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第三章:結びの章 〜ルートの行方〜
第三十六話 プロジェクト中止、未来の一言
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少しずつ、木の葉が茶色になってきた。時折強めの風が吹いたが、それは涼を運ぶものではなく、熱帯の湿った空気をかき混ぜるだけだった。
季節は進んでいるのに、気温だけが取り残されていた。残暑という言葉では片づけられない、「極暑」
夜中でも二十五℃を下回らない熱帯夜。かつての秋の味覚、サンマは海温の上昇で姿を消した。
森が燃え、山が燃え、飢えた熊は民家を襲った。日本だけではない、世界中の「生態系の時計」が狂い始めていた。
***
社員旅行は行く予定ではなかったのだが、所長から想定外のトラブルがあるという連絡があり、急遽宿を探した。顔だけは、出すことにした。
美野里が同じ宿を決めてくれたこともあり、目的地の銚子に向かった。
社員旅行は美野里を旅館に案内してから、一人所長の部屋へ向かうことにした。
お客さんは涼しさを求めて、銚子まで泊りに来ているようだった。
進んでいくと段々と物音、声が大きくなってくる。
この部屋か、祭囃子でも聞こえるのかと耳を疑うほどだった。「失礼します」
所長と営業の方が一緒だった。「待っていたぞ、無理に呼んで申し訳ない」静まり返り、窓の外に映り込む波の音が聞こえた。
ゆっくりとした口調で所長が切り出した「新穂君、申し訳ない、プロジェクトの件だが、続行できなくなった」
状況を営業の方々、会議にいた技術者が、延々と述べている。
「その為、予算が合わずに、断念すること……」肩を落として申し訳なさそうに、涙ぐんでいる。
長い沈黙が続いた。誰一人として、声が出なかった。
新穂一人の顔色を伺っていた。
ぐるっと辺りを見渡してから、すべてを計算し終えて「問題ありません、解決済みです」と皆に告げた。
「え!」「今、なんと言いましたか?」
「何々がこうであるから、できないならば、答えは出ている。あなた方は問題点を見出した、それは同時に解決策も見つかっています」
「……新穂さん、言っている意味がわかりません」技術者が声を荒らげた。未来は動じず、彼らのパソコンに並ぶ複雑な数式を一瞥した。
「あなた方は『部品が手に入らないから完成しない』というパズルを解こうとしている」
「ですが、そのパズルのピース自体を自分たちで作れば、調達コストも納期のリスクもゼロになる」
「なぜ、設計図があるのに『外から買うこと』に固執するのですか?」
「内作(自社製造)しろ……と言うのか? この精度を?」
「今のラインを十五度転換し、プログラムを〇.二秒詰めれば可能です。すでにそのためのシミュレーション・データは、皆さんの共有フォルダに送ってあります」
一瞬の静寂の後、部屋中が「……あ!」という驚嘆の声に包まれた。
「モノの見方を変えれば良いだけです」
深呼吸をし、ゆっくりと話し出した「私が今まで行った事を、もう一度思い出してください、わかりませんか」
「皆さん、もう一度言います、解決済みです」
「あー!」「えー!」「そうだ!」と先ほどのお通夜の状態が、一瞬で変わった。「そうだ、新穂君は言っていた、その通りだ。すまない、気が付きもしなかった」「これでいけるぞ!」と、所長が声をだすと
「おー!」一同、腕を天に挙げた。新穂さんは天才だ。拍手が鳴りやまなかった。
「ありがとう、ありがとう、新穂君」よし、お祝いだ。「え? 宴はここでは」と言いかけたのだが、シャンパンを所長があけた。
パーン
シュパッ! ビシャーッ!
……未来に直撃。「誰だ、シャンパン振ったやつは」と大笑い。
頭からびしょびしょだった。「えー、ごめんごめんと、想定外である」所長にお風呂を勧められた。
***
濡れた髪が、廊下を汚した。申し訳ない。
小走りでお風呂に向かい、中に入る。
脱衣所の籠(かご)は空であり、誰も入っていない。
幸い濡れたのは髪と上着だけなので
洗い流せばと、中に入ると湯気が白く立ち込めていた。
暖かい。シャワーを浴びて、ふー。
さっぱりした。湯につかるのは、後で良いな。美野里を部屋に残したままだからね。
振り返ると、湯煙の中に誰かいる気配がする。
「えー!」加奈さんだ。「間違えました、すみません」と慌てて出ようとするが、「待ちなさい」と加奈さん、間違いなく加奈さんの声だった。
「私二番目でもよいの、頭の良い子供が欲しいの」と言いながら近寄ってきた。
湯煙でこちらからは良く見えないが、影が近づいてきている。
未来君、夏服の時腕と足はしっかりしていると思ったけれど、お腹周りも割れている。凄い体つき。
「どこをみているのですか、それは、それとして、一度外に出て話しましょう」
加奈さんと距離をとり、背中越しに話し始めた。
事の流れを……。
「誕生日に新車アルファードと、彼女がプレゼントの事や、彼女を昔から知っていて、彼女が好きです。彼女以外考えられません。今、一緒に生活しています」
「そういうことなのね、わかったわ。ところで、来ているわよ。婚約者さん」
「はあ?」振り返ると、入り口に美野里が立っていた。
いつから居たのだろう。
怒られる。背筋が凍った。
「少しだけ良いかしら」……加奈さんは驚く美野里に耳打ちした。
その時、美野里の心には嫉妬よりも先に、小さな「恐怖」がよぎっていた。
あまりにも幸せで、未来が眩しすぎて、誰かに奪われてしまうのではないかという焦燥。
加奈の言葉に「えー! わかりました」と驚きつつも、美野里は心の中で、自分だけが知る未来の「特別」をギュッと抱きしめていた
***
部屋に戻ると、「ビール飲もうよ」と美野里は上機嫌。怒られるとおもって覚悟をしていたのだが、むしろ喜んでいるように見えた。
食事、家族風呂に入り、再度乾杯。外に出る事もなく、部屋で眠くなるまで、お酒を堪能していた。
夜中に連絡があり、会社のウェルネス担当に呼ばれ、健康診断を受けていないと、長い……説明を受けた。
当然、めちゃくちゃ怒られて、渋々サインし予約した。酔いが一気に冷めた。
部屋に戻り、もう一度、乾杯。写真を撮り、ニコニコしている美野里。
寝る事にし、自宅に帰る事にした。
終始、美野里の機嫌が良く、車の中で歌のご披露が到着するまで、続いたのであった。
季節は進んでいるのに、気温だけが取り残されていた。残暑という言葉では片づけられない、「極暑」
夜中でも二十五℃を下回らない熱帯夜。かつての秋の味覚、サンマは海温の上昇で姿を消した。
森が燃え、山が燃え、飢えた熊は民家を襲った。日本だけではない、世界中の「生態系の時計」が狂い始めていた。
***
社員旅行は行く予定ではなかったのだが、所長から想定外のトラブルがあるという連絡があり、急遽宿を探した。顔だけは、出すことにした。
美野里が同じ宿を決めてくれたこともあり、目的地の銚子に向かった。
社員旅行は美野里を旅館に案内してから、一人所長の部屋へ向かうことにした。
お客さんは涼しさを求めて、銚子まで泊りに来ているようだった。
進んでいくと段々と物音、声が大きくなってくる。
この部屋か、祭囃子でも聞こえるのかと耳を疑うほどだった。「失礼します」
所長と営業の方が一緒だった。「待っていたぞ、無理に呼んで申し訳ない」静まり返り、窓の外に映り込む波の音が聞こえた。
ゆっくりとした口調で所長が切り出した「新穂君、申し訳ない、プロジェクトの件だが、続行できなくなった」
状況を営業の方々、会議にいた技術者が、延々と述べている。
「その為、予算が合わずに、断念すること……」肩を落として申し訳なさそうに、涙ぐんでいる。
長い沈黙が続いた。誰一人として、声が出なかった。
新穂一人の顔色を伺っていた。
ぐるっと辺りを見渡してから、すべてを計算し終えて「問題ありません、解決済みです」と皆に告げた。
「え!」「今、なんと言いましたか?」
「何々がこうであるから、できないならば、答えは出ている。あなた方は問題点を見出した、それは同時に解決策も見つかっています」
「……新穂さん、言っている意味がわかりません」技術者が声を荒らげた。未来は動じず、彼らのパソコンに並ぶ複雑な数式を一瞥した。
「あなた方は『部品が手に入らないから完成しない』というパズルを解こうとしている」
「ですが、そのパズルのピース自体を自分たちで作れば、調達コストも納期のリスクもゼロになる」
「なぜ、設計図があるのに『外から買うこと』に固執するのですか?」
「内作(自社製造)しろ……と言うのか? この精度を?」
「今のラインを十五度転換し、プログラムを〇.二秒詰めれば可能です。すでにそのためのシミュレーション・データは、皆さんの共有フォルダに送ってあります」
一瞬の静寂の後、部屋中が「……あ!」という驚嘆の声に包まれた。
「モノの見方を変えれば良いだけです」
深呼吸をし、ゆっくりと話し出した「私が今まで行った事を、もう一度思い出してください、わかりませんか」
「皆さん、もう一度言います、解決済みです」
「あー!」「えー!」「そうだ!」と先ほどのお通夜の状態が、一瞬で変わった。「そうだ、新穂君は言っていた、その通りだ。すまない、気が付きもしなかった」「これでいけるぞ!」と、所長が声をだすと
「おー!」一同、腕を天に挙げた。新穂さんは天才だ。拍手が鳴りやまなかった。
「ありがとう、ありがとう、新穂君」よし、お祝いだ。「え? 宴はここでは」と言いかけたのだが、シャンパンを所長があけた。
パーン
シュパッ! ビシャーッ!
……未来に直撃。「誰だ、シャンパン振ったやつは」と大笑い。
頭からびしょびしょだった。「えー、ごめんごめんと、想定外である」所長にお風呂を勧められた。
***
濡れた髪が、廊下を汚した。申し訳ない。
小走りでお風呂に向かい、中に入る。
脱衣所の籠(かご)は空であり、誰も入っていない。
幸い濡れたのは髪と上着だけなので
洗い流せばと、中に入ると湯気が白く立ち込めていた。
暖かい。シャワーを浴びて、ふー。
さっぱりした。湯につかるのは、後で良いな。美野里を部屋に残したままだからね。
振り返ると、湯煙の中に誰かいる気配がする。
「えー!」加奈さんだ。「間違えました、すみません」と慌てて出ようとするが、「待ちなさい」と加奈さん、間違いなく加奈さんの声だった。
「私二番目でもよいの、頭の良い子供が欲しいの」と言いながら近寄ってきた。
湯煙でこちらからは良く見えないが、影が近づいてきている。
未来君、夏服の時腕と足はしっかりしていると思ったけれど、お腹周りも割れている。凄い体つき。
「どこをみているのですか、それは、それとして、一度外に出て話しましょう」
加奈さんと距離をとり、背中越しに話し始めた。
事の流れを……。
「誕生日に新車アルファードと、彼女がプレゼントの事や、彼女を昔から知っていて、彼女が好きです。彼女以外考えられません。今、一緒に生活しています」
「そういうことなのね、わかったわ。ところで、来ているわよ。婚約者さん」
「はあ?」振り返ると、入り口に美野里が立っていた。
いつから居たのだろう。
怒られる。背筋が凍った。
「少しだけ良いかしら」……加奈さんは驚く美野里に耳打ちした。
その時、美野里の心には嫉妬よりも先に、小さな「恐怖」がよぎっていた。
あまりにも幸せで、未来が眩しすぎて、誰かに奪われてしまうのではないかという焦燥。
加奈の言葉に「えー! わかりました」と驚きつつも、美野里は心の中で、自分だけが知る未来の「特別」をギュッと抱きしめていた
***
部屋に戻ると、「ビール飲もうよ」と美野里は上機嫌。怒られるとおもって覚悟をしていたのだが、むしろ喜んでいるように見えた。
食事、家族風呂に入り、再度乾杯。外に出る事もなく、部屋で眠くなるまで、お酒を堪能していた。
夜中に連絡があり、会社のウェルネス担当に呼ばれ、健康診断を受けていないと、長い……説明を受けた。
当然、めちゃくちゃ怒られて、渋々サインし予約した。酔いが一気に冷めた。
部屋に戻り、もう一度、乾杯。写真を撮り、ニコニコしている美野里。
寝る事にし、自宅に帰る事にした。
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