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序章 日の目をみない「奇跡の力」と憂鬱

第1王子の思惑

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 私が両親の傍で、パーティが終わるのを待っていると、カールディン第1王子が、貴族の列を割って両親の前に現れた。
 両親も他の貴族たちも、突然現れた王族に驚いていた。

「シェルブール伯爵。ご令嬢のリディアンヌ嬢を、近いうちに王城の茶会へ招待するので、招待状を待っていてくれ!」
「えっ? 殿下、うちのリディアンヌをですか? まだ、挨拶もしておりませんのに」
「挨拶は、先ほど済ませた。なあ、リディアンヌ嬢?」
「……はい」
「邪魔が入らなければ、もっと、有意義な時間を過ごせたのに。今日は、周囲が煩いから、後日ゆっくり話そうね、リディアンヌ嬢」
「……」
 庭園と違い、今度は周囲の目もあるから、適当な返事は出来ない。

「承知いたしました、カールディン殿下。招待状を受け取りましたら、リディアンヌを王城へ向かわせます。本来なら、長く王都にいる予定ではなかったのですが……。では、少しの間だけ、こちらに滞在することにいたします」
 父が卒なく対応して、この場はこれ以上大きな騒動にならなかった。

 挨拶の列がなくなったタイミングで、両親と私は伯爵家の馬車で邸へ帰った。
 馬車の中で、父は何も話すことはなかったけど、表情は暗かった。

 ****

 数日後、シェルブール伯爵家に王城から招待状が届いた。
 その日、父の書斎に呼ばれた私は、くれぐれも魔法のことと癒しの力のことは誰にも話してはいけないと、約束の確認をされた。

 父が言うには、王子が私の傷を治す行為も本来であれば、他人に見せるものではないらしい。 
 癒しの力は、非常に貴重なもので、王族や貴族など、縁者による婚姻を繰り返し、古の血を脈々と受け継いだ家系には、極わずかに使える人がいるほど、貴重なものだったみたい。
 有益な人間を取り込もうとする悪人に目を付けられないよう、家の秘匿事項とされる力だと教えてもらった。
 
 私は父と絶対の『秘密』として誓った。

 招待状にあった日に、憂鬱な気分で王城へ向かった。
「リディアンヌ嬢! 待っていたよ! 会いたかった」
 溢れんばかりの笑顔に、ひきつりつつも笑顔を作る。

「本日は、ご招待いただき、ありがとうございます」
「堅苦しい挨拶は抜きで、今日は楽しもうね。リディと呼んでも良い? 私のことはカールと呼んで!」
「カール様……」
「うん、リディとはこれからもずっと仲良くしたいからね」
「……」
 王族と仲良くって……何が楽しいの? 
 私は仲良くなんて、したくないです。

 ****

(SIDE カールディン王子)
 
 僕の10歳の誕生日。
 王城の広間に集まる大勢の貴族を上から見ていた。
 この中から、将来の側近になりえるものと、妃になるものの目星を付ける。
 とりあえず、全員と話せばよいか。
 ――――っ!
 こんなに離れていても輝いて見える少女に目が留まる。そして、そのまま目が離せなくなった。 
 聖女様? あの髪の色は聖女様の色! 瞳は下を向いていて見えないが、もっと近くで、あの少女を見たい!

 国王陛下の挨拶の最中、その少女とのきっかけを作る作戦を考えていた。 
 なのに、その少女は、開始とともに出口に向かってしまう。
 焦った僕は、別の出口から外に出て少女を探した。
 
 走って探していたため、息が上がっていたが、遠くに少女の姿を捕え、息を整えながら近づいて声をかける。
 正面から見た姿は、王城の家庭教師から教わった、聖女様そのものだった。パールのような髪に青い瞳。 
 
 ――――思わず息を飲んだ。聖女様に違いないと確信し、益々気持ちが昂る。
 見つけた……この子しかいない。
 
 そう思った瞬間から、僕は、聖女様を手に入れるために必死だった。
 あの日は、レイルに邪魔された。
 今日はやっと、ゆっくり話せる。

 僕にとって、この日をどれだけ楽しみにしてたか、皆は分かってない。

 ****

(SIDE リディ)
 
 カール様は私に矢継ぎ早に質問を繰り返した。
 私のことを知りたい気持ちが伝わって来て、自然と警戒心が増した。

「リディは癒しの力を使える?」
「精霊の力は感じられる?」
「どんな魔法を知っている?」
 精霊の力に関することや魔法に関することが多かった。
 私は、聖女様を訪仏させる容姿のせいで、日ごろから、この類の話を振られることには慣れている。
 父との約束のため、癒しの力は使えないと答え、魔法は知らないで貫き通す。
 偽りを伝えていることに、少し心が痛んだけど、思慮深い父の言うことを、軽視できないから。

「リディが初めて癒しの力を見たのは、最近だもんね。詳しく教えてあげるよ。使い方がわかれば、きっとリディも使えるようになるよ」
 いえ、結構です。教えて頂く必要はないですから。だけど、上手く合わせなきゃ。

「私も……使える……そうなれたら、嬉しいです」
「聖女様にそっくりなリディなら、間違いないよ」
 当たり障りのない回答を返し続け、その場をやり過ごして、適当な相槌を打って会話をつなぐ。

 カール様は伝えたいことが多過ぎるみたい。説明は慌ただしくて話が行ったり来たりしている。
 合いの手を入れたい所も、私は何も知らない事にしなきゃいけない。申し訳ない気持ちを抑えながら、私はカール様の説明をとりあえず聞いた。
 カール様の説明は熱が入り、私の手を取りながら教えてくれていた。

 日暮れも近くなり、この日は、野原で走り回るより酷く疲労して、邸へ帰った。

 ****

 再び、王城からの招待状を受け取り、前回の訪問から1週間足らずで、カール様と会っていた。

 今日は、魔法の種類について、カール様が私に教えている。
 伝えたいことがいっぱいで、相変わらず慌てながら、話しているカール様。
 
 魔法に興味があるのは親近感があるけど、やっぱり王族には積極的に関わりたくない。
 私は、魔法についても無知を貫き通した。
 カール様は、魔法の名前や効果は知っているようだけど、使い方までは知らないようね。
 シェルブール家の知識が例外だから、カール様の会話は物足りない。
 それでも、カール様の知識は、さすが王族といえる豊富なものなんだろうな。一般の貴族では、ここまでの情報は知らないはずよね。

「いつか、僕も魔法を使えるようになりたいんだ。500年前の人々は、皆使えたのだから、コツが分かれば出来ると思うんだ。そうすれば、国民の生活はもっと暮らしやすくなると思う」
 目をキラキラさせているカール様。
 確かに、生活は変わります。と、心の中で深く頷く。

 実際に魔法を使うと、生活が激変することは、2年前に貯水湖に水を溜めたことで、実体験したから。私は、そのことが言えないのがもどかしかった。
 うーんっ、早く領地に帰って、もっと色々な魔法を試したい。

 この先の未来を知らない私は、領地に帰って早く魔法の勉強や練習をしたくて堪らない気持ちを、少しだけ我慢すれば良いと思っていた。

 ****

 カール様の2回目の招待から、数週間が経った頃。すでに、シェルブール家の領地に帰る準備を整えていた時だった。
 これまで王城から届いていた招待状より、格式の高い書簡が父の元へ届いた。
 書簡には、カール様と私の婚約の件が書かれていた。




 .。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*
 第6話を読んで、いただきありがとうございます。
 癒しの力や魔法に惹かれている王子とそれを隠すリディ。
 この関係がどうなるのか……
 追いかけていただけると嬉しいです(*ᴗˬᴗ)
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