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第1章 気が付かない3人の関係

再会⑤

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 いざ始まった妃試験。
 試験といっても、あらかじめ講師達が勉強を教えてくれて、それから試験を受ける。
 だけど、どうしてなのか当たり前に知っていることばかりを教えてくる講師達。これなら他の令嬢だって退屈なはずなのに、皆は真剣に講義を受けている。

 でも、わたしは退屈過ぎて時間がもったいない。
 せっかく魅惑的な姿で来ても当の王子様は、ここにはいないんだもの。
 城の中へ、フレデリック様を探しにいきたいくらいだ。

 そうだ、フレデリック様に手紙を書けばいいんだわ。わたしから熱い恋文を貰ったら、フレデリック様は、むふぅ~ってなるわよ。
 そうしたら、読んだ次の日、ここにやって来るかもしれない。
 わたしは我が家から持ってきた、ノートにフレデリック様へ手紙を書くことにした。

「ワーグナー公爵令嬢。貴女は、私の講義も聞かず、何をしているんですか?」
「フレデリック殿下に、お手紙を書いてるんです」
「お止めなさい。私の講義を聞きなさい」

「そんな退屈な講義を聞くなんて、時間の無駄だから。せっかくだもの、手紙を書くことにしたので、止めないでください」
 久しぶりに、こんなに怒った顔の人を見たけど、そんなこと気にしてられない。
 わたしは、講師の煩いお小言は、聞かなかったことにして手紙の続きを書く。
 他の令嬢達より1歩前に出るには、みんなのやっていないことをしなければ勝負に勝てないと、ワーグナー公爵家当主の父が、いつも言っている教訓だ。

 どうしてこんなにフレデリック殿下に恋をしているのか、分からない。
 フレデリック殿下のことを考えると、理由もなく、そわそわして、全く落ち着かない。
 だけど、彼と再会した後からは、もう、フレデリック殿下がいない人生なんて考えられない。
 そう、心が訴えかけてくる気がする。

 周りを見渡せば、どの令嬢も綺麗で、すごく素敵に映ってしまう。
 わたしだって、必死に追いつかなきゃ。
 わたし以外の令嬢といるのを見ると、胸が苦しくなるから。フレデリック殿下は、わたしだけを見て欲しいと欲をだしてしまう。

****

 その翌日。
 昨日の講義の確認試験だと直前に告げられた。

 王城に着けば、令嬢達があまりに真剣に教科書を見ているから、可笑しいと思っていた。
 おそらく、わたし以外の令嬢はその段取りを知っていたのだろう、随分と熱心に直前まで勉強をしていたのだから。
 
 どうしてわたしだけが、確認試験の存在を知らなかったのか分からない。もしかして、講師の嫌がらせなのかもしれないけど、それはどうでもいいことだ。

 フレンツ語の試験が始まって5分。
 解答用紙は全て埋めたのに、まだ1時間近くも残っていて呆然としている。
 この妃試験の時間配分は、間違っているんじゃないかと、申し立てをしたいくらいだ。
 今から苦情を言うか? いや、勝手に立ち去る方が早い。

 こんなところで、ボケッとしている時間があれば、漢字の分析だってできる。
 実際のところ、内心では結構焦っている。

 もし、フレンツ王国との取り引きができなくなれば、小麦をどこから買い付けるか?
 今の時点では、代替え国の見当が付いていないのだから。
 生活に大きな影響を与えるものなのに、周辺国だけでは、補いきれないのは分かりきっている。
 だから、なんとかしておかなきゃいけないのに、貴重な1時間を無駄にするのは納得いかない。

 さっきからずっと睨んでくる講師は、わたしが席を立とうとすると、すかさずやって来て、無理やり座らせる。
 だからこれ、何回目よ! わたしはキッーと講師を睨みつけたけれど、講師はそれに怯む様子はない。
 
 他にも退屈している令嬢がいないかと、周囲を見回せば、眩しい金髪が目に留まった。
 小ホールの後ろに、隠れるように立っていたフレデリック殿下と、目と目が合って、ドキンと心臓が跳ねた。
 愛しの王子様が、直ぐ近くにいるんだ。
 こうなれば、講師がなんと言おうと関係ない。
 胸の鼓動が激しくなり、気付けば勝手に体が動いてしまう。
 わたしの試験は、とっくに終わっている。
 このままフレデリック殿下とデートに行きたいくらいだ。

「フレデリック殿下~、いらしてたんですね。あー、もっと早く気付いていれば良かった」
「貴方は、誰だ?」
 ふふっ、わたしが綺麗になったから、殿下はすっかり驚いているわ。
「ワーグナー公爵家のアリーチェですよ、先日、ご挨拶は済んでいますが」

「ワーグナー公爵令嬢……。貴女は試験中だろう。私の元に来るより、そちらをすべきだろう」
「試験は大丈夫ですから。そんなことより、わたしの手紙を読んで、むふぅ~ってなって、わたしに会いにきてくれたんですか?」
「むふぅ~って……。ワーグナー公爵令嬢は、何を言っているんだ。ほら、いいから席に戻って」
 照れてるの? 目を逸らして誤魔化したわよね。

「だって、わたしは好きなものを食べると、むふぅ~って、なりますよ。フレデリック殿下はならないんですか。あっ、そうだ、今日のわたしをどう思いますか? 魅力的な感じになってますか? 研究に研究を重ねた結果なんですよ、うふふっ」

「どうって、今日は試験なのに、ワーグナー公爵令嬢は、どうしてそんな格好しているのか、正直言って目のやり場に困る、とは思う」

「それは、もちろんフレデリック殿下のためですから。そうそう、よかったらデートに行きませんか?」
「はいぃ? 貴女は何を言っているんだ。試験をさぼって、遊びにいくつもりか!」

「試験は終わったし、殿下もわたしに用事があるでしょ。わたしはバジルが好きですよ」
「…………」

 7歳のリックは、わたしに誓ってくれた。
 わたしの欲しいものを持って、迎えにくると。
 あの時は欲しいものなんて、なかったから、母の愛を感じた、サンドイッチと伝えたんだ。

 リックと出会った日、母が作ってくれたのが、バジルのサンドイッチだったから、それしか思いつかなかったのよね。


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