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第一部 剣なんて握ったことの無い俺がでまかせで妹に剣術を指導したら、最強の剣聖が出来てしまいました。

第66話 カイル THE LAST MASTER その6

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 もしかして、これ。勝っちゃったのか?

 俺が、邪神をやっつけちゃったのか?

 だって、さっきの俺の技……無茶苦茶凄い威力だったしさ。もしかして俺って、超強いスーパー異世界人なんじゃないの?

 なんて……多分。俺の顔は嬉しさのあまり恥ずかしいほど緩んでいたに違いない。

 しかし、そんな俺を蔑むような目でじっとりと睨みつけるエイドリアンの口から出た言葉は、激しく俺を叱咤する言葉だった。

「何をよそ見してるんです。油断しないでしっかりと邪神の姿を見ていて下さい」

「でもさ、こいつ頭が無くなってるんだぜ」

 そう。この邪神はいまでもしぶとく立ってはいるが、さっきの超威力指弾のせいで首から先が吹っ飛んでしまっている。

 かつて頭が乗っかっていた首からは、血液ではなくモヤモヤとした真っ黒い魔力みたいのが止めどなく溢れ出して、いかにも「やられました……」って感じなのだ。

 だが、エイドリアンはそれを見ても、「良くやりましたね。さすが凄いです。」なんて優しい言葉をかけてくれはしない。

 それどころか、彼女口から出た言葉は、まさに『邪神』の名に相応しい、圧倒的、そして絶望的な事実であった。

「あなた……。もしかし邪神チョロいな、俺ってむっちゃ強いじゃん。なんて思ってるんじゃないでしょうね。言っときますけど、黒い獅子はテスカポリカの本体ではなく化身ですから!」

 容赦のないエイドリアンの言葉が、調子に乗った俺の心を思いっきりえぐりに来るが、大事なのはそんな事じゃ無い。エイドリアンが言うには、今、俺が頭を吹き飛ばした邪神は……。つまり、この黒き獅子は奴の姿では無いらしいのだ。

「はぁ?じゃあ、俺がいくらこいつの頭を吹き飛ばしたところで意味は無いのか?」

「意味はあります。恐らく頭は魔力によって再生されますから、その都度切り落とすなり、今みたいに粉砕するなりすれば……いつかはテスカポリカの魔力も枯渇するはずです」

「枯渇するはずって……何回くらい……?」

 俺は思わず聞き返す。だってエイドリアンの言葉があまりにも曖昧だったから。

 だけど、よくよく考えて見れば、エイドリアンっだって……そんな事分かる訳が無い。相手は伝説にしか語られることの無かった邪神なのだ。

 エイドリアンは、少し煩わしそうに答える。

「枯渇するまでって言ったら枯渇するまでです。都市を瞬時に消し去る程ですよ、少なくても100回以下で終わるってことはないでしょうね……」

「はぁ?100回以上ってそんなの俺達の体力が保つわけ無いだろ。もういっそお前の古代魔法ってやつでどうにかならないのか?」

 だって、都市を消滅させるなら、このエイドリアンにだって出来そうだったから。

 でも、エイドリアンは大きくかぶりを振って、その視線を、邪神ではなく、その真上まうえ……はるか上空へと向けた。

「白い……龍?」

 つられて上空を見上げた俺は、思わずそうつぶやいた。そこに見えたのは、翼の生えた白き蛇の姿。しかし俺はその不思議な姿を表す言葉を『龍』しか知らない。

 そんな俺の言葉を補填するかのようにエイドリアンは語る。

「あれが、神竜ククルカンです」

「邪神を封印していた?」

「はい。先ほどからああやって上空を旋回してテスカポリカの力を抑えてくれています。そして私も、ショーン様もククルカンに微力ながら力を貸しています」

 ――なるほど。そういう事であったか……

 俺はようやく合点がいった。俺も一時は勘違いしてしまったが。まぁ早い話、あいつのせいで邪神は本気を出せないんだ。

「つまりこういう事か。神竜とお前らが邪神の力を抑えてくれているおかげで俺達は、まともに邪神と渡り合えてるってわけだな」

 そんな俺の言葉に、エイドリアンは小さく頷く。

 そして……

「ですから、なんとかお願いします。力を合わせてこの死地を乗り越えましょう。この通りです」

 そう言った後、突然エイドリアンはその姿勢を正し、あろうことか俺に対して深々と頭を下げたのだ。

 あのエイドリアンが……。俺は一瞬呆気に取られたが、やはりエイドリアンも必死なのだろう。

 だが、実際にあのような内功《ないこう》(気の力)を大量に使う指弾など、そう何度も撃てるものではない。

 ――せめて何か一つでも策が欲しいところだ。

 俺は、無い頭をめいいっぱい働かせるのだが……。そんな思索を邪神は待ってはくれなかった。

 見れば、エイドリアンの言った通り邪神の頭は、いつの間にか魔力によって、ほぼ元の姿を取り戻している。

「やむを得ない。もう一度行くぞ!」

 今度は俺から、妹に声をかけた。

「承知!」

 妹からは、はつらつとした声が返ってくる。今度は妹自らがサポート役にまわるつもりらしい。「承知」の返事は先ほど俺が真似たの口癖なのだ。

 ――つまりここは俺が先に出る!

 そして、俺が邪神へと飛びかかった時。

 背後からエイドリアンの叫ぶ声が聞こえた。

「ドーマさんを!邪神に取り込まれたドーマさんを無傷で助けることができたら策はあります!!」

 俺は、その声を聞いて慌てて邪神へと斬り込むのを止めた。ドーマの身体が邪神のどの部分に取り込まれているか分からない今、胴体をぶった切るのは不味い。

 俺は、ありったけの気力を剣に送り込んで邪神の胴体を真っ二つにするつもりだったのだ。

 突如つんのめるような形になった俺の鼻先を黒き獅子の鋭い爪がかすめる。そして間一髪で邪神から飛び退いた俺はエイドリアンに聞き返す。

「でも、どうやって?」

「それはわかりません。でもドーマさんさえ救い出すことができたら、邪神を倒さなくとも再び彼女の身体へと封印することができます」

 邪神を無闇に攻撃することもできず、一体どうやってあのダークエルフを救い出せと言うのか。俺はそんなエイドリアンの作戦に、正直、笑うしかなかった。

 だが今の所、有効な方法はそれしか無さそうである。

 ならば、結局のところやるしか無いじゃないか。なんとかしてドーマをあの邪神の中から救い出すしか無いのだ。
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