新しいルートでご案内致します。目的地は、君の隣(きみとな)

masuta

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第一章:出会いの章 〜導きのルート設定〜

第十三話 はじめて電車に乗った、取扱説明書はどこですか

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 私が一番きれいなの、わかる? わかる人、手を挙げてー! よろしい。それで、よろしい。

   ***

 朝、お風呂に入り、美野里と朝食をとる。これって普通のことなのだろうか。  今日からは旅行だ。トラベルケースは僕のがあるから、これに詰めるとして、美野里は何を持っていくのだろう。

 夕方までには荷物の整理が終わった。 「もうこんな時間だ。十七時からだから、行ってくるね」 「私も駅まで行くね……」  未来は行ってしまった。

 帰宅すると、部屋には僕一人。さっきまで旅行の準備で賑やかだったのに、今は静かすぎて、つまらない。  時計を見る。十七時ちょうど。未来の歓迎会は始まっただろうか。

 時計を見る。  十七時〇五分。

 まだ五分しか経っていない。もう三時間くらい経ったのではないか。  時計を見る。一分しか進んでいない。

 スマートフォンの時間を二十時に設定してみるが、すぐに十七時十分と現実に引き戻される。  外を見るとお日様が照っている。暑い。まだ夜ではない。

「暇ーー!!」  とりあえず、アニメを観よう。時間を潰さなくては。缶ビールを開ける。

 時計を見る。十九時。あと一時間。  暇! 暇! ひま。  乙女一人を置いて、未来はどこへ行っているのか。歓迎会。仕事なのはわかっているけれど、暇なのだ。

 ……そうだ。私も行けば良いんだわ。  歓迎会に突撃したら、未来は驚くかしら。  着替えて、おめかしして。これで良し。

 では、いってまいります。  右を見て、左を見て、異常なし! 駅に向かう。

   ***

 ……ところで、電車はどうやって乗れば良いのか。駅員さんに聞いてみよう。 「すみません、電車ってどうやって乗れば良いのでしょうか?」 「え?(まさか、飛び込みとかじゃないよな……)」 「電車に乗ったことがなくて。ずっと海外生活だったので」 「ああ、そういうことですか。どちらまで?」 「北習志野きたならしの駅です」

 駅員さんに説明を受け、切符を買った。何か言っていた気がするが、ちょうど電車が来たので飛び乗った。

 未来。未来。未来に会える。  電車に乗るのは生まれて初めてだ。ドキドキする。車内は案外静かなのね。

 新京成電鉄のことは知っている。お父さんから「おもしろいんだぞ」と見せてもらった、水の中を突き抜ける。有名な話だ。  お父さんとお母さんとコンピューターで観ながら、「へー、スプラッシュマウンテンってなあに?」と聞き返したことも覚えている。

   ◇

 それにしても、不思議な駅名ばかりだわ。 【二和向台ふたわむこうだい】  どの「蓋」なのだろう。お鍋、どこへ行っちゃったの? 「むこうだーい」。おもしろい。

飯山満はさま】  普通に読んだら人の名前じゃない。「いいやまみつる」さん、手を挙げて。はーい。……「はさま」なんて、絶対に読めないわよ。最高。

東海神ひがしかいじん】  海の神様でもいるのかしら。「ひがしかいじん」。これも読まないわよね。

 極めつけはこれだ。 【北習志野きたならしの】  凄いネーミングセンス。「きたらなしーの」。ばっちいーの。  汚いイメージしか思い浮かばない。そこに未来の事務所がある。職場、汚いのかな。きたなしの……。

 電車の中で路線図を見上げながら、くすくすと一人で笑う。  ドアが開いた。あれ? 「鎌ヶ谷」と書いてある。次は「三咲」じゃないの?  スマートフォンを取り出して、逆方向であることに気づいた。閉まる寸前のドアから飛び降りる。

 どういうこと。電車に乗ったのに、北習志野に連れて行ってくれないの?  視線を向けると、矢印があって「北習志野」。そうか、あっちに来る電車に乗らなきゃいけないのね。電車、むずかしい!

 少し待つと新津田沼行きが来た。これで間違いない。「ばっちいい駅」で降りればいいのね。北習志野。

 着いた。けれど、どうやって外に出るの?  駅員さんに聞いた。「牛角」と言っていた。丁寧に説明を受け、ようやく改札へ。

 通り抜けようとすると。  ピンポーーーーーン……。

 通せんぼされた。  もう一度。ピンポーーーーン。  どうして通してくれないのよ。

 駅員さんが来て教えてくれた。切符はここに入れる。なるほど。  ナビを頼りに「牛角」を目指す。看板は見覚えがある。焼肉屋だ。  今何時? え、もう二十時になる。走って、店に辿り着いた。目の前には……。

   ***

「乾杯!」 「先輩、二段飛び昇進おめでとうございます!」  新人の早苗が隣に寄り、僕の肩に自分の肩を押し付けてくる。

「凄いことだ。俺も三十五年社会人をやっているが、飛び級は初めて見たよ。新穂君、来年の課長昇進も決まっているんだってな」 「本当に。私は八年目だけど聞いたことないわ。凄いことなのよ、新穂君」  逆隣には加奈さんもやってきて、僕は完全な板挟み状態だ。

(そういえば、美野里と焼肉はまだだったな……)

「ガンガン飲むぞー! 暑気払いだ!」 「所長、昨日も同じこと言って飲んでましたよね」

(皆、飲むペースが早いな……) 「えー、つまんないですよー。先輩も飲んでください!」  早苗ちゃんの胸が当たる気がする。加奈さんの胸も当たっているような……。

   ◇

 宴も終わり、店を出る。 「立てますか? 高野さん」 「無理ぃ……」  泥酔した早苗を、所長たちが支えて外に出る。  危うく倒れ込みそうになる早苗の肩を、僕がとっさに抑えた。

 ――そこに。 「おそーーーい、未来」

(嫌な予感がしたんだ……!) 「未来、帰りましょう」  美野里が僕の横に並ぶ。彼女は座り込む早苗を一瞥して言った。 「未来、タクシーを呼んであげて。私たちは帰るわよ」

 ふらふらしている所長がアプリでタクシーを呼び、僕と美野里は駅へ向かった。  電車の中、二人は無言だった。 (……もしかして、怒ってらっしゃる?)

   ***

 帰宅。静かな部屋にはエアコンの音だけが響く。空気が、冷たい。

「一つ聞いて良いかしら」 (うわ、やっぱり怒っている!) 「さっきの女性と、わたし、どっちがかわいい?」 「……え?」 「どっちがかわいいの?」 「そりゃあ……美野里だよ」 「じゃあ、どっちがきれい?」 「だから、どっちなの?」

 僕は真っ直ぐ彼女を見つめて言った。 「……きれいなのは、美野里です。美野里が一番、一番きれいです」

「ならよし! 焼き鳥食べに行きましょう!」

   ***

 明日からはホテル三日月だ。どんなところだろう。  美野里は満足したのか、先にベッドで寝てしまった。

 僕は麦焼酎を炭酸で割りながら、予約メールを確認する。 【龍宮城スパホテル三日月】  龍宮城って……。亀を助けて、浦島太郎になるあそこか? え、僕、おじいちゃんになっちゃうの? そんな馬鹿な。  特別室、露天風呂付き。なんだか凄いところだ。

 明日の天気は……え? 雨?  土日は台風が来るらしい。  美野里は知っているのだろうか。

 台風が来るホテル三日月、三泊四日。  二人は、どのような時間を過ごすのであろうか。
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