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現在第二部を更新中です――以下【おまけ】番外編『千年救敗物語』(未完)
第33話 だから俺達はお前に賭けてんだろ
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「ジリ貧のくせに何を言第33話 だから俺達はお前に賭けてんだろ。」
何処からともなく聞こえる声の主に毒姫はそう悪態をついた。確かに怪人には後がない。このまま闇雲に暴れたところで、こうも血を失っては二人に討ち取られるのも時間の問題だ。しかし、何だか様子がおかしい。怪人の荒々しい動きが俄に止まった。そしてその姿を見た琉三がいぶかしげにつぶやく。
「おい。あいつ……なんか笑ってるんじゃねぇの。」
本当だ。怪人の顔つきがさっきまでと違う。怒り狂ったあの鬼の形相から、まるで憑き物が拔けたみたいに冷静さを取り戻し、そして口もとには不適な笑みを浮かべている。
「まずい!」
そう叫んだのはあの女騎士だった。実際に怪人と対峙している騎士の二人が、その変化に気づかない訳が無い。女騎士は怪人がしらふに戻ったのを悟るやいなや、すぐさまその闘い方を変化させた。
「親父《おやじ》、一気に畳み掛ける!」
「承知。」
女騎士と番頭騎士は呼吸を合わせせると、全力で怪人へと飛びかかった。これは決死の策だ。防御無視の体勢から繰り出される三本の剣が怪人へと迫る。前方からは女騎士、背後には番頭が。これならば三本の剣のうちどれか一本は怪人の身体に打ち立てることが出来る。しかしその代償として怪人の一振りが確実にどちらかの命を奪うのだ。
三人が打ち合うその瞬間。大きく土煙が舞い上がった。
――決まった。
見守るだれもががそう思ったのもつかの間。怪人は土煙と共に上空へと跳躍し窮地を脱出していたのだ。驚くべきはその跳躍力。2階建ての建物ならばゆうに飛び越えるその高さはもちろん人間の有るべき限界を超えていた。
「危うく、お前達の策にハマるところだったぞ。」
怪人は唖然と見上げる二人の騎士を見下ろし、そう言うと高らかに笑った。
「クソっ。腐っても王都の聖痕持ちか……だがな……ここにいる騎士全員を相手にできるほどその体力残ってはいまい。」
舌打ちのあと、女騎士は隣に立つ番頭騎士に合図を送る。そして辺り一帯に番頭騎士の大きな声が響き渡った。
「総員。抜剣!」
馬鹿げた高さの跳躍を終えた怪人は、重力に従い百人を超える騎士達待ち受ける着地点へと降下する。しかし、その降下のさなか、奴は俺のことを確実にその視界に捉えていた。
「見つけたぞ。」
俺は目が合ったその時、奴の口がそう動いた様な気がした。そして俺の頼もしい三人の仲間もまた、それに気がついていた。
「見つかったわね。」
「えぇ。こりゃこっちに来ますな……」
「でも、これってやばいやつなんじゃ……」
前方では怪人が着地すると同時に、再び大きな土煙が上がった。腹を揺さぶるようなドンという衝撃波。そしてそれと同時に土煙の中から何かがこちらへ向かって飛び出してくるが見えた。
ついに来た。大刀の怪人だ。
「クオン。あんたの一撃にかかってるんだからね。」
毒姫に促されるまま、俺は奴の獲物と同じ大刀を頭上に持ち上げた。
「兄貴。スキは俺達が作るから一発やっちまて下だせぇ。」
――皆んなは簡単にそう言うけど……。しかし、俺にあいつを仕留める事が出来るのか?いや、あの女騎士にすら出来なかった事が俺に出来るはずがないだろ。
「何言ってるんだ。俺はあいつみたいに一撃で大地を削ったりする力はない。だからお前達は逃げてくれよ。俺に付き合ってあんた達の命を危険に晒したくはない。」
俺は思わずそう言って頭《かぶり》を振った。皆んな俺を買いかぶり過ぎなんだよ。なんで皆んな俺をそこまで信じてくれるんだ?
でも、そんな俺の言葉なんか誰も聞いちゃいない。それどころか三人は口を揃えて言うんだ。
「自信をもちなさい。一撃の威力なら貴方も怪人に負けないわ。」
「はぁ?あんだけのことやっておいて出来ないはないだろうよ。」
「そうだ。つべこべ言わずに集中しな。あの橋の上で黒服を殺ったときみたいにやりゃいいんだよ。」
どういうことだ?俺にははこいつ達が、いったい何でここまで俺の一振りに望みをつなぐのかが理解出来ない。あんなのは素人の一発芸みたいなハッタリだ。そんなことは俺が一番わかっている。いや、たしかにあの一撃は威力があったかもしれない。しかしいくらなんでもあいつ倒すなんて……。
「あのときはただ必死に男を一人切っただけで、怪人のような威力なんて俺には無理だ。」
「はぁ?あんた自分のやったことちゃんと覚えて無いの?勢い余って馬から地面まで、でっかい傷跡を刻み込んでたでしょうに。」
「あぁ。やべぇ傷跡が地面に刻まれてたぜ。だから俺達はお前に賭けてんだろ。やっちまえよ。」
確かに、俺はあの時の事をはっきりとは覚えていない。正直必死だったし、自分の太刀筋のことなんかは二の次だった。
でももしかして、皆んなが言っていることがもし本当だったとしたら……
何処からともなく聞こえる声の主に毒姫はそう悪態をついた。確かに怪人には後がない。このまま闇雲に暴れたところで、こうも血を失っては二人に討ち取られるのも時間の問題だ。しかし、何だか様子がおかしい。怪人の荒々しい動きが俄に止まった。そしてその姿を見た琉三がいぶかしげにつぶやく。
「おい。あいつ……なんか笑ってるんじゃねぇの。」
本当だ。怪人の顔つきがさっきまでと違う。怒り狂ったあの鬼の形相から、まるで憑き物が拔けたみたいに冷静さを取り戻し、そして口もとには不適な笑みを浮かべている。
「まずい!」
そう叫んだのはあの女騎士だった。実際に怪人と対峙している騎士の二人が、その変化に気づかない訳が無い。女騎士は怪人がしらふに戻ったのを悟るやいなや、すぐさまその闘い方を変化させた。
「親父《おやじ》、一気に畳み掛ける!」
「承知。」
女騎士と番頭騎士は呼吸を合わせせると、全力で怪人へと飛びかかった。これは決死の策だ。防御無視の体勢から繰り出される三本の剣が怪人へと迫る。前方からは女騎士、背後には番頭が。これならば三本の剣のうちどれか一本は怪人の身体に打ち立てることが出来る。しかしその代償として怪人の一振りが確実にどちらかの命を奪うのだ。
三人が打ち合うその瞬間。大きく土煙が舞い上がった。
――決まった。
見守るだれもががそう思ったのもつかの間。怪人は土煙と共に上空へと跳躍し窮地を脱出していたのだ。驚くべきはその跳躍力。2階建ての建物ならばゆうに飛び越えるその高さはもちろん人間の有るべき限界を超えていた。
「危うく、お前達の策にハマるところだったぞ。」
怪人は唖然と見上げる二人の騎士を見下ろし、そう言うと高らかに笑った。
「クソっ。腐っても王都の聖痕持ちか……だがな……ここにいる騎士全員を相手にできるほどその体力残ってはいまい。」
舌打ちのあと、女騎士は隣に立つ番頭騎士に合図を送る。そして辺り一帯に番頭騎士の大きな声が響き渡った。
「総員。抜剣!」
馬鹿げた高さの跳躍を終えた怪人は、重力に従い百人を超える騎士達待ち受ける着地点へと降下する。しかし、その降下のさなか、奴は俺のことを確実にその視界に捉えていた。
「見つけたぞ。」
俺は目が合ったその時、奴の口がそう動いた様な気がした。そして俺の頼もしい三人の仲間もまた、それに気がついていた。
「見つかったわね。」
「えぇ。こりゃこっちに来ますな……」
「でも、これってやばいやつなんじゃ……」
前方では怪人が着地すると同時に、再び大きな土煙が上がった。腹を揺さぶるようなドンという衝撃波。そしてそれと同時に土煙の中から何かがこちらへ向かって飛び出してくるが見えた。
ついに来た。大刀の怪人だ。
「クオン。あんたの一撃にかかってるんだからね。」
毒姫に促されるまま、俺は奴の獲物と同じ大刀を頭上に持ち上げた。
「兄貴。スキは俺達が作るから一発やっちまて下だせぇ。」
――皆んなは簡単にそう言うけど……。しかし、俺にあいつを仕留める事が出来るのか?いや、あの女騎士にすら出来なかった事が俺に出来るはずがないだろ。
「何言ってるんだ。俺はあいつみたいに一撃で大地を削ったりする力はない。だからお前達は逃げてくれよ。俺に付き合ってあんた達の命を危険に晒したくはない。」
俺は思わずそう言って頭《かぶり》を振った。皆んな俺を買いかぶり過ぎなんだよ。なんで皆んな俺をそこまで信じてくれるんだ?
でも、そんな俺の言葉なんか誰も聞いちゃいない。それどころか三人は口を揃えて言うんだ。
「自信をもちなさい。一撃の威力なら貴方も怪人に負けないわ。」
「はぁ?あんだけのことやっておいて出来ないはないだろうよ。」
「そうだ。つべこべ言わずに集中しな。あの橋の上で黒服を殺ったときみたいにやりゃいいんだよ。」
どういうことだ?俺にははこいつ達が、いったい何でここまで俺の一振りに望みをつなぐのかが理解出来ない。あんなのは素人の一発芸みたいなハッタリだ。そんなことは俺が一番わかっている。いや、たしかにあの一撃は威力があったかもしれない。しかしいくらなんでもあいつ倒すなんて……。
「あのときはただ必死に男を一人切っただけで、怪人のような威力なんて俺には無理だ。」
「はぁ?あんた自分のやったことちゃんと覚えて無いの?勢い余って馬から地面まで、でっかい傷跡を刻み込んでたでしょうに。」
「あぁ。やべぇ傷跡が地面に刻まれてたぜ。だから俺達はお前に賭けてんだろ。やっちまえよ。」
確かに、俺はあの時の事をはっきりとは覚えていない。正直必死だったし、自分の太刀筋のことなんかは二の次だった。
でももしかして、皆んなが言っていることがもし本当だったとしたら……
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