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masuta

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第一章:出会いの章 〜導きのルート設定〜

第四話 ピュアな二人

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 朝なのか、何か暖かい。  まだ起きられない。突然、女性が泊まり込みで……。いったいこの子は誰なのだろう。性別不明なわけはない、女性だ。名前は知らない。いや、美野里という名前で話は続いている。親御さんは心配していないのだろうか。

 むにゅ、むにゅ?  なんだ? この柔らかいものは……。  顔が……く、苦しい……。そっと目を開けると。 「うわあー!」  慌てて顔を離す。女性の胸が、なぜか顔を挟んでいた。そうだ、突然美少女が現れて、そのまま泊まったのだ。夢ではない。  しかし、どういう寝相なのだろうか。はだけすぎだろう。 (おいおい、静まれ、自分……)  必死に言い聞かせる。女性と接した経験はないが、目の前の現実はあまりにリアルすぎる。

(未来、かわいい) 「うーん、よく寝た。気持ちいい朝。未来、おはよう」  美野里は起き上がると、そのまま迷いなくトイレと洗面所へ向かった。  すると、突然大きな声が響いた。 「なーい!」 「……どうしたの、え? 何があったの?」  急いで未来が駆け寄る。 「歯ブラシとか無い。お客さん用とか無いの?」  ギロリと睨まれ、未来は直立不動で硬直した。 (かわいい、ムフフ)

「……コンビニで買ってくる」 「却下。あたりを見渡すと、あらゆるものが足りないわ。私のものばかりだもの」  彼女はちょっとどいて、と未来を退かすと、パソコンを開いて調べ物を始めた。 「ここだ! ウエルシアに行こう。二十四時間やっているドラッグストアだって。決定!」  コンビニは目の前だが、あそこは歯ブラシくらいだ。未来の考えていることが手に取るようにわかったので、彼女は先手を打った。 「うるさい、行くよ、ウエルシア。車ね、わかった?」  着替えを済ませると、「早くエンジンかけてよ。この暑さで溶けちゃう」と急かした。  途中、つまづいて転んだ未来を見て、彼女は心の中で(かわいい)と呟きながら先を急いだ。  エンジンがかかり、車内は快適な温度になる。ナビはいらない。ウエルシアはすぐそこだ。未来は車を走らせた。

   ***

 早朝ということもあり、駐車場には三、四台しか停まっていない。今は午前五時二十分。夏は朝と夜の境界が曖昧だ。  五時なのにこんなに暑いのか、と自問している未来を見て、彼女は釘を刺した。 「……あのね、買い物籠ではダメなの。カートを持ってきて」  次々に生活用品を詰め込む。それが必要なのか、という未来の顔をお構いなしに、彼女のペースは上がっていく。 (私に必要なものは、この世に必要なの。わかる?)  言わんばかりに「日用品はこれでOK。生理用品も買わないとね」と告げる。未来はまた硬直している。 (かわいい、未来)

 ひどかったのは石鹸だ。あんなもの、すべて買い替える。私好みに、ぜーんぶ。  文句あるの、と強い視線を送ると、彼は視線を逸らした。 「お化粧品もあるわね。これと、これと、これもね……」 「……」 「何ニヤニヤしているのよ」 「いや、楽しそうだなと」 「……そんなことはいいから、次のカート持ってきて! 入らないでしょう」  未来はダッシュで新しいカートを持ってきた。 「よろしい」  鼻歌を歌いながら、さらに詰め込んでいく。食料品コーナーでは、即席麺の充実ぶりに驚きの声を上げた。 「……え? 今こんなにパスタソースの種類があるの? 流水麺、なにこれ! すごい、水でささっと、プチンとタレ……これ、おいしそう!」 (今パスタソースがある? どういうことだ。普通にCMしているだろうに……)  未来は彼女の不思議な言い草に首を傾げた。

「薬一式、マスクもね。綿棒。これも買う。それから夜のパワーアップ、OS一……ふーん、一応買っておこう。誰かさんのせいで、車の中で意識が飛びそうになったからね」  すでに二つのカートは満杯だ。 「あのー、入りきらないのですが……」 「――もう一台持ってきて! 早く!」  ダッ、ダダッダー。 「これも買おう。夜のお供、必需品。まだ、赤ちゃんは早いからね」  店員さんが振り向くが、すぐに陳列に戻った。声に出さなくても、彼女は買うのだろう。 (戸惑っているわね、かわいい、未来)

「これでよし! 未来、よろしくね」  会計を済ませ、商品を車に運ぶ。後部座席は物凄い量で埋まった。  隣の店にも寄り、生鮮食品をまとめ買い。これで完璧、大勝利だ。  ふと、百円均一の看板が目に入った。 「百均も行くわよ。洗濯ネットとか、干す時の備品。……それから、下着。あなたが落として汚してくれたものね」  未来はバツが悪そうに下を向いた。 (私の水着を思い出しているのかしら、かわいい。頬が赤くなっちゃって)

   ◇

 座席は品物で埋め尽くされていた。自宅に到着し、美野里は颯爽と部屋に入っていく。未来は、自分は何往復すればよいのだろうかと呆然とした。  冷蔵庫に入りきらない、棚も足りない。未来はそっと手を挙げた。 「……この、お引越しセットみたいな買い物はどういうことでしょうか」 「はあ? バカなの。だから、私が誕プレだって言ったよね? 私はここに住むの。私では不足?」  言い放ち、胸を強調して迫る。反論の余地を与えない。  あまりに素直な未来を見て、(私のこと嫌いにならないでね)と心で思う。 「そうだ! 朝ごはん作るね。エプロンは? ……無いの。しょうがないな」 (久しぶりだ、朝ごはん。いい匂いがする……)  お味噌汁の香りが漂ってくる。 (ムフフ、勝った!)

「いただきまーす! うまい!」 「どう、私、必要でしょう?」 「うん、うん」  食べるのが早い。男の子という感じがたまらない。 「ほら、ごはんつぶがついている」  手を伸ばすと、未来が固まった。 (ひっぱたかれるとでも思ったの? 少し強引だったかしら。いや、まだセーフ。二十パーセント) 「美味しかった、ごちそうさまでした」

 未来が洗い物を始めようとするのを、彼女は制した。 「食洗機、使わないの? 専用洗剤も買ってきたよ」 「いや、使ったことがない」 「はあ? いつの時代の人なの」  外食専門だから使い方がわからないですって。彼女は使い方をレクチャーした。 「後は放置。いいわね?」  さて、と未来のパソコンを触りだす。 「……へー、こんなのあるんだ。この掃除機を買おう。ネットだと期待外れが怖いから、実物を見たいわ」  じっと、未来を見る。 「……わかりました、わかりました」

 車でコジマ×ビックカメラに到着。早速ハンディ掃除機のダイソンを試す。 「これすごい、こんなにきれいに。決めた。あとドライヤーも。これ、いいわ、二万円も安い」 (安いとか高いとか、支払い僕なんですけど……) 「……え! 顔が近い!」  未来はドキドキしてしまった。 「私のパソコンとスマートフォンが欲しいの」 「そういうことか……」  未来は何かを勘違いしていた自分を恥じた。 「……ところで、美野里さん。気になっていたのですが、お金はあるのでしょうか?」 「ないわよ」 「はあ?」 「いいじゃないの。誕プレにプレゼントよ」  自分でも何を言っているのかわからないが、ここは女の武器だ。胸を押し付けて、 「お・ね・が・い」 「はーい!」  未来の甲高い声が店中に響き、店員さんがクスクスと笑った。 (未来、ムフフ、大勝利) 「……あなたの、その昭和みたいなスマートフォンも変えましょう。お揃いね。これで決定!」

 レジで未来が申し訳なさそうに振り返る。 「……聞いていいですか、カードとかは?」 「ない」  数秒、時間が止まった。  これはまずい、と言わんばかりに胸を未来に押し付ける。 「もちろん、あなたが買います。大丈夫です」 「……」 「まだあるのよ」  耳元で甘い息を吹きかける。 「ひいー!」  またもや悲鳴が店内に響いた。 (ムフフ、未来かわいい) 「洗濯機はドラム式。冷蔵庫は六百五十リットルに変えまーす。決定!」  さらに胸を押し付けられ、反論できない未来の頬は真っ赤だった。  お会計は高額。お届けは明日。整理整頓をしていたら、もう夕方になってしまった。

「暑い、シャワー浴びるね」  バサァーとその場で上着を脱ぎ出し、彼女は浴室へ。直視してはいけないと思いながらも、未来は見てしまった。 (収まれ、収まれ、僕には刺激が強すぎる……)  エアコンの音しかしない部屋に、シャワーの音と鼻歌が聞こえてくる。 「お待たせ」  白衣姿で出てきた。谷間は隠しきれていない。どうやら研究所の白衣が気に入ったらしい。 「あの、そのだぼだぼ白衣一枚で出てくるのは……」 「嫌なの? これ好きなのだけれど、外そうか?」 「そうではないのです……」 (ムフフ、完勝ね)

「明日は西武に行きたい」 「……え? 無いよ、西武」  一分ほど時間が止まった。船橋にある西武よ、と彼女は思う。 「東武にしよう。夕方に冷蔵庫が来るから、明日は東武へ」 「ふーん……西武、無いの?」  どうしてだろう、後で調べよう。彼女は未来の顔を覗き込み、「夜ご飯作るの疲れた」と甘えた。

   ◇

 パソコンで調べて、「ここに行こう! 検索数は少ないけど、駅前って書いてあるし」  歩いて店に到着。 「――では、晴れて引越し記念に、乾杯」 「これで、人並みの生活ができるわ。私に感謝しなさい」 (なんのことだ? 普通に寝ることができれば十分なのだが……。本当に住むのか? 同棲? 親父もおふくろも意味がわからない) (悪い子じゃないし、美人でスタイルもいいけど……どこの誰なんだ。実は結婚していてDVから逃げてきたとか?) (私、疑われているわね。そりゃそうか)  彼女は声を大きくした。 「……あのね、私は独身。あえていうなら、処女よ! 新品。穢れのない、処女」  一斉に、店内のお客さんが振り返る。ひそひそ話が耳に入る。 「店の中で言うな!」  未来は顔を真っ赤にした。 「そういう未来は?」 「……童貞です。彼女歴ゼロ」 (ドキドキしてきちゃった! 処女に童貞、最高にエロス) 「……もう分かったから。食べよう、おいしい! ビールおかわり」

   ***

 お腹いっぱいになり帰宅すると、彼女はバサァーと服を脱ぎ捨てて床に横たわった。酔っている。 (……僕が男だってわかっているのかな。完全に寝ているし。パジャマを着せてベッドに運んでいいのか……)  テレビのニュースを見ながら、未来は焼酎を飲む。さすがに眠い。  未来は、彼女が用意していたパジャマを見つけた。意を決して袖を通させ、体を横向きにする。見てはいけない、触ってはいけない……。 (心臓の鼓動がうるさい……ドクン、ドクン)  我慢して、なんとか寝かせた。  ドキドキが止まらない。 (……刺激が強すぎる。襲ったりする勇気なんて微塵もないけど。せめて名前以外の素性を聞かなくては)  そんなことを考えているうちに、いつのまにか眠りに落ちていた。
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