えっ?木の棒で異世界を冒険するんですか?

八雲 全一

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夢幻の旅路十一

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この世に生まれて幾星霜。殺し殺され幾星霜。私は歌う。名状し難い神の名に置いてこの殺戮を捧げよう。尊い月の神々の為に。

「高エネルギー反応注意!高エネルギー反応注意!場所は女王の宮殿です。上級神クラスの反応を確認。繰り返します…」

この町にも滅びの使者がやってきたのか。神霊の地上神罰代行者。神世から現世を彷徨く災厄の化身。如何に神が止めようともけして止まらぬ破壊の権化。

「起きろ!慎吾。この町はもうお仕舞いだ。闘う準備をしろ。町は滅びてもあたし達に敗北は許されないぞ!」
「この間アイスクルジャミンは倒したって言うのに?」
「あんな生易しい者じゃない。人類を滅ぼすという概念の具現化した化物だ。月と人間の戦争に投入された化物が未だに殺されずに生き残っているんだ。あたし達でケリを着けるぞ。」
「了解。俺のエクスリボルグもどこまで通用するやらな。まあやってやらあ。この町には一宿一飯の縁がある。滅ぼされるのを指を加えて待っているのは性に合わない。」

俺達は宿屋を出ると女王の宮殿まで駆けていった。
……………………………………………………………………
女王の宮殿だった場所は瓦礫の山に変わっていた。その中に二人の人間がいる。
イシスの女王とそれを首を絞めて持ち上げている男の姿だ。男は神官の服装を身に纏っていた。奴こそはエルダーエクソシスト。神々の刃。

レンコは無銘弓を素早く錬成し魔力を込めずに速射した。矢はエルダーエクソシストの両腕を貫いた。衝撃で女王を締め上げていた両腕は千切れ飛んだ。女王は解放される。
レンコは縮地で駆けつけると女王を保護してこちらに戻ってきた。

「慎吾。女王を頼む。こいつはあたしの獲物だ。悪いが狩らせて貰うよ。」

エルダーエクソシストは両腕を失っていたが数秒程で両腕が生えてきた。規格外の再生能力。その両腕に二丁の巨大なハンドガンを握ると近寄ってくるレンコに対して連射を始めた。レンコは両腕で身体を隠し、弾丸を弾いた。しかし神の領域に達するハンドガンの連射をそういつまでも防げる物ではない。
弾丸はいなすレンコの腕を突き破り、臓器や心臓を砕いた。レンコはその場で即死する。
そして蘇る。

「おやおや!不死者とはな!お前も神々に近しい存在なのだろう?何故未だに地上を這いつくばる蛆虫を相手に味方をする?偉大なる神の御名の元に人間を駆逐するのだ。神の使徒よ。」
「あたしは人間の側に立ったんでね。あんたみたく人間を片っ端から食い荒らす神の化物を放っておく気は無い。行くぞ。エクソシスト。錬成…夢想天生!」

レンコは二振りの陰陽双剣を錬成した。それをしっかりと手に握る。そこにエルダーエクソシストのハンドガンの連射が襲いかかる。レンコは回避の為に剣舞を舞う。弾かれていくハンドガンの弾。全弾有効射無し。そしてエルダーエクソシストは弾切れに陥る。リロードする0.1秒の隙間を縫ってレンコは縮地した。
エルダーエクソシストの眼前に躍り出て夢想天生で首をはね、胴体を二つに切り分けた。そして夢想天生を投げ捨てると秘奥義を発動する。

「億劫蓬莱神獄掌!神破!」

魔力の奔流が螺旋となり右腕に絡み付く。不死をも殺す絶対の一撃だが…エルダーエクソシストに叩き込む瞬間。

「ウアアオオオオウ!遅い!遅い!遅すぎる。奥義か!笑わせてくれる!その程度の術で私を殺す気とはな!」

エルダーエクソシストはバラバラに解体された状態から瞬時に蘇生すると拳打をレンコに叩き込もうとする。しかしレンコの方が僅かに早かった。

「遅いのは貴様だ。如何に不死とはいえコアを滅却されれば滅びるが道理。滅するが良い!行くぞ!億劫蓬莱神獄掌!」

レンコの一撃はエルダーエクソシストの厚い胸板を貫通し、心臓の位置にある神としてのコアを穿った。エルダーエクソシストの圧倒的な殺気が消える。

「フッ!これ迄か。ようやく神の元へと帰れる。もう下賎で哀れな神の子羊を狩らなくて済む。例を言うぞ。不死者よ。お前は後何年苦しむ?夢幻の悪夢を見続けるのだ?私は三千年で済んだがお前は後何年続けるのだ。」
「夢幻に。あたしを求める人の声が聞こえる限りはあたしは死にはしない。人が生きている限り永遠に彷徨い続けるだろう。さあ眠れ。偉大なる神の狂信者よ。」
「ああ…次の眠りはもう少し長くなりそうだな。さらばだ。不死者よ。」

遠くから慎吾がこちらを見つめている。エルダーエクソシストは塵に帰った。慎吾が抱えているイシスの女王は無事なようだ。しかしあのエクソシストを倒すために何人犠牲になったのか考えもつかない。イシスは滅びなかったが壊滅的な打撃を受けた。まだしばらく滞在して出来る事を探すべきだろう。
イシスの女王を地面に下ろすと慎吾は駆け寄って来た。

「大丈夫だったか?まさかレンコが殺される所を見せられるとはな。肝が冷えたよ。俺に下がっていろと言ったのは正解だったな。あのまま突っ込んでいたら何回殺されていたか分からない。」
「奴は…エルダーエクソシストはあたしと同じ不死の化物だったからな。伊達に三千年彷徨っていないと言うことだ。」
「三千年…レンコと一緒じゃないか…ハハ。世界には想像のつかない化物が沢山闊歩しているんだな。」
「いずれそういう敵ともエクスリボルグで闘う事になる。忘れるな。今日の闘いを。本当の死に直面する闘いと言うものを。」
「ああ…忘れない。忘れようたって忘れられないよ。レンコが殺された闘いだからな。」
「ならよし。明日からはイシスの復興に関する仕事を受けていくよ。この町はまだ死にきっていない。あたし達も手伝って蘇生させるんだ。」
「分かった。今日の所は宿屋に戻ろう。イシスの女王様も整理がついていないだろうしな。」

レンコはイシスの女王を確認すると近づいていった。

「女王よ。済まなかった。あたし達がもう少し早くエルダーエクソシストに気が付いていれば宮殿の皆は殺されなかっただろう。」
「いいえ。謝らないで下さい。私の命の恩人ですもの。宮殿は無くなりましたのでおもてなしは出来ませんが。また一から宮殿を作り直し、新たな民を迎えなくてはなりません。それをお手伝い頂けるでしょうか?」
「勿論だ。あたし達の出来る限りで明日から手伝わせて貰おう。今日の所はこれで去るとしよう。宮殿の復旧作業でまた会おう。」
「ええ。さようなら。またお会いしましょう。全てを見た人と現人神様。」

俺達は宿屋に戻った。宮殿の惨状は民に知れ渡っているらしく皆が不安そうに言葉を交わしていた。
災厄は突然訪れ全てを奪っていく物だ。
しかし人間は立ち上がる強さを持っている。
イシスの民もこの惨劇から立ち上がると信じてあたし達の力を貸そう。

次の旅に続く
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