婚約破棄なんて絶対にしません!

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第17話

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「さぁ、フランツ殿下。ゆっくりランチを取ってる時間はありませんよ。
 本日の授業が押しに押して、大渋滞です!」
 
救護室を出てすぐ、今度こそ逃げられにようにロナルドにギュッと手を繋がれた。
オレが悪いのは分かるんだけど、男と手を繋ぐってなんだかなぁ。
 
「本来予定されていた、地理の授業は本日はなしにしましょう。
本当は周辺国の方々がいらっしゃいますので、復習したいところですが、それよりもダンスの方が大事です!」
「だ、だんす?」
「そうです。いい加減、何度も何度も逃げ出して、まともにダンスの練習をしてないでしょう?
 こんな状態でクラリス嬢と踊るなど、この私が許しません。えぇ、許しませんとも!」
 
鼻息荒く宣言するロナルドに若干引きつつ、オレはドナドナよろしく練習室に強制的に連れられた。
練習室は思ったよりも素っ気ない作りで、どちらかというとバレエ教室みたいに大きな鏡が並び、誰か練習した後なのか、ヴァイオリンに似た楽器が転がっていた。
そして、練習室の1/4を占める大きなピアノ!
元々、この乙女ゲームは異世界設定だったけど、文化は『俺たちの世界』よりだった。単純にゲーム会社が細かな生活設定まで考えるのが面倒なだけだと思っていたけど、案外、そもそもの文明の発展が一緒なのかもしれない。
魔法が存在する以外は。
オレが思わずピアノに近づくと、その大きなピアノの陰から小さな男の子がぴょこんと出てきた。
少し長めの髪を一本に括り、驚くほど整った顔立ちに、甘く垂れ下がった瞳は見覚えがある。
髪はまるで老人のように真っ白で、その瞳の色は魔に染まった証である金色に輝いている。
 
「フランツ、待っていたよ」
「サファイア様、遅れてしまって申し訳ございません」
「いや、たいした遅れでないので」
 
ロナルドが申し訳なさそうに謝ってるのに対し、男の子は涼やかな声で飄々と答えている。
 
「サファイア」
「あぁ、フランツ。今日は私がフランツのダンスのレッスンに付き合うよ」
 
オレが名を呼ぶと、サファイアはニコニコ笑い、淑女のようにローブの端をつまんだ。
驚くほどの美少年。もはや天使のような彼は。
『俺』の記憶が正しければ、齢100歳を超える、魔族の末王子だ。
ちなみに、攻略対象の一人です。ヒロインと同じクラスで、学園には人間の国の文化を学ぶためって設定で、次第に愛を育んでいくってストーリーだったんだけど、なんでいんの?
 
「サファイア、お前、なんで」
「もう、フランツ様。サファイア様にまでそのような言葉遣いをして!」
「いいんだ、ロナルド。私だってフランツには遠慮なく接しているし。
・・・・・・それに友達なんだから普通だろう?」
 
少し照れたようにしながら、サファイアははにかむように言った。
年端もいかない少年が言う分には大変微笑ましいが、こいつは100歳越えなのを忘れてはいけない。
そもそもオレはサファイアと友達になった記憶はない。思い出せない、というレベルではなく、本当に記憶にない。
一度だけ会ったことはある。でも、別に一緒に遊んだ記憶もないし、ちょっとした世間話をしたくらいだ。
そもそも彼はその時、子供の姿をしていなかった。『俺』より少し年嵩の、20代くらいの若者の姿で会っていた。
魔族は魔力が高ければ高いほど寿命が長く、その姿を性別以外は変幻自在に操れると聞く。
サファイアは魔族の中でもトップクラスの魔力が(ゲームの設定では)高いから、まぁ、爺の姿も子供の姿もお茶の子さいさいなんだろうけど。
 
「まぁ、言いたいことは色々あるけど、本当になんでここにいるんだ?」
「ひどいな、フランツ。私は君が大人とダンスの練習をするのが嫌いだと聞いて、わざわざこの姿で君に会いに来たのに」
 
この身長なら、同じくらいだし、君も気にならないだろう?
そう言われて、オレは思わず頷いた。
オレの身長だと、どうやっても大人との練習に身長差を感じて踊りにくくて、それでオレはダンスの練習を嫌がって逃げ出していた。
オレくらいの年の子もいたにはいたけど、男だと女性側の踊りをまだ幼くて踊れないという問題があり、女だと婚約者になれるかもしれなと親が色めき立っちゃうし、何かと大変だった。
その点、確かにサファイアは今の見た目はどうであれ、中身は大人だし、どちらのダンスのパターンもそつなく熟せるだろう。
 
「ね、一緒に練習しよう?」
 
小首を傾げて、とびっきりの笑顔で言われる。
そんな美少年の笑顔にオレは、思わず頷いてしまった。
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