていく現象と同じである。
 アカネルは若くて可愛いのだし、俺がすぐ近くにいるので救いがある……。

「よーし、じゃあ目的地を決めるか。イースマスに到着したらしよう!」

「はい!!」

 アカネルが抱きついてきたので、俺もハグを返す馬車の中。
 ルミイが対抗して、ムギューっとしてきた。
 両手に華である。我が世の春だ。

 カオルンは夜のために爆睡していた。

 馬車は森の外を走る。
 魔獣たちが魔法使いの支配から逃れ、シクスゼクスまで溢れ出したようだ。

 あちこちの集落が滅ぼされている。
 魔族の死体がそこここに転がっているので、こいつらも被害者になったのだなあ。

 魔力の星が落ちて、魔法使い的なことができなくなったからな。
 戦力も半減したんだろう。

「よーし! ここで休息を取るぞ!!」

 バルクが宣言した。
 魔獣たちによって破壊しつくされた集落だ。

 一応、人間に類する魔族が住んでいただけあって、地面が平坦に均されている。
 さらに、なんと泉があるではないか。

 ここに来るまでの間、ルサルカ教徒の神聖魔法で出した水で体を拭くばかりであった。
 この泉なら、水浴びができる。

 泉を占領していた、女性の上半身に六匹の狼の頭を下半身に持つ魔獣は、さっさとバーバリアンたちが片付けた。
 仕事が早い!

「では、順番で水浴びだ! 馬車の後ろからやっていくぞ! なに、男女別かだと? そんなもん一緒でいい! 欲情して盛るなら結構! 新しい命が生まれる!」

 バルクの言葉に、ルサルカ信者たちがおおーっと感銘を受けた。
 なるほど、生命を尊ぶルサルカ信者にとって、水浴びして命が生まれるきっかけができる、と言う発想は新鮮だったらしい。

「なんだかんだ言ってね、セブンセンスでもアクシス教団が説くモラルみたいなのが一般化されてたのさ。獣みたいに、男女が同じ水場に来てお互いを見て盛るのはいけない、とかね」

 ナルカが遠い目をしている。
 今はなくなってしまった習慣を思い出してるんだろう。
 懐かしそうではなく、忌々しそうではある。

「なんで、多分ありゃあ、技巧神が作り上げたニセのモラルだったんだろうね。人の心をモラルで縛れば、その隙間から漏れ出すものを簡単にコントロールできるじゃないか」

「なるほどな。そこに思い至るとは、ナルカは頭がいいなあ」

「褒めたって何も出やしないよ? ドミニク司祭に小さい頃から色々教わってるのさ!」

 おお、ナルカが照れた。
 そしてドミニク司祭は、ナルカにとっての父親みたいなものなんだなあ。

 ちなみにナルカは、孤児なんだそうである。
 夜に道端で泣いていたのを、ドミニク司祭が連れてきて教団で育てたんだと。
 徳が高い。

 さて、外が騒がしくなってきた。
 みんなわあわあ、きゃあきゃあ言いながら水浴びを楽しんでいるのだ。

 この集落には井戸もあり、たっぷりと水が入っていた。
 魔獣たちは泉で水を飲むので、井戸にはノータッチだったんだな。

 飲水は井戸から。
 体を洗ったり洗濯は泉で。

 これは大変便利だ。

 だが、利用者の数が多い!
 最前列の馬車に乗っていた俺たちの順番が回ってくる頃には、日が暮れかかっていた。

 どうやらこの順番、バルクの考えらしい。

「最も強い者が後に入る。そうすることで、緊張状態を保ったまま弱い者たちを見守れるからな」

「なるほどなあ。じゃあ、強い者が水浴びしてる時に敵が来たらどうするんだ」

「事を終えた弱い者が時間を稼ぎ、強い者が準備をする猶予を作れる」

「なるほどなあ」

 バーバリアンの知恵なんだと。
 で、起き出してきたカオルンも含めて、ルミイとアカネルとナルカ、四人の水浴びを眺めながら、岸辺でちゃぷちゃぷやる俺である。
 うーむ、愚息が元気になってきた。

「いいですか」

「あっ、これは失敬」

 すぐ横にドミニク司祭が来たので、俺は素早く愚息を葉っぱで隠した。
 隠れるか!!

「男性の生理現象ですからね、しかたありませんよ。君の奥様方は皆、若々しく美しい。私も生命ある肉体ならば、きっと劣情を覚えていたことでしょう」

 上品な口調で劣情とか言ってくる人だ。

「ナルカについてお話をしたいのですよ」

「ああ、そういう」

 ナルカの育ての親として、ドミニク司祭は色々と頼み事があるようなのだった。
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