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1.出会い
2.対峙
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男の手を見ると、旧式の小型拳銃が握られていた。ムルクホルムでは、まずお目にかかれない代物だ。
「……仕込み銃か。年代物でも、女を買うより高くついたんじゃないのか」
「ハ。てめぇをぶっ殺せるなら安い買い物だよ。まんまと騙されやがって、どういう気分だよ? あ?」
「そうだな。あんた、用心棒よりも役者に向いてるのかもな」
「口の減らねえ猫畜生だな。今、この場で殺してやるよ。てめぇも、空の見えるねぐらで死ねるなら本望だろ」
男は口ぶりこそ余裕のそれだったが、先ほどノルが与えたダメージが残っているのか、足元はふらついている。だが、その手はなおも銃を離さず、ノルへと向けられていた。ノルを確実に仕留めるためにタイミングを見計らっているのだろう、男は血走った目のままノルを睨み付けている。ノルもまた、男への警戒を解かないまま、状況を分析していた。一番の懸念点は負傷した右腿だ。どくどくと体温ごと血液が体外へと流れ出す感覚。幸い、太い血管は傷つけられていないようだが、このままでは失血による貧血に陥ることは避けられない。
(奴の手にある銃……旧式の小型拳銃なら装弾数は六~七発か。俺に一発、先ほどの追撃で三発……まだ二、三発は猶予があると考えるべきだろうな。無闇に距離を取るのは得策ではない……か)
そう考えている間にも、傷口からは血がとめどなく溢れている。その場へ蹲りそうになるのを、奥歯を強く噛み締めることでなんとか堪えながら、ノルは再び逆足で地面を蹴った。低く、地を這うように低く疾走し男へ迫る。男の手元から目を離さず、けむくじゃらの太い指が引金に力を込めるタイミングを見計らって、今度は右に跳んだ。同時に、先ほどまでノルが居た場所に、二発の弾痕が穿たれた。男の顔が驚愕に染まる。
「なっ……!」
男の瞳が動揺に揺れた隙に距離を詰めると、ノルは手にしていたナイフで男の心臓を狙い、一突きにした――はずだった。確かに狙い通りだったはずのナイフの軌道を変えたのは、ノルの利き足たる右足だった。あと一歩、あと一歩のところで、右足からはかくりと力が抜け、ノルはその場へと崩れ落ちた。
「っ、は、はははっはははは! ざまあみろ、クソ猫め‼」
倒れ込んだまま、動かないノルを見下ろし、男が笑った。笑い続けながら、それでも慎重にノルへと近づくと、ナイフを蹴り飛ばした。そこでようやく男は警戒を解いたらしい。拳銃に弾を込め直すと、ノルへ向けて構えた。
「楽に死ねると思うなよ」
「ッ、……ぐ、っ」
一発、二発、弾丸がノルの皮膚を抉っていく。わざと狙いを外して痛めつけているのだろう。ノルが痛みに呻き、のたうち回る度に、男はなにが可笑しいのかげらげらと声を上げて笑った。何とか急所を晒すまいと地面へ腹ばいに蹲るが、銃弾は無情にも露わになった肩を、背中を、腕を、足を容赦なく貫いていく。
「ぐっ、あ、う、あっ……」
「い~い悲鳴だなあ。あ? おい、もっと鳴けよ。惨めに、薄汚い猫らしくな」
足音が迫る。乾いた靴音。スラムの薄汚れた金属床に反響するそれは、獣を追いつめる猟犬のようだった。男の持つ拳銃が、カチリと音を立てる。
(だめ、か――)
ノルがそう悟った、その瞬間だった。
「……仕込み銃か。年代物でも、女を買うより高くついたんじゃないのか」
「ハ。てめぇをぶっ殺せるなら安い買い物だよ。まんまと騙されやがって、どういう気分だよ? あ?」
「そうだな。あんた、用心棒よりも役者に向いてるのかもな」
「口の減らねえ猫畜生だな。今、この場で殺してやるよ。てめぇも、空の見えるねぐらで死ねるなら本望だろ」
男は口ぶりこそ余裕のそれだったが、先ほどノルが与えたダメージが残っているのか、足元はふらついている。だが、その手はなおも銃を離さず、ノルへと向けられていた。ノルを確実に仕留めるためにタイミングを見計らっているのだろう、男は血走った目のままノルを睨み付けている。ノルもまた、男への警戒を解かないまま、状況を分析していた。一番の懸念点は負傷した右腿だ。どくどくと体温ごと血液が体外へと流れ出す感覚。幸い、太い血管は傷つけられていないようだが、このままでは失血による貧血に陥ることは避けられない。
(奴の手にある銃……旧式の小型拳銃なら装弾数は六~七発か。俺に一発、先ほどの追撃で三発……まだ二、三発は猶予があると考えるべきだろうな。無闇に距離を取るのは得策ではない……か)
そう考えている間にも、傷口からは血がとめどなく溢れている。その場へ蹲りそうになるのを、奥歯を強く噛み締めることでなんとか堪えながら、ノルは再び逆足で地面を蹴った。低く、地を這うように低く疾走し男へ迫る。男の手元から目を離さず、けむくじゃらの太い指が引金に力を込めるタイミングを見計らって、今度は右に跳んだ。同時に、先ほどまでノルが居た場所に、二発の弾痕が穿たれた。男の顔が驚愕に染まる。
「なっ……!」
男の瞳が動揺に揺れた隙に距離を詰めると、ノルは手にしていたナイフで男の心臓を狙い、一突きにした――はずだった。確かに狙い通りだったはずのナイフの軌道を変えたのは、ノルの利き足たる右足だった。あと一歩、あと一歩のところで、右足からはかくりと力が抜け、ノルはその場へと崩れ落ちた。
「っ、は、はははっはははは! ざまあみろ、クソ猫め‼」
倒れ込んだまま、動かないノルを見下ろし、男が笑った。笑い続けながら、それでも慎重にノルへと近づくと、ナイフを蹴り飛ばした。そこでようやく男は警戒を解いたらしい。拳銃に弾を込め直すと、ノルへ向けて構えた。
「楽に死ねると思うなよ」
「ッ、……ぐ、っ」
一発、二発、弾丸がノルの皮膚を抉っていく。わざと狙いを外して痛めつけているのだろう。ノルが痛みに呻き、のたうち回る度に、男はなにが可笑しいのかげらげらと声を上げて笑った。何とか急所を晒すまいと地面へ腹ばいに蹲るが、銃弾は無情にも露わになった肩を、背中を、腕を、足を容赦なく貫いていく。
「ぐっ、あ、う、あっ……」
「い~い悲鳴だなあ。あ? おい、もっと鳴けよ。惨めに、薄汚い猫らしくな」
足音が迫る。乾いた靴音。スラムの薄汚れた金属床に反響するそれは、獣を追いつめる猟犬のようだった。男の持つ拳銃が、カチリと音を立てる。
(だめ、か――)
ノルがそう悟った、その瞬間だった。
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