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その晩は何も起きなかった。夜に目覚めた。月夜が綺麗な夜だった。宿屋から町に出て散歩してみた。相変わらず戦場のような様相を町は呈している。
行き場を失った者たちが寝間着に包まって路上に寝ていた。元々品ぞろえが貧弱な店は閉じている。が、商品は表に出しっぱなしだ。色々と麻痺しているらしい。
これが戦争に負けている町か…戦争と言っても暴力集団との戦争に負けているだけなのだが、彼らには深刻な被害を与えているようだった。
と歩いていると女の子が近寄ってきた。ギルディーンと同じくらいの年に見える。
「あの…お兄さん。私の事を買ってくれませんか?金貨をくれれば何でもします。」
とんでもない提案をしてくる娘だ。断らなくては。間違ってもこの娘を買う選択肢は俺には無い。心はギルディーンに捧げている。それにこの娘を買う事で、この娘の為になるのだろうか…金は今溢れているが恵んでやるわけにもいかないだろう。
「残念だがお断りするよ。君の事は買ってやれないんだ。俺にもこれと決めた人が居てね。」
「そうですか…残念です。他の方を当たりますから結構です。それではさようなら。」
そんな言葉を聞くと少し可哀そうな気持ちが湧いてくる。それに他の奴にこの娘を抱かせて良いのかという疑問もある。
「ちょっとまったお嬢さん。金貨を上げよう。只でな。だから自分を安売りするなよ。」
金貨を投げると片手で受け取る女の子。
「お兄さんは良い人ぶりたいだけですね。それとも不感症なんですか。どちらにしても私を馬鹿にしていますよね。金貨は有り難く頂きますけれど、私に出来る事は何かありませんか?」
一丁前に怒っているようだ。それもそうか彼女は体を売って生きてきたんだ。それを否定する事は彼女自身に泥を掛けて否定する事と何ら変わりがない。
俺は情報源として彼女を買うことにした。そういう買い方もあるだろう。
「馬鹿にはしていない。その代わりに情報を売ってくれ。まず一つアヴァロンへの到達方法の手掛かりを知っているか。二つ、ラースフィールドの襲撃のタイミングを教えてくれるか。」
彼女の目つきが変わった。本気で貢献しようとしているのだろう。
彼女が口を開く。
「アヴァロン?は全くわかりませんわね。ラースフィールドは二日に一回真夜中に攻めてきます。今日は攻めてくる日ではありません。明日の真夜中に攻めてくるでしょう。…これで貴方のお役に立てたんですか?お兄さん。」
「ああ十分だ。アヴァロンについて情報が得られなかったのは残念だけれど。ラースフィールドについて情報が得られたのは僥倖だったと言えるよ。ありがとう。お嬢さん。自分をあまり安売りするなよ。」
「ええ、貴方の様な男もいるんですね。安心しました。この辺りの男は金も払わずに襲ってくるような奴ばかりでしたので…」
「それじゃあな。元気にしろよ。お嬢さん。」
「さようなら。優しいお兄さん。貴方もどうかお元気で。」
俺は少女と別れた。また町の散歩に戻る。有力な情報は得られた。明日の深夜に事は動くだろう。目抜き通りを歩く。どの店も商品を出したまま仕舞っていない。こんなものは誰も盗まないという事だろうか。大量のボウガンに囲まれて一丁だけ拳銃やサブマシンガンが置かれている。こんなもので機械鎧…アーマーを撃破する事は敵わない。ブラックマーケットを覗いた時はアサルトライフルが置いてあったがそれでも有効打にはなり得ないだろう。
俺の持っている対竜狙撃銃やゲートオブアヴァロンの宝貝でなければアーマーの装甲は貫通出来ない。この町で奴らの蛮行を食い止める事が出来るのは俺とギルディーンだけだという事だ。
俺自身の殺害衝動は今の所湧き上がっていない。空っぽの器を満たす衝動。妖魔相手には湧き上がるが人間相手には湧き上がらないのか…自分でも詳しくは良く分かっていないのだ。ラースフィールドを根絶やしにしたいとは思わないが、この町を護るために闘うと言ったギルディーンの言葉には強制力と魅力を感じた。彼女本来のカリスマに当てられているのだろう。
町の裏路地に入った。隔離された密室として働く空間だ。この中には浮浪者の様な男が数人いた。俺を見るとナイフを振りかざして脅してくる。
「兄ちゃん。あんたの身包み全部はがさせてもらうぜ。覚悟しな。」
「ああ…久しぶりに肉が食えそうだ。兄ちゃん。あんたをバラバラにばらして肉にして食ってやるよ。人間の肉はうまいんだ。ヒヒヒヒ…ハヒハヒ。」
「首をねじ切ってオモチャにしてやるよ。覚悟しな。兄ちゃん。」
銃で武装している奴はいない。俺は懐からアサルトライフルを取り出すと逆に威嚇した。
「俺に抵抗すると全員死ぬ事になるぞ。嫌だったらナイフをしまえ。」
男達は薬物で酔っているのか一向にナイフを向けてくるのをやめなかった。
闇夜に銃の発射光が光った。その数は三つ。俺は初めて人を殺した。殺害衝動は湧いていなかったが、仕方なかったんだ。やらなければこちらがやられていた。頭を狙って撃ったので男たちは全員息を引き取っていた。この現場を見られる前に離れないと…そう思い俺は裏路地から出た。
その時さっき話しかけてきた女の子がいた。見られたか…
彼女は口を開く。
「あの三人組を殺したんですね。貴方は殺人者なんですね…」
どう答えた物か逡巡する。警邏に訴えられたら俺は追い回されるかもしれなかった。
少し考えてから口を開く。
「どうしようもなかったんだ。今にも襲い掛かって来そうだったから銃で始末をつけた。それだけだ。」
「信じてあげましょう。あの三人組はここいらでも問題を起こして大変煩わしく思われていたんです。私もお金を払わずに犯された事がありますから。大丈夫です。貴方の味方ですよ。」
「そうだったのか…それでも殺人は殺人だ。内密に頼むよ。」
「朝までには死体は消えているでしょう。この町の魔術師で死体を集めて何やら怪しい事をやっている専門家が居るんです。彼女が死体を持って行ってしまうでしょう。」
「そうか…それなら安心だな。今日はもう宿に戻ろうと思うよ。君も自分の身を気を付けろよ。じゃあな。」
「さようならお兄さん。貴方ちょっとだけ恰好良かったです。それではさようなら。」
少女は去っていた。彼女は結局俺をどう思っていたのだろう。少女に優しいけれど殺人をする二面性のある二重人格の殺人者?
それとも優しくてたまたま殺人をしてしまったお人よしだろうか?どちらかの答えは出なかった。
俺は宿に戻ると寝てしまった。
朝だ。ボクは目覚めた。もうケイジも起きている。ケイジは顔色が悪そうだ。臣下の体調を管理するのも巫女たるボクの務めだ。
「ケイジ。昨日の夜であるいていただろう。何があったか正直に答えろ。」
とカマをかけてみる。実際は出歩いてないかもしれないけれどボクには出かけているように思えたのだ。
ケイジは顔色を変える。観念したといった具合だ。
「昨日の夜は出歩いていてとある少女と出会った。自分を買ってくれと言ってきたから、情報だけを買ってやったんだ。それと路地裏で浮浪者に襲われたから浮浪者を三人殺した。それだけだ。少女から聞いたが死体はこの町の魔術師が回収するから目立たないとの事だ。」
やっぱり吐いたね。性欲に負けずに売春婦を買わなかったところは見事と言うか甲斐性が無いというかどちらにも取れるね。浮浪者の殺害…初めての殺人だったわけか。ケイジの殺人衝動は疼かなかったのだろうか?そこは気になるな。
「殺害衝動のままに人を殺したのかいケイジ?いや怒ってはいないよ。純粋に興味があっただけさ。」
「俺には殺害衝動は湧いていなかった。ただ、ナイフを振り回して危なかったから全員殺してしまったんだ。そこには後悔しかないね。殺さずに収める方法があった気がする。」
「フッ…別に人を殺す事は悪い事ではない。殺す対象にもよるけれどね。そんな喧嘩を売ってくる浮浪者を殺した所で我が臣下たるケイジに罪が問われることは無いさ。どうせお前の事だ。殺す以外に解決方法が無かったとかそんな所だろう。それは致し方無い所だよ。」
「まあな…俺は今後も殺人は避けたい。ラースフィールドを殺すのは仕方ないとしてだ。本当に殺人に快楽を得るようになると悪い意味で自分が自分で無くなってしまう気がするんだ。」
「当たり前だ。殺人快楽者に付き添って生きるほどボクの堪忍袋は長くないぞ。重要な場面以外で安易に人間を殺すなよ。ケイジ。分かったか。」
「分かった。」
そういうとケイジは俯いてしまった。
人間を殺す事は致し方ない場面だけしか許されない。ボクですら殺人衝動を生みかねないので余程の場面以外では人を殺さないのだ。
そも人を殺すという事は同族を殺すという事。タブーに触れるという事だ。これを簡単に行えるものは概して自分の喜びの為に人を殺すものだ。人それを快楽殺人者と呼ぶのだ。
ボクは快楽殺人者ではない。数多の人間を誅罰という形で殺した経験が過去にあるが、そこには一片の楽しさも無かった。
必要があるからイカレタ殺人者や異常な政治犯を殺してきたのだ。そこに快楽は無い。単なる処置に過ぎないのだ。
ボクはこれからも大義無き殺しをするつもりは無いし、ケイジにもさせるつもりは無かった。
殺しは人の心を蝕む。まともな精神構造をしているなら猶更だ。あの時本当に殺すべきだったのかという問いかけが一生続くのだ。そこを割り切れていないと人は発狂する。そして至るのが殺しは楽しいからいくら人間を殺してもいいという考えだ。
これは快楽殺人者の一般的な頭脳だ。残念ながら多くの臣下を抱える中で快楽殺人者を出してしまった事もある。まあその都度発見して処刑してきたのだが。
我が星を統べる日ノ本の国に快楽殺人者は不要だったのだ。
この先ケイジが快楽殺人者に堕ちる事があればボクは即座に処断するつもりであった。
今はまだ悩んでいるから大丈夫であろう。ボクの見込みは正しい。
この男はそう簡単に快楽殺人者に堕ちたりはしないのだ。
後気になると言えば、この町に魔術師が居るとの事だった。そいつの神殿に侵入して情報をせしめないといけないだろう。ラースフィールドしかりアヴァロンしかり何らかの情報を持っているはずだ。
ボクはケイジに話しかけた。
「ラースフィールドについて分かっていることはあるか?」
「今日の真夜中にこの町に攻めてくる。それだけだな。」
「魔術師が居るという話だがそれについて知っていることは?」
「少女から聞いたがこの町に魔術師がいて死体を集めているそうだ。居場所などは不明だな。」
「そうか…今日の日中はその魔術師の神殿を探しに行くぞ。」
「神殿って何なんだ?」
「魔術師が屯している家の様な場所だ。魔術師用語で神殿と呼んでいるんだ。」
「そうなのか。昨日は散々歩きまくってもそんな場所は見当たらなかったんだけれどな。」
「魔術師たるからには居場所を秘匿しているんだ。昨日は特に使わなかったけれどボクの千里眼を使えば居場所は一瞬でバレるさ。まったくこの町に魔術師が居るなんて思わなかったけれどね。…良いニュースさ。アヴァロンへの到達方法を持っているかもしれない。」
ボク達は宿屋で朝食を取ると町に繰り出した。ボクの千里眼で魔術師の居所を割り出す。
瓦礫の街並みの中で地下に神殿を構えているようだ。一瞬で看破できた。魔術的な抵抗能力も検出できない。
ボクは地下室に近い瓦礫の前までやってきた。瓦礫はカモフラージュで巧妙に地下階段までの道筋が隠されていた。ケイジに話しかける。
「突入するけれど準備は良いな。何を見ても驚くんじゃないぞ。魔術師はこの世からもっとも隔絶された自分の世界を持つ存在だ。それを恐れ否定するんじゃない。受け入れ踏破していくんだ。分かったね。」
「分かった。何が起きても驚かない様に心がけよう。」
ボク達は地下室に乗り込んだ。中は暗い。ゲートオブアヴァロンを開くとボクは松明を取り出した。何があっても消えない魔法の松明だ。
辺りを照らしてみる。正直見るに堪えないな。死体を加工した「家具」がひっきりなしに置いてあった。その家具の中には若い少年や少女の物も含まれている。正直相当悪趣味な神殿だ。ちらりとケイジを見てみる。
ブルブルと震えている。相当心理的なダメージを負っているな。仕方ない。
ボクはケイジに変わり先頭を歩いて行く。この血と臓物に塗れた神殿の中に魔術師はいる筈だ。どんどん奥まで進んでいくと行き止まりだった。しかし魔術師の痕跡は無い。近くを探してみると上に上がる階段がある。そこから覚悟を決めてボクは上に登って行った。もしかしたら魔術師と戦闘になるかもしれないからだ。階段を上り切る。そこは商店街の一角に通じていた。店の中の階段を上り切る。店主と目が合った。以外にも眼鏡をかけた若い店主だった。ボクが声を掛ける。
「お前が魔術師か。死霊魔術師と言った所か?何だあの死体の山は。答えてもらおうか。場合によっては即座に処断する。」
「御嬢さん。血の気が凄いねえ。この町でラースフィールドとの争いの犠牲になった犠牲者を生まれ変わらせていただけだよ。やましい事はなあにも無いさ。身元を引き受ける人自体が居ないんだ。死体をどう利用しようと勝手だろ。ちゃんと武器に還元して町の防衛に貢献しているしね。」
そういうと死霊魔術師の女は人間の肉片が付いたアサルトライフルを見せてきた。肉片はチャームの様な物だろうか?迂闊。昨日見回っていてこいつの存在に気付かなかったとはね。ボクも焼きが回ったかもしれなかった。
ケイジはずっと黙りこくっていた。地下の光景が余程堪えたのだろう。逆に私は安心していた。ケイジは快楽殺人者の素養は無いからだ。あんな死体を加工して家具にしている時点で一人も殺したことが無くても快楽殺人者と何ら変わりは無いのだ。
故に私は最初からこの死霊魔術師を一切信頼していなかった。
ゲートオブアヴァロンを開帳する。宝貝を射出寸前の態勢で待たせる。
「やれやれ随分と物騒なお嬢さんだね。旦那。あんたは何もしないのかい…このままじゃ私が殺されてしまうよ。善良な一市民を殺すとなると問題があるんじゃないか。」
「ギルディーン。ゲートオブアヴァロンを収めてくれ。こいつは普通に会話が通じると思うんだ。」
ケイジが邪魔を入れてきた。チッ仕方ないが死霊魔術師の言う通りだ。ここで刃傷沙汰は不味い。
「分かれば良いんだ。分かればね。それで私に何を聞きたいんだ?おすすめの死体家具の作り方?それとも人間の美味しい食べ方の方がよろしいかな?」
ボクは激昂した。噴出する神気で空間が歪曲する。
「おい。死霊魔術師。お前のような悪趣味な快楽殺人者とボク達を一緒にするな。不敬の限度を超えているぞ。ボク達が聞きたいことは二つ。ラースフィールドについての情報とアヴァロンへ到達する方法についてだ。痛い目に遭いたくなければ答えろ。」
「おお怖い怖い…答えさせてもらうとしよう。ラースフィールドは二日に一回襲ってくるね。もうこんなことが始まってから一年になる。襲われるたびに皆闘ったり逃げたりするけど結構な人数の死人が出ているよ。カインポリスの町が無くなって更地になるまではそう残された時間は無いと思うねえ。もう一つアヴァロンについてか…私としては追い求めていないから良くは分からないねえ。アヴァロンについてはなーんにも知らないわ。これが私の答えだよ。」
「分かった。千里眼で見たけど特段嘘はついていないようだ。良いだろう。今日はこの位にしておいてやる。魔術師よ。あまり調子に乗るなよ。お前のようないかれた快楽殺人者が何かして見逃しておくほどボクは甘くない。ゆめ殺人に手を染める事の無いようにな。」
「はいはい。またのお越しを待ってますよ。店の出口から普通に出ていって頂戴。神殿を破壊されたりしたくないからね。今日会ったことはお互い無かった事にしましょう。その方が互いの為になると思うわ。」
「ああ…ギルディーン。早くここを離れるとしよう。俺はさっきから気持ちが悪くて仕方がないんだ。」
「分かった。ここを離れよう。相当まともなお前には堪えただろう。人間の狂気の淵を覗かされて正気を保てというほうが暴論なのかもしれないな。今日の所はゆっくりと休め。良いな。ケイジ。」
俺は死霊魔術師とやらの店を離れた。地下の神殿の映像が頭に焼き付いて離れない。強烈な眩暈や吐き気に今襲われている。信じられない。人間の死体を使ってあんなことをするなんて…正真正銘の異常者だ。三人殺しただけでセンチになっている俺を撥ね飛ばすような「作品」だった。
狂気に蝕まれていると言っても良いだろう。俺のまともなはずの精神は揺さぶられてグチャグチャの混ぜ物みたいになっていく。見てはいけないものを見たというのがあの神殿への率直な反応だ。
何故ギルディーンが平気なのかは聞きたくはない。ギルディーンの治世にもあんなことをしでかす化物のような奴が居たというのだろうか…
ハァハァ…息を整える。狂気に正気が飲まれないようにだ。
フゥ落ち着いた。結局死霊魔術師から得られた情報はあまりプラスになっていない。ラースフィールドに襲われるたびに彼女の作品の素材が多数出る事があるという事だけだった。
アヴァロンについても情報は得られなかった。やはりそう簡単に到達できる場所ではないという事だろう。
先程ギルディーンに促された通り、今日は宿に戻ってゆっくり休もうと思う。余りにも朝からショッキングなものを見過ぎた。
ギルディーンが話しかけてくる。
「顔色が真っ青だが大丈夫か。ケイジ。さっきのが響いたんだろう。」
「正直な話、まったく大丈夫じゃないね。今日は宿屋で休ませてもらうよ。」
「そうした方が良いな。あいつの「作品」をたんまり拝んだんだ。並みの精神をしていたらやられてしまうよ。」
俺達はそう言葉を交わすと宿屋に戻っていった。
その日の深夜まで俺は休んだ。ずっとギルディーンは起きていたようで深夜に叩き起こされる。
「ケイジ。起きろ。ラースフィールドが襲撃してくる時間帯だ。迎え撃つぞ。」
「お早う。ギルディーン。闘わせてもらいますかね。」
俺は対竜狙撃銃に弾を込めると宿に隣接している通りに躍り出た。ギルディーンもついて来る。
俺達は何度も破られているであろう正面入り口まで走っていった。門番に尋ねる。
「ラースフィールドは?まだ来ていないのか?」
「いつもなら来る時間だ。防衛に当たってくれるというなら外に出てくれ。」
「良かろう。門番よ。外までの道を開くがいい。ラースフィールドの相手は任せろ。この究極黄金巫女が預かるぞ。」
「ああ…あんた達の力も借りるぞ。頑張って追い返してくれ。」
「別に全て狩り尽くしてしまってもいいのだろう。ケイジ。行くぞ。」
俺達は町の外に出た。他にも義勇兵が何十人か居る。
しばらく待っているとラースフィールドが襲撃してきた。夜空にアサルトライフルを乱射しながら、アーマーのブラスターを吹かしてやってくるラースフィールド。三百人はいる筈だ。距離は五百メートル程だ。義勇兵は各々持っている銃火器で応戦を始めたがまるで効いている気配がない。それもそのはず良くてアサルトライフルしか彼らは持っていない。これでは奴らに有効打を与えられないのだ。交戦距離が長すぎるのも原因ではある。
俺は対竜狙撃銃を構えて、ラースフィールドのアーマーの胴体を狙って発射した。重い発射音とともにラースフィールド兵が倒れた。奴らに若干の動揺が広まっているようだ。
今まで狩り尽くすだけで抵抗などされなかったからであろう。
俺はその後も連続で対竜狙撃銃を発射していく。撃つ度にラースフィールド兵が死んでいった。その数十人に登ろうとしていた。
ラースフィールド兵との距離は五十mまで近寄っている。アサルトライフルを乱射して撃ってくるラースフィールド兵。義勇兵は物陰に隠れながら応戦している。そろそろ対竜狙撃銃での対応が難しくなっていた。ギルディーンに目配せする。任せろと言わんばかりだ。
ギリギリと俺のオドが痛む。ギルディーンは最大級の魔力行使をしようとしている事が分かった。
「ゲートオブアヴァロン!五百門開帳!全弾断続斉射発射用意!撃て!」
そう気迫を込めるとギルディーンの周りには無数の紫色の門が開いていった。ここまでの数を見たことが無い。
そして宝貝が全門に装填され続々と発射されていく。ラースフィールド兵は次々と宝貝で串刺しになり絶命していった。着弾した宝貝はファンタズムボムにより爆発するように加工されているようでそれが更に破壊力に拍車を掛けている。
付近を埋め尽くすように居たラースフィールド兵は最早五十名ほどしか残っていなかった。
ギルディーンはさらに追い打ちをかける。
「ゲートオブアヴァロン!岩斬剣。射出!」
巨大な岩の塊ともいえる剣がゲートオブアヴァロンから射出されラースフィールドの残党めがけて飛んでいく。そして残りのラースフィールド兵を叩き砕き押し潰した。残るは二、三兵のみだ。
こちらの義勇軍側からは歓声が上がった。皆ギルディーンを讃えている。
ギルディーンは良いぞ!とく許す!と嬉しそうに歓声に答えていた。だがまだやることがある。
一息の間にギルディーンは瞬間移動すると生き残りのラースフィールド兵の前に現れた。ゲートオブアヴァロンをちらつかせて拘束する。
「少し聞きたいことがある。お前達のボスは何処に居るんだ。肉塊になりたくなければ早く答えろ。」
「へっ答えるわけないだろ。お嬢ちゃんよ。俺達が仲間を売るわけないだろ。」
「ほう…言うではないか。試させてもらおう。」
そうギルディーンが言うとラースフィールド兵の右腕がゲートオブアヴァロンの宝貝で切断された。
「ぎゃああああああ!言います。言いますから。助けて。」
「分かればよろしい。お前達のボスは何処に居る?」
「バッカニア渓谷。この町から北西にあるバッカニア渓谷に居ます!」
「そいつは大将首なのか?」
「いいえ。俺達下っ端をまとめる隊長の様な物です。首領には俺は会ったことはありません。」
千里眼を使うギルディーン。
「フーン。嘘はついていないみたいだねえ。まあ良いだろう。次の目的地はバッカニア渓谷だぞ。ケイジ。良いな。」
そういうと彼女はラースフィールド兵を離してやった。腕を失い敗走したうえでどうなるかは想像したくも無かったが。結局ラースフィールド側で処刑される可能性が高いであろう。
「究極黄金巫女!万歳!究極黄金巫女!凄いぞ!究極黄金巫女!万歳!…」
ギルディーンを讃える歓声を浴びながら俺達は宿屋に戻った。
全力の力を行使して三百機のアーマーを無力化するとはギルディーンの実力は想定外だ。俺のオドが多少痛んだがそんな事はどうでもよかった。俺も彼女に称賛を伝えた。
「流石だな。ギルディーン。本気を出した君の怖さを思いきったよ。ラースフィールドがまるでごみ切れのようにズタズタにされるなんて思いもよらなかった。星を統べる巫女の本気というわけだな。」
ギルディーンは嬉しそうだ。
「まああのくらいはね。それに本当の意味で本気は出していない。あんな雑魚どもに使うのが勿体ない宝貝があるんだ。それを使わざる終えないときがボクの本気中の本気さ。」
「あれでまだ奥の手を隠しているとは…それは無銘創世剣の事か?」
ギルディーンは眉を少し動かす。気に障っただろうか。
「お前の前で一度使ったことがあったな。ケイジ。そうともあの無銘創世剣がボクの切り札さ。あの剣の前に倒れぬ者はいない。一撃必倒の技を放てるんだ。恐らくラースフィールド相手に使うことはないだろう。そこまでの猛者はいないはずだ。さあもう寝るぞ。」
そう告げるとギルディーンは眠りについてしまった。俺も眠りにつくことにしよう。
外では未だに勝鬨が上がっている。余程嬉しかったのだろう。今まで負け戦しかなかったんだ。仕方あるまい。
行き場を失った者たちが寝間着に包まって路上に寝ていた。元々品ぞろえが貧弱な店は閉じている。が、商品は表に出しっぱなしだ。色々と麻痺しているらしい。
これが戦争に負けている町か…戦争と言っても暴力集団との戦争に負けているだけなのだが、彼らには深刻な被害を与えているようだった。
と歩いていると女の子が近寄ってきた。ギルディーンと同じくらいの年に見える。
「あの…お兄さん。私の事を買ってくれませんか?金貨をくれれば何でもします。」
とんでもない提案をしてくる娘だ。断らなくては。間違ってもこの娘を買う選択肢は俺には無い。心はギルディーンに捧げている。それにこの娘を買う事で、この娘の為になるのだろうか…金は今溢れているが恵んでやるわけにもいかないだろう。
「残念だがお断りするよ。君の事は買ってやれないんだ。俺にもこれと決めた人が居てね。」
「そうですか…残念です。他の方を当たりますから結構です。それではさようなら。」
そんな言葉を聞くと少し可哀そうな気持ちが湧いてくる。それに他の奴にこの娘を抱かせて良いのかという疑問もある。
「ちょっとまったお嬢さん。金貨を上げよう。只でな。だから自分を安売りするなよ。」
金貨を投げると片手で受け取る女の子。
「お兄さんは良い人ぶりたいだけですね。それとも不感症なんですか。どちらにしても私を馬鹿にしていますよね。金貨は有り難く頂きますけれど、私に出来る事は何かありませんか?」
一丁前に怒っているようだ。それもそうか彼女は体を売って生きてきたんだ。それを否定する事は彼女自身に泥を掛けて否定する事と何ら変わりがない。
俺は情報源として彼女を買うことにした。そういう買い方もあるだろう。
「馬鹿にはしていない。その代わりに情報を売ってくれ。まず一つアヴァロンへの到達方法の手掛かりを知っているか。二つ、ラースフィールドの襲撃のタイミングを教えてくれるか。」
彼女の目つきが変わった。本気で貢献しようとしているのだろう。
彼女が口を開く。
「アヴァロン?は全くわかりませんわね。ラースフィールドは二日に一回真夜中に攻めてきます。今日は攻めてくる日ではありません。明日の真夜中に攻めてくるでしょう。…これで貴方のお役に立てたんですか?お兄さん。」
「ああ十分だ。アヴァロンについて情報が得られなかったのは残念だけれど。ラースフィールドについて情報が得られたのは僥倖だったと言えるよ。ありがとう。お嬢さん。自分をあまり安売りするなよ。」
「ええ、貴方の様な男もいるんですね。安心しました。この辺りの男は金も払わずに襲ってくるような奴ばかりでしたので…」
「それじゃあな。元気にしろよ。お嬢さん。」
「さようなら。優しいお兄さん。貴方もどうかお元気で。」
俺は少女と別れた。また町の散歩に戻る。有力な情報は得られた。明日の深夜に事は動くだろう。目抜き通りを歩く。どの店も商品を出したまま仕舞っていない。こんなものは誰も盗まないという事だろうか。大量のボウガンに囲まれて一丁だけ拳銃やサブマシンガンが置かれている。こんなもので機械鎧…アーマーを撃破する事は敵わない。ブラックマーケットを覗いた時はアサルトライフルが置いてあったがそれでも有効打にはなり得ないだろう。
俺の持っている対竜狙撃銃やゲートオブアヴァロンの宝貝でなければアーマーの装甲は貫通出来ない。この町で奴らの蛮行を食い止める事が出来るのは俺とギルディーンだけだという事だ。
俺自身の殺害衝動は今の所湧き上がっていない。空っぽの器を満たす衝動。妖魔相手には湧き上がるが人間相手には湧き上がらないのか…自分でも詳しくは良く分かっていないのだ。ラースフィールドを根絶やしにしたいとは思わないが、この町を護るために闘うと言ったギルディーンの言葉には強制力と魅力を感じた。彼女本来のカリスマに当てられているのだろう。
町の裏路地に入った。隔離された密室として働く空間だ。この中には浮浪者の様な男が数人いた。俺を見るとナイフを振りかざして脅してくる。
「兄ちゃん。あんたの身包み全部はがさせてもらうぜ。覚悟しな。」
「ああ…久しぶりに肉が食えそうだ。兄ちゃん。あんたをバラバラにばらして肉にして食ってやるよ。人間の肉はうまいんだ。ヒヒヒヒ…ハヒハヒ。」
「首をねじ切ってオモチャにしてやるよ。覚悟しな。兄ちゃん。」
銃で武装している奴はいない。俺は懐からアサルトライフルを取り出すと逆に威嚇した。
「俺に抵抗すると全員死ぬ事になるぞ。嫌だったらナイフをしまえ。」
男達は薬物で酔っているのか一向にナイフを向けてくるのをやめなかった。
闇夜に銃の発射光が光った。その数は三つ。俺は初めて人を殺した。殺害衝動は湧いていなかったが、仕方なかったんだ。やらなければこちらがやられていた。頭を狙って撃ったので男たちは全員息を引き取っていた。この現場を見られる前に離れないと…そう思い俺は裏路地から出た。
その時さっき話しかけてきた女の子がいた。見られたか…
彼女は口を開く。
「あの三人組を殺したんですね。貴方は殺人者なんですね…」
どう答えた物か逡巡する。警邏に訴えられたら俺は追い回されるかもしれなかった。
少し考えてから口を開く。
「どうしようもなかったんだ。今にも襲い掛かって来そうだったから銃で始末をつけた。それだけだ。」
「信じてあげましょう。あの三人組はここいらでも問題を起こして大変煩わしく思われていたんです。私もお金を払わずに犯された事がありますから。大丈夫です。貴方の味方ですよ。」
「そうだったのか…それでも殺人は殺人だ。内密に頼むよ。」
「朝までには死体は消えているでしょう。この町の魔術師で死体を集めて何やら怪しい事をやっている専門家が居るんです。彼女が死体を持って行ってしまうでしょう。」
「そうか…それなら安心だな。今日はもう宿に戻ろうと思うよ。君も自分の身を気を付けろよ。じゃあな。」
「さようならお兄さん。貴方ちょっとだけ恰好良かったです。それではさようなら。」
少女は去っていた。彼女は結局俺をどう思っていたのだろう。少女に優しいけれど殺人をする二面性のある二重人格の殺人者?
それとも優しくてたまたま殺人をしてしまったお人よしだろうか?どちらかの答えは出なかった。
俺は宿に戻ると寝てしまった。
朝だ。ボクは目覚めた。もうケイジも起きている。ケイジは顔色が悪そうだ。臣下の体調を管理するのも巫女たるボクの務めだ。
「ケイジ。昨日の夜であるいていただろう。何があったか正直に答えろ。」
とカマをかけてみる。実際は出歩いてないかもしれないけれどボクには出かけているように思えたのだ。
ケイジは顔色を変える。観念したといった具合だ。
「昨日の夜は出歩いていてとある少女と出会った。自分を買ってくれと言ってきたから、情報だけを買ってやったんだ。それと路地裏で浮浪者に襲われたから浮浪者を三人殺した。それだけだ。少女から聞いたが死体はこの町の魔術師が回収するから目立たないとの事だ。」
やっぱり吐いたね。性欲に負けずに売春婦を買わなかったところは見事と言うか甲斐性が無いというかどちらにも取れるね。浮浪者の殺害…初めての殺人だったわけか。ケイジの殺人衝動は疼かなかったのだろうか?そこは気になるな。
「殺害衝動のままに人を殺したのかいケイジ?いや怒ってはいないよ。純粋に興味があっただけさ。」
「俺には殺害衝動は湧いていなかった。ただ、ナイフを振り回して危なかったから全員殺してしまったんだ。そこには後悔しかないね。殺さずに収める方法があった気がする。」
「フッ…別に人を殺す事は悪い事ではない。殺す対象にもよるけれどね。そんな喧嘩を売ってくる浮浪者を殺した所で我が臣下たるケイジに罪が問われることは無いさ。どうせお前の事だ。殺す以外に解決方法が無かったとかそんな所だろう。それは致し方無い所だよ。」
「まあな…俺は今後も殺人は避けたい。ラースフィールドを殺すのは仕方ないとしてだ。本当に殺人に快楽を得るようになると悪い意味で自分が自分で無くなってしまう気がするんだ。」
「当たり前だ。殺人快楽者に付き添って生きるほどボクの堪忍袋は長くないぞ。重要な場面以外で安易に人間を殺すなよ。ケイジ。分かったか。」
「分かった。」
そういうとケイジは俯いてしまった。
人間を殺す事は致し方ない場面だけしか許されない。ボクですら殺人衝動を生みかねないので余程の場面以外では人を殺さないのだ。
そも人を殺すという事は同族を殺すという事。タブーに触れるという事だ。これを簡単に行えるものは概して自分の喜びの為に人を殺すものだ。人それを快楽殺人者と呼ぶのだ。
ボクは快楽殺人者ではない。数多の人間を誅罰という形で殺した経験が過去にあるが、そこには一片の楽しさも無かった。
必要があるからイカレタ殺人者や異常な政治犯を殺してきたのだ。そこに快楽は無い。単なる処置に過ぎないのだ。
ボクはこれからも大義無き殺しをするつもりは無いし、ケイジにもさせるつもりは無かった。
殺しは人の心を蝕む。まともな精神構造をしているなら猶更だ。あの時本当に殺すべきだったのかという問いかけが一生続くのだ。そこを割り切れていないと人は発狂する。そして至るのが殺しは楽しいからいくら人間を殺してもいいという考えだ。
これは快楽殺人者の一般的な頭脳だ。残念ながら多くの臣下を抱える中で快楽殺人者を出してしまった事もある。まあその都度発見して処刑してきたのだが。
我が星を統べる日ノ本の国に快楽殺人者は不要だったのだ。
この先ケイジが快楽殺人者に堕ちる事があればボクは即座に処断するつもりであった。
今はまだ悩んでいるから大丈夫であろう。ボクの見込みは正しい。
この男はそう簡単に快楽殺人者に堕ちたりはしないのだ。
後気になると言えば、この町に魔術師が居るとの事だった。そいつの神殿に侵入して情報をせしめないといけないだろう。ラースフィールドしかりアヴァロンしかり何らかの情報を持っているはずだ。
ボクはケイジに話しかけた。
「ラースフィールドについて分かっていることはあるか?」
「今日の真夜中にこの町に攻めてくる。それだけだな。」
「魔術師が居るという話だがそれについて知っていることは?」
「少女から聞いたがこの町に魔術師がいて死体を集めているそうだ。居場所などは不明だな。」
「そうか…今日の日中はその魔術師の神殿を探しに行くぞ。」
「神殿って何なんだ?」
「魔術師が屯している家の様な場所だ。魔術師用語で神殿と呼んでいるんだ。」
「そうなのか。昨日は散々歩きまくってもそんな場所は見当たらなかったんだけれどな。」
「魔術師たるからには居場所を秘匿しているんだ。昨日は特に使わなかったけれどボクの千里眼を使えば居場所は一瞬でバレるさ。まったくこの町に魔術師が居るなんて思わなかったけれどね。…良いニュースさ。アヴァロンへの到達方法を持っているかもしれない。」
ボク達は宿屋で朝食を取ると町に繰り出した。ボクの千里眼で魔術師の居所を割り出す。
瓦礫の街並みの中で地下に神殿を構えているようだ。一瞬で看破できた。魔術的な抵抗能力も検出できない。
ボクは地下室に近い瓦礫の前までやってきた。瓦礫はカモフラージュで巧妙に地下階段までの道筋が隠されていた。ケイジに話しかける。
「突入するけれど準備は良いな。何を見ても驚くんじゃないぞ。魔術師はこの世からもっとも隔絶された自分の世界を持つ存在だ。それを恐れ否定するんじゃない。受け入れ踏破していくんだ。分かったね。」
「分かった。何が起きても驚かない様に心がけよう。」
ボク達は地下室に乗り込んだ。中は暗い。ゲートオブアヴァロンを開くとボクは松明を取り出した。何があっても消えない魔法の松明だ。
辺りを照らしてみる。正直見るに堪えないな。死体を加工した「家具」がひっきりなしに置いてあった。その家具の中には若い少年や少女の物も含まれている。正直相当悪趣味な神殿だ。ちらりとケイジを見てみる。
ブルブルと震えている。相当心理的なダメージを負っているな。仕方ない。
ボクはケイジに変わり先頭を歩いて行く。この血と臓物に塗れた神殿の中に魔術師はいる筈だ。どんどん奥まで進んでいくと行き止まりだった。しかし魔術師の痕跡は無い。近くを探してみると上に上がる階段がある。そこから覚悟を決めてボクは上に登って行った。もしかしたら魔術師と戦闘になるかもしれないからだ。階段を上り切る。そこは商店街の一角に通じていた。店の中の階段を上り切る。店主と目が合った。以外にも眼鏡をかけた若い店主だった。ボクが声を掛ける。
「お前が魔術師か。死霊魔術師と言った所か?何だあの死体の山は。答えてもらおうか。場合によっては即座に処断する。」
「御嬢さん。血の気が凄いねえ。この町でラースフィールドとの争いの犠牲になった犠牲者を生まれ変わらせていただけだよ。やましい事はなあにも無いさ。身元を引き受ける人自体が居ないんだ。死体をどう利用しようと勝手だろ。ちゃんと武器に還元して町の防衛に貢献しているしね。」
そういうと死霊魔術師の女は人間の肉片が付いたアサルトライフルを見せてきた。肉片はチャームの様な物だろうか?迂闊。昨日見回っていてこいつの存在に気付かなかったとはね。ボクも焼きが回ったかもしれなかった。
ケイジはずっと黙りこくっていた。地下の光景が余程堪えたのだろう。逆に私は安心していた。ケイジは快楽殺人者の素養は無いからだ。あんな死体を加工して家具にしている時点で一人も殺したことが無くても快楽殺人者と何ら変わりは無いのだ。
故に私は最初からこの死霊魔術師を一切信頼していなかった。
ゲートオブアヴァロンを開帳する。宝貝を射出寸前の態勢で待たせる。
「やれやれ随分と物騒なお嬢さんだね。旦那。あんたは何もしないのかい…このままじゃ私が殺されてしまうよ。善良な一市民を殺すとなると問題があるんじゃないか。」
「ギルディーン。ゲートオブアヴァロンを収めてくれ。こいつは普通に会話が通じると思うんだ。」
ケイジが邪魔を入れてきた。チッ仕方ないが死霊魔術師の言う通りだ。ここで刃傷沙汰は不味い。
「分かれば良いんだ。分かればね。それで私に何を聞きたいんだ?おすすめの死体家具の作り方?それとも人間の美味しい食べ方の方がよろしいかな?」
ボクは激昂した。噴出する神気で空間が歪曲する。
「おい。死霊魔術師。お前のような悪趣味な快楽殺人者とボク達を一緒にするな。不敬の限度を超えているぞ。ボク達が聞きたいことは二つ。ラースフィールドについての情報とアヴァロンへ到達する方法についてだ。痛い目に遭いたくなければ答えろ。」
「おお怖い怖い…答えさせてもらうとしよう。ラースフィールドは二日に一回襲ってくるね。もうこんなことが始まってから一年になる。襲われるたびに皆闘ったり逃げたりするけど結構な人数の死人が出ているよ。カインポリスの町が無くなって更地になるまではそう残された時間は無いと思うねえ。もう一つアヴァロンについてか…私としては追い求めていないから良くは分からないねえ。アヴァロンについてはなーんにも知らないわ。これが私の答えだよ。」
「分かった。千里眼で見たけど特段嘘はついていないようだ。良いだろう。今日はこの位にしておいてやる。魔術師よ。あまり調子に乗るなよ。お前のようないかれた快楽殺人者が何かして見逃しておくほどボクは甘くない。ゆめ殺人に手を染める事の無いようにな。」
「はいはい。またのお越しを待ってますよ。店の出口から普通に出ていって頂戴。神殿を破壊されたりしたくないからね。今日会ったことはお互い無かった事にしましょう。その方が互いの為になると思うわ。」
「ああ…ギルディーン。早くここを離れるとしよう。俺はさっきから気持ちが悪くて仕方がないんだ。」
「分かった。ここを離れよう。相当まともなお前には堪えただろう。人間の狂気の淵を覗かされて正気を保てというほうが暴論なのかもしれないな。今日の所はゆっくりと休め。良いな。ケイジ。」
俺は死霊魔術師とやらの店を離れた。地下の神殿の映像が頭に焼き付いて離れない。強烈な眩暈や吐き気に今襲われている。信じられない。人間の死体を使ってあんなことをするなんて…正真正銘の異常者だ。三人殺しただけでセンチになっている俺を撥ね飛ばすような「作品」だった。
狂気に蝕まれていると言っても良いだろう。俺のまともなはずの精神は揺さぶられてグチャグチャの混ぜ物みたいになっていく。見てはいけないものを見たというのがあの神殿への率直な反応だ。
何故ギルディーンが平気なのかは聞きたくはない。ギルディーンの治世にもあんなことをしでかす化物のような奴が居たというのだろうか…
ハァハァ…息を整える。狂気に正気が飲まれないようにだ。
フゥ落ち着いた。結局死霊魔術師から得られた情報はあまりプラスになっていない。ラースフィールドに襲われるたびに彼女の作品の素材が多数出る事があるという事だけだった。
アヴァロンについても情報は得られなかった。やはりそう簡単に到達できる場所ではないという事だろう。
先程ギルディーンに促された通り、今日は宿に戻ってゆっくり休もうと思う。余りにも朝からショッキングなものを見過ぎた。
ギルディーンが話しかけてくる。
「顔色が真っ青だが大丈夫か。ケイジ。さっきのが響いたんだろう。」
「正直な話、まったく大丈夫じゃないね。今日は宿屋で休ませてもらうよ。」
「そうした方が良いな。あいつの「作品」をたんまり拝んだんだ。並みの精神をしていたらやられてしまうよ。」
俺達はそう言葉を交わすと宿屋に戻っていった。
その日の深夜まで俺は休んだ。ずっとギルディーンは起きていたようで深夜に叩き起こされる。
「ケイジ。起きろ。ラースフィールドが襲撃してくる時間帯だ。迎え撃つぞ。」
「お早う。ギルディーン。闘わせてもらいますかね。」
俺は対竜狙撃銃に弾を込めると宿に隣接している通りに躍り出た。ギルディーンもついて来る。
俺達は何度も破られているであろう正面入り口まで走っていった。門番に尋ねる。
「ラースフィールドは?まだ来ていないのか?」
「いつもなら来る時間だ。防衛に当たってくれるというなら外に出てくれ。」
「良かろう。門番よ。外までの道を開くがいい。ラースフィールドの相手は任せろ。この究極黄金巫女が預かるぞ。」
「ああ…あんた達の力も借りるぞ。頑張って追い返してくれ。」
「別に全て狩り尽くしてしまってもいいのだろう。ケイジ。行くぞ。」
俺達は町の外に出た。他にも義勇兵が何十人か居る。
しばらく待っているとラースフィールドが襲撃してきた。夜空にアサルトライフルを乱射しながら、アーマーのブラスターを吹かしてやってくるラースフィールド。三百人はいる筈だ。距離は五百メートル程だ。義勇兵は各々持っている銃火器で応戦を始めたがまるで効いている気配がない。それもそのはず良くてアサルトライフルしか彼らは持っていない。これでは奴らに有効打を与えられないのだ。交戦距離が長すぎるのも原因ではある。
俺は対竜狙撃銃を構えて、ラースフィールドのアーマーの胴体を狙って発射した。重い発射音とともにラースフィールド兵が倒れた。奴らに若干の動揺が広まっているようだ。
今まで狩り尽くすだけで抵抗などされなかったからであろう。
俺はその後も連続で対竜狙撃銃を発射していく。撃つ度にラースフィールド兵が死んでいった。その数十人に登ろうとしていた。
ラースフィールド兵との距離は五十mまで近寄っている。アサルトライフルを乱射して撃ってくるラースフィールド兵。義勇兵は物陰に隠れながら応戦している。そろそろ対竜狙撃銃での対応が難しくなっていた。ギルディーンに目配せする。任せろと言わんばかりだ。
ギリギリと俺のオドが痛む。ギルディーンは最大級の魔力行使をしようとしている事が分かった。
「ゲートオブアヴァロン!五百門開帳!全弾断続斉射発射用意!撃て!」
そう気迫を込めるとギルディーンの周りには無数の紫色の門が開いていった。ここまでの数を見たことが無い。
そして宝貝が全門に装填され続々と発射されていく。ラースフィールド兵は次々と宝貝で串刺しになり絶命していった。着弾した宝貝はファンタズムボムにより爆発するように加工されているようでそれが更に破壊力に拍車を掛けている。
付近を埋め尽くすように居たラースフィールド兵は最早五十名ほどしか残っていなかった。
ギルディーンはさらに追い打ちをかける。
「ゲートオブアヴァロン!岩斬剣。射出!」
巨大な岩の塊ともいえる剣がゲートオブアヴァロンから射出されラースフィールドの残党めがけて飛んでいく。そして残りのラースフィールド兵を叩き砕き押し潰した。残るは二、三兵のみだ。
こちらの義勇軍側からは歓声が上がった。皆ギルディーンを讃えている。
ギルディーンは良いぞ!とく許す!と嬉しそうに歓声に答えていた。だがまだやることがある。
一息の間にギルディーンは瞬間移動すると生き残りのラースフィールド兵の前に現れた。ゲートオブアヴァロンをちらつかせて拘束する。
「少し聞きたいことがある。お前達のボスは何処に居るんだ。肉塊になりたくなければ早く答えろ。」
「へっ答えるわけないだろ。お嬢ちゃんよ。俺達が仲間を売るわけないだろ。」
「ほう…言うではないか。試させてもらおう。」
そうギルディーンが言うとラースフィールド兵の右腕がゲートオブアヴァロンの宝貝で切断された。
「ぎゃああああああ!言います。言いますから。助けて。」
「分かればよろしい。お前達のボスは何処に居る?」
「バッカニア渓谷。この町から北西にあるバッカニア渓谷に居ます!」
「そいつは大将首なのか?」
「いいえ。俺達下っ端をまとめる隊長の様な物です。首領には俺は会ったことはありません。」
千里眼を使うギルディーン。
「フーン。嘘はついていないみたいだねえ。まあ良いだろう。次の目的地はバッカニア渓谷だぞ。ケイジ。良いな。」
そういうと彼女はラースフィールド兵を離してやった。腕を失い敗走したうえでどうなるかは想像したくも無かったが。結局ラースフィールド側で処刑される可能性が高いであろう。
「究極黄金巫女!万歳!究極黄金巫女!凄いぞ!究極黄金巫女!万歳!…」
ギルディーンを讃える歓声を浴びながら俺達は宿屋に戻った。
全力の力を行使して三百機のアーマーを無力化するとはギルディーンの実力は想定外だ。俺のオドが多少痛んだがそんな事はどうでもよかった。俺も彼女に称賛を伝えた。
「流石だな。ギルディーン。本気を出した君の怖さを思いきったよ。ラースフィールドがまるでごみ切れのようにズタズタにされるなんて思いもよらなかった。星を統べる巫女の本気というわけだな。」
ギルディーンは嬉しそうだ。
「まああのくらいはね。それに本当の意味で本気は出していない。あんな雑魚どもに使うのが勿体ない宝貝があるんだ。それを使わざる終えないときがボクの本気中の本気さ。」
「あれでまだ奥の手を隠しているとは…それは無銘創世剣の事か?」
ギルディーンは眉を少し動かす。気に障っただろうか。
「お前の前で一度使ったことがあったな。ケイジ。そうともあの無銘創世剣がボクの切り札さ。あの剣の前に倒れぬ者はいない。一撃必倒の技を放てるんだ。恐らくラースフィールド相手に使うことはないだろう。そこまでの猛者はいないはずだ。さあもう寝るぞ。」
そう告げるとギルディーンは眠りについてしまった。俺も眠りにつくことにしよう。
外では未だに勝鬨が上がっている。余程嬉しかったのだろう。今まで負け戦しかなかったんだ。仕方あるまい。
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