7 / 10
3.3
しおりを挟む
翌日に目が覚めた。ケイジはまだ眠っているらしい。ボクは朝の散歩に出かけることにした。しばらく歩いたが出会う人、皆から称賛を浴びる。
「究極黄金巫女様!最強は貴女だ!いつまでもカインポリスの町に居てください。」
「究極黄金巫女様!万歳!カインポリスを治めて下さい!」
「究極黄金巫女様!貴女は美しく強い!弟子入りさせて下さい!」
ボクは適当に笑顔であしらうと歩いていった。例の死霊魔術師の店に出向く。門の外の大量の死体の山は朝起きるときれいさっぱり無くなっていた。あいつが「作品」を作るのに利用しているに違いなかった。アーマーまで無くなっていたんだがアーマーごと「作品」にしたのだろうか?
奴がいた。
「やあ!究極黄金巫女様!一躍時の人じゃあないか。」
「お前も素材が集まって良かったな。アーマーまで集めたのか?」
「いいや。その中の新鮮な死体だけを頂戴したんだ。アーマーは義勇兵の連中が猫ババしたんじゃないかな。爆発して殺されていたのにね。何機がまともに使えるんだか。私は疑問に思うね。」
「フーン。そうか。それで、お前はラースフィールドもお構い無く家具にしたんだな。あいつらだって昨日までは生きていたのにな。死ぬだけでなく家具や武器に加工されるなんて…気色の悪い趣味だな。醜悪だ。手打ちにしたくなるね。」
「まあまそんな事は言わない言わない。人の趣味というか生計に口を出すのはいけないでしょう。わざわざやって来て「私これ嫌い!」って言うのはどうかと思うわ。」
本当に醜悪な悪だな。ラースフィールドと違って表立っていないだけでこいつの醜悪さには反吐を吐きそうになる。
人間の死体を加工して家具を作るだと…それも無数に。人死にが多いからカインポリスに居るのかもしれない。ここなら定期的に義勇兵の死者がでるだろう。
それに昨日は何百人も追加で新しい死体が出たんだ。夜を徹して素材集めに駆けずり回ったに違いない。
町の人間からすると死体を集めているただの人なんだろうか?
それともこいつが快楽殺人者一歩手前の破綻した人格の持ち主だと知っている奴はいるのだろうか?
そうしたらボクの様に放っておくことは出来まい。別に殺そうとは思わないし、殺す価値すらないが…ひたすらにその醜悪な在り方そのものが否定されるべきだ。
だからひたすら脅しをかける。快楽殺人者として羽化しないように…この町にいる限りではあるけれどね。
こいつの思考回路は作品を作り、作り終えるとまた新しい作品を作りたくなるのだ。そこに我慢や忍耐はない。だってこの町には死が蔓延っているのだもの。奴が殺さなくても、誰かが誰かを殺す。ラースフィールドが義勇兵を殺し、ボク達がラースフィールドを抹殺した。
そう…今は死に満ち溢れているこの町はボクたちがいなくなれば死は起きなくなるだろう。バッカニア渓谷のラースフィールドを叩けば町にやって来る先見隊も来なくなるだろう。
その時に…死がピタリと止まった時にこいつが暴走する可能性が非常に高いとボクは思った。
作品の材料を自分で調達し始めるかもしれないのだ。誰も咎めるものはいない。治安が最悪に悪化した町で彼女の殺人は罪に咎められずに続けられるに違いない。
やはりここで殺しておくべきか…ボクは音もなく神雷刀を鞘走らせると死霊魔術師の女の胸に突きつけた。
「へぇ私を殺すつもりかい?殺しても死んだ人間は帰ってこないよ。」
「うるさい。お前にギアスを刻んでやる。ギアス…殺人を行わない事。強制刻印。」
女の額にギアスがレーザーで刻まれていった。通常は可視出来ないが、ギアスを破ろうとした瞬間に額に現れ激痛を引き起こし続ける。ギアスを破ってしまったらその痛みは死ぬまで続くことになる。
「女の顔に酷いことをするじゃないか?なんて刻んだんだい?家具を作るなかな?」
「本当は教えてやるのもむかつくし、面倒臭いんだが特別に教えてやろう。お前が殺人を犯そうとした時、ギアスが発動する。別に他殺体を作品にする事は咎めないが、お前が自分で材料を調達しようとした時はとんでもない激痛がお前を襲うわけだ。」
「それはそれは皮肉の効いた良い呪詛だ。こちとら殺人はまあ数える位しかしたことはないしね。多分大丈夫でしょう。命の危険があっても殺人をしちゃいけないんだろうねぇ。そういうときはどうしようかな。」
ボクはこいつの相手にうんざりしていた。こいつの身の心配なんぞどうでも良いと思う。
ま…話してやるか。ギアスを掛けたのは余りにも一方的だったしな。
「命の危険がある時は半殺し位にすれば良いんじゃないか。わざわざ命を奪う必要はないだろう。」
「まあそこはね?新しい素材ゲットのチャンスな訳ですよ?それをみすみす逃すのは結構痛いなと思っている訳で。勘弁してもらえないかなーと。思うんですけど。究極黄金巫女様!お願い解除して?」
「絶対にダメだ。今ので確信した。お前結構な数の殺人を犯しているだろう。絶対にギアスは解除しない。話し合いもここまでだな。ボク達はバッカニア渓谷に向かう。そこのラースフィールドを一網打尽にしたらここにはもう誰も来なくなるだろう。治安が回復したら死人もでなくなる。その時を楽しみに待っているんだな。それではさらばだ。」
「究極黄金巫女様のいけず。まあそれでも何年分かの死体は手に入ったし、しばらくホクホクだから問題ないわ。数年は大人しくしておいてあげましょう。」
ボクは死霊魔術師の店を離れた。油臭いすえた臭いのする最悪の店だ。恐らく銃のパーツを人間の体に置き換えた物を発売しているのだろう。気味が悪い。
ボクは目抜通りをまっすぐ歩いて宿屋に辿り着いた。その間にも道行く人から称賛を浴びる。この人達をあのイカれた死霊魔術師から守るのもボクの仕事である。普段はこんなことはしないんだけれどね。特別さ。気分が良いから大盤振る舞いだ。普段ならあんなちんけな死霊魔術師は放っておいておしまいさ。
宿の二階に上がっていく。そこには目覚めたケイジの姿があった。まだぼうっとしているようだった。ボクが声を掛ける。
「おい!ケイジ。起きているかい!」
朝目覚めた。まだぼうっとする。ギルディーンはいない。外出中か…
思考が眠くてまとまらない。今日はバッカニア渓谷に行かなくてはならないだろう。そこにいるラースフィールドを全滅させる。
…のだが、眠いな。どうしてこんなに眠気が強いのかは分からなかった。
あっギルディーンが戻ってきた。彼女は俺に言葉を掛ける。
…ようやく意識が覚醒してきた。
「お早う!ギルディーン。何処かに出掛けてきたのか。」
「ちょっと野暮用で出掛けてきた。バッカニア渓谷に行く準備は出来たか?ケイジ。」
「ああ…起きがけだが、もう出発できるよ。行こうか。」
そう言うと俺は自分の身支度を終えた。ギルディーンに手荷物はほぼ無い。黄金刀が一振りあるだけであった。
俺達は宿屋を出ると町の門をくぐった。昨日の一件で英雄のようにもてはやされていたので、チェックは簡単そのものだった。ほとんど顔だけでパスできたのだ。
俺達は北西のバッカニア渓谷を目指して旅に出た。恐らくカインポリスから二、三日の距離だろう。途中でカインポリスに向かうラースフィールドとかち合う可能性があったが、ラースフィールドの弱体化が図れるので狙いは叶ったりだ。
しばらくは何も出ない時間が続いた。足を進めていくと周りは太古の都市があった地域らしく、斜めになったビルが横倒しになっていた。今よりも先進的な文明があった頃の遺物である。この近くには太古の遺産があるかもしれなかった。
ギルディーンにお伺いを立ててみる。
「ここら辺の太古の遺産を漁ってみても良いかい?時間もそこまで急ぎじゃないだろう。」
「まあ良いだろう。好きに探索しなよ。あまり長時間はダメだぞ。」
「ありがとう。ギルディーン。」
そう言葉を交わすと俺は倒れたビルに探索に行った。中にはモンスター等は住み着いていないようだった。奥に進んでいくと宝石が置いてある店を発見した。まだ光を放っている宝石をバックパックの中に詰め込んでいく。別の町に持っていけば換金できるだろう。更に奥に進んでいくと眼鏡屋、食料品店、酒屋等が横倒しになったビルの中にあった。入り口も険しく入れない。ここは諦めるとしよう。更に奥に進んでいく。銃砲店があった。店の角度的にギリギリはいれる。
中に侵入した。特に目を見張るものは…あった。対物ライフルとオートショットガンだ。
俺はどちらを持っていこうか戸惑いオートショットガンを持っていくことに決めた。妖魔との戦闘に役に立つことだろう。よしこんなところだ横に倒れているビルの中の移動に四苦八苦しながらもギルディーンのいる場所まで戻ってきた。
「お待たせ。ギルディーン。待ったかい?」
「とても待たされた気分だ。もう一時間も経っているぞ。早くバッカニア渓谷を目指そう。」
「そうだね。今回は収穫もあったよ。宝石に新しい銃だ。見てくれよ。」
と言って俺はオートショットガンを見せびらかす。ギルディーンはあまり興味がないようだった。
「ああ…お前が喜ぶということは強力な銃なんだろう。良かったな。ボクは銃に疎いから良くわからないよ。」
「そうか…残念だよ。軽く説明すると近距離に強いショットガンという武器があるんだけれどそれを連続で発射できる銃なんだ。至近距離だと圧倒的な火力が出るんだ。」
「へぇ刀を振り回す間合いで強い銃か…良いじゃないか。ラースフィールドには通用するのかい?」
「いや…それが至近距離でも無効化されると思う。それだけアーマーが硬いんだ。俺の持っている武器で通用するのは対竜狙撃銃のみだね。」
「フゥン。ゲートオブアヴァロンの宝貝の前ではバターに刃を入れるように死んでいくけどねぇ。まっボクの宝貝が別格って訳かな。フフン。」
「なんだか喜んでいるのが馬鹿みたいだな。さあバッカニア渓谷を目指して歩こう。」
俺は少しムッとして歩き出した。歩いてからまだ五時間程しか経過していなかった。まあギルディーンにとっては休憩になったはずだ。良しとしよう。
ひたすら歩き続ける。正直何のためにラースフィールドと闘うのか俺には大義が見えなかった。
ギルディーンには逆らえないから付いていっているにすぎない。後はまあ惚れた弱味だ。好きになった女の子をみすみす死地に送り込むような事は出来なかった。
昨日も圧倒的な破壊力でラースフィールドを黙らせたわけだが、仮に一千機が相手になったときでも有利にたてるだろうか?とても心配である。
ギルディーンの実力は信じているのだが、数の暴力と言う奴がある。
どれほどこちらが圧倒的な戦力を持っていても所詮はたったの二人なのだ。
それを忘れてはならない。バッカニア渓谷には何人いるのだろう?考えるだけでも気が滅入ってくる。
そしてそこには一騎当千の敵がいる可能性は無いのか?
最強と言うのは何もギルディーンのみに与えられる称号ではないのだ。
ギルディーンを超える敵がいるかもしれない。恐ろしくてそんな事はとても聞けないけれど…今は彼女の慢心とも言える自己評価を信じるしかないだろう。
曰く星を統べる巫女。究極黄金巫女。ゲートオブアヴァロンを始めとした様々な宝貝を利用する最強の戦闘スタイル。また究極奥義として無銘創世剣の創世破壊撃がある。また戦闘に関するセンスもピカ一だ。どんな場面でも油断をせず全力の一手を極め尽くしている。こう考えるとやはり最強だなと思う。
アーマーを子供のオモチャを破壊するように撃破する彼女の姿を思い出した。油断をしたくもなるな。
さて歩き続けますか…ラースフィールドに終焉の使者が近付いていた。一歩ずつ緩慢に近付く死そのものだ。それから俺達は二日間何もない旅路を続けた。ラースフィールドにも出くわさなかった。街道は一本道だカインポリスを襲うのにはこの道を通らなくてはいけないはずだが…出くわさない。
まさか先見隊を出さずに全軍が待機しているのだろうか?ありうる話だ。
そして目的地についてしまった。バッカニア渓谷だ。見た感じは人の気配はないが…
バッカニア渓谷にボク達は到着した。辺りに人の気配はない。細い通路と谷があるだけの地形だ。谷のそこに人工物が見える。あそこにラースフィールドの連中がいると見て良いだろう。千里眼で選定開始。やはりラースフィールドは谷底の建物の中に居ることが分かった。
「ケイジ。谷底の建物の中にラースフィールドは居る。ここから建物事狙撃するぞ。」
「了解。俺にできることはない。頑張ってくれギルディーン。」
そう言うとボクはゲートオブアヴァロンを限界まで開帳していった。門数は五百だ。宝貝をそこに装填していく。全弾分の宝貝が揃った。ゲートオブアヴァロンを谷底に向けると一斉斉射した。着弾と共に爆発する宝貝。建物の中からは慌ててアーマーを着たラースフィールド兵が出てくる。
ケイジは対竜狙撃銃を構えて撃ち始めた。ここからは一キロほど距離があったが、有効射程のようだ。何人かのラースフィールド兵が倒れていく。
まだまだ溢れ出てくるラースフィールド兵。その数は千人程に達していた。
こちらから攻撃を受けていることを確認するとミニガンやミサイルランチャーで一斉攻撃をしてきた。
しかしボクやケイジの身は弾除けの加護が掛かっている。撃たれた弾は検討外れの方向に飛んでいった。
対物ライフルの一斉射撃も飛んでくる。着弾すんででするりと体を避ける弾丸。
明らかにラースフィールド側は動揺していた。一人だけ色の違うアーマーを着ている奴がいる。
分かりやすい奴だな。あいつがこの場所のボスだろう。あいつを殺してはいけない。次のボスの場所が分からなくなる。
ボクはゲートオブアヴァロンをラースフィールドに向けると一斉射撃を始めた。雨霰の様に宝貝が降り注ぐ。そしてファンタズムボムによる爆発が起きた。千人ほどいたラースフィールドは五百人程まで数を減らしてしまっていた。丁度一斉射で一人ずつ死んだ計算だ。
ケイジをちらりと見る。相変わらず対竜狙撃銃でチマチマとラースフィールド兵をいたぶっていた。まあ派手さを競うわけではないし仕方ないだろう。
ラースフィールド兵は四散しはじめた。叶わないと気づいたのだろう。ここから撤退を始めたわけだ。しかし色の違う奴だけは仲間を叱咤しこちらに向かってまだ銃を撃ってくる。見上げた奴だな。殺すのは惜しい。尋問したら用はないがね。
ボクはワープの準備に入った。亜空間へのゲートを開き中にはいる。そして思い描いた場所に跳躍するのだ。これを亜空跳躍と呼ぶ。
今はラースフィールドのボスの前にいる。神雷刀でアーマー毎左腕を切り落とした。アーマー等神域の宝貝からしたら飴細工と一緒だ。脆くて弱い。こんなもので身を守っていると思い込むなんてな。愚の骨頂だ。
「ぎゃあああ。う、腕。俺の腕が。」
「聞きたいことがある。次は腕だけじゃすまないぞ。」
回りにも百名はラースフィールド兵が居たが、ボスがやられている上に戦意を折ってあるので誰もこちらに向かってこようとはしないようだ。情けない連中だな。ただ呆然とこちらを眺めている。
「なんだ!何が知りたい?」
「ラースフィールドの大将首は何処に居るんだ?答えろ…」
「それは…答えられない。」
「もう一本切り落とすか?ボクは気が短いんだ。早くしろ。」
「分かった。分かったから止めてくれ。ラースフィールドの首領はフォートマージにいる。ここから東に二日ほど歩いた場所にフォートマージはあるんだ。そこにラースフィールドの首領と護衛兵五千がいる。」
「そうかいご苦労様。止めをくれてやろう。」
サクリと音をたてそうな軽さでボクはこいつの心臓を貫いた。怯える瞳は閉じられた。
回りにいたラースフィールド兵は腰を抜かしている。ボクはゲートオブアヴァロンからもう一本黄金刀を取り出すと二刀流で辺りのラースフィールド兵を切り刻んだ。皆のアーマーはまるでパンにバターを塗ってあるようだった。意図も簡単に切り裂かれていく装甲。そして悲鳴…絶叫、銃声が上がる。銃弾はもちろんボクには当たらない。分からない奴等だね。どれほど剣舞を舞っていただろうか。気づくと辺り一面は鮮血の泉と化していた。アーマーの隙間から血を噴き出させるラースフィールド兵。ボクは血にまみれない。巫女服の防御結界が働いているから。もう辺りには動いている物体はボクしかいなかった。この場所のラースフィールド兵の葬送は終わった。ボクは亜空跳躍し、ケイジの元に戻った。
殺し漏れた敵を黙々とケイジは処理していた。ボクが止めろと声を掛けるまでずっと…
「止めるんだ。ケイジ。これ以上は弾の無駄だよ。あいつらに闘う意思は残っていない。」
「ハッ…そうだな。敵を殺すことに没頭しすぎていたよ。敵のボスの所まで行って何か情報は得られたか?」
「最後の目標地点を知れたよ。ここから東に歩いて二日のフォートマージという場所にラースフィールドの首領がいる。後は護衛軍五千人だな。激戦になるだろう。弾除けの加護が切れないことを祈るしかないね。」
「敵兵五千…本当にやる気か…今からでも引き返して十分な戦果だぞ。これ以上はお互いに無事ですむか分からないぞ。」
「狂気の沙汰ほど面白いってね。ボクの言うことには絶対服従だろ。必ず生かして返すと誓おう。さあラースフィールドに殴り込みだ。」
「もうどうにでもなれ。君に捕まった時点で死んでいるようなもんだったな。…覚悟は決まったどうにでもするが良い。」
「フフ…そうこないとね。流石ケイジだ。ボクの事を良くわかっている。惚れ込むだけはあるね。」
俺は今人生最大のピンチに見舞われていた。武装集団五千人と正面から撃ち合うはめになったのだ。弾除けの加護が有るもののどこまで有効かは俺にもギルディーンにも分からなかった。
今はバッカニア渓谷を抜けてそこから東の街道を歩いている。
本当に信じられない事が連続で起きている。さっきのラースフィールド兵も結局一方的に勝利してしまったし。最後にはギルディーンの剣舞でまるで丸太でも切るようにアーマーを撫で切りにしてしまっていた。剣舞が終わるまでに百人近くが殺されてしまったのだ。
もちろん発砲したりして抵抗は試みては居たようだがギルディーンは弾除けの加護で全ての射撃を無効化していた。
次はそれを五千人相手にやるのかとてもじゃないが付いていけないと言いたくなるが、ギルディーンの従者としては避けては通れない道だ。今はひたすら歩こう。ギルディーンも俺についてくる。
精神がいやに興奮している状態が続く。戦闘モードが抜けきっていないのかもしれない。
「随分怖い顔をしているね。ケイジ。どうしたんだい。」
「いや、どうにもなってないはずなんだが興奮状態が抜けなくてね。さっきの戦闘の影響がまだ残っているのかもしれない。」
「一人前の兵士として気分の切り替えくらいはマスターした方がいいな。ケイジ。リラックス。リラックスしろ。」
そう甘い声で語りかけてくるギルディーン。いつしか興奮は収まっていった。
「ありがとう。不要な興奮は収まったよ。まだフォートマージまでは遠い。歩き続けよう。」
「そうだね。変わったことがあれば何でも言うと良い。ボクは面倒見が案外良いんだ。」
「そうだったな。ありがとう。ギルディーン。」
しかし五千人か…正面からゲートオブアヴァロンを撃ちまくるとして殲滅までに十回は掃射しなくてはならないだろう。俺のオドは大丈夫なのだろうか?彼女が全力のゲートオブアヴァロンを使うだけで体が痛むのだが…
考えていても仕方がないだろう。
殺害衝動は少しずつ疼き始めている。最近魔物を殺していなかったからだろう。ラースフィールド兵を殺した時は少し晴れたのだが、また一滴ずつ水が溜まるように殺害衝動が疼いていた。
俺の空っぽの器を満たす本能か…どうしてこんな物騒な本能が、俺のやりたい事になるんだろうか?
これではあの死霊魔術師と同じではないか。自分の喜びの為にモンスターや人間を殺して充足を得るのだ。
ギルディーンは殺害衝動を昇華させろと言っていた。俺の戦闘能力の向上に繋げろと言ってくれた。俺にできることは出来るだけ正確に素早く撃ち抜く事だけだ。それを特殊能力と呼べるくらいに強化をしなくてはならない。歩きながら考えることではないかもしれないが…早撃ちか?…その路線で自分の殺害衝動を磨いていくことにしよう。と言っても早撃ちをする事で衝動を押さえると言った形になるかもしれないが。
俺はそんな事を夢想しながら歩き続けた。それから二日が経った。
現在ボクはラースフィールドの本拠地フォートマージに到着した。人類史崩壊以前の要塞を本拠地として使用しているようだ。フフン。ボクの相手に取って不足なしだ。ボクは挨拶代わりに要塞に取り付けてある速射砲やガトリングガン、高射砲をゲートオブアヴァロンで吹っ飛ばすことにした。
「ゲートオブアヴァロン!五百門開帳!全弾発射!」
全ての武装はゲートオブアヴァロンの一斉射撃によって吹き飛んだ。
サイレンがなり要塞からアーマーを着こんだ男達が出て来た。ぞろぞろと大量に出てくる。その数は三千人近くと千里眼が告げる。
ボクは最大展開したゲートオブアヴァロンを一斉射撃し続けた。アーマーを宝貝が貫き爆発する。この単純な攻撃で敵の兵士はどんどん死んでいった。ケイジをちらりと見る。大分負担が掛かっているみたいだな。ボクはオドの供給先を死体の魂に切り替えた。現在千人程死人を出している。その死人の魂を燃料にしてゲートオブアヴァロンを発射するのだ。ボクは供給元を死体に切り替えると矢継ぎ早にゲートオブアヴァロンを乱射し続けた。敵からはミサイルやレールガン、レーザーガトリングガン等の弾が湯水の様に飛んできたが全て弾除けの結界で防いでいる。
ケイジは凄まじい勢いで対竜狙撃銃を連射していた。一人一人着実に死を与えている。ここまで早撃ちの素質が有ったとはね。殺害衝動の昇華に成功したようでボクも嬉しい。
さあボクも本気を見せようか!
「ゲートオブアヴァロン!天空剣!」
天界のオーラが溢れるばかりに漂っている聖剣を射出した。そして着弾!究極の雷撃を放って剣は砕け散った。今の一射だけで三百人は死んだ。続けざまに宝貝を発動しながら発射していく。
「ゲートオブアヴァロン!ゲイボルグ!グングニール!」
ゲイボルグは無数の棘になり何十人ものラースフィールド兵を射ぬいた。
グングニールも敵を百人程誘導しながら射ぬくとゲートオブアヴァロンに戻ってきた。
「ゲートオブアヴァロン!ヴァジュラ!帝釈天骨!」
雷の力がこもった宝貝を二つ射出する。敵の付近に着弾すると雷のオーラを爆裂させて雷のドームを作り中にいた敵兵を全滅させた。
と…殺戮は続いていく。現在の敵兵は残り五百体程に減っていた。懸命に重火器で応戦するが全て弾除けの加護の前に無効化されていた。
まだ大将は出てこないか…前情報で後二千人は隠れていることは分かっていた。
仕方ないこいつらも殺そう。ボクはゲートオブアヴァロンを個別の宝貝の性能を解放しながら掃射していった。
悲鳴と銃声が二重奏を奏でる。これで本当に敵は全滅だ。
その時要塞の頂上から人が出て来た。赤い外套に黒いインナーの少女だ。
ブツブツと唱える。
「夢幻が現を現している。ファンタズムオーバーロード!ゲイボルグ!」
少女は槍を投擲してきた。槍は何十にも別れてボクを貫こうとしている。
ボクは神雷刀を回転させて全ての攻撃をいなした。距離は五百メートルはあるな!やるか!ボクは亜空跳躍をした。敵の少女の目の前に立つ。
「へぇ。あんた出来るんだね。家の兵隊をこんなに殺してくれちゃってさ。バッカニア渓谷もあんたらの仕業な訳?」
神雷刀をヒュンヒュンと振り回しながら答える。
「そうだとしたらどうする?」
「決まっているでしょ!幾度の冒険に意味はなく。ファンタズムオーバーロード!夢想転生!」
少女の手には二振りの陰陽双剣が握られていた。
そして目一杯少女は突っ込んでくる。袈裟斬り、切り上げ、二連突撃、回転斬、無名三連突、一息で繰り広げられる剣舞。
ボクは冷静に避けていったつもりだったが三連続の突きが鳩尾に突き刺さった。
「ガバッハァハァ。回復宝貝…神酒極大零呪。」
酒の入った缶を一瞬で体に振りかけ蘇生する。
「へぇあんた何でもありなんだね。私は自分の記憶にある何かを呼ぶのが限界よ。」
このままだと不味い。距離を後ろに取った。ゲートオブアヴァロンで宝貝を射出する。
カンカンカァンカンカァンカン…と弾かれる音が続く。全ての宝貝は双剣で地面に弾かれてしまった。畜生。
ボクはエクスカリバーをゲートオブアヴァロンから呼んだ。こちらも二刀流だ。
ケイジをちらりと見る。狙撃の機会を狙っているようだ。目で合図する。手を出したら殺すよりもひどい目に合わせてやる。驚いたような顔をケイジはしていた。意図は伝わったようだ。
目の前の敵に向き直る。一瞬の隙を穿つのだ。千里眼を使った予知能力を発揮する。相当な剣の使い手だ。ボクを凌駕しているかもしれない。
「お前名はなんという?」
「ウシオレンコ。とある事情でラースフィールドの首領をやっているわ。」
「殺すには惜しいやつだな。ボクの名前は究極黄金巫女。かつて星を統べた巫女だ。」
「フーン。そんな名前なんだ。少しは骨があると思ったけど王様だったのね。ま、私の剣技の冴えには叶わないでしょ。ここで死んじゃいなさい。」
少女は踏み込んでくる。二連斬。
ボクは神雷刀で二連斬を受け止め、エクスカリバーでレンコの腹を穿った…ように見えたが身を引かれた。上手いな…
「なかなかやるじゃない。ひやっと来たわ。」
「ただ討とう。それだけだ。」
ボクが剣舞を舞う。二連袈裟斬り、二連切り上げ、二段突撃、旋風斬、回転斬、夢幻泡影!
少女の双剣は弾き飛ばされた。そのままひらりひらりと剣舞を避けていたが、夢幻の舞い…夢幻泡影に巻き込まれて切り刻まれた。
少女は血を吐きながらうずくまる。
「ハァハァこんな世界に流れ着いてこんな奴らの首領やってたらこんな死が来るとわね。まったくやっていられないわ。」
「お前には邪気がないな。…二度とラースフィールドに関わらないと誓えるか。」
「別に良いわよ。特段拘りがあったわけではないしね。まあ生きてても死んでいても一緒の人生好きにさせて欲しいものよ。」
ボクはゲートオブアヴァロンから極大零呪を取り出すとレンコに振りかけた。全身の傷が癒えていく。
「ありがとう。究極黄金巫女様。私にどうしろっていうの?」
「ここにいて女に尻を拭いて貰っている二千人の兵士に誓え。今日を持ってラースフィールドは解散するとな。二度と民草を脅かすんじゃない。」
「誓いましょう!おーい隠れてる連中!今日でラースフィールドは解散します。後は野となれ山となれだ。今度見つけたら狩り殺しちゃうからね。覚悟しなさい。もう愚連隊のリーダーは卒業。皆バイバイ。」とレンコが拡声器のような声で叫んだ。
要塞の中から恐る恐る男達が顔を出してくる。ウシオレンコの号令を聞いて皆泣きそうな顔をしている。本当に情けない連中だな。
人の物は好き放題奪って犯して殺すのに自分の番になったら涙ぐんじゃっているよ。
「ほら散れ散れ!早く退去しないと全員殺すぞ!」
ボクの怒声を聞くと奴らはビクッとして歩くスピードを早めた。全員が着の身着のまま退去していく。
「あー終わった。何かスッキリしたわ。なんかありがとうだね。究極黄金巫女。」
「何だ。ラースフィールドは楽しんでやってたんじゃないのか?」
「ある程度は楽しかったけどね。もう食べるために襲うって言うのが嫌で嫌で仕方なかったの。立ち上げ当時は正義の味方になろうって言う名目だったから、流れ者の私も賛成したんだけどね。途中からグチャグチャに捻れちゃった。殺しを楽しんで食べるために町を犯しに行く集団に変わっちゃったもの。それで流れで首領になっちゃったから大変よ。止められないし、強奪は止まらないしね。」
「そうか…まあこれからは自由に生きていくが良い。お前も英雄なんだろ?民草を護るために生き直してみるんだな。ではさらばだ。」
「さようなら。究極黄金巫女。私も救国の英雄だったんだけど何をやっているんだか。召喚されてしまったけどマスターすら居なかったの。貴女みたいにマスターに恵まれたらもっと違った第二の人生を送れたかも知れないわね。」
「フッそうだな。もう語るべき事もない。」
ボクはそう言うとケイジの元に戻っていった。
本当にラースフィールドを倒しきってしまった。残りの二千人は殺さないで解散させたとはいえたった二人で成し遂げてしまった。まあその内の一人が殆どやってしまったようなものだが。俺が殺したのは三十人足らずだった。これでも一人で上げられる戦果としては最高の類いだろう。
そう十分すぎるのだ。人は一人で三千人近く殺せてはいけないのだ。それはもう人の領域を越えてしまっている。
俺は英雄の意味を改めて理解させられたのであった。
その英雄、ギルディーンが戻ってきた。
「どうだ。ケイジ。これがボクの実力だ。大将も含めて全員解散させたてやったぞ。」
「最後に出てきて一騎討ちをしたのが大将か。歳も君とそれほど変わらなかった気がするけど。どうなんだ。」
「あれははぐれ英雄だね。マスターがいない英雄さ。しかしボクと引き分ける位近接戦闘は強かったぞ。彼女もこれからは野に下るそうだ。一件落着だね。」
「そうか。ギルディーン…」
「もうミユキで良い。深名で呼ぶことを許そう。」
それは意外な一言だった。俺は目を丸くして驚いた。まさかギルディーン…これからはミユキか…がこんな事を言い出すとは思わなかったのだ。何か俺やっちゃいました?と誰にでもなく突っ込んでみる。浮かれ上がっている気分が止まらない。今なら羽が生えて天界まで飛んでいけそうな気分がする。
そんな心地で夢想に耽る俺をミユキが止めてきた。
「はいはい。嬉しいのは分かったから、一々呆けるな。馬鹿者。ケイジ。信頼の証として改めて深名で呼ぶことを許そう。以後もボクに尽くせよ。」
「ミユキ…ミユキか。ミユキなんだよな。分かったよ。これからも尽くさせてもらいますよ。ありがとう。」
「まあこの話題はここまでにしてどうする宝の山が転がっているかもしれないぞ。フォートマージを探検していくか?」
「そうだな。アーマーや重火器の他にも金品があるかもしれない。探しに行こう。」
そう言うと俺達はフォートマージの内部に入っていった。流石野郎が五千人居ただけあって広大な内部構造をしている。入り口の大広間から無数に個室が配置されていた。そんな感じで大広間と個室の配置が最深部まで続いているようだ。俺達は個室を中心に探索しながら主に宝石や金貨等をかき集めていった。非常事態だったので置きっぱなしになっていたらしい。スカベンジャーとして腕がなるものだ。結局その日は休憩をしながら夜も通して金品集めを続けたのだった。
翌日の朝にようやく金品を集め終わった。金額としては魔王退治に匹敵する収入になった。バックパックが宝石でパンパンである。
ミユキが話し掛けてくる。
「ケイジ。お前、結構空っぽじゃなくなってきたな。金があれば人間変わるか…普通に物欲も出て来たんじゃないか?一人で放浪していた頃とは目付きがまるで違うぞ。」
「そうなのかもしれないな。まあ俺も大分普通になってきたって所だろう。恋愛欲に殺害衝動に物欲か。殺害衝動だけ何とかしなくてはいけないけれど、他はそのままで良いのかもしれない。」
「殺害衝動は大丈夫なのか?一時期酷かったみたいだけど。」
「最近は意識をしていない。如何に効率よく敵を葬るかを考えているだけだ。それが俺にとっての殺害衝動の解放のさせ方にしたんだ。まあ簡単に言うと速射を極めてその快感で殺害衝動を治めようとしているんだな。」
「そうか。ボクが言った通り昇華出来ているみたいだね。感心感心。…ところでもうここには用はないだろう。カインポリスの町に戻ろうか。」
「ああ…そうするとしよう。ここのお宝は取り尽くしたからな。」
俺達はフォートマージからカインポリスに戻る旅に出た。ここから五日程で辿り着くだろう。
「究極黄金巫女様!最強は貴女だ!いつまでもカインポリスの町に居てください。」
「究極黄金巫女様!万歳!カインポリスを治めて下さい!」
「究極黄金巫女様!貴女は美しく強い!弟子入りさせて下さい!」
ボクは適当に笑顔であしらうと歩いていった。例の死霊魔術師の店に出向く。門の外の大量の死体の山は朝起きるときれいさっぱり無くなっていた。あいつが「作品」を作るのに利用しているに違いなかった。アーマーまで無くなっていたんだがアーマーごと「作品」にしたのだろうか?
奴がいた。
「やあ!究極黄金巫女様!一躍時の人じゃあないか。」
「お前も素材が集まって良かったな。アーマーまで集めたのか?」
「いいや。その中の新鮮な死体だけを頂戴したんだ。アーマーは義勇兵の連中が猫ババしたんじゃないかな。爆発して殺されていたのにね。何機がまともに使えるんだか。私は疑問に思うね。」
「フーン。そうか。それで、お前はラースフィールドもお構い無く家具にしたんだな。あいつらだって昨日までは生きていたのにな。死ぬだけでなく家具や武器に加工されるなんて…気色の悪い趣味だな。醜悪だ。手打ちにしたくなるね。」
「まあまそんな事は言わない言わない。人の趣味というか生計に口を出すのはいけないでしょう。わざわざやって来て「私これ嫌い!」って言うのはどうかと思うわ。」
本当に醜悪な悪だな。ラースフィールドと違って表立っていないだけでこいつの醜悪さには反吐を吐きそうになる。
人間の死体を加工して家具を作るだと…それも無数に。人死にが多いからカインポリスに居るのかもしれない。ここなら定期的に義勇兵の死者がでるだろう。
それに昨日は何百人も追加で新しい死体が出たんだ。夜を徹して素材集めに駆けずり回ったに違いない。
町の人間からすると死体を集めているただの人なんだろうか?
それともこいつが快楽殺人者一歩手前の破綻した人格の持ち主だと知っている奴はいるのだろうか?
そうしたらボクの様に放っておくことは出来まい。別に殺そうとは思わないし、殺す価値すらないが…ひたすらにその醜悪な在り方そのものが否定されるべきだ。
だからひたすら脅しをかける。快楽殺人者として羽化しないように…この町にいる限りではあるけれどね。
こいつの思考回路は作品を作り、作り終えるとまた新しい作品を作りたくなるのだ。そこに我慢や忍耐はない。だってこの町には死が蔓延っているのだもの。奴が殺さなくても、誰かが誰かを殺す。ラースフィールドが義勇兵を殺し、ボク達がラースフィールドを抹殺した。
そう…今は死に満ち溢れているこの町はボクたちがいなくなれば死は起きなくなるだろう。バッカニア渓谷のラースフィールドを叩けば町にやって来る先見隊も来なくなるだろう。
その時に…死がピタリと止まった時にこいつが暴走する可能性が非常に高いとボクは思った。
作品の材料を自分で調達し始めるかもしれないのだ。誰も咎めるものはいない。治安が最悪に悪化した町で彼女の殺人は罪に咎められずに続けられるに違いない。
やはりここで殺しておくべきか…ボクは音もなく神雷刀を鞘走らせると死霊魔術師の女の胸に突きつけた。
「へぇ私を殺すつもりかい?殺しても死んだ人間は帰ってこないよ。」
「うるさい。お前にギアスを刻んでやる。ギアス…殺人を行わない事。強制刻印。」
女の額にギアスがレーザーで刻まれていった。通常は可視出来ないが、ギアスを破ろうとした瞬間に額に現れ激痛を引き起こし続ける。ギアスを破ってしまったらその痛みは死ぬまで続くことになる。
「女の顔に酷いことをするじゃないか?なんて刻んだんだい?家具を作るなかな?」
「本当は教えてやるのもむかつくし、面倒臭いんだが特別に教えてやろう。お前が殺人を犯そうとした時、ギアスが発動する。別に他殺体を作品にする事は咎めないが、お前が自分で材料を調達しようとした時はとんでもない激痛がお前を襲うわけだ。」
「それはそれは皮肉の効いた良い呪詛だ。こちとら殺人はまあ数える位しかしたことはないしね。多分大丈夫でしょう。命の危険があっても殺人をしちゃいけないんだろうねぇ。そういうときはどうしようかな。」
ボクはこいつの相手にうんざりしていた。こいつの身の心配なんぞどうでも良いと思う。
ま…話してやるか。ギアスを掛けたのは余りにも一方的だったしな。
「命の危険がある時は半殺し位にすれば良いんじゃないか。わざわざ命を奪う必要はないだろう。」
「まあそこはね?新しい素材ゲットのチャンスな訳ですよ?それをみすみす逃すのは結構痛いなと思っている訳で。勘弁してもらえないかなーと。思うんですけど。究極黄金巫女様!お願い解除して?」
「絶対にダメだ。今ので確信した。お前結構な数の殺人を犯しているだろう。絶対にギアスは解除しない。話し合いもここまでだな。ボク達はバッカニア渓谷に向かう。そこのラースフィールドを一網打尽にしたらここにはもう誰も来なくなるだろう。治安が回復したら死人もでなくなる。その時を楽しみに待っているんだな。それではさらばだ。」
「究極黄金巫女様のいけず。まあそれでも何年分かの死体は手に入ったし、しばらくホクホクだから問題ないわ。数年は大人しくしておいてあげましょう。」
ボクは死霊魔術師の店を離れた。油臭いすえた臭いのする最悪の店だ。恐らく銃のパーツを人間の体に置き換えた物を発売しているのだろう。気味が悪い。
ボクは目抜通りをまっすぐ歩いて宿屋に辿り着いた。その間にも道行く人から称賛を浴びる。この人達をあのイカれた死霊魔術師から守るのもボクの仕事である。普段はこんなことはしないんだけれどね。特別さ。気分が良いから大盤振る舞いだ。普段ならあんなちんけな死霊魔術師は放っておいておしまいさ。
宿の二階に上がっていく。そこには目覚めたケイジの姿があった。まだぼうっとしているようだった。ボクが声を掛ける。
「おい!ケイジ。起きているかい!」
朝目覚めた。まだぼうっとする。ギルディーンはいない。外出中か…
思考が眠くてまとまらない。今日はバッカニア渓谷に行かなくてはならないだろう。そこにいるラースフィールドを全滅させる。
…のだが、眠いな。どうしてこんなに眠気が強いのかは分からなかった。
あっギルディーンが戻ってきた。彼女は俺に言葉を掛ける。
…ようやく意識が覚醒してきた。
「お早う!ギルディーン。何処かに出掛けてきたのか。」
「ちょっと野暮用で出掛けてきた。バッカニア渓谷に行く準備は出来たか?ケイジ。」
「ああ…起きがけだが、もう出発できるよ。行こうか。」
そう言うと俺は自分の身支度を終えた。ギルディーンに手荷物はほぼ無い。黄金刀が一振りあるだけであった。
俺達は宿屋を出ると町の門をくぐった。昨日の一件で英雄のようにもてはやされていたので、チェックは簡単そのものだった。ほとんど顔だけでパスできたのだ。
俺達は北西のバッカニア渓谷を目指して旅に出た。恐らくカインポリスから二、三日の距離だろう。途中でカインポリスに向かうラースフィールドとかち合う可能性があったが、ラースフィールドの弱体化が図れるので狙いは叶ったりだ。
しばらくは何も出ない時間が続いた。足を進めていくと周りは太古の都市があった地域らしく、斜めになったビルが横倒しになっていた。今よりも先進的な文明があった頃の遺物である。この近くには太古の遺産があるかもしれなかった。
ギルディーンにお伺いを立ててみる。
「ここら辺の太古の遺産を漁ってみても良いかい?時間もそこまで急ぎじゃないだろう。」
「まあ良いだろう。好きに探索しなよ。あまり長時間はダメだぞ。」
「ありがとう。ギルディーン。」
そう言葉を交わすと俺は倒れたビルに探索に行った。中にはモンスター等は住み着いていないようだった。奥に進んでいくと宝石が置いてある店を発見した。まだ光を放っている宝石をバックパックの中に詰め込んでいく。別の町に持っていけば換金できるだろう。更に奥に進んでいくと眼鏡屋、食料品店、酒屋等が横倒しになったビルの中にあった。入り口も険しく入れない。ここは諦めるとしよう。更に奥に進んでいく。銃砲店があった。店の角度的にギリギリはいれる。
中に侵入した。特に目を見張るものは…あった。対物ライフルとオートショットガンだ。
俺はどちらを持っていこうか戸惑いオートショットガンを持っていくことに決めた。妖魔との戦闘に役に立つことだろう。よしこんなところだ横に倒れているビルの中の移動に四苦八苦しながらもギルディーンのいる場所まで戻ってきた。
「お待たせ。ギルディーン。待ったかい?」
「とても待たされた気分だ。もう一時間も経っているぞ。早くバッカニア渓谷を目指そう。」
「そうだね。今回は収穫もあったよ。宝石に新しい銃だ。見てくれよ。」
と言って俺はオートショットガンを見せびらかす。ギルディーンはあまり興味がないようだった。
「ああ…お前が喜ぶということは強力な銃なんだろう。良かったな。ボクは銃に疎いから良くわからないよ。」
「そうか…残念だよ。軽く説明すると近距離に強いショットガンという武器があるんだけれどそれを連続で発射できる銃なんだ。至近距離だと圧倒的な火力が出るんだ。」
「へぇ刀を振り回す間合いで強い銃か…良いじゃないか。ラースフィールドには通用するのかい?」
「いや…それが至近距離でも無効化されると思う。それだけアーマーが硬いんだ。俺の持っている武器で通用するのは対竜狙撃銃のみだね。」
「フゥン。ゲートオブアヴァロンの宝貝の前ではバターに刃を入れるように死んでいくけどねぇ。まっボクの宝貝が別格って訳かな。フフン。」
「なんだか喜んでいるのが馬鹿みたいだな。さあバッカニア渓谷を目指して歩こう。」
俺は少しムッとして歩き出した。歩いてからまだ五時間程しか経過していなかった。まあギルディーンにとっては休憩になったはずだ。良しとしよう。
ひたすら歩き続ける。正直何のためにラースフィールドと闘うのか俺には大義が見えなかった。
ギルディーンには逆らえないから付いていっているにすぎない。後はまあ惚れた弱味だ。好きになった女の子をみすみす死地に送り込むような事は出来なかった。
昨日も圧倒的な破壊力でラースフィールドを黙らせたわけだが、仮に一千機が相手になったときでも有利にたてるだろうか?とても心配である。
ギルディーンの実力は信じているのだが、数の暴力と言う奴がある。
どれほどこちらが圧倒的な戦力を持っていても所詮はたったの二人なのだ。
それを忘れてはならない。バッカニア渓谷には何人いるのだろう?考えるだけでも気が滅入ってくる。
そしてそこには一騎当千の敵がいる可能性は無いのか?
最強と言うのは何もギルディーンのみに与えられる称号ではないのだ。
ギルディーンを超える敵がいるかもしれない。恐ろしくてそんな事はとても聞けないけれど…今は彼女の慢心とも言える自己評価を信じるしかないだろう。
曰く星を統べる巫女。究極黄金巫女。ゲートオブアヴァロンを始めとした様々な宝貝を利用する最強の戦闘スタイル。また究極奥義として無銘創世剣の創世破壊撃がある。また戦闘に関するセンスもピカ一だ。どんな場面でも油断をせず全力の一手を極め尽くしている。こう考えるとやはり最強だなと思う。
アーマーを子供のオモチャを破壊するように撃破する彼女の姿を思い出した。油断をしたくもなるな。
さて歩き続けますか…ラースフィールドに終焉の使者が近付いていた。一歩ずつ緩慢に近付く死そのものだ。それから俺達は二日間何もない旅路を続けた。ラースフィールドにも出くわさなかった。街道は一本道だカインポリスを襲うのにはこの道を通らなくてはいけないはずだが…出くわさない。
まさか先見隊を出さずに全軍が待機しているのだろうか?ありうる話だ。
そして目的地についてしまった。バッカニア渓谷だ。見た感じは人の気配はないが…
バッカニア渓谷にボク達は到着した。辺りに人の気配はない。細い通路と谷があるだけの地形だ。谷のそこに人工物が見える。あそこにラースフィールドの連中がいると見て良いだろう。千里眼で選定開始。やはりラースフィールドは谷底の建物の中に居ることが分かった。
「ケイジ。谷底の建物の中にラースフィールドは居る。ここから建物事狙撃するぞ。」
「了解。俺にできることはない。頑張ってくれギルディーン。」
そう言うとボクはゲートオブアヴァロンを限界まで開帳していった。門数は五百だ。宝貝をそこに装填していく。全弾分の宝貝が揃った。ゲートオブアヴァロンを谷底に向けると一斉斉射した。着弾と共に爆発する宝貝。建物の中からは慌ててアーマーを着たラースフィールド兵が出てくる。
ケイジは対竜狙撃銃を構えて撃ち始めた。ここからは一キロほど距離があったが、有効射程のようだ。何人かのラースフィールド兵が倒れていく。
まだまだ溢れ出てくるラースフィールド兵。その数は千人程に達していた。
こちらから攻撃を受けていることを確認するとミニガンやミサイルランチャーで一斉攻撃をしてきた。
しかしボクやケイジの身は弾除けの加護が掛かっている。撃たれた弾は検討外れの方向に飛んでいった。
対物ライフルの一斉射撃も飛んでくる。着弾すんででするりと体を避ける弾丸。
明らかにラースフィールド側は動揺していた。一人だけ色の違うアーマーを着ている奴がいる。
分かりやすい奴だな。あいつがこの場所のボスだろう。あいつを殺してはいけない。次のボスの場所が分からなくなる。
ボクはゲートオブアヴァロンをラースフィールドに向けると一斉射撃を始めた。雨霰の様に宝貝が降り注ぐ。そしてファンタズムボムによる爆発が起きた。千人ほどいたラースフィールドは五百人程まで数を減らしてしまっていた。丁度一斉射で一人ずつ死んだ計算だ。
ケイジをちらりと見る。相変わらず対竜狙撃銃でチマチマとラースフィールド兵をいたぶっていた。まあ派手さを競うわけではないし仕方ないだろう。
ラースフィールド兵は四散しはじめた。叶わないと気づいたのだろう。ここから撤退を始めたわけだ。しかし色の違う奴だけは仲間を叱咤しこちらに向かってまだ銃を撃ってくる。見上げた奴だな。殺すのは惜しい。尋問したら用はないがね。
ボクはワープの準備に入った。亜空間へのゲートを開き中にはいる。そして思い描いた場所に跳躍するのだ。これを亜空跳躍と呼ぶ。
今はラースフィールドのボスの前にいる。神雷刀でアーマー毎左腕を切り落とした。アーマー等神域の宝貝からしたら飴細工と一緒だ。脆くて弱い。こんなもので身を守っていると思い込むなんてな。愚の骨頂だ。
「ぎゃあああ。う、腕。俺の腕が。」
「聞きたいことがある。次は腕だけじゃすまないぞ。」
回りにも百名はラースフィールド兵が居たが、ボスがやられている上に戦意を折ってあるので誰もこちらに向かってこようとはしないようだ。情けない連中だな。ただ呆然とこちらを眺めている。
「なんだ!何が知りたい?」
「ラースフィールドの大将首は何処に居るんだ?答えろ…」
「それは…答えられない。」
「もう一本切り落とすか?ボクは気が短いんだ。早くしろ。」
「分かった。分かったから止めてくれ。ラースフィールドの首領はフォートマージにいる。ここから東に二日ほど歩いた場所にフォートマージはあるんだ。そこにラースフィールドの首領と護衛兵五千がいる。」
「そうかいご苦労様。止めをくれてやろう。」
サクリと音をたてそうな軽さでボクはこいつの心臓を貫いた。怯える瞳は閉じられた。
回りにいたラースフィールド兵は腰を抜かしている。ボクはゲートオブアヴァロンからもう一本黄金刀を取り出すと二刀流で辺りのラースフィールド兵を切り刻んだ。皆のアーマーはまるでパンにバターを塗ってあるようだった。意図も簡単に切り裂かれていく装甲。そして悲鳴…絶叫、銃声が上がる。銃弾はもちろんボクには当たらない。分からない奴等だね。どれほど剣舞を舞っていただろうか。気づくと辺り一面は鮮血の泉と化していた。アーマーの隙間から血を噴き出させるラースフィールド兵。ボクは血にまみれない。巫女服の防御結界が働いているから。もう辺りには動いている物体はボクしかいなかった。この場所のラースフィールド兵の葬送は終わった。ボクは亜空跳躍し、ケイジの元に戻った。
殺し漏れた敵を黙々とケイジは処理していた。ボクが止めろと声を掛けるまでずっと…
「止めるんだ。ケイジ。これ以上は弾の無駄だよ。あいつらに闘う意思は残っていない。」
「ハッ…そうだな。敵を殺すことに没頭しすぎていたよ。敵のボスの所まで行って何か情報は得られたか?」
「最後の目標地点を知れたよ。ここから東に歩いて二日のフォートマージという場所にラースフィールドの首領がいる。後は護衛軍五千人だな。激戦になるだろう。弾除けの加護が切れないことを祈るしかないね。」
「敵兵五千…本当にやる気か…今からでも引き返して十分な戦果だぞ。これ以上はお互いに無事ですむか分からないぞ。」
「狂気の沙汰ほど面白いってね。ボクの言うことには絶対服従だろ。必ず生かして返すと誓おう。さあラースフィールドに殴り込みだ。」
「もうどうにでもなれ。君に捕まった時点で死んでいるようなもんだったな。…覚悟は決まったどうにでもするが良い。」
「フフ…そうこないとね。流石ケイジだ。ボクの事を良くわかっている。惚れ込むだけはあるね。」
俺は今人生最大のピンチに見舞われていた。武装集団五千人と正面から撃ち合うはめになったのだ。弾除けの加護が有るもののどこまで有効かは俺にもギルディーンにも分からなかった。
今はバッカニア渓谷を抜けてそこから東の街道を歩いている。
本当に信じられない事が連続で起きている。さっきのラースフィールド兵も結局一方的に勝利してしまったし。最後にはギルディーンの剣舞でまるで丸太でも切るようにアーマーを撫で切りにしてしまっていた。剣舞が終わるまでに百人近くが殺されてしまったのだ。
もちろん発砲したりして抵抗は試みては居たようだがギルディーンは弾除けの加護で全ての射撃を無効化していた。
次はそれを五千人相手にやるのかとてもじゃないが付いていけないと言いたくなるが、ギルディーンの従者としては避けては通れない道だ。今はひたすら歩こう。ギルディーンも俺についてくる。
精神がいやに興奮している状態が続く。戦闘モードが抜けきっていないのかもしれない。
「随分怖い顔をしているね。ケイジ。どうしたんだい。」
「いや、どうにもなってないはずなんだが興奮状態が抜けなくてね。さっきの戦闘の影響がまだ残っているのかもしれない。」
「一人前の兵士として気分の切り替えくらいはマスターした方がいいな。ケイジ。リラックス。リラックスしろ。」
そう甘い声で語りかけてくるギルディーン。いつしか興奮は収まっていった。
「ありがとう。不要な興奮は収まったよ。まだフォートマージまでは遠い。歩き続けよう。」
「そうだね。変わったことがあれば何でも言うと良い。ボクは面倒見が案外良いんだ。」
「そうだったな。ありがとう。ギルディーン。」
しかし五千人か…正面からゲートオブアヴァロンを撃ちまくるとして殲滅までに十回は掃射しなくてはならないだろう。俺のオドは大丈夫なのだろうか?彼女が全力のゲートオブアヴァロンを使うだけで体が痛むのだが…
考えていても仕方がないだろう。
殺害衝動は少しずつ疼き始めている。最近魔物を殺していなかったからだろう。ラースフィールド兵を殺した時は少し晴れたのだが、また一滴ずつ水が溜まるように殺害衝動が疼いていた。
俺の空っぽの器を満たす本能か…どうしてこんな物騒な本能が、俺のやりたい事になるんだろうか?
これではあの死霊魔術師と同じではないか。自分の喜びの為にモンスターや人間を殺して充足を得るのだ。
ギルディーンは殺害衝動を昇華させろと言っていた。俺の戦闘能力の向上に繋げろと言ってくれた。俺にできることは出来るだけ正確に素早く撃ち抜く事だけだ。それを特殊能力と呼べるくらいに強化をしなくてはならない。歩きながら考えることではないかもしれないが…早撃ちか?…その路線で自分の殺害衝動を磨いていくことにしよう。と言っても早撃ちをする事で衝動を押さえると言った形になるかもしれないが。
俺はそんな事を夢想しながら歩き続けた。それから二日が経った。
現在ボクはラースフィールドの本拠地フォートマージに到着した。人類史崩壊以前の要塞を本拠地として使用しているようだ。フフン。ボクの相手に取って不足なしだ。ボクは挨拶代わりに要塞に取り付けてある速射砲やガトリングガン、高射砲をゲートオブアヴァロンで吹っ飛ばすことにした。
「ゲートオブアヴァロン!五百門開帳!全弾発射!」
全ての武装はゲートオブアヴァロンの一斉射撃によって吹き飛んだ。
サイレンがなり要塞からアーマーを着こんだ男達が出て来た。ぞろぞろと大量に出てくる。その数は三千人近くと千里眼が告げる。
ボクは最大展開したゲートオブアヴァロンを一斉射撃し続けた。アーマーを宝貝が貫き爆発する。この単純な攻撃で敵の兵士はどんどん死んでいった。ケイジをちらりと見る。大分負担が掛かっているみたいだな。ボクはオドの供給先を死体の魂に切り替えた。現在千人程死人を出している。その死人の魂を燃料にしてゲートオブアヴァロンを発射するのだ。ボクは供給元を死体に切り替えると矢継ぎ早にゲートオブアヴァロンを乱射し続けた。敵からはミサイルやレールガン、レーザーガトリングガン等の弾が湯水の様に飛んできたが全て弾除けの結界で防いでいる。
ケイジは凄まじい勢いで対竜狙撃銃を連射していた。一人一人着実に死を与えている。ここまで早撃ちの素質が有ったとはね。殺害衝動の昇華に成功したようでボクも嬉しい。
さあボクも本気を見せようか!
「ゲートオブアヴァロン!天空剣!」
天界のオーラが溢れるばかりに漂っている聖剣を射出した。そして着弾!究極の雷撃を放って剣は砕け散った。今の一射だけで三百人は死んだ。続けざまに宝貝を発動しながら発射していく。
「ゲートオブアヴァロン!ゲイボルグ!グングニール!」
ゲイボルグは無数の棘になり何十人ものラースフィールド兵を射ぬいた。
グングニールも敵を百人程誘導しながら射ぬくとゲートオブアヴァロンに戻ってきた。
「ゲートオブアヴァロン!ヴァジュラ!帝釈天骨!」
雷の力がこもった宝貝を二つ射出する。敵の付近に着弾すると雷のオーラを爆裂させて雷のドームを作り中にいた敵兵を全滅させた。
と…殺戮は続いていく。現在の敵兵は残り五百体程に減っていた。懸命に重火器で応戦するが全て弾除けの加護の前に無効化されていた。
まだ大将は出てこないか…前情報で後二千人は隠れていることは分かっていた。
仕方ないこいつらも殺そう。ボクはゲートオブアヴァロンを個別の宝貝の性能を解放しながら掃射していった。
悲鳴と銃声が二重奏を奏でる。これで本当に敵は全滅だ。
その時要塞の頂上から人が出て来た。赤い外套に黒いインナーの少女だ。
ブツブツと唱える。
「夢幻が現を現している。ファンタズムオーバーロード!ゲイボルグ!」
少女は槍を投擲してきた。槍は何十にも別れてボクを貫こうとしている。
ボクは神雷刀を回転させて全ての攻撃をいなした。距離は五百メートルはあるな!やるか!ボクは亜空跳躍をした。敵の少女の目の前に立つ。
「へぇ。あんた出来るんだね。家の兵隊をこんなに殺してくれちゃってさ。バッカニア渓谷もあんたらの仕業な訳?」
神雷刀をヒュンヒュンと振り回しながら答える。
「そうだとしたらどうする?」
「決まっているでしょ!幾度の冒険に意味はなく。ファンタズムオーバーロード!夢想転生!」
少女の手には二振りの陰陽双剣が握られていた。
そして目一杯少女は突っ込んでくる。袈裟斬り、切り上げ、二連突撃、回転斬、無名三連突、一息で繰り広げられる剣舞。
ボクは冷静に避けていったつもりだったが三連続の突きが鳩尾に突き刺さった。
「ガバッハァハァ。回復宝貝…神酒極大零呪。」
酒の入った缶を一瞬で体に振りかけ蘇生する。
「へぇあんた何でもありなんだね。私は自分の記憶にある何かを呼ぶのが限界よ。」
このままだと不味い。距離を後ろに取った。ゲートオブアヴァロンで宝貝を射出する。
カンカンカァンカンカァンカン…と弾かれる音が続く。全ての宝貝は双剣で地面に弾かれてしまった。畜生。
ボクはエクスカリバーをゲートオブアヴァロンから呼んだ。こちらも二刀流だ。
ケイジをちらりと見る。狙撃の機会を狙っているようだ。目で合図する。手を出したら殺すよりもひどい目に合わせてやる。驚いたような顔をケイジはしていた。意図は伝わったようだ。
目の前の敵に向き直る。一瞬の隙を穿つのだ。千里眼を使った予知能力を発揮する。相当な剣の使い手だ。ボクを凌駕しているかもしれない。
「お前名はなんという?」
「ウシオレンコ。とある事情でラースフィールドの首領をやっているわ。」
「殺すには惜しいやつだな。ボクの名前は究極黄金巫女。かつて星を統べた巫女だ。」
「フーン。そんな名前なんだ。少しは骨があると思ったけど王様だったのね。ま、私の剣技の冴えには叶わないでしょ。ここで死んじゃいなさい。」
少女は踏み込んでくる。二連斬。
ボクは神雷刀で二連斬を受け止め、エクスカリバーでレンコの腹を穿った…ように見えたが身を引かれた。上手いな…
「なかなかやるじゃない。ひやっと来たわ。」
「ただ討とう。それだけだ。」
ボクが剣舞を舞う。二連袈裟斬り、二連切り上げ、二段突撃、旋風斬、回転斬、夢幻泡影!
少女の双剣は弾き飛ばされた。そのままひらりひらりと剣舞を避けていたが、夢幻の舞い…夢幻泡影に巻き込まれて切り刻まれた。
少女は血を吐きながらうずくまる。
「ハァハァこんな世界に流れ着いてこんな奴らの首領やってたらこんな死が来るとわね。まったくやっていられないわ。」
「お前には邪気がないな。…二度とラースフィールドに関わらないと誓えるか。」
「別に良いわよ。特段拘りがあったわけではないしね。まあ生きてても死んでいても一緒の人生好きにさせて欲しいものよ。」
ボクはゲートオブアヴァロンから極大零呪を取り出すとレンコに振りかけた。全身の傷が癒えていく。
「ありがとう。究極黄金巫女様。私にどうしろっていうの?」
「ここにいて女に尻を拭いて貰っている二千人の兵士に誓え。今日を持ってラースフィールドは解散するとな。二度と民草を脅かすんじゃない。」
「誓いましょう!おーい隠れてる連中!今日でラースフィールドは解散します。後は野となれ山となれだ。今度見つけたら狩り殺しちゃうからね。覚悟しなさい。もう愚連隊のリーダーは卒業。皆バイバイ。」とレンコが拡声器のような声で叫んだ。
要塞の中から恐る恐る男達が顔を出してくる。ウシオレンコの号令を聞いて皆泣きそうな顔をしている。本当に情けない連中だな。
人の物は好き放題奪って犯して殺すのに自分の番になったら涙ぐんじゃっているよ。
「ほら散れ散れ!早く退去しないと全員殺すぞ!」
ボクの怒声を聞くと奴らはビクッとして歩くスピードを早めた。全員が着の身着のまま退去していく。
「あー終わった。何かスッキリしたわ。なんかありがとうだね。究極黄金巫女。」
「何だ。ラースフィールドは楽しんでやってたんじゃないのか?」
「ある程度は楽しかったけどね。もう食べるために襲うって言うのが嫌で嫌で仕方なかったの。立ち上げ当時は正義の味方になろうって言う名目だったから、流れ者の私も賛成したんだけどね。途中からグチャグチャに捻れちゃった。殺しを楽しんで食べるために町を犯しに行く集団に変わっちゃったもの。それで流れで首領になっちゃったから大変よ。止められないし、強奪は止まらないしね。」
「そうか…まあこれからは自由に生きていくが良い。お前も英雄なんだろ?民草を護るために生き直してみるんだな。ではさらばだ。」
「さようなら。究極黄金巫女。私も救国の英雄だったんだけど何をやっているんだか。召喚されてしまったけどマスターすら居なかったの。貴女みたいにマスターに恵まれたらもっと違った第二の人生を送れたかも知れないわね。」
「フッそうだな。もう語るべき事もない。」
ボクはそう言うとケイジの元に戻っていった。
本当にラースフィールドを倒しきってしまった。残りの二千人は殺さないで解散させたとはいえたった二人で成し遂げてしまった。まあその内の一人が殆どやってしまったようなものだが。俺が殺したのは三十人足らずだった。これでも一人で上げられる戦果としては最高の類いだろう。
そう十分すぎるのだ。人は一人で三千人近く殺せてはいけないのだ。それはもう人の領域を越えてしまっている。
俺は英雄の意味を改めて理解させられたのであった。
その英雄、ギルディーンが戻ってきた。
「どうだ。ケイジ。これがボクの実力だ。大将も含めて全員解散させたてやったぞ。」
「最後に出てきて一騎討ちをしたのが大将か。歳も君とそれほど変わらなかった気がするけど。どうなんだ。」
「あれははぐれ英雄だね。マスターがいない英雄さ。しかしボクと引き分ける位近接戦闘は強かったぞ。彼女もこれからは野に下るそうだ。一件落着だね。」
「そうか。ギルディーン…」
「もうミユキで良い。深名で呼ぶことを許そう。」
それは意外な一言だった。俺は目を丸くして驚いた。まさかギルディーン…これからはミユキか…がこんな事を言い出すとは思わなかったのだ。何か俺やっちゃいました?と誰にでもなく突っ込んでみる。浮かれ上がっている気分が止まらない。今なら羽が生えて天界まで飛んでいけそうな気分がする。
そんな心地で夢想に耽る俺をミユキが止めてきた。
「はいはい。嬉しいのは分かったから、一々呆けるな。馬鹿者。ケイジ。信頼の証として改めて深名で呼ぶことを許そう。以後もボクに尽くせよ。」
「ミユキ…ミユキか。ミユキなんだよな。分かったよ。これからも尽くさせてもらいますよ。ありがとう。」
「まあこの話題はここまでにしてどうする宝の山が転がっているかもしれないぞ。フォートマージを探検していくか?」
「そうだな。アーマーや重火器の他にも金品があるかもしれない。探しに行こう。」
そう言うと俺達はフォートマージの内部に入っていった。流石野郎が五千人居ただけあって広大な内部構造をしている。入り口の大広間から無数に個室が配置されていた。そんな感じで大広間と個室の配置が最深部まで続いているようだ。俺達は個室を中心に探索しながら主に宝石や金貨等をかき集めていった。非常事態だったので置きっぱなしになっていたらしい。スカベンジャーとして腕がなるものだ。結局その日は休憩をしながら夜も通して金品集めを続けたのだった。
翌日の朝にようやく金品を集め終わった。金額としては魔王退治に匹敵する収入になった。バックパックが宝石でパンパンである。
ミユキが話し掛けてくる。
「ケイジ。お前、結構空っぽじゃなくなってきたな。金があれば人間変わるか…普通に物欲も出て来たんじゃないか?一人で放浪していた頃とは目付きがまるで違うぞ。」
「そうなのかもしれないな。まあ俺も大分普通になってきたって所だろう。恋愛欲に殺害衝動に物欲か。殺害衝動だけ何とかしなくてはいけないけれど、他はそのままで良いのかもしれない。」
「殺害衝動は大丈夫なのか?一時期酷かったみたいだけど。」
「最近は意識をしていない。如何に効率よく敵を葬るかを考えているだけだ。それが俺にとっての殺害衝動の解放のさせ方にしたんだ。まあ簡単に言うと速射を極めてその快感で殺害衝動を治めようとしているんだな。」
「そうか。ボクが言った通り昇華出来ているみたいだね。感心感心。…ところでもうここには用はないだろう。カインポリスの町に戻ろうか。」
「ああ…そうするとしよう。ここのお宝は取り尽くしたからな。」
俺達はフォートマージからカインポリスに戻る旅に出た。ここから五日程で辿り着くだろう。
0
あなたにおすすめの小説
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる