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第二章

第33話 騎士フォンテインの時代

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 気がつくと、三人で戦場の真ん中に立っていた。
 わあわあと声を上げながら、周囲で兵士たちが争っている。

「なんだなんだ! いきなりみんな、本格的な装備で戦い始めたじゃないか!」

「エリカ、こいつはどうもおかしいぞ」

「ああ。鎧の様式もやや古い。今は使われていないはずだな」

 アベルが冷静だ。
 俺達がいきなり現れたものだから、周囲の兵士たちは驚いている。
 だが戦場の空気に飲まれ、すぐに物騒な言葉を吐き散らしつつ、襲いかかってきた。

「ここでくさい息だ! そーれ」

 風下に向かってバッドステータスブレスを吐く。

「ウグワー!?」「ウグワー!?」「ウグワー!?」「ウグワー!?」「ウグワー!?」「ウグワー!?」「ウグワー!?」「ウグワー!?」

 バタバタと倒れていく兵士たち。
 うむ、戦場は半壊だ。

「この隙に逃げるぞ」

「なんと恐ろしい大量殲滅攻撃だ。お前の前では集団は意味をなさないな」

 アベル、俺を警戒するのはやめるのだ!
 エリカは何かを考えているようで、とても静かだった。

「なあドルマ。もしかしてこの時代は……過去なんじゃないか?」

「どうしたエリカ、突然頭が良さそうな事を言って」

「うん、私もたまには頭を使うんだ」

「自分でたまにと言うのはどうかと思うが?」

 アベルがちょっと心配している。
 こいつ、結構人がいいんじゃないだろうか。

「私たちは土のカイナギオによって過去に送り込まれた。ここはつまり、フォンテインが生きている時代なんだよ!」

「な、なんだってー!!」

 エリカの指摘に、俺は大変びっくりした。
 そして俺たちの背後で、叫び声が聞こえる。

「フォンテインがやられた!!」

「「な、なんだってー!!」」

 今度は俺とエリカが声を揃えて叫んだ。
 慌てて、声がした方向へと人混みをかき分けていく。

 俺のくさい息のおかげで、戦場はぐちゃぐちゃ。
 戦うどころじゃなくなっている。

 お陰で、エリカが人波を幾つか張り倒しただけで到着することができた。

 そこでは、背中から血を流した男が倒れて死んでいる。

「フォンテイン様! くっそー! 後ろからなんて卑怯だぞ!!」

「ふん、卑怯もラッキョウも無いわ! ここは戦場、油断したからフォンテインは死んだのだ! お前たちのリーダーである騎士隊長フォンテインは死んだ! 何故か! 甘ちゃんだからだ! つまりこれは、我らの勝利を意味する! ……なんかうちの騎士団が向こうで総崩れになってるけど……結果的には勝利だ!」

 フォンテインの死体にすがりついているのは、まだ年若い騎士見習いっぽい少年だ。
 フォンテインを殺したらしいのは、風車みたいな兜を被った男だった。

「うおー! 風車の騎士! 許さないぞー! 俺の正義の攻撃をくらえー!!」

「ふん!」

 騎士見習いが激昂したまま、風車の騎士に飛びかかった。
 だが、風車の騎士はこいつを、剣で切り捨てようとするのだ。

 そこにエリカが割り込んだ。

「おりゃ!」

 グレイブソードが、風車の騎士の剣をへし折る。
 エリカのお尻が、騎士見習いをふっ飛ばす。

「ウグワー! お、俺の剣が!」

「ウグワー! お、お尻で!」

 平和に収まったな。
 俺はトコトコやって来て、騎士見習いを助け起こした。

「坊主、死ぬところだったなー」

「う、うおおー! オレはまだ弱い! 悔しいー! フォンテイン様の敵も討てないーっ」

「そうかそうか」

 ……?
 この騎士見習いの顔、どこかで見たことがあるような……。

 ちなみに風車の騎士は、他の兵士たちに守られるようにして姿を消してしまった。
 要は逃げたのである。
 いきなりエリカが乱入してきて、剣を折られたら怖くもなるよな。

 騎士フォンテインの死と、あとはよく分からない敵軍の半壊で、戦争はグダグダになった。
 そのまま、なんとなくみんな撤退していく。

 これで終戦ということになるらしい。
 戦争というものは、どちらかが勝つと追撃戦になったり、人質にした騎士の身代金の話が出たりするものなのだが……。

「全然そういう話になってないな」

「お前がバッドステータスブレスで戦場を破壊したからだ」

 アベルに事実を指摘されてしまった。
 こりゃ参った。

 とりあえずフォンテインの死体を、腐る前に火葬した。
 土葬が一般的なんだが、故郷の墓まで遠い死体とか、身元不明人の死体は放っておくと腐って疫病のもとになる。
 なので、問答無用で火葬するのだ。

 骨だけになり、コンパクト化した死体を箱に詰めて故郷まで運んでやる。

 俺たちは、騎士見習いの少年とともにフォンテインの骨を運ぶことになった。
 過去の世界に来て、とりあえずやることがなかったためである。

「あんた達、一体何者なんだ……? なんでオレについてくるんだ……!?」

「ショックで」

 おっ、エリカが目の前でフォンテインが死んだショックで思考停止しているな。
 ここ数日ずっと思考停止している。

「こっちが騎士を目指しているエリカで、俺はその仲間、青魔道士のドルマだ」

「青魔道士!?」

「モンスターの技なんかをコピーして使いこなす魔法使いみたいなもんだな。で、こっちが」

「竜騎士のアベルだ」

「竜騎士!?」

 どうやら、俺たちの職業はこの時代でもレアらしい。 
 流石伝説の職業。

 その後、騎士見習いの名前がトニーだとか、それがエリカの祖父と同じ名前だったりとか、色々あるのだが、そんなことよりもエリカの精神的なケアが大事なのだ。

「エリカ、どうやらここはフォンテイン伝説の只中らしい」

「そうか」

「つまり、俺たちはフォンテイン伝説の真実を目撃している」

「そうか。……真実……!?」

「俺たちが知るフォンテインの伝説は、もしかしたら半分くらいはフォンテインじゃない人物が行った偉業だったのかも知れないってことだぞ」

「な、なんだってー!?」

 エリカ、驚愕。
 そして彼女が元気になったので、俺はニコニコなのである。
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