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3.1 ラースフィールド
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俺達は魔王討伐から十日間ほど暇を持て余していた。高レベルな妖魔の討伐依頼も無かった事だしノースランドの町も平和そのものだった。
町は魔王討伐からずっとお祭りムードだったと思う。俺もギルディーンもそんなムードには慣れる事が出来なかった。そして俺達には…といってもギルディーンに与えられた使命だが、アヴァロンに到着するという大事な目標があった。その為に町中のブラックマーケットや商店を漁ったが収穫は無かった。
最早この祭りに浮かれる町に居る必要も無い。俺達は町から退去する準備を進めていた。
「ケイジ。もうやり残したことは無いかい?ボクは大丈夫だが…。」
「大丈夫さ。次に行く町を決める事にしよう。」
そう言うとイスワルド大陸全図を開く。今は北の外れの国ノースランド王国に居るわけだ。次は中央付近に位置する国、カインポリスを目指してみようと思う。一つ問題があるのだ。この中央や南の国にはハイテク武装集団であるラースフィールドが襲撃を繰り返しているという噂を聞いたことがある。それに俺達が巻き込まれると厄介だ。何せ構成員は千を下らず万に近いというのだ。
それでも一番近場の町はカインポリスという事になる。歩いて一ヶ月程は掛るだろうか?
ここに向かうしかないだろう。俺は意志を決めるとギルディーンに伝えた。
「カインポリスという町に向かう。歩いて一ヶ月程掛かるぞ。それに町にはラースフィールドという武装集団が頻繁に襲撃して来るらしい。」
「良いだろう。中々面白そうじゃないか。ボク達で蹴散らしてしまっても構わないんだろう?」
「目を付けられたら地獄の果てまで追いかけてくるような集団だぞ。なるべく出会わないに越したことは無い連中だ。」
「そうか…殺害衝動は湧かないのかい。アレが湧けばお前はスイッチが入ったように別人になるじゃあないか。」
「今のところは大丈夫だ。俺自身もあまり殺害衝動が湧かない方が良いと思っている。俺が俺で無くなってしまうみたいだからな。」
「自分の中の衝動を否定するんじゃない。受け入れて昇華するんだ。分かったね?ケイジ。殺害衝動を戦闘能力にまで昇華しろ。恐れるんじゃない。」
「ああ…それじゃあカインポリスまで歩いて行くぞ。」
そう告げると俺達は宿を出て町の外まで出ていった。ここから一ヶ月の歩き旅が始まる…
そんな事は思わせないくらいギルディーンの歩みは軽かったのだ。
カインポリスを目指す旅が始まって一ヶ月程が立っていた。ボクは野宿が嫌だったので、携帯する宮殿発生装置を用いて街道に家を作って泊まっていた。これは宮殿を産んだり消したり自由自在の宝貝だ。本当はケイジが泊まるのは許せなかったのだが、これでも究極黄金巫女の従者だ。特別に泊まることを赦してやった。
今はケイジがシャワー室で汗を流している所だ。男は汗臭くなりやすいからこまめにシャワーを浴びる事を命令している。そうしないとケイジは何日でも風呂に入らない勢いなのだ。それは困る。
次はマーリンのお告げ通りラースフィールドとの全面闘争になると言うのだろうか?
ハイテク武装集団一万人ねえ?ボクに言わせてみれば丸腰の兵隊一万人と変わりないのだ。ゲートオブアヴァロンで貫けない装甲など無い。どれも一騎当千の宝貝だ。
この携帯式の宮殿には豪華なベットルームが一つしか着いていないのでケイジは床で寝袋を広げて寝ていた。
多少仲は深まったものの一つのベッドに一緒に寝る事は憚られるのだ。
まあ床もフカフカなのでこれで体を痛めたりする事は無いだろうと思う。
ケイジが風呂から出てきた。何時も着ている黒いコートを羽織っている。もう少し服のバリエーションを増やせば良いのにケイジは黒いコートに執着を持っていた。
ボクの着ている黄金の巫女服の様に機能性が高い服でもあるまいしそんなものは着なければいいのにと思う。
ケイジはボクの思惑など関係なしと言った具合だ。
「お疲れ様。ギルディーン。先に風呂に入らせてもらったぞ。」
「気にするな。ケイジ。こまめに何回でも入って良いぞ。匂いが服についたら捨ててもらうからな。服を買うぐらいの金はあるだろう。」
「まあな。分かったよ。気を付けさせてもらおう。」
「宜しい。今日の所は寝てしまえ。カインポリスがもう見える場所まで来てるからな。」
「ああ…休ませてもらうよ。ギルディーンも寝るのか?」
「そうだね。この宮殿の安全をチェックしてから寝させてもらおう。野盗に襲われるかもしれないからな。」
「そうか。お休み。ギルディーン。」
ボクはケイジを寝かしつけると宮殿のセキュリティシステムを立ち上げた。監視カメラには何も写っていない。問題なし。
中々ハイテクな装置だろう。ゲートオブアヴァロンの中にはこういったハイテクな技術を利用したマシンやオブジェクトが多数あるのだ。
さあボクももう寝ようと思ったその時警報が鳴り響いた。ケイジ…もう寝てるな。仕方ないボクだけで対処するとしよう。我が宮殿を犯そうとするとは不敬千万。処刑に値する。
賊は正面の入り口を攻撃して入ろうとしているらしい。アサルトライフルの発射音が聞こえる。ボクは裏口から宮殿を出た。
正面にボクが出ると機械の鎧、アーマーで身を包んだ賊が現れた。その数、五人だ。
賊の一人が口を開く。
「この家の持ち主は嬢ちゃんかい?命が惜しければ降伏するんだな!命だけは助けてやるぜ!良いこともさせてもらうけどなぁ!」
「チッ!下朗が!貴様らには勿体ないが奥義で葬ろう。」
ゲートオブアヴァロンを多数展開した。
賊が危険を察知してミニガンを乱射してくる。ボクには着弾が無い。弾除けの加護が何重にも掛かっているからだ。
「畜生!何故攻撃が当たらないんだ!おかしいだろ確かに目の前で狙い撃っているてのに!」
フフン…と嘲り嗤う。この世の中には一人や二人喧嘩を売ってはいけない相手がいるんだ。その内の一人がボクだったってだけさ。
「さあ…幕を下ろすぞ。下朗ども。」
「撃て撃て!相手はただの人間だぞ。銃が当たれば殺せるんだ!」
「フン!それが当たらないと言うのが分からないのか。下衆め!消えろ。」
ミニガンやアサルトライフルを狂ったように乱射している賊に対して、ボクはゲートオブアヴァロンから宝貝を射出した。
「ぎゃあ!」
「うぐう!」
「死にたく…死にたくない!」
「うぐぉあ!」
「ひっひええ!ぎゃあ!」
宝貝はアーマーを易々と貫通し中にいた賊を死亡させた。一気に五人撃破。もう立っている者は居ない。
アーマー…利用者の自分自身の力を倍増させ強力な重火器を使用可能にする。また並みの銃弾をも弾く無双の装甲戦車か…ゲートオブアヴァロンの前には動く棺に他ならないね。
こんなもので武装しているだけでラースフィールドという連中はいい気になっているらしい。そろそろ天罰を下す頃かな。民生を脅かすならず者集団。
まあ魔王を倒した後には張り合いが無いけれど良いだろう。殲滅してやろう。
といっても機会があればだ。ケイジがやらないというならば狩らなくても別に良いか。
ボクはそう考えながら宮殿の中に戻ると眠りについてしまった。
翌朝俺は目覚めた。朝日を浴びるために外に出てみるとアーマーに身を包んだ死体が五体あった。皆直立したまま逝ってしまっている。きっとこの宮殿を襲おうとしてギルディーンに裁かれてしまったのだろう。
見た目をただの少女だと思って油断したのが運のツキか。
アーマーの紋章は見たことがある。ラースフィールドの紋章だった。卍に髑髏のデザインだ。
不味いな奴等を敵に回すことになりかねない。昨日この辺りにこいつらが通った事を感づかれてなければ良いのだが…
俺は何時になく焦っていた。ラースフィールドは一万人単位の武装強盗の様なもので、徒党を組んで町を襲っているのだ。
それも生身の人間では勝てないほどの重装甲、重装備に身を包んでいる。
そんなものに目をつけられたらギルディーンはともかく、俺が死んでしまうかもしれない。
ああ厄介事に巻き込まれるのはしょっちゅうだがラースフィールドは桁が違う。死体は野晒しになっているが本当にばれていないんだろうか?
ばれたらどうなる?地獄の果てまでラースフィールドが追っ掛けてくるのだろうか?それとも大量に現れてギルディーン毎殺されてしまうのか?
嫌な予感が止まらなかった。それは胸を打つ楔の様に俺に食い込んでくる。不穏の音だ。
ギルディーンが目覚めてきたようだった。
俺は聞く。
「君がやったのか?ギルディーン。」
「ああ…そうさ。ボクが宮殿を犯す愚物を裁いたんだ。何か問題でも?」
「ラースフィールドに見つかると不味い。あいつらは地獄の果てまでも追いかけてくるぞ。早く死体を埋葬しよう。アーマーのビーコンを辿るにしても時間稼ぎにはなるはずだ。」
「まるでボクがやらかしたみたいな言い方じゃないか。少し予言をしよう。ラースフィールドとやらとはどちらかが滅ぶまで徹底的に闘うことになるぞ。旅の夢見の賢者から神託を預かっているんだ。だから無駄なあがきは止めろ。カインポリスを目指すぞ。もう目と鼻の先だろう?」
「…嘘だろ。ラースフィールドを殲滅できる訳が…無い。大将首を取るのも困難だ。相手はハイテク武装集団だ。君が大丈夫でも俺が持たない。」
「その時はその時さ。ケイジ。言っただろう。死んだら責任をもってアヴァロンまで連れていってやるって。闘って死ぬことに恐怖を覚えるな。ただし闘って死のうとも思うな。分かったか?」
「…ああ。取り敢えずはカインポリスを目指すとしよう。死体はこのままで良い。」
俺は自分の体の中に澱の様なものが溜まる嫌な感覚に身を任せながらカインポリスを目指すことにした。そこが新たな光となるか闘いの闇に繋がっているのかは俺には分からなかった。
残りわずかになった道筋をギルディーンと歩く。一ヶ月歩きとおしだが彼女となら悪い気はしなかった。むしろ嬉しかったのだ。彼女と旅が出来て、少しでも一緒にいる事ができて。だからこそラースフィールドの件は俺の脳裏に嫌な物を感じさせていた。
曰く地獄の使者…ラースフィールドは仲間同士の絆が深い。一人一人の仲間を大切にするため、仇を打つためにどこまでも追い詰めてくると聞いたことがあった。
脂汗が流れる。
奴等に気付かれないだろうか?もし気付かれたとしたらどうするべきか?奴等を一つずつ逃げながら撃破するべきか?それとも此方から乗り込んで行き大将首を取って組織を瓦解させるべきか?
どの答えも正解のような気がするし、また無限に続く練獄への入り口のような気がする。
ラースフィールドは元々はただの愚連隊だったという噂を聞いたことがある。それがアーマーの出る採掘施設を乗っ取ったために手のつけられない暴力集団になったのだ。アーマーは現状最強の防御兵器である。対物ライフルまでの弾は無効化するし、魔法攻撃にも耐性がある。そしてパワーアシスト機能を搭載していて重火器の運用が可能になるわけだ。これにより対人ではアーマー乗りを殺す方法は無いに等しいのだが、ギルディーンの様な想定外の鬼札に対しては弱い。彼女からするとただの木偶の坊に過ぎないだろう。
なのだが…俺に対してはアーマーは脅威そのものである。俺は弾除けの加護も持っていないしアサルトライフルで撃たれたら死ぬ…なので闘い方を工夫しなければならないだろう。それは闘うときに考えよう。今考えても机上の空論に過ぎないからだ。
俺はそんなことをぼうっと考えていた。ギルディーンが覗き込んでくる。
「また夢想をしていたのかい?ケイジ。そんなにラースフィールドが心配か?ボクを信じられないのかい?」
「そんな事はないさ。ギルディーン。君の事は一番に信じているが、俺は自分自身の事を信じきれていないんだ。きっとラースフィールドとの闘いでは足手まといになってしまうだろう。」
「なんだ。そんな事か。君はボクのマスター何だから隠れて縮み上がっていてもボクは責めないよ。それでも殺害衝動が云々言ったらカチンと来るだろうけどね。」
「そういうわけにもいかない。女の子一人を戦わしておいて戦闘には参加しないなんて卑怯者のやることだよ。俺も一人前の男なんだ。ラースフィールドとも闘うさ。どんなに足手まといになってもね。」
「フッ…言うじゃないか。その言葉忘れないぞ。ケイジ。」
「ギルディーンはどんな相手でも怯えることがないんだな。ラースフィールドも全く怖くないのか?」
「まあね。所詮木偶の坊の集団にすぎないよ。遅くて硬い獲物なんて格好の的だ。神代の方が硬くて恐ろしい敵がわんさかいたよ。黄金で出来たゴーレムとかプラチナのスライムとかね。まあ君のような生身の人間には恐ろしい敵になるんだろう。多分銃が怖いんだろうけど、この身には何重にも弾除けの加護がかかっている。その加護を切り崩す事はできないよ。それにケイジ。君にもこれをやろう。」
そう言うとギルディーンはゲートオブアヴァロンを開いた。虹色の首飾りが紫色のゲートから出てくる。俺は受け取り身につけた。
「弾除けの加護が掛かっている逸品だ。君が生きている限りオドを餌にして永続的に発動する。ま、半分祟りや呪いの様なものだね。凡そ弾と言う概念を持つ攻撃はいなせるだろう。その代わり魔法攻撃には効果はないぞ。まあ対人戦闘では役に立つ逸品だろう。」
「ありがとう。ギルディーン。俺の事もちゃんと考えていてくれるんだな。助かる。これでラースフィールドとの闘いでも致命的なダメージを受ける確率は下がるだろう。」
「フフン…褒め称えるが良い。臣下の身の安全を気にかけるのも星を統べる巫女たるボクの役目だ。」
会話を続けながら歩いているとカインポリスの町が眼下に写った。これで一ヶ月の旅は終わる。新たなる旅に移るか…カインポリスに留まるかはまだ考えていなかった。
町の門を潜ろうとする…がイヤに門番のチェックが厳しい。
「止まれ。旅人よ。持ち物を確認させろ。」
アサルトライフルの銃口を向けられた。
ギルディーンは黄金刀一振りだから直ぐにチェックを抜けられたが、俺は対竜狙撃銃にアサルトライフル…それに刀を持っていたためチェックが長引いた。
滞在の目的を聞かれる。ギルディーンは空気を読んで黙っている。こういう時は自分が口を出すと揉めるのが分かっているため大人しい。何時ものお構い無しの究極黄金巫女は何処かに行ってしまうのだ。
「滞在の目的は依頼を受ける事だ。それ以外の目的は無い。」
「…通ってよし。以後は確認は簡略化させてもらう。その為に名前の確認と顔写真を取らせてもらうぞ。」
「俺はケイジ。こっちの女の子はギルディーンだ。後は写真だな。」
俺は特に戸惑いもなく顔を撮らせる。ギルディーンは少し苛ついているようだ。神気が溢れそうになっている。
「さあ…そちらの御嬢さんも写真を撮らせてもらうぞ。」
「勝手にどうぞ。…ケイジ。今日は高い食事を食べさせろ。それで勘弁してやる。」
そう言うとむくれた顔から一転して綺麗な笑顔になるギルディーン。
そして写真を取られた。眉毛がヒクヒク動いている。相当トサカに来ているようだ。
おお怖い怖い…家の究極黄金巫女様は些細な事で逆鱗に触れる事が多い。特に写真を撮るなどもっての他だろう。
とにかく登録の手続きは終わった。これでカインポリスの町に出入りするのは問題がないだろう。
ポチ…ただの人間の事だが…ポチはボクを怒らせるのが得意な様だ。
ボクを写真に納める等、不敬を超えて最早略奪に等しい。
何故ならボクの美しさは一流の芸術品を軽々と超えてしまっているからだ。
あの門番のポチはボクに美的な要素を見出だす事を放棄した上にボクをカメラに納めた。
最早それは略奪ですらなく、芸術の破壊に等しい。
ボクはゲートオブアヴァロンを正直三回程起動しかけた。
まあその位、腹が立ったという事だ。
カインポリスという町を今ケイジと見回っているが、一点を除いて普通の町と変わりがない。
その一点とはまるで戦争中の様な空気が漂っている事だ。建物は破壊され、子を殺された親が咽び泣いている。若者は皆町を守る兵士に駆り出されていた。
商店は最低限の食料を供給する他は軍需品がほとんどさ。その供給線、補給路もやられてしまっているのであろう。置いてある武器は良くてサブマシンガンとか言うちんけな連発銃。酷いとボウガンだ。
この銃で武装する事が恒常化している世界でボウガン一丁で何かに立ち向かう事は自殺に他ならない。
が、店先に置いてある武器の大部分を占めるボウガンは現実は自殺をするより酷い状況である事を暗に訴えかけていた。
全く世界が都市国家レベルまで退化している上に武装した野盗の様な連中が野晒しに成っているとは…別の平行世界で語られる世紀末の荒地の様な世界だな。
正直この世界はボクが治める価値がない。人類はまた自壊していくだろう。
魔物ではなく同じ人類の手に寄って壊されていく。この町と同じ様に幼い人類は自らを生み出す母を解体するのだ。
門番の愚弄する行為には腹を立てたが、今は別の事で腹が立っている。この町の余りにも酷い現状にだ。
良かろう。ラースフィールドとか言う烏合の衆を蹴散らしてやるか。
ボクがこの町の現状を変えてしまっても良いのだろう?
ケイジに話し掛ける。
「おい。ケイジ。この町で依頼を受けるのはやめだ。ラースフィールドを壊滅させるまで闘うぞ。今決めた。必ず滅ぼす。ボクの全力を出してやろう。それがお前への褒美だ。」
「正気か?珍しく情に絆されたのか…いや、君の行動に答えを求める方が愚かだったな。で、どうするんだ。ラースフィールドの居場所も何も分からないが。」
結構格好つけて良い気分…愉悦を感じていたのだが、ケイジの皮肉と具体的な段取りの要求に答えを窮した。
「お前は本当に風流を理解しない男だな。ケイジ。ラースフィールドはこの町に仕掛けてくる。恐らくほぼ毎日のようにな。その時に雑魚を捕まえて大将の居場所を吐かせる。それを何回かやれば元締めまで到着するだろうよ。難しい話じゃない。良くあるやり口さ。」
「そうか。俺はこんな集団と闘ったことは無かったからやり方なんて知らなかったよ。さすがはギルディーンと言った所か。やるじゃないか。」
「フン。誉めても何も出ないぞ。今回の報酬はボクの全力を見る権利だからな。」
「いやもう貰ったような物さ。弾避けの首飾りをくれたじゃないか。これこそ現存する宝貝の様な物だ。後は何もいらないよ。打倒ラースフィールドだな。」
ケイジはそう言うとまた歩みを進め始めた。隈なく町を見て回るつもりらしい。これ以上痛めつけられた町を見て何になるかと言いたい所だが我慢した。
何かアヴァロンに繋がる手掛かりがあるかもしれないし、それに怒りの炎を心の内に灯すには必要な事に思えた。
ボクはラースフィールドが気に入らないが、それだけでは足りない。民生を脅かす害悪だからこそラースフィールドを討つのだ。この町も他の町も元をただせばボクの持ち物だった町な訳だ。そこを理由も無く荒らす賊を許しておく訳にはいかなかった。
またすぐに相まみえる事になるだろう。ボクは夢想から覚めた。
ギルディーンはラースフィールドを狩るのに乗り気なようだ。俺はハッキリ言って乗り気ではなかった。この瓦礫だらけの町を見ているととても自分たちでかなう敵には思えないのだ。一万機の有人機が襲ってくる。それを何度も撃破するのは困難に等しいだろう。
だが家はギルディーンが言い出したら終わるまでは止まれない。
ラースフィールドを打ち倒すまで闘いは続くだろう。敵が最後の一兵まで襲い掛かってくるかは謎だが。ゲートオブアヴァロンの宝貝は一万機を相手にして数が足りるのだろうか?そういう心配もある。
俺達は町を殆ど見て回れた。店は殆ど食料品と武器屋だけだった。ブラックマーケットも存在していたが銃火器の質が悪い。恐らく良質な武器は買い漁られてラースフィールドとの闘いに投入されて持っていた奴は皆死んでしまったのだろう。幸い対竜狙撃銃の銃弾は取り揃えてあった。不思議な事だが有難かった。ラースフィールドとの闘いで有効打になる武器は対竜狙撃銃のみである。銃弾は重く持ち運びに難点があるのでこまめに補給できる場所が必要だった。
この町のブラックマーケットは機能していたので有難い事に対竜狙撃銃の弾が入手できる。武器は駄目でも弾は取り扱いが残っているようだ。
俺達は泊まる宿屋を探した。…町の外れに無傷の宿屋が一つだけあった。中に入ると親父に声を掛ける。ここは酒場を兼ねていない宿屋の様だった。
「親父!ダブルベッドの部屋を一つお願いしたいんだが大丈夫かな。」
「ああ。旦那。大丈夫だぜ。お嬢ちゃんと一緒に泊まるんだな。少し待ってくれ部屋を整えてくる。」
そう言うと親父は二階の宿屋の部屋に上がっていった。ベッドメイキングがまだだったのかもしれない。
しばらくすると親父が戻ってきた。
「旦那。準備は終わったぜ。先に金を頂こうか?食事も食べるかい。」
ギルディーンをちらりと見る。最高級の食事で…と目で語られてしまった。
「ああ。食事は一番グレードの高いもので頼むよ。親父。」
「分かったぜ。さあ部屋に行った行った。」
親父に促されて部屋まで上がっていく。粗末だがダブルベッドが備え付けられている部屋なのは間違いなかった。
「ギルディーン…この宿屋で大丈夫だったかい?」
「ケイジ。ボクは宿屋の質に文句は無いよ。この町で屋根が残っている建物がある自体が奇跡だと思わないか?」
「確かにそう言われてみるとそうだな。町のどの建物も破壊されつくしているもんな。」
「そう言う事だ。今晩辺りにもラースフィールドはまた来るかもしれないな。その時に備えて英気を養っておくといいぞ。ケイジ。」
「ああ…それじゃあもう休む事にしようか?お休みギルディーン。」
「何かあったら叩き起こすからな。ケイジ。お休み。」
町は魔王討伐からずっとお祭りムードだったと思う。俺もギルディーンもそんなムードには慣れる事が出来なかった。そして俺達には…といってもギルディーンに与えられた使命だが、アヴァロンに到着するという大事な目標があった。その為に町中のブラックマーケットや商店を漁ったが収穫は無かった。
最早この祭りに浮かれる町に居る必要も無い。俺達は町から退去する準備を進めていた。
「ケイジ。もうやり残したことは無いかい?ボクは大丈夫だが…。」
「大丈夫さ。次に行く町を決める事にしよう。」
そう言うとイスワルド大陸全図を開く。今は北の外れの国ノースランド王国に居るわけだ。次は中央付近に位置する国、カインポリスを目指してみようと思う。一つ問題があるのだ。この中央や南の国にはハイテク武装集団であるラースフィールドが襲撃を繰り返しているという噂を聞いたことがある。それに俺達が巻き込まれると厄介だ。何せ構成員は千を下らず万に近いというのだ。
それでも一番近場の町はカインポリスという事になる。歩いて一ヶ月程は掛るだろうか?
ここに向かうしかないだろう。俺は意志を決めるとギルディーンに伝えた。
「カインポリスという町に向かう。歩いて一ヶ月程掛かるぞ。それに町にはラースフィールドという武装集団が頻繁に襲撃して来るらしい。」
「良いだろう。中々面白そうじゃないか。ボク達で蹴散らしてしまっても構わないんだろう?」
「目を付けられたら地獄の果てまで追いかけてくるような集団だぞ。なるべく出会わないに越したことは無い連中だ。」
「そうか…殺害衝動は湧かないのかい。アレが湧けばお前はスイッチが入ったように別人になるじゃあないか。」
「今のところは大丈夫だ。俺自身もあまり殺害衝動が湧かない方が良いと思っている。俺が俺で無くなってしまうみたいだからな。」
「自分の中の衝動を否定するんじゃない。受け入れて昇華するんだ。分かったね?ケイジ。殺害衝動を戦闘能力にまで昇華しろ。恐れるんじゃない。」
「ああ…それじゃあカインポリスまで歩いて行くぞ。」
そう告げると俺達は宿を出て町の外まで出ていった。ここから一ヶ月の歩き旅が始まる…
そんな事は思わせないくらいギルディーンの歩みは軽かったのだ。
カインポリスを目指す旅が始まって一ヶ月程が立っていた。ボクは野宿が嫌だったので、携帯する宮殿発生装置を用いて街道に家を作って泊まっていた。これは宮殿を産んだり消したり自由自在の宝貝だ。本当はケイジが泊まるのは許せなかったのだが、これでも究極黄金巫女の従者だ。特別に泊まることを赦してやった。
今はケイジがシャワー室で汗を流している所だ。男は汗臭くなりやすいからこまめにシャワーを浴びる事を命令している。そうしないとケイジは何日でも風呂に入らない勢いなのだ。それは困る。
次はマーリンのお告げ通りラースフィールドとの全面闘争になると言うのだろうか?
ハイテク武装集団一万人ねえ?ボクに言わせてみれば丸腰の兵隊一万人と変わりないのだ。ゲートオブアヴァロンで貫けない装甲など無い。どれも一騎当千の宝貝だ。
この携帯式の宮殿には豪華なベットルームが一つしか着いていないのでケイジは床で寝袋を広げて寝ていた。
多少仲は深まったものの一つのベッドに一緒に寝る事は憚られるのだ。
まあ床もフカフカなのでこれで体を痛めたりする事は無いだろうと思う。
ケイジが風呂から出てきた。何時も着ている黒いコートを羽織っている。もう少し服のバリエーションを増やせば良いのにケイジは黒いコートに執着を持っていた。
ボクの着ている黄金の巫女服の様に機能性が高い服でもあるまいしそんなものは着なければいいのにと思う。
ケイジはボクの思惑など関係なしと言った具合だ。
「お疲れ様。ギルディーン。先に風呂に入らせてもらったぞ。」
「気にするな。ケイジ。こまめに何回でも入って良いぞ。匂いが服についたら捨ててもらうからな。服を買うぐらいの金はあるだろう。」
「まあな。分かったよ。気を付けさせてもらおう。」
「宜しい。今日の所は寝てしまえ。カインポリスがもう見える場所まで来てるからな。」
「ああ…休ませてもらうよ。ギルディーンも寝るのか?」
「そうだね。この宮殿の安全をチェックしてから寝させてもらおう。野盗に襲われるかもしれないからな。」
「そうか。お休み。ギルディーン。」
ボクはケイジを寝かしつけると宮殿のセキュリティシステムを立ち上げた。監視カメラには何も写っていない。問題なし。
中々ハイテクな装置だろう。ゲートオブアヴァロンの中にはこういったハイテクな技術を利用したマシンやオブジェクトが多数あるのだ。
さあボクももう寝ようと思ったその時警報が鳴り響いた。ケイジ…もう寝てるな。仕方ないボクだけで対処するとしよう。我が宮殿を犯そうとするとは不敬千万。処刑に値する。
賊は正面の入り口を攻撃して入ろうとしているらしい。アサルトライフルの発射音が聞こえる。ボクは裏口から宮殿を出た。
正面にボクが出ると機械の鎧、アーマーで身を包んだ賊が現れた。その数、五人だ。
賊の一人が口を開く。
「この家の持ち主は嬢ちゃんかい?命が惜しければ降伏するんだな!命だけは助けてやるぜ!良いこともさせてもらうけどなぁ!」
「チッ!下朗が!貴様らには勿体ないが奥義で葬ろう。」
ゲートオブアヴァロンを多数展開した。
賊が危険を察知してミニガンを乱射してくる。ボクには着弾が無い。弾除けの加護が何重にも掛かっているからだ。
「畜生!何故攻撃が当たらないんだ!おかしいだろ確かに目の前で狙い撃っているてのに!」
フフン…と嘲り嗤う。この世の中には一人や二人喧嘩を売ってはいけない相手がいるんだ。その内の一人がボクだったってだけさ。
「さあ…幕を下ろすぞ。下朗ども。」
「撃て撃て!相手はただの人間だぞ。銃が当たれば殺せるんだ!」
「フン!それが当たらないと言うのが分からないのか。下衆め!消えろ。」
ミニガンやアサルトライフルを狂ったように乱射している賊に対して、ボクはゲートオブアヴァロンから宝貝を射出した。
「ぎゃあ!」
「うぐう!」
「死にたく…死にたくない!」
「うぐぉあ!」
「ひっひええ!ぎゃあ!」
宝貝はアーマーを易々と貫通し中にいた賊を死亡させた。一気に五人撃破。もう立っている者は居ない。
アーマー…利用者の自分自身の力を倍増させ強力な重火器を使用可能にする。また並みの銃弾をも弾く無双の装甲戦車か…ゲートオブアヴァロンの前には動く棺に他ならないね。
こんなもので武装しているだけでラースフィールドという連中はいい気になっているらしい。そろそろ天罰を下す頃かな。民生を脅かすならず者集団。
まあ魔王を倒した後には張り合いが無いけれど良いだろう。殲滅してやろう。
といっても機会があればだ。ケイジがやらないというならば狩らなくても別に良いか。
ボクはそう考えながら宮殿の中に戻ると眠りについてしまった。
翌朝俺は目覚めた。朝日を浴びるために外に出てみるとアーマーに身を包んだ死体が五体あった。皆直立したまま逝ってしまっている。きっとこの宮殿を襲おうとしてギルディーンに裁かれてしまったのだろう。
見た目をただの少女だと思って油断したのが運のツキか。
アーマーの紋章は見たことがある。ラースフィールドの紋章だった。卍に髑髏のデザインだ。
不味いな奴等を敵に回すことになりかねない。昨日この辺りにこいつらが通った事を感づかれてなければ良いのだが…
俺は何時になく焦っていた。ラースフィールドは一万人単位の武装強盗の様なもので、徒党を組んで町を襲っているのだ。
それも生身の人間では勝てないほどの重装甲、重装備に身を包んでいる。
そんなものに目をつけられたらギルディーンはともかく、俺が死んでしまうかもしれない。
ああ厄介事に巻き込まれるのはしょっちゅうだがラースフィールドは桁が違う。死体は野晒しになっているが本当にばれていないんだろうか?
ばれたらどうなる?地獄の果てまでラースフィールドが追っ掛けてくるのだろうか?それとも大量に現れてギルディーン毎殺されてしまうのか?
嫌な予感が止まらなかった。それは胸を打つ楔の様に俺に食い込んでくる。不穏の音だ。
ギルディーンが目覚めてきたようだった。
俺は聞く。
「君がやったのか?ギルディーン。」
「ああ…そうさ。ボクが宮殿を犯す愚物を裁いたんだ。何か問題でも?」
「ラースフィールドに見つかると不味い。あいつらは地獄の果てまでも追いかけてくるぞ。早く死体を埋葬しよう。アーマーのビーコンを辿るにしても時間稼ぎにはなるはずだ。」
「まるでボクがやらかしたみたいな言い方じゃないか。少し予言をしよう。ラースフィールドとやらとはどちらかが滅ぶまで徹底的に闘うことになるぞ。旅の夢見の賢者から神託を預かっているんだ。だから無駄なあがきは止めろ。カインポリスを目指すぞ。もう目と鼻の先だろう?」
「…嘘だろ。ラースフィールドを殲滅できる訳が…無い。大将首を取るのも困難だ。相手はハイテク武装集団だ。君が大丈夫でも俺が持たない。」
「その時はその時さ。ケイジ。言っただろう。死んだら責任をもってアヴァロンまで連れていってやるって。闘って死ぬことに恐怖を覚えるな。ただし闘って死のうとも思うな。分かったか?」
「…ああ。取り敢えずはカインポリスを目指すとしよう。死体はこのままで良い。」
俺は自分の体の中に澱の様なものが溜まる嫌な感覚に身を任せながらカインポリスを目指すことにした。そこが新たな光となるか闘いの闇に繋がっているのかは俺には分からなかった。
残りわずかになった道筋をギルディーンと歩く。一ヶ月歩きとおしだが彼女となら悪い気はしなかった。むしろ嬉しかったのだ。彼女と旅が出来て、少しでも一緒にいる事ができて。だからこそラースフィールドの件は俺の脳裏に嫌な物を感じさせていた。
曰く地獄の使者…ラースフィールドは仲間同士の絆が深い。一人一人の仲間を大切にするため、仇を打つためにどこまでも追い詰めてくると聞いたことがあった。
脂汗が流れる。
奴等に気付かれないだろうか?もし気付かれたとしたらどうするべきか?奴等を一つずつ逃げながら撃破するべきか?それとも此方から乗り込んで行き大将首を取って組織を瓦解させるべきか?
どの答えも正解のような気がするし、また無限に続く練獄への入り口のような気がする。
ラースフィールドは元々はただの愚連隊だったという噂を聞いたことがある。それがアーマーの出る採掘施設を乗っ取ったために手のつけられない暴力集団になったのだ。アーマーは現状最強の防御兵器である。対物ライフルまでの弾は無効化するし、魔法攻撃にも耐性がある。そしてパワーアシスト機能を搭載していて重火器の運用が可能になるわけだ。これにより対人ではアーマー乗りを殺す方法は無いに等しいのだが、ギルディーンの様な想定外の鬼札に対しては弱い。彼女からするとただの木偶の坊に過ぎないだろう。
なのだが…俺に対してはアーマーは脅威そのものである。俺は弾除けの加護も持っていないしアサルトライフルで撃たれたら死ぬ…なので闘い方を工夫しなければならないだろう。それは闘うときに考えよう。今考えても机上の空論に過ぎないからだ。
俺はそんなことをぼうっと考えていた。ギルディーンが覗き込んでくる。
「また夢想をしていたのかい?ケイジ。そんなにラースフィールドが心配か?ボクを信じられないのかい?」
「そんな事はないさ。ギルディーン。君の事は一番に信じているが、俺は自分自身の事を信じきれていないんだ。きっとラースフィールドとの闘いでは足手まといになってしまうだろう。」
「なんだ。そんな事か。君はボクのマスター何だから隠れて縮み上がっていてもボクは責めないよ。それでも殺害衝動が云々言ったらカチンと来るだろうけどね。」
「そういうわけにもいかない。女の子一人を戦わしておいて戦闘には参加しないなんて卑怯者のやることだよ。俺も一人前の男なんだ。ラースフィールドとも闘うさ。どんなに足手まといになってもね。」
「フッ…言うじゃないか。その言葉忘れないぞ。ケイジ。」
「ギルディーンはどんな相手でも怯えることがないんだな。ラースフィールドも全く怖くないのか?」
「まあね。所詮木偶の坊の集団にすぎないよ。遅くて硬い獲物なんて格好の的だ。神代の方が硬くて恐ろしい敵がわんさかいたよ。黄金で出来たゴーレムとかプラチナのスライムとかね。まあ君のような生身の人間には恐ろしい敵になるんだろう。多分銃が怖いんだろうけど、この身には何重にも弾除けの加護がかかっている。その加護を切り崩す事はできないよ。それにケイジ。君にもこれをやろう。」
そう言うとギルディーンはゲートオブアヴァロンを開いた。虹色の首飾りが紫色のゲートから出てくる。俺は受け取り身につけた。
「弾除けの加護が掛かっている逸品だ。君が生きている限りオドを餌にして永続的に発動する。ま、半分祟りや呪いの様なものだね。凡そ弾と言う概念を持つ攻撃はいなせるだろう。その代わり魔法攻撃には効果はないぞ。まあ対人戦闘では役に立つ逸品だろう。」
「ありがとう。ギルディーン。俺の事もちゃんと考えていてくれるんだな。助かる。これでラースフィールドとの闘いでも致命的なダメージを受ける確率は下がるだろう。」
「フフン…褒め称えるが良い。臣下の身の安全を気にかけるのも星を統べる巫女たるボクの役目だ。」
会話を続けながら歩いているとカインポリスの町が眼下に写った。これで一ヶ月の旅は終わる。新たなる旅に移るか…カインポリスに留まるかはまだ考えていなかった。
町の門を潜ろうとする…がイヤに門番のチェックが厳しい。
「止まれ。旅人よ。持ち物を確認させろ。」
アサルトライフルの銃口を向けられた。
ギルディーンは黄金刀一振りだから直ぐにチェックを抜けられたが、俺は対竜狙撃銃にアサルトライフル…それに刀を持っていたためチェックが長引いた。
滞在の目的を聞かれる。ギルディーンは空気を読んで黙っている。こういう時は自分が口を出すと揉めるのが分かっているため大人しい。何時ものお構い無しの究極黄金巫女は何処かに行ってしまうのだ。
「滞在の目的は依頼を受ける事だ。それ以外の目的は無い。」
「…通ってよし。以後は確認は簡略化させてもらう。その為に名前の確認と顔写真を取らせてもらうぞ。」
「俺はケイジ。こっちの女の子はギルディーンだ。後は写真だな。」
俺は特に戸惑いもなく顔を撮らせる。ギルディーンは少し苛ついているようだ。神気が溢れそうになっている。
「さあ…そちらの御嬢さんも写真を撮らせてもらうぞ。」
「勝手にどうぞ。…ケイジ。今日は高い食事を食べさせろ。それで勘弁してやる。」
そう言うとむくれた顔から一転して綺麗な笑顔になるギルディーン。
そして写真を取られた。眉毛がヒクヒク動いている。相当トサカに来ているようだ。
おお怖い怖い…家の究極黄金巫女様は些細な事で逆鱗に触れる事が多い。特に写真を撮るなどもっての他だろう。
とにかく登録の手続きは終わった。これでカインポリスの町に出入りするのは問題がないだろう。
ポチ…ただの人間の事だが…ポチはボクを怒らせるのが得意な様だ。
ボクを写真に納める等、不敬を超えて最早略奪に等しい。
何故ならボクの美しさは一流の芸術品を軽々と超えてしまっているからだ。
あの門番のポチはボクに美的な要素を見出だす事を放棄した上にボクをカメラに納めた。
最早それは略奪ですらなく、芸術の破壊に等しい。
ボクはゲートオブアヴァロンを正直三回程起動しかけた。
まあその位、腹が立ったという事だ。
カインポリスという町を今ケイジと見回っているが、一点を除いて普通の町と変わりがない。
その一点とはまるで戦争中の様な空気が漂っている事だ。建物は破壊され、子を殺された親が咽び泣いている。若者は皆町を守る兵士に駆り出されていた。
商店は最低限の食料を供給する他は軍需品がほとんどさ。その供給線、補給路もやられてしまっているのであろう。置いてある武器は良くてサブマシンガンとか言うちんけな連発銃。酷いとボウガンだ。
この銃で武装する事が恒常化している世界でボウガン一丁で何かに立ち向かう事は自殺に他ならない。
が、店先に置いてある武器の大部分を占めるボウガンは現実は自殺をするより酷い状況である事を暗に訴えかけていた。
全く世界が都市国家レベルまで退化している上に武装した野盗の様な連中が野晒しに成っているとは…別の平行世界で語られる世紀末の荒地の様な世界だな。
正直この世界はボクが治める価値がない。人類はまた自壊していくだろう。
魔物ではなく同じ人類の手に寄って壊されていく。この町と同じ様に幼い人類は自らを生み出す母を解体するのだ。
門番の愚弄する行為には腹を立てたが、今は別の事で腹が立っている。この町の余りにも酷い現状にだ。
良かろう。ラースフィールドとか言う烏合の衆を蹴散らしてやるか。
ボクがこの町の現状を変えてしまっても良いのだろう?
ケイジに話し掛ける。
「おい。ケイジ。この町で依頼を受けるのはやめだ。ラースフィールドを壊滅させるまで闘うぞ。今決めた。必ず滅ぼす。ボクの全力を出してやろう。それがお前への褒美だ。」
「正気か?珍しく情に絆されたのか…いや、君の行動に答えを求める方が愚かだったな。で、どうするんだ。ラースフィールドの居場所も何も分からないが。」
結構格好つけて良い気分…愉悦を感じていたのだが、ケイジの皮肉と具体的な段取りの要求に答えを窮した。
「お前は本当に風流を理解しない男だな。ケイジ。ラースフィールドはこの町に仕掛けてくる。恐らくほぼ毎日のようにな。その時に雑魚を捕まえて大将の居場所を吐かせる。それを何回かやれば元締めまで到着するだろうよ。難しい話じゃない。良くあるやり口さ。」
「そうか。俺はこんな集団と闘ったことは無かったからやり方なんて知らなかったよ。さすがはギルディーンと言った所か。やるじゃないか。」
「フン。誉めても何も出ないぞ。今回の報酬はボクの全力を見る権利だからな。」
「いやもう貰ったような物さ。弾避けの首飾りをくれたじゃないか。これこそ現存する宝貝の様な物だ。後は何もいらないよ。打倒ラースフィールドだな。」
ケイジはそう言うとまた歩みを進め始めた。隈なく町を見て回るつもりらしい。これ以上痛めつけられた町を見て何になるかと言いたい所だが我慢した。
何かアヴァロンに繋がる手掛かりがあるかもしれないし、それに怒りの炎を心の内に灯すには必要な事に思えた。
ボクはラースフィールドが気に入らないが、それだけでは足りない。民生を脅かす害悪だからこそラースフィールドを討つのだ。この町も他の町も元をただせばボクの持ち物だった町な訳だ。そこを理由も無く荒らす賊を許しておく訳にはいかなかった。
またすぐに相まみえる事になるだろう。ボクは夢想から覚めた。
ギルディーンはラースフィールドを狩るのに乗り気なようだ。俺はハッキリ言って乗り気ではなかった。この瓦礫だらけの町を見ているととても自分たちでかなう敵には思えないのだ。一万機の有人機が襲ってくる。それを何度も撃破するのは困難に等しいだろう。
だが家はギルディーンが言い出したら終わるまでは止まれない。
ラースフィールドを打ち倒すまで闘いは続くだろう。敵が最後の一兵まで襲い掛かってくるかは謎だが。ゲートオブアヴァロンの宝貝は一万機を相手にして数が足りるのだろうか?そういう心配もある。
俺達は町を殆ど見て回れた。店は殆ど食料品と武器屋だけだった。ブラックマーケットも存在していたが銃火器の質が悪い。恐らく良質な武器は買い漁られてラースフィールドとの闘いに投入されて持っていた奴は皆死んでしまったのだろう。幸い対竜狙撃銃の銃弾は取り揃えてあった。不思議な事だが有難かった。ラースフィールドとの闘いで有効打になる武器は対竜狙撃銃のみである。銃弾は重く持ち運びに難点があるのでこまめに補給できる場所が必要だった。
この町のブラックマーケットは機能していたので有難い事に対竜狙撃銃の弾が入手できる。武器は駄目でも弾は取り扱いが残っているようだ。
俺達は泊まる宿屋を探した。…町の外れに無傷の宿屋が一つだけあった。中に入ると親父に声を掛ける。ここは酒場を兼ねていない宿屋の様だった。
「親父!ダブルベッドの部屋を一つお願いしたいんだが大丈夫かな。」
「ああ。旦那。大丈夫だぜ。お嬢ちゃんと一緒に泊まるんだな。少し待ってくれ部屋を整えてくる。」
そう言うと親父は二階の宿屋の部屋に上がっていった。ベッドメイキングがまだだったのかもしれない。
しばらくすると親父が戻ってきた。
「旦那。準備は終わったぜ。先に金を頂こうか?食事も食べるかい。」
ギルディーンをちらりと見る。最高級の食事で…と目で語られてしまった。
「ああ。食事は一番グレードの高いもので頼むよ。親父。」
「分かったぜ。さあ部屋に行った行った。」
親父に促されて部屋まで上がっていく。粗末だがダブルベッドが備え付けられている部屋なのは間違いなかった。
「ギルディーン…この宿屋で大丈夫だったかい?」
「ケイジ。ボクは宿屋の質に文句は無いよ。この町で屋根が残っている建物がある自体が奇跡だと思わないか?」
「確かにそう言われてみるとそうだな。町のどの建物も破壊されつくしているもんな。」
「そう言う事だ。今晩辺りにもラースフィールドはまた来るかもしれないな。その時に備えて英気を養っておくといいぞ。ケイジ。」
「ああ…それじゃあもう休む事にしようか?お休みギルディーン。」
「何かあったら叩き起こすからな。ケイジ。お休み。」
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