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本章4 暴かれる真実
伝わらない
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私の手の中にある魔王の瞳をどうすべきか?
考えが定まった頃に、カモメイル邸からジュリアスが戻って来た。
ジュリアスにしては珍しく、「クルリ1人に任せた」なんて言うものだから、思わず声が出そうになった。
確かに、この国の王子が、直々に関わるのも問題だとは思うけど、それでも、いつものジュリアスだったら、最後まで一緒に調べていそうなのに。
「私の居ない時に、危険な事はなかったか?」
「…………うん、もちろん何もなかった」
誤魔化している事には気が引けるけど、キュアが居たから危険はなかったわよね。だけど、カモメイル公爵から、魔法攻撃を受けたなんて、口が裂けても言えない。
「それなら良かった。カモメイルの邸から、持ち帰ったものがある。これを見て欲しい」
ジュリアスから、古い紙を渡される。
保存状態は余り良くないけど、書かれている内容は読み取ることが出来る。
私は直ぐに何が書かれているか分かり、ジュリアスを見つめる。
古代文字で説明が書かれた攻撃魔法の数々。その全てが術式を複雑に組み合わせて、殺傷効果を高めたものを書き連ねている。生活に役立つ基本魔法は、1つも書かれていない。
これでは術式の根本が分からなくて、ただの攻撃しかできない知識。500年前の人たちが、生活に役立てていた、生活魔法としてなんて使うことは出来ない。
「これを見つけた。既にクルリと2人で内容を確認したが、リディの意見を聞きたかった」
その言葉を聞いて、私は躊躇なくこの紙を魔法で燃やすことにする。
ジュリアスは表情を変えることなく、燃え尽きていくその紙を、何も言わず見つめている。
クルリが目を通したのであれば、この内容は全て頭の中にだけ入っている。こんな危険な知識を、もう残してはいけない。
「ジュリアス……。魔法って……ううん、やっぱり何でもない。こんなお願いをして申し訳ないけど、あの紙の魔法は、もう誰にも残さないで欲しい。あれは、強度を高めるために、信じられないほど複雑に術式を組んで、傷つける事を厭わない魔法だった。基本の知識がない人にとって、あの内容を見ても、生活魔法に分解することもできない酷い情報だわ。証拠を勝手に燃やしたのは、良くなかったけど、複製を作ったりするのも、絶対にしないで欲しい……」
「気にしなくて良い。あれは誰にも見せる予定はなかった。まあ、あれは、この世から失くすることを躊躇わないほど、薄っぺらい価値しか無かったということだ」
「この魔法を、当主以外の人間も知っているのかしら?」
「クルリが今、それを調べている。世の中は、リディのような善人ばかりではないからな。使う人間によっては、魔法は殺し合いの道具だ…………。まあ、この話は後でしっかり話す必要があるな。リディ、竜のこともあるから、このまましばらく、王城に滞在して欲しいのだが」
「え? あっ、そっか。キュアだけにする訳にはいかないか……」
キュアに甘えている以上、ここは従うしかない。
大人しく、王城の客室に案内されることになった。
客室のソファーに座ると、張り詰め続けていた感覚が一気に溶かれていく。
クルリから念話を受けた時は、自分の心臓の場所がはっきりと分かるほど、その存在を私へ主張していた。
今はすっかり、その存在感も無くなり、静寂に包まれている。
無我夢中で駆けつけた後は、カールディン王子へ「私はジュリアスが好き」と言いかけて、制止されていたんだった。
どうしよう…………なんて切り出したらいいんだろう……
「リディ。私がシェルブール邸の地下室で、あなたを傷つけてしまったこと。あれからずっと後悔していた。……本当に申し訳なかった……………………」
ジュリアスは傷つける事なんて言ってないのに。私が何も言わないままでいたから、ごめんなさい。あなたの気持ちから逃げてしまって。
素直になって、私の想いを伝えなきゃ。
勇気を出すのよ!
「ジュリアス……私の方こそ…………ごめんなさい」
「…………」
「私………私………、私……」
「…………」
「……妻にしたいって言ってくれたこと……、本当は嬉しかった……ジュリアスのことが好き…………伝えるのが遅くなってごめんなさい………………」
あー言えた……ちゃんと言えた……。ジュリアスの返答は……?
うーーん、すごく……眠い。……ねえ、ジュリアス?
……あーでもこれで、レイルには心置きなく……、これからも……私のお願いに付き合ってもらうわよ…………。
色んなことがあった1日だった…………、もう、疲れ過ぎて…………。ねえ、ジュリアスは……。
考えが定まった頃に、カモメイル邸からジュリアスが戻って来た。
ジュリアスにしては珍しく、「クルリ1人に任せた」なんて言うものだから、思わず声が出そうになった。
確かに、この国の王子が、直々に関わるのも問題だとは思うけど、それでも、いつものジュリアスだったら、最後まで一緒に調べていそうなのに。
「私の居ない時に、危険な事はなかったか?」
「…………うん、もちろん何もなかった」
誤魔化している事には気が引けるけど、キュアが居たから危険はなかったわよね。だけど、カモメイル公爵から、魔法攻撃を受けたなんて、口が裂けても言えない。
「それなら良かった。カモメイルの邸から、持ち帰ったものがある。これを見て欲しい」
ジュリアスから、古い紙を渡される。
保存状態は余り良くないけど、書かれている内容は読み取ることが出来る。
私は直ぐに何が書かれているか分かり、ジュリアスを見つめる。
古代文字で説明が書かれた攻撃魔法の数々。その全てが術式を複雑に組み合わせて、殺傷効果を高めたものを書き連ねている。生活に役立つ基本魔法は、1つも書かれていない。
これでは術式の根本が分からなくて、ただの攻撃しかできない知識。500年前の人たちが、生活に役立てていた、生活魔法としてなんて使うことは出来ない。
「これを見つけた。既にクルリと2人で内容を確認したが、リディの意見を聞きたかった」
その言葉を聞いて、私は躊躇なくこの紙を魔法で燃やすことにする。
ジュリアスは表情を変えることなく、燃え尽きていくその紙を、何も言わず見つめている。
クルリが目を通したのであれば、この内容は全て頭の中にだけ入っている。こんな危険な知識を、もう残してはいけない。
「ジュリアス……。魔法って……ううん、やっぱり何でもない。こんなお願いをして申し訳ないけど、あの紙の魔法は、もう誰にも残さないで欲しい。あれは、強度を高めるために、信じられないほど複雑に術式を組んで、傷つける事を厭わない魔法だった。基本の知識がない人にとって、あの内容を見ても、生活魔法に分解することもできない酷い情報だわ。証拠を勝手に燃やしたのは、良くなかったけど、複製を作ったりするのも、絶対にしないで欲しい……」
「気にしなくて良い。あれは誰にも見せる予定はなかった。まあ、あれは、この世から失くすることを躊躇わないほど、薄っぺらい価値しか無かったということだ」
「この魔法を、当主以外の人間も知っているのかしら?」
「クルリが今、それを調べている。世の中は、リディのような善人ばかりではないからな。使う人間によっては、魔法は殺し合いの道具だ…………。まあ、この話は後でしっかり話す必要があるな。リディ、竜のこともあるから、このまましばらく、王城に滞在して欲しいのだが」
「え? あっ、そっか。キュアだけにする訳にはいかないか……」
キュアに甘えている以上、ここは従うしかない。
大人しく、王城の客室に案内されることになった。
客室のソファーに座ると、張り詰め続けていた感覚が一気に溶かれていく。
クルリから念話を受けた時は、自分の心臓の場所がはっきりと分かるほど、その存在を私へ主張していた。
今はすっかり、その存在感も無くなり、静寂に包まれている。
無我夢中で駆けつけた後は、カールディン王子へ「私はジュリアスが好き」と言いかけて、制止されていたんだった。
どうしよう…………なんて切り出したらいいんだろう……
「リディ。私がシェルブール邸の地下室で、あなたを傷つけてしまったこと。あれからずっと後悔していた。……本当に申し訳なかった……………………」
ジュリアスは傷つける事なんて言ってないのに。私が何も言わないままでいたから、ごめんなさい。あなたの気持ちから逃げてしまって。
素直になって、私の想いを伝えなきゃ。
勇気を出すのよ!
「ジュリアス……私の方こそ…………ごめんなさい」
「…………」
「私………私………、私……」
「…………」
「……妻にしたいって言ってくれたこと……、本当は嬉しかった……ジュリアスのことが好き…………伝えるのが遅くなってごめんなさい………………」
あー言えた……ちゃんと言えた……。ジュリアスの返答は……?
うーーん、すごく……眠い。……ねえ、ジュリアス?
……あーでもこれで、レイルには心置きなく……、これからも……私のお願いに付き合ってもらうわよ…………。
色んなことがあった1日だった…………、もう、疲れ過ぎて…………。ねえ、ジュリアスは……。
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