俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

文字の大きさ
106 / 337
36・第二王子一家、視察に来る

第106話 約束の日だ

しおりを挟む
 冬場だというのに、第二王子はやる気満々らしい。
 使者を通じて、「以前の約束をそろそろ果たせ」と催促してきた。
 僕にとって大切なパトロンの言うことだ。

 その願いはかなえねばなるまい。

 さて、第二王子の願いとは一体何か?
 それは、彼が昨今享受している美食。
 そのルーツを辿る、遺跡内視察である。

 アーランの王族は大変過保護にされて暮らしており、毒殺を恐れて必ず毒見役が付く。
 そのために、毒見が終わった後の冷めた料理ばかり食べていて、美味しいものを口にできていないのだ。
 そこに現れた僕が、第二王子デュオスに美食を提供した。

 世の中に失望している風だったデュオス殿下は、一気に人生の喜びを取り戻し……。
 奥方とお嬢さんを巻き込んで、僕の料理を楽しみにしながら日々を過ごしているというわけだ。

 そんな彼らが、美食のルーツを知りたいと思うことは自然だろう。
 数ヶ月前に、僕が口約束もしていたしな。
 契約書を作っているわけでもないのに、多忙な第二王子がよくぞそんなことを覚えていたものだ……。

 めちゃくちゃ楽しみにしてたな?

 使者の人は、僕が準備をしている間、身を屈ませてコゲタとタッチなどをしている。
 仲良くなったなあ!
 まあ、付き合いも長くなってきたもんね。

「お待たせしました。じゃあ行きましょうか」

「はい! 殿下も奥方様も姫様も、皆様今回の視察を大変楽しみにしておられました。そして今日行くぞ、行くぞ、となって私が派遣されてきたわけで」

 辛抱たまらなくなったわけか!
 そりゃあ仕方ない。

 ということで、僕はコゲタを連れて、使者と一緒に王城へ向かった。
 門番もすっかり僕の顔を覚えている。

「あっ、油使いの人。どうぞどうぞ」

 顔パスだ。
 いざ通過するぞという時に、門番がスススっと近づいてきた。

「今日は何か持ってきてたりする……?」 

 僕はスッと彼らの懐に賄賂を忍ばせた。
 オブリーオイルでカリッカリに揚げて、塩とハーブをまぶしたパスタだ。

 門番たちはちょっとニヤけて、人目を盗んでカリッと食べ始める。

「うめー」

「なんですかな?」

 使者の人が振り返ったので、門番たちはそっぽを向いて「なんでもござらん」とかごまかした。
 僕はこうしてちょっとずつおやつを差し入れすることで、門番たちの懐柔に成功しているのだ。

 さて、第二王子邸に到着するや否や、扉がバーンと開け放たれたのだった。
 そこには、今から旅に出るぞ!! という衣装の第二王子一家がいる。

「さあ行くぞナザル! 案内せよ!!」

「殿下話が早いですねえ」

「私はもう待っていられないのだ! さあ行くぞ行くぞ!」

 使いの人も流石に慌てる。

「あーっお待ち下さい殿下!! せめて護衛を! 護衛のものを……! 実はかのゴールド級パーティ、グローリーホビーズのリーダーという冒険者が仕事を引き受けてくれまして」

「なるほど、それは心強い……なにっ、グローリーホビーズ!?」

 グローリーホビーズというと、シズマのパーティだな。
 そこのリーダーは、あの苦労人っぽい若い男だ。
 育ちが良さそうな感じで、変なシズマも奔放な感じのアーティも受け入れる度量がありそうな男だった。

 だが、第二王子の反応がなんだかちょっと変なのだ。
 ソワソワし始めた。
 奥方もソワソワしている。

 なんだなんだ?

 少しして、王城の門をくぐって彼が現れた。
 焦げ茶の髪に碧眼の、育ちの良さそうな美青年だ。

 あれ?
 呼ばれていたとは言え、ずいぶんスルッと門をくぐってきたな。
 門番たちがなんか通り過ぎた後も頭を下げてる。

 なんだ……?
 一介のゴールド級冒険者ではないのか?

「お呼びに与り参上いたしました。ゴールド級冒険者のツインと申します」

 ツインって名前だったのか。
 彼は完璧な礼儀作法で挨拶をした。

「お、おお……! そうか、大儀である」

「よ、よろしくね。……立派になって……」

 なんか奥方が涙ぐんでるんだが?
 コゲタが、ツインと殿下と奥方をキョロキョロと見た後、僕の服の裾を引っ張った。

「なんだい」

「にてるにおいがする!」

「あっ」

 僕は察したぞ。
 デュオス殿下は、男児がいたのだった。
 だが、それは政争のもとになるからと外に出した。

 神殿に預けたりしたそうなのだが、それがもしかしてツインなのではないか?
 なーるほど、育ちが良さそうなわけだ。
 本当に育ちが最高にいいんだもんな。

 ということで。
 人間関係のドラマをはらみつつ、今回の視察はスタートするのだった。

 お嬢さんがトコトコトコっと僕の横まで歩いてきて、

「なんだかお父様もお母様も変だわ。あの冒険者の方、昔からのお知り合いなのかしら」

 ははあ、ツインが預けられた頃には、まだお嬢さんは物心ついてなかったんだな?
 見た感じ、彼女はローティーンくらい。
 ツインは二十歳になったくらいであろう。

「世の中色々あるもんですよお嬢様。それよりも、農場では眼の前でミルクを絞り、これを飲むことができてですね」

「搾りたてのミルク……!? そ、そっか……! 伝説上の存在だと思っていたわ! そうよね、絞らなければミルクにならないのだから、搾りたてのミルクは存在するはずだわ! 楽しみ……!!」

 一瞬で食い気に支配されるお嬢さんなのだった。


 
しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

処理中です...