独雨

あこ

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壱話

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凄惨な場面をふわふわの泡で幾重にも柔らかく包み込んだ子ども用の御伽噺。それをじっと聞き入る幼子はくりくりとした丸い瞳を不安そうな色に染めてゆはたを見つめた。
男はやんわりと下手くそに笑い、その無垢な視線から逃れるように顔を俯ける。


「そして鬼は子を取り戻し姿を消したのさ。さァ、これで話は終いであります。」

「オニさんは、しあわせになったの?」

「…ああ、その子どもも一緒に。」


安心したように体の力を抜いた幼子を置いて纈が立ち上がれば、母親がありがとうと微笑んだ。挨拶もそこそこに古びた家を出れば平時よりも強い夜風が頬を撫でる。
一つに結った黒髪が風に乱され、鬱陶しさからか目を細めて風上を見つめた。薄い唇から吐き出される呼気は白く揺らぎながら、風とともに消えていく。


「そろそろ時間か…」


じわじわと濃くなっていく頭上の濃紺に小さく呟き、山の端から直に昇るであろう月を、まだ見ぬそれとは対照的なまでの漆黒で見つめた。
ふ、と視線を地に落とし、革のブーツで数度地面を叩きそれが現れるタイミングを図る。


(さん…に…いち…)

「やや、纈さんじゃァありませんか!一体全体こんな辺鄙なところで何を?」


ため息が出たのは些か仕方のないことである。
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