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最終話 燃やせ!シヴァの化身!
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俺達はオモイカネデバイスの神託に従い、北へ北へ…約束の地メギドを目指していた。メギドは遠く人間の足を使った旅は厳しかった。
神託が下ってから三ヶ月程歩き通しようやくメギド国に到着した。
「やっとだ。ようやっとメギドに到着した。本当にメギド国ってあったんだな。段々エリーの与太話に思えてきて辛かったよ。三ヶ月だもんなぁ。修行と同じくらい時間が掛かるとは…。」
「慎吾、リズ、レンコ。本当に手間を掛けさせたわね。私達の冒険ももうすぐ終わる。この国に居るはずの私の兄さん…セルビアを探して事情を聞けば全部終わりよ。後もう少しだけ頑張って頂戴。」
「了解。ボク達にもう一回事のあらましを教えてくれないか?」
「良いでしょう。以前メギド国に家族で住んでいたんだけど、ある日突然お母様とお父様がバラバラ殺人で殺されていたの。そして兄さんが消えた。一日で私は家族全員を失ったわ。殺人犯は分からずじまい。私は唯一の手掛かりである兄さんを探す事にしたの。そしてその口から何が出てくるかは私にも分からない。でも犯人も分からない状態でも兄さんは最後の一欠片を握っているって信じているわ。これが私が兄さんを探している理由。」
「なる程ね。あたし達には普段見せない並々ならぬ理由が有るわけだ。兄さんが犯人を知っていればベストだけど最悪の結果は兄さんが犯人って線もあるけどその時はどうするわけ?」
「その時は…その時は私が兄さんを裁く。司法にも貴方達にも裁かせない。私が裁く。それだけよ。そうならない様に祈っているわ。だから兄さんに会うのが少し怖いの。会えば殺さなくてはならないかも知れないから。」
「兄さんが犯人でも殺さずに捕まえて衛兵に突き出す事も出きるんじゃないかい?」
「それはダメ。お父様とお母様の痛みを私が与えるの。衛兵に引き渡して犯人として死刑になるくらいでは足りない…。私の全力の魔法とアーティファクトで裁く。全てを出しきる。」
「意思は固いようね。…あたし達は仲間としてバックアップに徹しましょう。これがエリーの最後の冒険になるわ。」
「「了解!」」
俺達はメギド国で宿屋も取らずに四手に別れてセルビアを探し始めた。
道端 青年
「セルビア?そいつなら酒場に良く出入りしているぞ。そこで見かける。依頼をこなしているみたいだな。何でも凄く腕が立つらしい。」
酒場にて マスター
「セルビアかい?良く家の酒場に来るな。と言っても酒を呑みに来る訳じゃないんだ。主に依頼を確認しに来る。聞いてくれよ。この間から最高峰も最高峰の依頼に掛かりっきりでな。この国の北にある魔王城に乗り込んで魔王を討伐する依頼を受けているんだ。成功報酬五十万ゴールドだぜ。ん?魔王討伐に参加したいのか?それは可能だが…生きて帰ってこれるかは保証しないぜ。」
「…というのが手分けして分かった情報かな?エリー、リズ、レンコ。他には無いか?」
「有力な情報はこんなところだろうね。まさか単独で魔王討伐に出掛けるとは意外だったよ。自棄を起こしているのかな?」
「きっと兄さんのやる事には意味があるはずよ。魔王討伐…恐らく最初で最後。次が私達の最後の闘いになるわ。魔王は死んでいるかもしれないし、兄さんが殺されているかもしれない。どちらにせよ闘う覚悟を決めて頂戴。」
「了解。ボクの幻想顕現を振るうのも最後になるだろう。最高の本霊に迫る顕現を魅せてやる。」
「俺はいつも通り木の棒で暴れまわるだけだ。魔王相手でもそれは変わらない。殴って気絶させる!俺に出来るのはそこまでだ。後は頼んだぞ。さあ魔王討伐に行くとするか。」
俺達は酒場に依頼を受けに行った。
「で、旦那達が魔王討伐に?その背中に背負っている木の棒で倒せるのか?笑わせてくれるぜ。まあ魔王出現はこの国に取って青天の霹靂と言っても良い。どんな冒険者であれ討伐に参加させるのが家の仕事だが…木の棒背負った旦那にロクな武装もしてないお嬢さん達じゃなあ…。まあ一応オーケーは出してやる。死にそうになったら走って逃げ帰れよ。魔王城は北の街道を三日進んだ当たりにある。禍々しい建物だから一目見れば分かるはずだ。並大抵のパーティなら最奥に到達する前に魔王城のモンスターのエサになるだろう。報酬は五十万ゴールド。俺からはこんなところだ。」
「その依頼受けたぜ。俺の木の棒はただの木の棒じゃないんだ。エクスリボルグと言って折れる事も曲がる事も無い。叩けば誰でも気絶させてしまうという魔法の木の棒さ。だから魔王も大丈夫!大船に乗ったつもりで待っていてくれ!」
「ブフォブハハハハ!旦那!あんたお笑い芸人かい?魔法の木の棒!?叩けば気絶させる?もうちょっと信憑性のある嘘をつくんだな。まあ良いさ。魔王討伐に頑張って行ってくれ。帰ってきたらまたネタを披露してくれよ。」
「ボソボソ…クソ…こっちはギャグじゃないってのに。オホン!分かった。魔王討伐の知らせを持って帰れるように尽力する。さらばだ。マスター。」
「ちょっとちょっと!言われっぱなしで良いの?私達まで馬鹿にされたのよ!」
「そうは言ってもなぁ。確かに木の棒を背負っているし、皆パッと見は丸腰だしな。嘗められても仕方無いだろう。ガマンだガマン。」
「偉いぞ。慎吾。ボクの幻想顕現は滅多に見せるべき物ではない。ここで意地を張る為に披露する訳にもいかないしね。ここは聞き流して耐えよう。」
「あたしはもうこういう風評は何とも思わなくなってきたよ。三千年も生きると魔女だの悪魔だの色々な難癖をつけられるからね。ちょっとやそっとの事じゃ驚かなくなる。まあ良いんじゃない。所詮酒場のマスター。好きに言わせておこうよ。さあ魔王討伐に行くぞ!」
「「「了解!」」」
俺達はメギド国を出て北の街道…カイエン街道を進んでいた。魔王城の近くと言うこともあり結構強力なモンスターも多数出没したが、エリーとリズの敵では無かった。無数の魔法とアーティファクト、幻想顕現で見事に敵を片付けていく。
そして魔王城に到着した。真っ黒な禍々しい建物だ。魔界のゲートから出現してここにある日突然立ったらしい。入口の巨大な扉を開く。
突如中からドラゴンが飛び出してきた。体長十メートル程だ。距離は五メートルに満たない。
ドラゴンは鉄をも溶かす高熱の火炎放射を放ってきた。
すかさずリズの幻想顕現!
「幻想顕現!真理!アイアス!アイギス!」
俺達四人に透明な盾が与えられる。その盾は火炎放射を防ぎきるもまだ存在していた。真理…本霊を降ろしているのだ。だが本霊を無理矢理使役するため癒えないダメージがリズに溜まっていく。
エリーが攻撃に入った。
「魔力全開!神話展開!ゼオンボルグ投擲!ヴァジュラ投擲!」
エリーの増強された全魔力を投入したアーティファクトが放たれる。
ヴァジュラがドラゴンの胴に突き刺さると全身を雷撃で焼いた。動きが鈍るドラゴン。その頭部にゼオンボルグがスッと突き刺さった。大量の出血をするドラゴン。そしてゼオンボルグは究極の霊爆を引き起こした。ドラゴンの脳味噌はグチャグチャにシェイクされた。まだ生きておりヨタヨタしている。エリーもリズも全力を出しきった。今度は俺の番だ。
俺はドラゴンに走り寄ると足元で全力の袈裟斬りを連続で何回も叩き込んだ。百回程神速で叩き込んだ時グラりとドラゴンの身体が傾き気絶させた。これで俺の仕事は終わりだ。
「レンコ!止めお願いするぜ!」
「了解!ハァッ!ブラフマーストラ!」
雷の神球が神速で放たれる。それはドラゴンを貫き呑みほした。完全にドラゴンは蒸発していた。
「ボクもまだまだだな。防御の幻想顕現で全力を使い果たすとは…」
「真理が使えるとしても天理の領域に押さえて置く事も大切かもしれないわね。と言っても闘いはもう少し。出し惜しみをしている余裕は無いかもしれないわ。」
「俺はフルスロットルで行く。ここまで鍛えたのに後少ししか闘えないなんて無念だな。」
「闘わない事が普通なのさ。慎吾。闘わなくて良いことは喜ぶべき事だとあたしは思うな。」
「それもそうか…武術は武術として打ち込んでいるだけが一番幸せかもしれない。さあ先に進もう!」
俺達は入口に改めて入った。入口にはドラゴンに殺されたと思われるパーティの死体が山になっていた。軽く三十人は殺されている。
「クソ…人間をゴミの様に殺しやがって…あのドラゴンめ!」
「落ち着いて慎吾。かなりのパーティがこの魔王城には押し寄せた様ね。それでもまだ魔王の結界たる魔王城が残っていると言うことは魔王は平然としていると言うことよ。気を引き締めて行きましょう。まだ魔王は生きているわ。」
「魔王には死んでもらっては困るんだよね。真理の力を試す良い実験体なんだもの。最後の闘いだ。脆いオモチャじゃ困る。」
「魔王と闘った事はあたしもないんだ。全員無事で帰れるかは保証できない。その上実力が未知数のセルビアが居る。ボソボソ…あたしはセルビアを警戒しているよ。分かりやすい魔王よりもね。」
俺達は二階に上がっていった。二階の入り込んだ通路を進んでいくと広間に出た。そこには巨大な首無しの騎兵が居た。体長は三メートル程だが禍々しい波動を放っている。
距離は三十メートル程。俺が縮地で距離を縮めてエクスリボルグで仕掛けるが騎兵には一切の動揺が無い。俺は馬に向かって袈裟斬りを叩き込んだ。馬は即座に倒れる。騎兵は倒れる馬から飛び去ると自分で地面に立って此方に突っ込んできた。バカデカい長剣をこちらに向かって振り回してくる。何度かエクスリボルグで受けて後ろに退く。
こいつかなり出来るな。長剣の打ち込みは攻防一体となっており、此方が打ち込む余裕がない。一か八かだ。俺は騎兵の腹に思い切り蹴りを叩き込んだ。後ろに吹っ飛ぶ騎兵。その先に縮地で詰めより倒れている騎兵に全力で袈裟斬りを叩き込む。騎兵はブルブルと震えてやがて動かなくなった。気絶したか。
事を終えた俺は皆に声を掛ける。
「おーい。気絶させたぞ。誰か止め頼む!」
「君達じゃ消耗する。あたしが行くよ。錬成!無銘弓!魔力を矢に限界までチャージ!無銘神射!」
ひたすら魔力を込められた矢が騎兵に向かって放たれた。騎兵の身体に突き刺さり爆発しそうになる。
俺は急いで縮地を使って脱出した。と同時に究極の霊爆が発生した。
これで二階を守る番人もいなくなった。闘っている時は気が付かなかったが、破れたパーティの死体がそこら中に落ちていた。俺達もああなってもおかしくない。
死体を横目に部屋を進んでいく。奥には三階への階段があった。
階段を登る。瘴気が濃くなった気がする。息が苦しい…。
三階に上がって直ぐに弓で狙撃された。先頭の俺が受けてしまい右腕が千切れ飛んだ。
「グハァいてえ…クソいてぇよ。」
「幻想顕現!天理!エクスカリバーの鞘!さあ慎吾!これを腕に当てて!再生するはずだ。」
「ハァハァ。分かった。この三階で止まるな。皆別れて走れ。なるべくジグザグにだ。さあ行け!」
俺達は俺の指示通り、四人に別れて走り始めた。それも時折ジグザグにだ。矢は何処からか定期的に射られてくる。この階は広い部屋が多い。何処からか壁の上に上がってそこから狙撃しているのだろうか?
「レンコ!何処から狙撃しているか分からないか?」
「勘だけど一番奥の階段がある部屋の壁の上からだね。そこから精度はそこそこだけど休ませないように断続的に弓矢を放ってきているよ。走り抜けるよ!慎吾!休まない!」
「了解!」
俺達は奥の部屋を目指してひたすら走った。部屋の配置は迷宮の様になっており、行き止まりに当たる事も多かったが、すぐさま転進し当たりを求めて走り続けた。
全力で走ってもうどんだけになる?時計をチラリと見る。一時間か。ハァハァ…まだ到着しないのか?
「慎吾。大丈夫?とんでもない顔色しているけど。私の魔法で回復する?ハァハァ。」
「エクスカリバーの鞘が御入り用かい?天理なら何本でも出して上げられるよ。まあ治癒速度は変わらないけどね。ハァハァ。」
「大丈夫だ。いつこの迷宮を抜け出せるのかと思ってね。」
「あたしの方でオモイカネデバイスで出口をシミュレートさせていたんだけど…この先が出口っぽいよ。安心して。」
「そうか。ようやく弓を撃っている奴と御対面か…これだけ走らせやがって絶対に許せねぇ。」
俺達は今いる部屋を抜けた。するとそこには階段と壁の上に弓矢を構えているケンタウルスの姿があった。
俺は皆に確認を取らずに即座に縮地するとケンタウルスの真後ろに着地した。そして頭に何度もエクスリボルグを叩き込んだ。一撃で気絶していたが…怒りのままに百発程神速で叩き込んだ。
落ち着いて見てみると俺はケンタウルスの返り血を浴びて血塗れになっていた。
ケンタウルスの頭はパッカりと割れていて脳が飛び出していた。そしてその脳もグチャグチャになっている。
まさかエクスリボルグで生き物を殺す事になるとは思わなかった。大木を打つ訓練をする事で木の棒で怪物を殺せる並外れた筋力を手にいれたと言う事か。
喜んで良いのかどうかは分からないが、汚い仕事をエリー達に任せて不殺を気取るよりは自分で倒せる時は倒してしまうべきだろう。そう感じる。まあ今は魔王城。細かい事を気にしている場合じゃない。
皆になんて伝えるかな。と考えていると声を掛けられた。
「慎吾?ケンタウルスは気絶させたの?止めは居るかしら?」
「いや…何と言うか。殴りすぎて死んでいる。止めは要らないよ。」
「えっ…エクスリボルグで殺したってどんだけ殴ればそうなるのよ。私ちょっと引いたわ。」
「ハハハ…エクスリボルグって普通の状態で生き物殺せるんだね。必殺技とかじゃなく…だよね。ボクも驚いたよ。」
「まあ大木打ち自体を極めると木刀で狙わずに殺傷出来るくらいの腕前になるのは知っていたけれどね。流石にあたしも実物を見るとは思わなかったよ。まあ今は驚いている時間が惜しい。先に進むよ。」
俺達は四階に進んだ。そこには大きな広間があり、甲冑を着こんだ巨人が待っていた。体長は五メートル程で巨人にしてはそこまで大きくないが異様なまでの圧迫感がある。巨人は身の丈を超す長刀を背中に背負っていた。只者じゃないな。
こちらに気付くと長刀を抜き構えに入った。とはいえまだ三十メートル程差がある一気に詰められる程では…縮地?巨人の姿が一瞬消えた。そして巨人の長刀のリーチに収まっているのを確認する前に身体が横にずれた。俺達は…エリーとリズと俺は一瞬で巨人の長刀でなます切りにされた。上半身が下半身からずり落ちる。痛みも感じない。もう死んでいる。魂が身体から抜けてしまっている。
俺は上空から今の状況を俯瞰していた。まだレンコが無傷で残っているようだ。
「天理!五重結界!…他の子は間に合わないか。あーあ。全員即死しているよ。やってくれるじゃないの。死者蘇生って大変なんだよ。後で神様に謝ったりしないといけないしさ。面倒極まり無いから…まずお前を殺す所から始めよう。行くよ。」
レンコは即座に縮地した。そして巨人の顔の前に転移するそして目にも止まらぬ拳撃と技の連撃を叩き込んだ。
無銘百連拳!天翔百連拳!無銘千手拳!双竜覇閃撃!梵天覇閃光!ブラフマーストラ!オーバーキル…億劫蓬莱神獄掌!
技の奔流に耐えきれずに巨人の身体は爆砕した。もう一欠片も残っていない。億劫蓬莱神獄掌で魂まで焼かれたのだ。
「よし!考えていても仕方無い。八雲全一流秘奥…死活反魂掌!全員甦れ!ハァッハァ!」
光の膜が魔王城を包み込む。そしてエリー達の身体は完治し、その中に魂が入っていく。
「あ…れ…確かに私死んでた筈なのに。セルビアに会えずに死んだ筈なのに何で生きているの?」
エリーは感極まり涙をポツポツと溢している。
「ボクの幻想顕現も間に合わずに全員死んだ筈だ。何故生きているんだ…レンコ…君だけが立ち上がっているのを見た。君の力なのか?」
「そうだよ。でも何回も死者蘇生すると神罰が本当に下るから何度も死ねると思わない事。ハイハイ。今は緊急事態でしょ。蘇生した事ぐらいで騒がない。魔王の広間は次の階だよ。そこでセルビアに会えなかったら何処かで死んでいるって事だよ。覚悟を決めて次に進みもう。ほらっ!慎吾も呆けてないで立った立った!」
「あ…ああ。助かったんだな。もう死んだ気分で居たから気が抜けてしまっていたんだ。よし!もう大丈夫。魔王とセルビアに会いに行こう。最後の階に二人とも居る…そんな気がするよ。」
俺達は最後の階段を登った。それは長い長い螺旋階段だった。最初は静かだったが上に進むに連れて爆音が鳴り響いてくる。その音は魔王城を震わせていた。
上で間違いなく何かが闘っている。俺達は先を急いだ。緊張感からか誰も口を開こうとはしなかった。
そして爆音と震動に何度も足を止めながらようやく魔王の間に到着した。中に足を踏み入れると轟音と共に何かが飛んできた。千切れた上半身…人間の男だ。即死している。金髪碧眼の男…何処かエリーに似ている。
「兄さん!兄さんじゃない。そんな死んでいるなんて!よくも貴様兄さんを殺したな!魔王!」
エリーが凄む向こう…五十メートル先に黒いマントに身を包む白髪に赤目の男が居た。奴が魔王?
「吠えるな。小娘。その男には死など生ぬるい。シヴァを降神憑依しているのだ。神の肉体は不滅だ。何度でも甦るだろう。魔王とは言え俺はいずれ死ぬ。その男は死に場所を求めてやって来たようだが、所詮俺も定命。不死を殺す術など無いのだ。さあその男が伸びている間くらいは楽しませてくれよ。ムシケラども。」
魔王はそう言うと高速で魔法を連発してきた。
「暗落撃!闇夜斬!空域抹殺!真似事だがな!梵天破壊閃!ブラフマーストラ!魔王究極十字閃斬!」
万能属性…最強の神代に近い魔法だ。リズの幻想顕現に掛かっている。
「ハァッ!幻想顕現!真理!アイギス!アイアス!アキレウスの鎧!」
透明の盾と鎧が俺達に与えられる。リズは真理召喚の衝撃で気絶した。これ以上は頼れない。
魔法が幻想顕現とほぼ同時に着弾した。ダメージではないが全身を熱風が駆け抜けた。流石本物のアーティファクトなだけある…?
ピキピキパキメキャバギャ…
神話領域の本物のアーティファクトが砕け散った。
これが魔王の力か…短時間でシヴァの化身であるセルビアの技巧も盗んでいる。とんでもない化物だ。
「それでも止まる訳に行かねえ!これが最後なんだ!行くぞ!魔王!」
「木の棒ごときで何が出来る!愚かな人間よ。魔法すら勿体ないが…近寄らせて下らない攻撃を受けても困る。遠距離で死ね。暗黒波動砲!」
極大の暗黒魔砲が魔王の前に現れた。俺を完全にロックしている…が。と言う事は俺に注意を反らされていると言う事だ。エリー、レンコ…後は任せた。行くぞ!
魔砲が放たれる瞬間…俺は縮地をして魔王の眼前に躍り出ようとした。
そこに支援攻撃が入った。
「全部出しきるわ。魔砲は撃たせない。撃たせる前に殺してやる。私の全て…ここで燃やす!ヴァジュラ連携ゼオンボルグ!全魔力チャージ!発射!」
ヴァジュラとゼオンボルグが神速で射出される。魔力を全て貫通力に回した必殺の一撃。
それは魔王の右腕と腹を穿った。右腕破砕。腹部極大の貫通傷。
魔王は衝撃で片膝を着いた。崩れた今がチャンス。殺しきるのよ。私。兄さんを何回も殺したな。こいつが憎い…この憎しみは天を駆け奴を穿つ。
「生命力を魔力転換!魔力上限夢幻に置換!禁呪!夢幻詠唱!起源!コズミックビッグバン!全て消え去れ!行け!根源の力の渦よ!全ての始まりの渦!我が仇敵を葬りされ!」
夢幻に広がる創世の力の渦が…暖かくも凍りつく原初の力…そのものが慎吾とリズ、レンコも巻き込んで魔王を叩き潰した。彼らには暖かい温もりを魔王には壮絶なる死を与えた。
俺が魔王の目の前に出た時、奴は死んでいる様に見えたが…奴の骸の側に暗黒のゲートが渦巻き始めていた。そこからヌラリと姿を現す新たな魔王。その姿は金髪赤眼の怪しい笑みを浮かべた少女の姿だった。
「あーあ。前の素体は潰れちゃった。限りがあるとは言え私は限りなく不死に近いのだよ。下等なムシケラ諸君。不死そのものを無効にする概念特効兵器でも持ってきたまえ。ハハハハハハ。」
「私の生命力を全て燃やした。もう私は燃え尽きた真っ白な灰の様な物。慎吾、レンコ、リズ…後は頼んだわ。兄さんの事も…。」
そう言うとエリーはガクッと糸が切れた操り人形の様に崩れ去った。終わった。本当に取り返しのつかない死を迎えたのだ。
「慎吾!アイリスに語り掛けろ!エクスリボルグの真の力を解放しろ!あたしと連携だ!やるぞ!エリーの死を無駄にするな!」
「了解!」
(女神アイリス様…エクスリボルグの真の力…億劫蓬莱神獄剣を解放してください。天界の敵…魔王と闘っています。)
(慎吾…慎吾よ。一つ条件があります。貴方を現人神として昇神させなさい。そうすれば何時でも対星必殺奥義を開帳しましょう。)
(少し待ってください。アイリス様。)
「レンコ!条件がある。現人神になれと言われた。受けても良いのか?」
「糞!ここであたし以外全員死ぬかどうかの二択になるな。…慎吾。あたしと一緒に無限の時間を歩めるか。」
「それで皆が助かるなら…そもそも死後の世界みたいなもんだしな。」
「よし!条件を受けろ。もうなんでも良い!受け入れろ。」
(アイリス様。現人神になります。無限の時を歩む覚悟が出来ました。)
(無限では呪いと言うのです。取り敢えず三百年位勤め上げなさい。それではここに契約を…人の世を護る現人神としてそなたを迎えよう。慎吾よ。誓いなさい。)
(はい。人の世を護る現人神になりましょう。誓いをここに。)
(確かにその覚悟受け入れました。対星必殺奥義を常時解放します。エクスリボルグよ。新たなる道を開きなさい。)
エクスリボルグが虹色の光に包まれた。そしてまたいつもの木の棒に戻る。
「レンコ!何時でも行けるぞ。」
「慎吾!今すぐ魔王に突貫しろ。時間を与えすぎたぞ!」
「ハハハ。武器の準備は出来たかい?それではこちらもそろそろ上げて行こうか!暗黒破壊…「させるか!対不死特効奥義!億劫蓬莱神獄掌!」
螺旋を描いた魔力がレンコの腕を巡り神速で魔王に叩き込まれる。魔王の顔面が破裂した。飛び散る脳漿。そして不定形の何かが魔王の傷口から這い出る。そして暗黒のゲートを開き中に入ろうとするが…
そこを俺がエクスリボルグの億劫蓬莱神獄剣で叩き潰した。
潰したコア?と思われるヌメヌメした物が語り掛けてきた。
「ガハッコアを見破るなんてね。人間如きに殺されるなんてなぁ…ハハハ。今は完全に消滅してやろう。でもな魔界のゲートが開いている限りこんなものはいたちごっこだ。いくらでも私の替玉は現れるぞ!クククハハハ。ゲートを開いた神を恨むが良い。サラバだ。ゴハァ。」
コアは完全に死んだようだ。
レンコは呆れたように口を開く。
「死ぬ間際までペラペラうるさい魔王だったな。先史文明から生きてればゲートの事ぐらい知ってるっての。魔王は片付いたね。後はリズとエリーか…。」
そう言ってエリーの元に駆け寄った。
「慎吾。エリーはもう駄目だ。魔王を殺す為に放った一撃で残りの生命力を全部使いきっている。神霊級の生命力を犠牲にしないと蘇生は無理だ。もう天界に送られているかもしれないね。」
「クソ!もう少し早く俺が攻撃を決めていれば!」
リズが気を取り戻したようだ。俺達に近寄ってくる。
「どうしたの?そんな真剣な顔してさ。ボクぼんやり見ていたけど魔王は死んだんだろう?」
「リズ。エリーが死んだ。レンコの力を使っても蘇生できないんだ。彼女はもう帰ってこない。俺達のパーティリーダーが死んだんだ。」
「嘘だろ。さっきまであんなに元気だったのに。どうして死んだんだよ?魔王に殺られたのか?」
「リズ。あたしの力不足だ。エリーの無茶苦茶な生命力を賭けた大魔法を見ているだけで止めることが出来なかった。」
「そんな!あんたは無敵の全てを見た人なんだろ?エリーを復活させてくれよ。さっき皆を蘇生したみたいに!」
「無理なんだ。あたしは無力だな。エリーにも君にも何もしてやれない。所詮人の身。神霊の生命力があればそれを燃やして彼女を助けて上げられるんだけど…。」
セルビアが初めて口を開いた。蘇生していたのか。
「俺の無限と化した神性の生命力を燃やせばエリーを助けられるんだな。俺はこの身体にシヴァを降神憑依している。蝕み尽くされて人間で居られる時間も少なくなっている。この子は何故ここにいる?俺の記憶も斑に薄れてきている。何が理由か思い出せない。」
俺が答える。
「セルビア。二年前にあんたの両親が死んだ事だ。その真相を聞くためにあんたを追いかけていたんだ。俺達が聞くのが正しいとは思わないが教えてくれないか?」
「そうか。その事をずっと気にしてその為に生きてきたんだな。俺の知っている限りを教えよう。」
俺は絵を極める為に…神を降ろして絵を描く事を二年前に思い付いた。
そして先史文明の資料を調べて美の神としても崇められていたシヴァを降ろす事にした。
そこから記憶が途切れているが…気が付いたら俺は両親の腸の海の中で笑いながら意味不明な祝詞を唱えていた。
恐らく俺が殺したのだろう。何故エリーを殺さなかったのか自分でも分からない。
その後自分が怖くなった俺は別の町へ旅に出た。そして様々な依頼を受けている内に自分が不死になっており、破壊衝動…シヴァの神性に徐々に呑まれつつある事に気付いた。そして最後を迎える場所としてまたメギド国に戻ってきた。死に場所として魔王討伐の依頼を受けたのだが、シヴァの不死性が最早剥離出来ない程強固になっていて死ねない事に絶望していたんだ。その俺の神性を燃やし尽くす事でエリーが助かるなら…
「セルビア…あんたの事は良く分かった。あんたの命をエリーの為に頂く。レンコ…頼んだ。」
「了解。痛みは無いけど…セルビア…君はシヴァと同化し過ぎている。死後の世界を飛ばして即座に転生する事になる。だから天界でエリーに出会う事も出来ない。それでも良いのか?」
「これ以上は身体の中のシヴァを押さえきれない。俺が俺でいる内に死にたい。頼む。」
「分かった。行くよ!神法!無神転生!シヴァの霊核を燃やし尽くす!天界から警告?知るか!人の生き死にが掛かっているんだ!燃え尽きろ!シヴァ!天界に帰る時だ!」
セルビアは目映い光に包まれると光体になり、エリーの中に入っていった。そしてエリーの体が明るい光に包まれゆっくりと立ち上がった。
「慎吾、リズ、レンコ。終わったのね。兄さんが語っていた事を天界から聞いていたわ。兄さんも苦しんでいたのね。不思議と恨みは無いわ。全てが終わったという解放感だけ。私の家に帰る。二年ぶりだけど…もう誰も出迎えてくれないけど…帰るわ。」
「エリー。蘇ったんだね。良かった。もう会えないかと思ったよ。ボクは…ボクは…ぐすぐす。」
「エリー。お帰り。そしてサヨナラかな。俺の役目も終わった。これからは現人神として人とは違う時間を歩む事になった。」
「慎吾…魔王を討つために無茶をしたのね。ありがとう。ここまで着いてきてくれて。さようなら。ちょっと好きだったわよ。」
「はっ?慎吾?現人神って何だよそれ。神様になっちゃったの?それで全てを見た人みたいに何千年もさ迷うのかい?」
「三百年って言われている。俺はレンコと旅を続けるよ。リズ…君ともここでお別れだ。君達とは生きていく時間が違う。」
「本気なんだな。慎吾。良いよ。ボクが居なくてもやっていけるんだろう。もう無かったは無しだからな!」
「ああ…イシュタルの町まで送って行く位は一緒でも良いけどどうする?」
「エリー。君の家にしばらく泊まらせて貰って良いかい?」
「ええ。喜んで。いつまで居ても良いわよ。」
「と言う事であの狭苦しい町まで戻らなくても良くなった。さあ!慎吾とレンコは行った行った。」
「短い間だったが楽しかったぞ。人の子よ。またいつか星の巡りが重なれば出会う事もあるだろう。行くぞ!慎吾!さらばだ!」
こうしてエリーと俺達の旅は終演を迎えた。
これからはレンコと夢幻の旅に出る事になる。
まだ旅は続く。
神託が下ってから三ヶ月程歩き通しようやくメギド国に到着した。
「やっとだ。ようやっとメギドに到着した。本当にメギド国ってあったんだな。段々エリーの与太話に思えてきて辛かったよ。三ヶ月だもんなぁ。修行と同じくらい時間が掛かるとは…。」
「慎吾、リズ、レンコ。本当に手間を掛けさせたわね。私達の冒険ももうすぐ終わる。この国に居るはずの私の兄さん…セルビアを探して事情を聞けば全部終わりよ。後もう少しだけ頑張って頂戴。」
「了解。ボク達にもう一回事のあらましを教えてくれないか?」
「良いでしょう。以前メギド国に家族で住んでいたんだけど、ある日突然お母様とお父様がバラバラ殺人で殺されていたの。そして兄さんが消えた。一日で私は家族全員を失ったわ。殺人犯は分からずじまい。私は唯一の手掛かりである兄さんを探す事にしたの。そしてその口から何が出てくるかは私にも分からない。でも犯人も分からない状態でも兄さんは最後の一欠片を握っているって信じているわ。これが私が兄さんを探している理由。」
「なる程ね。あたし達には普段見せない並々ならぬ理由が有るわけだ。兄さんが犯人を知っていればベストだけど最悪の結果は兄さんが犯人って線もあるけどその時はどうするわけ?」
「その時は…その時は私が兄さんを裁く。司法にも貴方達にも裁かせない。私が裁く。それだけよ。そうならない様に祈っているわ。だから兄さんに会うのが少し怖いの。会えば殺さなくてはならないかも知れないから。」
「兄さんが犯人でも殺さずに捕まえて衛兵に突き出す事も出きるんじゃないかい?」
「それはダメ。お父様とお母様の痛みを私が与えるの。衛兵に引き渡して犯人として死刑になるくらいでは足りない…。私の全力の魔法とアーティファクトで裁く。全てを出しきる。」
「意思は固いようね。…あたし達は仲間としてバックアップに徹しましょう。これがエリーの最後の冒険になるわ。」
「「了解!」」
俺達はメギド国で宿屋も取らずに四手に別れてセルビアを探し始めた。
道端 青年
「セルビア?そいつなら酒場に良く出入りしているぞ。そこで見かける。依頼をこなしているみたいだな。何でも凄く腕が立つらしい。」
酒場にて マスター
「セルビアかい?良く家の酒場に来るな。と言っても酒を呑みに来る訳じゃないんだ。主に依頼を確認しに来る。聞いてくれよ。この間から最高峰も最高峰の依頼に掛かりっきりでな。この国の北にある魔王城に乗り込んで魔王を討伐する依頼を受けているんだ。成功報酬五十万ゴールドだぜ。ん?魔王討伐に参加したいのか?それは可能だが…生きて帰ってこれるかは保証しないぜ。」
「…というのが手分けして分かった情報かな?エリー、リズ、レンコ。他には無いか?」
「有力な情報はこんなところだろうね。まさか単独で魔王討伐に出掛けるとは意外だったよ。自棄を起こしているのかな?」
「きっと兄さんのやる事には意味があるはずよ。魔王討伐…恐らく最初で最後。次が私達の最後の闘いになるわ。魔王は死んでいるかもしれないし、兄さんが殺されているかもしれない。どちらにせよ闘う覚悟を決めて頂戴。」
「了解。ボクの幻想顕現を振るうのも最後になるだろう。最高の本霊に迫る顕現を魅せてやる。」
「俺はいつも通り木の棒で暴れまわるだけだ。魔王相手でもそれは変わらない。殴って気絶させる!俺に出来るのはそこまでだ。後は頼んだぞ。さあ魔王討伐に行くとするか。」
俺達は酒場に依頼を受けに行った。
「で、旦那達が魔王討伐に?その背中に背負っている木の棒で倒せるのか?笑わせてくれるぜ。まあ魔王出現はこの国に取って青天の霹靂と言っても良い。どんな冒険者であれ討伐に参加させるのが家の仕事だが…木の棒背負った旦那にロクな武装もしてないお嬢さん達じゃなあ…。まあ一応オーケーは出してやる。死にそうになったら走って逃げ帰れよ。魔王城は北の街道を三日進んだ当たりにある。禍々しい建物だから一目見れば分かるはずだ。並大抵のパーティなら最奥に到達する前に魔王城のモンスターのエサになるだろう。報酬は五十万ゴールド。俺からはこんなところだ。」
「その依頼受けたぜ。俺の木の棒はただの木の棒じゃないんだ。エクスリボルグと言って折れる事も曲がる事も無い。叩けば誰でも気絶させてしまうという魔法の木の棒さ。だから魔王も大丈夫!大船に乗ったつもりで待っていてくれ!」
「ブフォブハハハハ!旦那!あんたお笑い芸人かい?魔法の木の棒!?叩けば気絶させる?もうちょっと信憑性のある嘘をつくんだな。まあ良いさ。魔王討伐に頑張って行ってくれ。帰ってきたらまたネタを披露してくれよ。」
「ボソボソ…クソ…こっちはギャグじゃないってのに。オホン!分かった。魔王討伐の知らせを持って帰れるように尽力する。さらばだ。マスター。」
「ちょっとちょっと!言われっぱなしで良いの?私達まで馬鹿にされたのよ!」
「そうは言ってもなぁ。確かに木の棒を背負っているし、皆パッと見は丸腰だしな。嘗められても仕方無いだろう。ガマンだガマン。」
「偉いぞ。慎吾。ボクの幻想顕現は滅多に見せるべき物ではない。ここで意地を張る為に披露する訳にもいかないしね。ここは聞き流して耐えよう。」
「あたしはもうこういう風評は何とも思わなくなってきたよ。三千年も生きると魔女だの悪魔だの色々な難癖をつけられるからね。ちょっとやそっとの事じゃ驚かなくなる。まあ良いんじゃない。所詮酒場のマスター。好きに言わせておこうよ。さあ魔王討伐に行くぞ!」
「「「了解!」」」
俺達はメギド国を出て北の街道…カイエン街道を進んでいた。魔王城の近くと言うこともあり結構強力なモンスターも多数出没したが、エリーとリズの敵では無かった。無数の魔法とアーティファクト、幻想顕現で見事に敵を片付けていく。
そして魔王城に到着した。真っ黒な禍々しい建物だ。魔界のゲートから出現してここにある日突然立ったらしい。入口の巨大な扉を開く。
突如中からドラゴンが飛び出してきた。体長十メートル程だ。距離は五メートルに満たない。
ドラゴンは鉄をも溶かす高熱の火炎放射を放ってきた。
すかさずリズの幻想顕現!
「幻想顕現!真理!アイアス!アイギス!」
俺達四人に透明な盾が与えられる。その盾は火炎放射を防ぎきるもまだ存在していた。真理…本霊を降ろしているのだ。だが本霊を無理矢理使役するため癒えないダメージがリズに溜まっていく。
エリーが攻撃に入った。
「魔力全開!神話展開!ゼオンボルグ投擲!ヴァジュラ投擲!」
エリーの増強された全魔力を投入したアーティファクトが放たれる。
ヴァジュラがドラゴンの胴に突き刺さると全身を雷撃で焼いた。動きが鈍るドラゴン。その頭部にゼオンボルグがスッと突き刺さった。大量の出血をするドラゴン。そしてゼオンボルグは究極の霊爆を引き起こした。ドラゴンの脳味噌はグチャグチャにシェイクされた。まだ生きておりヨタヨタしている。エリーもリズも全力を出しきった。今度は俺の番だ。
俺はドラゴンに走り寄ると足元で全力の袈裟斬りを連続で何回も叩き込んだ。百回程神速で叩き込んだ時グラりとドラゴンの身体が傾き気絶させた。これで俺の仕事は終わりだ。
「レンコ!止めお願いするぜ!」
「了解!ハァッ!ブラフマーストラ!」
雷の神球が神速で放たれる。それはドラゴンを貫き呑みほした。完全にドラゴンは蒸発していた。
「ボクもまだまだだな。防御の幻想顕現で全力を使い果たすとは…」
「真理が使えるとしても天理の領域に押さえて置く事も大切かもしれないわね。と言っても闘いはもう少し。出し惜しみをしている余裕は無いかもしれないわ。」
「俺はフルスロットルで行く。ここまで鍛えたのに後少ししか闘えないなんて無念だな。」
「闘わない事が普通なのさ。慎吾。闘わなくて良いことは喜ぶべき事だとあたしは思うな。」
「それもそうか…武術は武術として打ち込んでいるだけが一番幸せかもしれない。さあ先に進もう!」
俺達は入口に改めて入った。入口にはドラゴンに殺されたと思われるパーティの死体が山になっていた。軽く三十人は殺されている。
「クソ…人間をゴミの様に殺しやがって…あのドラゴンめ!」
「落ち着いて慎吾。かなりのパーティがこの魔王城には押し寄せた様ね。それでもまだ魔王の結界たる魔王城が残っていると言うことは魔王は平然としていると言うことよ。気を引き締めて行きましょう。まだ魔王は生きているわ。」
「魔王には死んでもらっては困るんだよね。真理の力を試す良い実験体なんだもの。最後の闘いだ。脆いオモチャじゃ困る。」
「魔王と闘った事はあたしもないんだ。全員無事で帰れるかは保証できない。その上実力が未知数のセルビアが居る。ボソボソ…あたしはセルビアを警戒しているよ。分かりやすい魔王よりもね。」
俺達は二階に上がっていった。二階の入り込んだ通路を進んでいくと広間に出た。そこには巨大な首無しの騎兵が居た。体長は三メートル程だが禍々しい波動を放っている。
距離は三十メートル程。俺が縮地で距離を縮めてエクスリボルグで仕掛けるが騎兵には一切の動揺が無い。俺は馬に向かって袈裟斬りを叩き込んだ。馬は即座に倒れる。騎兵は倒れる馬から飛び去ると自分で地面に立って此方に突っ込んできた。バカデカい長剣をこちらに向かって振り回してくる。何度かエクスリボルグで受けて後ろに退く。
こいつかなり出来るな。長剣の打ち込みは攻防一体となっており、此方が打ち込む余裕がない。一か八かだ。俺は騎兵の腹に思い切り蹴りを叩き込んだ。後ろに吹っ飛ぶ騎兵。その先に縮地で詰めより倒れている騎兵に全力で袈裟斬りを叩き込む。騎兵はブルブルと震えてやがて動かなくなった。気絶したか。
事を終えた俺は皆に声を掛ける。
「おーい。気絶させたぞ。誰か止め頼む!」
「君達じゃ消耗する。あたしが行くよ。錬成!無銘弓!魔力を矢に限界までチャージ!無銘神射!」
ひたすら魔力を込められた矢が騎兵に向かって放たれた。騎兵の身体に突き刺さり爆発しそうになる。
俺は急いで縮地を使って脱出した。と同時に究極の霊爆が発生した。
これで二階を守る番人もいなくなった。闘っている時は気が付かなかったが、破れたパーティの死体がそこら中に落ちていた。俺達もああなってもおかしくない。
死体を横目に部屋を進んでいく。奥には三階への階段があった。
階段を登る。瘴気が濃くなった気がする。息が苦しい…。
三階に上がって直ぐに弓で狙撃された。先頭の俺が受けてしまい右腕が千切れ飛んだ。
「グハァいてえ…クソいてぇよ。」
「幻想顕現!天理!エクスカリバーの鞘!さあ慎吾!これを腕に当てて!再生するはずだ。」
「ハァハァ。分かった。この三階で止まるな。皆別れて走れ。なるべくジグザグにだ。さあ行け!」
俺達は俺の指示通り、四人に別れて走り始めた。それも時折ジグザグにだ。矢は何処からか定期的に射られてくる。この階は広い部屋が多い。何処からか壁の上に上がってそこから狙撃しているのだろうか?
「レンコ!何処から狙撃しているか分からないか?」
「勘だけど一番奥の階段がある部屋の壁の上からだね。そこから精度はそこそこだけど休ませないように断続的に弓矢を放ってきているよ。走り抜けるよ!慎吾!休まない!」
「了解!」
俺達は奥の部屋を目指してひたすら走った。部屋の配置は迷宮の様になっており、行き止まりに当たる事も多かったが、すぐさま転進し当たりを求めて走り続けた。
全力で走ってもうどんだけになる?時計をチラリと見る。一時間か。ハァハァ…まだ到着しないのか?
「慎吾。大丈夫?とんでもない顔色しているけど。私の魔法で回復する?ハァハァ。」
「エクスカリバーの鞘が御入り用かい?天理なら何本でも出して上げられるよ。まあ治癒速度は変わらないけどね。ハァハァ。」
「大丈夫だ。いつこの迷宮を抜け出せるのかと思ってね。」
「あたしの方でオモイカネデバイスで出口をシミュレートさせていたんだけど…この先が出口っぽいよ。安心して。」
「そうか。ようやく弓を撃っている奴と御対面か…これだけ走らせやがって絶対に許せねぇ。」
俺達は今いる部屋を抜けた。するとそこには階段と壁の上に弓矢を構えているケンタウルスの姿があった。
俺は皆に確認を取らずに即座に縮地するとケンタウルスの真後ろに着地した。そして頭に何度もエクスリボルグを叩き込んだ。一撃で気絶していたが…怒りのままに百発程神速で叩き込んだ。
落ち着いて見てみると俺はケンタウルスの返り血を浴びて血塗れになっていた。
ケンタウルスの頭はパッカりと割れていて脳が飛び出していた。そしてその脳もグチャグチャになっている。
まさかエクスリボルグで生き物を殺す事になるとは思わなかった。大木を打つ訓練をする事で木の棒で怪物を殺せる並外れた筋力を手にいれたと言う事か。
喜んで良いのかどうかは分からないが、汚い仕事をエリー達に任せて不殺を気取るよりは自分で倒せる時は倒してしまうべきだろう。そう感じる。まあ今は魔王城。細かい事を気にしている場合じゃない。
皆になんて伝えるかな。と考えていると声を掛けられた。
「慎吾?ケンタウルスは気絶させたの?止めは居るかしら?」
「いや…何と言うか。殴りすぎて死んでいる。止めは要らないよ。」
「えっ…エクスリボルグで殺したってどんだけ殴ればそうなるのよ。私ちょっと引いたわ。」
「ハハハ…エクスリボルグって普通の状態で生き物殺せるんだね。必殺技とかじゃなく…だよね。ボクも驚いたよ。」
「まあ大木打ち自体を極めると木刀で狙わずに殺傷出来るくらいの腕前になるのは知っていたけれどね。流石にあたしも実物を見るとは思わなかったよ。まあ今は驚いている時間が惜しい。先に進むよ。」
俺達は四階に進んだ。そこには大きな広間があり、甲冑を着こんだ巨人が待っていた。体長は五メートル程で巨人にしてはそこまで大きくないが異様なまでの圧迫感がある。巨人は身の丈を超す長刀を背中に背負っていた。只者じゃないな。
こちらに気付くと長刀を抜き構えに入った。とはいえまだ三十メートル程差がある一気に詰められる程では…縮地?巨人の姿が一瞬消えた。そして巨人の長刀のリーチに収まっているのを確認する前に身体が横にずれた。俺達は…エリーとリズと俺は一瞬で巨人の長刀でなます切りにされた。上半身が下半身からずり落ちる。痛みも感じない。もう死んでいる。魂が身体から抜けてしまっている。
俺は上空から今の状況を俯瞰していた。まだレンコが無傷で残っているようだ。
「天理!五重結界!…他の子は間に合わないか。あーあ。全員即死しているよ。やってくれるじゃないの。死者蘇生って大変なんだよ。後で神様に謝ったりしないといけないしさ。面倒極まり無いから…まずお前を殺す所から始めよう。行くよ。」
レンコは即座に縮地した。そして巨人の顔の前に転移するそして目にも止まらぬ拳撃と技の連撃を叩き込んだ。
無銘百連拳!天翔百連拳!無銘千手拳!双竜覇閃撃!梵天覇閃光!ブラフマーストラ!オーバーキル…億劫蓬莱神獄掌!
技の奔流に耐えきれずに巨人の身体は爆砕した。もう一欠片も残っていない。億劫蓬莱神獄掌で魂まで焼かれたのだ。
「よし!考えていても仕方無い。八雲全一流秘奥…死活反魂掌!全員甦れ!ハァッハァ!」
光の膜が魔王城を包み込む。そしてエリー達の身体は完治し、その中に魂が入っていく。
「あ…れ…確かに私死んでた筈なのに。セルビアに会えずに死んだ筈なのに何で生きているの?」
エリーは感極まり涙をポツポツと溢している。
「ボクの幻想顕現も間に合わずに全員死んだ筈だ。何故生きているんだ…レンコ…君だけが立ち上がっているのを見た。君の力なのか?」
「そうだよ。でも何回も死者蘇生すると神罰が本当に下るから何度も死ねると思わない事。ハイハイ。今は緊急事態でしょ。蘇生した事ぐらいで騒がない。魔王の広間は次の階だよ。そこでセルビアに会えなかったら何処かで死んでいるって事だよ。覚悟を決めて次に進みもう。ほらっ!慎吾も呆けてないで立った立った!」
「あ…ああ。助かったんだな。もう死んだ気分で居たから気が抜けてしまっていたんだ。よし!もう大丈夫。魔王とセルビアに会いに行こう。最後の階に二人とも居る…そんな気がするよ。」
俺達は最後の階段を登った。それは長い長い螺旋階段だった。最初は静かだったが上に進むに連れて爆音が鳴り響いてくる。その音は魔王城を震わせていた。
上で間違いなく何かが闘っている。俺達は先を急いだ。緊張感からか誰も口を開こうとはしなかった。
そして爆音と震動に何度も足を止めながらようやく魔王の間に到着した。中に足を踏み入れると轟音と共に何かが飛んできた。千切れた上半身…人間の男だ。即死している。金髪碧眼の男…何処かエリーに似ている。
「兄さん!兄さんじゃない。そんな死んでいるなんて!よくも貴様兄さんを殺したな!魔王!」
エリーが凄む向こう…五十メートル先に黒いマントに身を包む白髪に赤目の男が居た。奴が魔王?
「吠えるな。小娘。その男には死など生ぬるい。シヴァを降神憑依しているのだ。神の肉体は不滅だ。何度でも甦るだろう。魔王とは言え俺はいずれ死ぬ。その男は死に場所を求めてやって来たようだが、所詮俺も定命。不死を殺す術など無いのだ。さあその男が伸びている間くらいは楽しませてくれよ。ムシケラども。」
魔王はそう言うと高速で魔法を連発してきた。
「暗落撃!闇夜斬!空域抹殺!真似事だがな!梵天破壊閃!ブラフマーストラ!魔王究極十字閃斬!」
万能属性…最強の神代に近い魔法だ。リズの幻想顕現に掛かっている。
「ハァッ!幻想顕現!真理!アイギス!アイアス!アキレウスの鎧!」
透明の盾と鎧が俺達に与えられる。リズは真理召喚の衝撃で気絶した。これ以上は頼れない。
魔法が幻想顕現とほぼ同時に着弾した。ダメージではないが全身を熱風が駆け抜けた。流石本物のアーティファクトなだけある…?
ピキピキパキメキャバギャ…
神話領域の本物のアーティファクトが砕け散った。
これが魔王の力か…短時間でシヴァの化身であるセルビアの技巧も盗んでいる。とんでもない化物だ。
「それでも止まる訳に行かねえ!これが最後なんだ!行くぞ!魔王!」
「木の棒ごときで何が出来る!愚かな人間よ。魔法すら勿体ないが…近寄らせて下らない攻撃を受けても困る。遠距離で死ね。暗黒波動砲!」
極大の暗黒魔砲が魔王の前に現れた。俺を完全にロックしている…が。と言う事は俺に注意を反らされていると言う事だ。エリー、レンコ…後は任せた。行くぞ!
魔砲が放たれる瞬間…俺は縮地をして魔王の眼前に躍り出ようとした。
そこに支援攻撃が入った。
「全部出しきるわ。魔砲は撃たせない。撃たせる前に殺してやる。私の全て…ここで燃やす!ヴァジュラ連携ゼオンボルグ!全魔力チャージ!発射!」
ヴァジュラとゼオンボルグが神速で射出される。魔力を全て貫通力に回した必殺の一撃。
それは魔王の右腕と腹を穿った。右腕破砕。腹部極大の貫通傷。
魔王は衝撃で片膝を着いた。崩れた今がチャンス。殺しきるのよ。私。兄さんを何回も殺したな。こいつが憎い…この憎しみは天を駆け奴を穿つ。
「生命力を魔力転換!魔力上限夢幻に置換!禁呪!夢幻詠唱!起源!コズミックビッグバン!全て消え去れ!行け!根源の力の渦よ!全ての始まりの渦!我が仇敵を葬りされ!」
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そう言うとエリーはガクッと糸が切れた操り人形の様に崩れ去った。終わった。本当に取り返しのつかない死を迎えたのだ。
「慎吾!アイリスに語り掛けろ!エクスリボルグの真の力を解放しろ!あたしと連携だ!やるぞ!エリーの死を無駄にするな!」
「了解!」
(女神アイリス様…エクスリボルグの真の力…億劫蓬莱神獄剣を解放してください。天界の敵…魔王と闘っています。)
(慎吾…慎吾よ。一つ条件があります。貴方を現人神として昇神させなさい。そうすれば何時でも対星必殺奥義を開帳しましょう。)
(少し待ってください。アイリス様。)
「レンコ!条件がある。現人神になれと言われた。受けても良いのか?」
「糞!ここであたし以外全員死ぬかどうかの二択になるな。…慎吾。あたしと一緒に無限の時間を歩めるか。」
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「よし!条件を受けろ。もうなんでも良い!受け入れろ。」
(アイリス様。現人神になります。無限の時を歩む覚悟が出来ました。)
(無限では呪いと言うのです。取り敢えず三百年位勤め上げなさい。それではここに契約を…人の世を護る現人神としてそなたを迎えよう。慎吾よ。誓いなさい。)
(はい。人の世を護る現人神になりましょう。誓いをここに。)
(確かにその覚悟受け入れました。対星必殺奥義を常時解放します。エクスリボルグよ。新たなる道を開きなさい。)
エクスリボルグが虹色の光に包まれた。そしてまたいつもの木の棒に戻る。
「レンコ!何時でも行けるぞ。」
「慎吾!今すぐ魔王に突貫しろ。時間を与えすぎたぞ!」
「ハハハ。武器の準備は出来たかい?それではこちらもそろそろ上げて行こうか!暗黒破壊…「させるか!対不死特効奥義!億劫蓬莱神獄掌!」
螺旋を描いた魔力がレンコの腕を巡り神速で魔王に叩き込まれる。魔王の顔面が破裂した。飛び散る脳漿。そして不定形の何かが魔王の傷口から這い出る。そして暗黒のゲートを開き中に入ろうとするが…
そこを俺がエクスリボルグの億劫蓬莱神獄剣で叩き潰した。
潰したコア?と思われるヌメヌメした物が語り掛けてきた。
「ガハッコアを見破るなんてね。人間如きに殺されるなんてなぁ…ハハハ。今は完全に消滅してやろう。でもな魔界のゲートが開いている限りこんなものはいたちごっこだ。いくらでも私の替玉は現れるぞ!クククハハハ。ゲートを開いた神を恨むが良い。サラバだ。ゴハァ。」
コアは完全に死んだようだ。
レンコは呆れたように口を開く。
「死ぬ間際までペラペラうるさい魔王だったな。先史文明から生きてればゲートの事ぐらい知ってるっての。魔王は片付いたね。後はリズとエリーか…。」
そう言ってエリーの元に駆け寄った。
「慎吾。エリーはもう駄目だ。魔王を殺す為に放った一撃で残りの生命力を全部使いきっている。神霊級の生命力を犠牲にしないと蘇生は無理だ。もう天界に送られているかもしれないね。」
「クソ!もう少し早く俺が攻撃を決めていれば!」
リズが気を取り戻したようだ。俺達に近寄ってくる。
「どうしたの?そんな真剣な顔してさ。ボクぼんやり見ていたけど魔王は死んだんだろう?」
「リズ。エリーが死んだ。レンコの力を使っても蘇生できないんだ。彼女はもう帰ってこない。俺達のパーティリーダーが死んだんだ。」
「嘘だろ。さっきまであんなに元気だったのに。どうして死んだんだよ?魔王に殺られたのか?」
「リズ。あたしの力不足だ。エリーの無茶苦茶な生命力を賭けた大魔法を見ているだけで止めることが出来なかった。」
「そんな!あんたは無敵の全てを見た人なんだろ?エリーを復活させてくれよ。さっき皆を蘇生したみたいに!」
「無理なんだ。あたしは無力だな。エリーにも君にも何もしてやれない。所詮人の身。神霊の生命力があればそれを燃やして彼女を助けて上げられるんだけど…。」
セルビアが初めて口を開いた。蘇生していたのか。
「俺の無限と化した神性の生命力を燃やせばエリーを助けられるんだな。俺はこの身体にシヴァを降神憑依している。蝕み尽くされて人間で居られる時間も少なくなっている。この子は何故ここにいる?俺の記憶も斑に薄れてきている。何が理由か思い出せない。」
俺が答える。
「セルビア。二年前にあんたの両親が死んだ事だ。その真相を聞くためにあんたを追いかけていたんだ。俺達が聞くのが正しいとは思わないが教えてくれないか?」
「そうか。その事をずっと気にしてその為に生きてきたんだな。俺の知っている限りを教えよう。」
俺は絵を極める為に…神を降ろして絵を描く事を二年前に思い付いた。
そして先史文明の資料を調べて美の神としても崇められていたシヴァを降ろす事にした。
そこから記憶が途切れているが…気が付いたら俺は両親の腸の海の中で笑いながら意味不明な祝詞を唱えていた。
恐らく俺が殺したのだろう。何故エリーを殺さなかったのか自分でも分からない。
その後自分が怖くなった俺は別の町へ旅に出た。そして様々な依頼を受けている内に自分が不死になっており、破壊衝動…シヴァの神性に徐々に呑まれつつある事に気付いた。そして最後を迎える場所としてまたメギド国に戻ってきた。死に場所として魔王討伐の依頼を受けたのだが、シヴァの不死性が最早剥離出来ない程強固になっていて死ねない事に絶望していたんだ。その俺の神性を燃やし尽くす事でエリーが助かるなら…
「セルビア…あんたの事は良く分かった。あんたの命をエリーの為に頂く。レンコ…頼んだ。」
「了解。痛みは無いけど…セルビア…君はシヴァと同化し過ぎている。死後の世界を飛ばして即座に転生する事になる。だから天界でエリーに出会う事も出来ない。それでも良いのか?」
「これ以上は身体の中のシヴァを押さえきれない。俺が俺でいる内に死にたい。頼む。」
「分かった。行くよ!神法!無神転生!シヴァの霊核を燃やし尽くす!天界から警告?知るか!人の生き死にが掛かっているんだ!燃え尽きろ!シヴァ!天界に帰る時だ!」
セルビアは目映い光に包まれると光体になり、エリーの中に入っていった。そしてエリーの体が明るい光に包まれゆっくりと立ち上がった。
「慎吾、リズ、レンコ。終わったのね。兄さんが語っていた事を天界から聞いていたわ。兄さんも苦しんでいたのね。不思議と恨みは無いわ。全てが終わったという解放感だけ。私の家に帰る。二年ぶりだけど…もう誰も出迎えてくれないけど…帰るわ。」
「エリー。蘇ったんだね。良かった。もう会えないかと思ったよ。ボクは…ボクは…ぐすぐす。」
「エリー。お帰り。そしてサヨナラかな。俺の役目も終わった。これからは現人神として人とは違う時間を歩む事になった。」
「慎吾…魔王を討つために無茶をしたのね。ありがとう。ここまで着いてきてくれて。さようなら。ちょっと好きだったわよ。」
「はっ?慎吾?現人神って何だよそれ。神様になっちゃったの?それで全てを見た人みたいに何千年もさ迷うのかい?」
「三百年って言われている。俺はレンコと旅を続けるよ。リズ…君ともここでお別れだ。君達とは生きていく時間が違う。」
「本気なんだな。慎吾。良いよ。ボクが居なくてもやっていけるんだろう。もう無かったは無しだからな!」
「ああ…イシュタルの町まで送って行く位は一緒でも良いけどどうする?」
「エリー。君の家にしばらく泊まらせて貰って良いかい?」
「ええ。喜んで。いつまで居ても良いわよ。」
「と言う事であの狭苦しい町まで戻らなくても良くなった。さあ!慎吾とレンコは行った行った。」
「短い間だったが楽しかったぞ。人の子よ。またいつか星の巡りが重なれば出会う事もあるだろう。行くぞ!慎吾!さらばだ!」
こうしてエリーと俺達の旅は終演を迎えた。
これからはレンコと夢幻の旅に出る事になる。
まだ旅は続く。
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本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
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冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
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