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第一章:出会いの章 〜導きのルート設定〜
第十五話 停伝と停電
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真っ暗。見えない、見えない、見えない。怖い、怖い、怖い。 未来、未来、みらーーーーーい!
***
眠れない。眠れるわけもない。 この真夜中に、煌々と明かりを点けたまま、隣で「こんにちは」してしまっている彼女の無防備な姿。それを直視しないように必死に隠れなくてはならない。 その時、彼女が「うーん」と寝返りを打った。台風の雨風が強まる中、さらに襟元が大きくはだける。
(あの、こんにちは、しないでください。早くおやすみなさい、してください!) ここは勇気を出して直すべきか。(いや、駄目だ。大体、どうすれば良いのか分からない!)
◇
少し頭を下げて、彼女の浴衣の襟を正し、隠そうとした、その時だった。
――ぱくう。
え。 え。 えええー!
美野里の、あの信じられないような柔らかさが、僕の口の中にぱくっと収まってしまった。
一プラス一は二。二プラス二は四。四プラス四は……。 僕は一体何をしていたんだ。 足し算、掛け算、四則計算。いや、違う。フェルマーの最終定理、心頭滅却すれば火もまた涼し……いや、沸騰している! 脳漿が沸騰している!
これは不可抗力だ。完全に事故だ。しかし、僕の理性はすでに限界を超えようとしていた。外の風と雨は、一段と強くなってきている。そう、今は非常事態なのだ。
◇
一度立ち上がり、浴衣を直す。これでよし。 (もったいない……。いや、もったいないが、どうして良いのかも分からない。寝られない。絶対に寝られない!)
美野里は満足そうに笑みを浮かべて寝ている。本当は起きているのではないだろうか。 一旦部屋を出て、冷えた缶ビールを煽る。
――ふう。落ち着いた。 今のは夢だ。おそらく、いや、絶対に夢。夢なんだ。 自分に言い聞かせる。すぐにビールが空になり、もう一本開けた。 意識するなという方が無理だ。
同じ二十七歳。二宮美野里。どこかで会っているのだろうか。名前がずっと引っかかっている。日本の常識を不思議がるわりに、千葉の土地勘はある。けれど、船橋の西武デパートがないことを知らない。どういうことだ。 好奇心旺盛なわりに怖がり。両極端な彼女に目を向けると、また微笑みながら眠っている。
三時か。寝よう。再びベッドに入る。
◇
――すると、狙っていたかのように、再び「こんにちは」が。
ええーい! ――ぱくう。
もう、頭がぼーっとしてきた。このままでいい。このままで。 きっと、これも夢なのだから。
***
(え? ええー? ええええー?) (ドキドキしてきた。心臓の音、聞こえちゃうかな)
(ドキドキ、ドキドキ……)
(……え? 起き上がっちゃった。行っちゃった。もう、何しているの未来!) (良いわよ、未来なら。私は未来になら、なんだってあげる。そのために私は戻ってきたのだから)
(なのに……) (このドキドキを返せー! どこ行ったの未来。あ、戻ってきた。ビール飲んでるし) (私、起き上がっちゃおうかな。「続きは?」って。そしたら未来、どうなるかしら。ムフフ、楽しい)
◇
(あ、また入ってきた。よーし、今度こそ……) (ええー!)
(ドキドキ、ドキドキ……) (言う。もう、未来にすべて話す。そして、私を貰ってもらうの。我慢なんてできない!)
(あれ? ……あれ? あれれ?) (おーい、未来。み、ら、い!)
(寝ちゃったよ……。未来、赤ちゃんみたい。かわいい……) (私がお母さんになったら、こんな気持ちになるのかな)
(これどうするのよ私。寝られないじゃない!) (何もしないの? 未来。ドキドキが止まらないのに)
◇
(ん……? あれ、何か硬いものが……) 太ももに当たる、熱を帯びた硬質な感触。あ、これ、保健体育で習ったやつだ。 (……ふふっ。未来ったら、身体は正直なんじゃない)
(起きてよ、未来。ねえ。このままじゃ私が眠れないじゃない) (私のこと、本当に分からないの? すべて話したい。話したら分かってもらえるよね) (でも、もし拒絶されたら……。それは嫌だ)
(もう、未来のばーか、ばーか、いくじなし!)
雨、風。外の音が強くなっていく。私の鼓動も、さらに強くなっていく。 そのまま、私はいつの間にか眠りについていた。
◇
とんでもない暴風雨の音で、二人は同時に目を開けた。 状況を理解するのに数分かかり、ゆっくりと「ぱっく」から離れる。
(あ、寝ちゃった。怒られるよね) (あん、寝ちゃった。これが気持ちの良い目覚めというのね)
「お、お、おはよう未来。あのね、もう少し……寝ましょう」
時計を見るとまだ五時だった。それから十時まで、二人は泥のように眠った。
◇
凄まじい風雨の音で再び起きた。ニュースでは台風が千葉県南部に上陸したと報じている。最大瞬間風速は五十五メートル。首都圏の交通網は麻痺していた。
「美野里、ここも停電するかもしれない。エレベーターは使わないようにしよう。食料やお酒も買い込んでおこう」
二人は階段で下へ降り、買い出しを済ませた。館内に他の客の姿はほとんどない。 美野里は小刻みに震えていた。外はとんでもない暴風雨だ。
「美野里、部屋に戻ってゆっくりしよう」 「うん……お土産のお菓子も買っておこうか。夜ご飯、食べられないかもしれないし」
買い物を終え、部屋に戻ろうとした、その時だった。
***
――辺りが一斉に、真っ暗になった。
停電だ。美野里が僕の背中にしがみつく。スマートフォンの緊急速報が鳴り響いた。 ライトを点け、階段を上る。美野里はがっちりと僕の背中にしがみついたままだ。 部屋に入り、LEDランタンを灯す。テレビはつかない。
震える美野里の髪を撫でながら「大丈夫だよ」となだめる。 「椅子より、ベッドが良い。ここ怖い……」
◇
寝室に移動し、僕は水のペットボトルを五本、星形に並べた。 「美野里、見ててね。いくよ……」
五本の真ん中にLEDを置く。光が水に反射し、部屋中に幻想的な明るさが広がった。 「すごーい、きれい! 未来、これなら明るいね。ふー、怖かった。これでビールが飲めるわ」
乾杯。 「美野里、充電は大丈夫?」 「十六%しかない……」 僕は彼女に急速充電セットを渡した。
九州に行きたいという話で盛り上がり、予定の話になる。 「来週末はダメよ。もう予定、決めているんだから」
話しているうちに、徐々に眠気が襲ってきた。 美野里は僕に髪を撫でられながら、やがて静かに寝息を立て始めた。
(美野里が寝ている間に、きっと台風は過ぎる。停電も回復するはずだ)
未来は、ずっと起きていた。 彼女の髪を撫でながら、ただ静かに、台風が過ぎ去るのを待っていた。
***
眠れない。眠れるわけもない。 この真夜中に、煌々と明かりを点けたまま、隣で「こんにちは」してしまっている彼女の無防備な姿。それを直視しないように必死に隠れなくてはならない。 その時、彼女が「うーん」と寝返りを打った。台風の雨風が強まる中、さらに襟元が大きくはだける。
(あの、こんにちは、しないでください。早くおやすみなさい、してください!) ここは勇気を出して直すべきか。(いや、駄目だ。大体、どうすれば良いのか分からない!)
◇
少し頭を下げて、彼女の浴衣の襟を正し、隠そうとした、その時だった。
――ぱくう。
え。 え。 えええー!
美野里の、あの信じられないような柔らかさが、僕の口の中にぱくっと収まってしまった。
一プラス一は二。二プラス二は四。四プラス四は……。 僕は一体何をしていたんだ。 足し算、掛け算、四則計算。いや、違う。フェルマーの最終定理、心頭滅却すれば火もまた涼し……いや、沸騰している! 脳漿が沸騰している!
これは不可抗力だ。完全に事故だ。しかし、僕の理性はすでに限界を超えようとしていた。外の風と雨は、一段と強くなってきている。そう、今は非常事態なのだ。
◇
一度立ち上がり、浴衣を直す。これでよし。 (もったいない……。いや、もったいないが、どうして良いのかも分からない。寝られない。絶対に寝られない!)
美野里は満足そうに笑みを浮かべて寝ている。本当は起きているのではないだろうか。 一旦部屋を出て、冷えた缶ビールを煽る。
――ふう。落ち着いた。 今のは夢だ。おそらく、いや、絶対に夢。夢なんだ。 自分に言い聞かせる。すぐにビールが空になり、もう一本開けた。 意識するなという方が無理だ。
同じ二十七歳。二宮美野里。どこかで会っているのだろうか。名前がずっと引っかかっている。日本の常識を不思議がるわりに、千葉の土地勘はある。けれど、船橋の西武デパートがないことを知らない。どういうことだ。 好奇心旺盛なわりに怖がり。両極端な彼女に目を向けると、また微笑みながら眠っている。
三時か。寝よう。再びベッドに入る。
◇
――すると、狙っていたかのように、再び「こんにちは」が。
ええーい! ――ぱくう。
もう、頭がぼーっとしてきた。このままでいい。このままで。 きっと、これも夢なのだから。
***
(え? ええー? ええええー?) (ドキドキしてきた。心臓の音、聞こえちゃうかな)
(ドキドキ、ドキドキ……)
(……え? 起き上がっちゃった。行っちゃった。もう、何しているの未来!) (良いわよ、未来なら。私は未来になら、なんだってあげる。そのために私は戻ってきたのだから)
(なのに……) (このドキドキを返せー! どこ行ったの未来。あ、戻ってきた。ビール飲んでるし) (私、起き上がっちゃおうかな。「続きは?」って。そしたら未来、どうなるかしら。ムフフ、楽しい)
◇
(あ、また入ってきた。よーし、今度こそ……) (ええー!)
(ドキドキ、ドキドキ……) (言う。もう、未来にすべて話す。そして、私を貰ってもらうの。我慢なんてできない!)
(あれ? ……あれ? あれれ?) (おーい、未来。み、ら、い!)
(寝ちゃったよ……。未来、赤ちゃんみたい。かわいい……) (私がお母さんになったら、こんな気持ちになるのかな)
(これどうするのよ私。寝られないじゃない!) (何もしないの? 未来。ドキドキが止まらないのに)
◇
(ん……? あれ、何か硬いものが……) 太ももに当たる、熱を帯びた硬質な感触。あ、これ、保健体育で習ったやつだ。 (……ふふっ。未来ったら、身体は正直なんじゃない)
(起きてよ、未来。ねえ。このままじゃ私が眠れないじゃない) (私のこと、本当に分からないの? すべて話したい。話したら分かってもらえるよね) (でも、もし拒絶されたら……。それは嫌だ)
(もう、未来のばーか、ばーか、いくじなし!)
雨、風。外の音が強くなっていく。私の鼓動も、さらに強くなっていく。 そのまま、私はいつの間にか眠りについていた。
◇
とんでもない暴風雨の音で、二人は同時に目を開けた。 状況を理解するのに数分かかり、ゆっくりと「ぱっく」から離れる。
(あ、寝ちゃった。怒られるよね) (あん、寝ちゃった。これが気持ちの良い目覚めというのね)
「お、お、おはよう未来。あのね、もう少し……寝ましょう」
時計を見るとまだ五時だった。それから十時まで、二人は泥のように眠った。
◇
凄まじい風雨の音で再び起きた。ニュースでは台風が千葉県南部に上陸したと報じている。最大瞬間風速は五十五メートル。首都圏の交通網は麻痺していた。
「美野里、ここも停電するかもしれない。エレベーターは使わないようにしよう。食料やお酒も買い込んでおこう」
二人は階段で下へ降り、買い出しを済ませた。館内に他の客の姿はほとんどない。 美野里は小刻みに震えていた。外はとんでもない暴風雨だ。
「美野里、部屋に戻ってゆっくりしよう」 「うん……お土産のお菓子も買っておこうか。夜ご飯、食べられないかもしれないし」
買い物を終え、部屋に戻ろうとした、その時だった。
***
――辺りが一斉に、真っ暗になった。
停電だ。美野里が僕の背中にしがみつく。スマートフォンの緊急速報が鳴り響いた。 ライトを点け、階段を上る。美野里はがっちりと僕の背中にしがみついたままだ。 部屋に入り、LEDランタンを灯す。テレビはつかない。
震える美野里の髪を撫でながら「大丈夫だよ」となだめる。 「椅子より、ベッドが良い。ここ怖い……」
◇
寝室に移動し、僕は水のペットボトルを五本、星形に並べた。 「美野里、見ててね。いくよ……」
五本の真ん中にLEDを置く。光が水に反射し、部屋中に幻想的な明るさが広がった。 「すごーい、きれい! 未来、これなら明るいね。ふー、怖かった。これでビールが飲めるわ」
乾杯。 「美野里、充電は大丈夫?」 「十六%しかない……」 僕は彼女に急速充電セットを渡した。
九州に行きたいという話で盛り上がり、予定の話になる。 「来週末はダメよ。もう予定、決めているんだから」
話しているうちに、徐々に眠気が襲ってきた。 美野里は僕に髪を撫でられながら、やがて静かに寝息を立て始めた。
(美野里が寝ている間に、きっと台風は過ぎる。停電も回復するはずだ)
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