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第2章 届かない想い

幸せじゃない

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【SIDE アリーチェ】
 
 わたしの執務室にある大きなバルコニーに立てば、王城の庭園が目に入る。
 イエール城には2つの庭があるけど、ここから見えるのは国民達に一般開放している庭だ。

 晴れた日には、恋人や夫婦なのか庭園デートのカップルがたくさん訪ねてきている。
 庭園自慢の大きな噴水。
 常に水が舞い上がり見ていて飽きないけど、1時間おきにその動きが大きくなる。
 まるで水が楽しく踊っているように動く様子に惹きつけられる。
 もう何度も同じものを見ているのに、毎回、童心に帰ったようにワクワクする。

 毎日公務をこなす以外は何もないわたしにとって、唯一夢中に見入ってしまう時間。

 デートの人々は、これを見る目的でここに来ているようだ。
 わたしがこのバルコニーに立つ時間は、決まってカップルの姿が多い。

「幸せそうで羨ましい……」

 思わず本音がポツリと漏れる。
 最近こんなことが増えてきた気がする。

 外から見たら、わたしは何でも持っていて、幸せそうに見えるんだろうな…………、ちっとも幸せじゃないのに。

 幼い頃からの夢は、かなう兆しもない。
 わたしの想いは一向に届く気配はないし、誰かにそのことを話したくても、こんな恥ずかしいことは誰にも言えないでいる。

「アリーチェ妃殿下、まだ外は寒いですから肌を出したままですと風邪をひきますよ」
 わたし付きのトミー事務官がストールを掛けてくれた。
 ウサギの毛で作られた柔らかい素材が、肌に気持ち良い。

「ありがとう、気付かなかったわ」
「公務は人の何倍も早くこなす妃殿下にも、気付かないこともあるのですね」

「自分のこととなると気にするのが、めんどくさくて。それに、何かに集中し過ぎると、自分のことなんて直ぐに忘れちゃうしね」

 温かい……。
 夫より、トミー事務官から掛けられたストールの方が温もりを与えてくれる。そのせいで思わず泣きそうになってしまう。

 公爵家での暮らしは、何も言わなくてもマックスのお陰で、毎日が快適だった。
 屋敷で甘やかされて育ってきたわたしには、城での暮らし方が分からない。
 実家ではいつも誰かが傍にいてくれた。
 1人っきりは怖い。
 そんな子どもみたいなこと言えるわけがない。
 埋められない孤独感と寂しさに、どうやって折り合いを付けて行けばいいんだろうか。
 
 毎朝寒さに震えて目が覚める。
 わたしの元へ来るはずのない夫をソファーでずっと待ち続けている。
 相手にされていない妻が1人で愚かなことを続けてるなんて、恥ずかしくて誰にも言えない。
 昔からお勉強は得意だった。
 だから、何でも知っている気でいたのに、自分のこととなれば、どうしたらいいのか分からないんだから。


 ……もう疲れちゃった、終わりにしよう……。


「トミー事務官は、フレデリック様の側近のことについて、何か知っているの?」
「ラッセル侯爵家のファウラー様のことですか? 彼のことをどなたから聞いたのですか?」
「マックスよ」

 マックスは、わたしが何でも首を突っ込むから、何かを隠してた。



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