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36・第二王子一家、視察に来る
第106話 約束の日だ
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冬場だというのに、第二王子はやる気満々らしい。
使者を通じて、「以前の約束をそろそろ果たせ」と催促してきた。
僕にとって大切なパトロンの言うことだ。
その願いはかなえねばなるまい。
さて、第二王子の願いとは一体何か?
それは、彼が昨今享受している美食。
そのルーツを辿る、遺跡内視察である。
アーランの王族は大変過保護にされて暮らしており、毒殺を恐れて必ず毒見役が付く。
そのために、毒見が終わった後の冷めた料理ばかり食べていて、美味しいものを口にできていないのだ。
そこに現れた僕が、第二王子デュオスに美食を提供した。
世の中に失望している風だったデュオス殿下は、一気に人生の喜びを取り戻し……。
奥方とお嬢さんを巻き込んで、僕の料理を楽しみにしながら日々を過ごしているというわけだ。
そんな彼らが、美食のルーツを知りたいと思うことは自然だろう。
数ヶ月前に、僕が口約束もしていたしな。
契約書を作っているわけでもないのに、多忙な第二王子がよくぞそんなことを覚えていたものだ……。
めちゃくちゃ楽しみにしてたな?
使者の人は、僕が準備をしている間、身を屈ませてコゲタとタッチなどをしている。
仲良くなったなあ!
まあ、付き合いも長くなってきたもんね。
「お待たせしました。じゃあ行きましょうか」
「はい! 殿下も奥方様も姫様も、皆様今回の視察を大変楽しみにしておられました。そして今日行くぞ、行くぞ、となって私が派遣されてきたわけで」
辛抱たまらなくなったわけか!
そりゃあ仕方ない。
ということで、僕はコゲタを連れて、使者と一緒に王城へ向かった。
門番もすっかり僕の顔を覚えている。
「あっ、油使いの人。どうぞどうぞ」
顔パスだ。
いざ通過するぞという時に、門番がスススっと近づいてきた。
「今日は何か持ってきてたりする……?」
僕はスッと彼らの懐に賄賂を忍ばせた。
オブリーオイルでカリッカリに揚げて、塩とハーブをまぶしたパスタだ。
門番たちはちょっとニヤけて、人目を盗んでカリッと食べ始める。
「うめー」
「なんですかな?」
使者の人が振り返ったので、門番たちはそっぽを向いて「なんでもござらん」とかごまかした。
僕はこうしてちょっとずつおやつを差し入れすることで、門番たちの懐柔に成功しているのだ。
さて、第二王子邸に到着するや否や、扉がバーンと開け放たれたのだった。
そこには、今から旅に出るぞ!! という衣装の第二王子一家がいる。
「さあ行くぞナザル! 案内せよ!!」
「殿下話が早いですねえ」
「私はもう待っていられないのだ! さあ行くぞ行くぞ!」
使いの人も流石に慌てる。
「あーっお待ち下さい殿下!! せめて護衛を! 護衛のものを……! 実はかのゴールド級パーティ、グローリーホビーズのリーダーという冒険者が仕事を引き受けてくれまして」
「なるほど、それは心強い……なにっ、グローリーホビーズ!?」
グローリーホビーズというと、シズマのパーティだな。
そこのリーダーは、あの苦労人っぽい若い男だ。
育ちが良さそうな感じで、変なシズマも奔放な感じのアーティも受け入れる度量がありそうな男だった。
だが、第二王子の反応がなんだかちょっと変なのだ。
ソワソワし始めた。
奥方もソワソワしている。
なんだなんだ?
少しして、王城の門をくぐって彼が現れた。
焦げ茶の髪に碧眼の、育ちの良さそうな美青年だ。
あれ?
呼ばれていたとは言え、ずいぶんスルッと門をくぐってきたな。
門番たちがなんか通り過ぎた後も頭を下げてる。
なんだ……?
一介のゴールド級冒険者ではないのか?
「お呼びに与り参上いたしました。ゴールド級冒険者のツインと申します」
ツインって名前だったのか。
彼は完璧な礼儀作法で挨拶をした。
「お、おお……! そうか、大儀である」
「よ、よろしくね。……立派になって……」
なんか奥方が涙ぐんでるんだが?
コゲタが、ツインと殿下と奥方をキョロキョロと見た後、僕の服の裾を引っ張った。
「なんだい」
「にてるにおいがする!」
「あっ」
僕は察したぞ。
デュオス殿下は、男児がいたのだった。
だが、それは政争のもとになるからと外に出した。
神殿に預けたりしたそうなのだが、それがもしかしてツインなのではないか?
なーるほど、育ちが良さそうなわけだ。
本当に育ちが最高にいいんだもんな。
ということで。
人間関係のドラマをはらみつつ、今回の視察はスタートするのだった。
お嬢さんがトコトコトコっと僕の横まで歩いてきて、
「なんだかお父様もお母様も変だわ。あの冒険者の方、昔からのお知り合いなのかしら」
ははあ、ツインが預けられた頃には、まだお嬢さんは物心ついてなかったんだな?
見た感じ、彼女はローティーンくらい。
ツインは二十歳になったくらいであろう。
「世の中色々あるもんですよお嬢様。それよりも、農場では眼の前でミルクを絞り、これを飲むことができてですね」
「搾りたてのミルク……!? そ、そっか……! 伝説上の存在だと思っていたわ! そうよね、絞らなければミルクにならないのだから、搾りたてのミルクは存在するはずだわ! 楽しみ……!!」
一瞬で食い気に支配されるお嬢さんなのだった。
使者を通じて、「以前の約束をそろそろ果たせ」と催促してきた。
僕にとって大切なパトロンの言うことだ。
その願いはかなえねばなるまい。
さて、第二王子の願いとは一体何か?
それは、彼が昨今享受している美食。
そのルーツを辿る、遺跡内視察である。
アーランの王族は大変過保護にされて暮らしており、毒殺を恐れて必ず毒見役が付く。
そのために、毒見が終わった後の冷めた料理ばかり食べていて、美味しいものを口にできていないのだ。
そこに現れた僕が、第二王子デュオスに美食を提供した。
世の中に失望している風だったデュオス殿下は、一気に人生の喜びを取り戻し……。
奥方とお嬢さんを巻き込んで、僕の料理を楽しみにしながら日々を過ごしているというわけだ。
そんな彼らが、美食のルーツを知りたいと思うことは自然だろう。
数ヶ月前に、僕が口約束もしていたしな。
契約書を作っているわけでもないのに、多忙な第二王子がよくぞそんなことを覚えていたものだ……。
めちゃくちゃ楽しみにしてたな?
使者の人は、僕が準備をしている間、身を屈ませてコゲタとタッチなどをしている。
仲良くなったなあ!
まあ、付き合いも長くなってきたもんね。
「お待たせしました。じゃあ行きましょうか」
「はい! 殿下も奥方様も姫様も、皆様今回の視察を大変楽しみにしておられました。そして今日行くぞ、行くぞ、となって私が派遣されてきたわけで」
辛抱たまらなくなったわけか!
そりゃあ仕方ない。
ということで、僕はコゲタを連れて、使者と一緒に王城へ向かった。
門番もすっかり僕の顔を覚えている。
「あっ、油使いの人。どうぞどうぞ」
顔パスだ。
いざ通過するぞという時に、門番がスススっと近づいてきた。
「今日は何か持ってきてたりする……?」
僕はスッと彼らの懐に賄賂を忍ばせた。
オブリーオイルでカリッカリに揚げて、塩とハーブをまぶしたパスタだ。
門番たちはちょっとニヤけて、人目を盗んでカリッと食べ始める。
「うめー」
「なんですかな?」
使者の人が振り返ったので、門番たちはそっぽを向いて「なんでもござらん」とかごまかした。
僕はこうしてちょっとずつおやつを差し入れすることで、門番たちの懐柔に成功しているのだ。
さて、第二王子邸に到着するや否や、扉がバーンと開け放たれたのだった。
そこには、今から旅に出るぞ!! という衣装の第二王子一家がいる。
「さあ行くぞナザル! 案内せよ!!」
「殿下話が早いですねえ」
「私はもう待っていられないのだ! さあ行くぞ行くぞ!」
使いの人も流石に慌てる。
「あーっお待ち下さい殿下!! せめて護衛を! 護衛のものを……! 実はかのゴールド級パーティ、グローリーホビーズのリーダーという冒険者が仕事を引き受けてくれまして」
「なるほど、それは心強い……なにっ、グローリーホビーズ!?」
グローリーホビーズというと、シズマのパーティだな。
そこのリーダーは、あの苦労人っぽい若い男だ。
育ちが良さそうな感じで、変なシズマも奔放な感じのアーティも受け入れる度量がありそうな男だった。
だが、第二王子の反応がなんだかちょっと変なのだ。
ソワソワし始めた。
奥方もソワソワしている。
なんだなんだ?
少しして、王城の門をくぐって彼が現れた。
焦げ茶の髪に碧眼の、育ちの良さそうな美青年だ。
あれ?
呼ばれていたとは言え、ずいぶんスルッと門をくぐってきたな。
門番たちがなんか通り過ぎた後も頭を下げてる。
なんだ……?
一介のゴールド級冒険者ではないのか?
「お呼びに与り参上いたしました。ゴールド級冒険者のツインと申します」
ツインって名前だったのか。
彼は完璧な礼儀作法で挨拶をした。
「お、おお……! そうか、大儀である」
「よ、よろしくね。……立派になって……」
なんか奥方が涙ぐんでるんだが?
コゲタが、ツインと殿下と奥方をキョロキョロと見た後、僕の服の裾を引っ張った。
「なんだい」
「にてるにおいがする!」
「あっ」
僕は察したぞ。
デュオス殿下は、男児がいたのだった。
だが、それは政争のもとになるからと外に出した。
神殿に預けたりしたそうなのだが、それがもしかしてツインなのではないか?
なーるほど、育ちが良さそうなわけだ。
本当に育ちが最高にいいんだもんな。
ということで。
人間関係のドラマをはらみつつ、今回の視察はスタートするのだった。
お嬢さんがトコトコトコっと僕の横まで歩いてきて、
「なんだかお父様もお母様も変だわ。あの冒険者の方、昔からのお知り合いなのかしら」
ははあ、ツインが預けられた頃には、まだお嬢さんは物心ついてなかったんだな?
見た感じ、彼女はローティーンくらい。
ツインは二十歳になったくらいであろう。
「世の中色々あるもんですよお嬢様。それよりも、農場では眼の前でミルクを絞り、これを飲むことができてですね」
「搾りたてのミルク……!? そ、そっか……! 伝説上の存在だと思っていたわ! そうよね、絞らなければミルクにならないのだから、搾りたてのミルクは存在するはずだわ! 楽しみ……!!」
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