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本章1 本当の姿

手に入れたいもの

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 魔物の襲撃に備えて、私は自分にできる準備をする。
 7歳から領地を離れて、王都で暮らしていたから、この邸の書物に触れるのは久しぶりで少し緊張する。
 あ~懐かしい。そうそう、幼い頃は読めない文字も多くて、父に聞いて覚える知識の方が大半だったのよね。

 今は、皮肉にも妃教育のおかげで、ノマーン王国の古代文字まで、理解できるようになっている。

 父は20代目の当主で、前当主が書き写した知識を後世に残すために、父の代の書物が既に完成されている。
 この長い歴史の中で、どこかで零れ落ちている知識があるかもしれない。
 流石に初代に近い書物は、時間が経ち過ぎていて、手荒に触れれば、破損させるかもしれない。
 とりあえず私は、10代目当主の書き写している書物を読んで知識を叩き込むことに没頭している。

 知らない魔法や、魔物討伐の鍵になることとか、新しい発見がいくつかあった。
 聖女ミレー様についての記録には、最近の文書には書き溢されていることも多いわね。もしかして、聖女ミレー様は魔王を倒すのを躊躇っていたのかしら? 

 魔王の行動には何か理由があると思っていたのね。う~ん、元々の魔王は邪悪なものではないと感じていたのね。むしろ、魔王と人々の生活のため、魔王に歩み寄る方法を考えていたようだわ。

 魔王を倒すと、魔力が枯渇して、これまでの人々の生活が激減することを危惧されていたのね。
 聖女ミレー様は、魔力の源が魔王だと気付いていたのか。
 今となっては遅いけど、魔王が暴挙に出た理由もわかれば、あの時代に、2人が石化しなくても解決法があったかもしれない。
 聖女ミレー様の記録が途切れていた理由は、おそらく10代目当主から父までの間に、魔王を擁護する思想をよく思わなかった当主が、意図的に転記しなかったのね。



 十分な時間があるわけではないので、私は手当たり次第に10代目の書物を読み漁っている。

****

 その頃、王都では……。

 国王が、カールディン第1王子とリディアンヌ・シェルブール伯爵令嬢の婚約を破棄を承認していた。 
 同時にカールディン王子とソフィア・カモメイル公爵令嬢との婚約が決まった。

 ソフィア公爵令嬢の妃教育は、婚姻後も継続されることで、約半年の準備期間で結婚式をする異例の速さで予定されていた。

 歓喜するカールディン王子。
 カモメイル公爵は娘の結婚に喜ぶのは当然だが、異常なほどの浮かれように、周囲の者が引いているほど。

 国王直々に、リディアンヌ伯爵令嬢へ事情を説明するつもりで、王城に呼び出したが、……時遅く、リディアンヌ嬢は既に領地へ戻った後であった。
 国王としても、書簡だけで婚約破棄だけを伝えるのは避けたいところ。 

 ジュリアス王子がリディアンヌ嬢を妃に迎える気持ちがない以上、文書としては伝えられないことしかないのだが。

 国王はシェルブール伯爵家へ、婚約破棄の報告と王都で面会したい旨の伝令をジュリアス王子に託すことにした。

****

 伝令を託されたジュリアス王子は……。

「まったく、弟というのは損な役回りしかない。なぜ兄の女性問題の尻拭いをさせられるのか」

 反面、ジュリアス王子としても、夜会の日に、リディアンヌが一瞬光っていたことなど、気になることがいくつかあった。

 そのため、何か見つかるのではないかと、期待があった。

 人形のように捉えていた女性が、目の前で必死に堪えている姿は、感情を大きく揺すぶった。

 夜会でリディアンヌを四半刻ほど抱きしめていた時。腕の中で小さく震える彼女のことを愛おしく感じ、癒しの力を必死に使ってしまった。



 あの日、彼女に見栄を張って立ち話を続けたが、その後、極度の消耗で、王子がその場で倒れこんだことを知っているのは、ジュリアス王子の優秀な側近1人だけ。

「殿下? 本当はリディアンヌ様に会えるのが嬉しいのでしょう!」

「馬鹿を言うな! 陛下の命令だから行くだけだ!」

「ふふふ、慌てちゃってー。あの日の殿下は、いつもの冷静さはどこに行ったのかと思うほど、危なっかしかったですもんね。ふふふ」

「至って、冷静だった……」

「いやーあれは全部駄目でしょう。ふふふ。誰かに見つかったら。ましてや、兄君殿下にでも見つかったら。うー怖い……。仮にも婚約者ですからねー。ふふふ。切りつけられてたかもしれないですよ。ふふふ。」

「おまえは! 私のことを馬鹿にして楽しいか?」

「はい! 剣術しか知らない殿下が、令嬢に自分から話しかけて、おろおろしている姿は、皆に言いふらしたい格好の話題です! ふふふ。まぁー、婚約者のいる令嬢相手のことだから、誰にも言えないですけど」

「絶対に言うなよ!」

「『兄に顔向けできないことはしない』なんて言っておいて、抱きついちゃって。悪い男ですねー」

「抱きついてない! 倒れないように支えていただけだ! う~ー……おまえは、会話まで聞いていたのか?」

「当たり前ですよ! あそこで僕が全方位の見張りを一人でやってたんですから! 聞き耳位立てますよ!」



 側近のクルリに揶揄われたせいで、私がこの伝令を命じられたことに、気が踊ったことなど、正しく認識することができなかった。


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