新しいルートでご案内致します。目的地は、君の隣(きみとな)

masuta

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第三章:結びの章 〜ルートの行方〜

第三十七話 突然の来客

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 数日後――。小鳥の鳴く声が聞こえた。朝日が差し込む時間は、遅くなっていた。
 時計は六時四十分。エアコンを止めることはできなかった。
 麦茶が喉に染み渡った。冷蔵庫に隙間ができていた。重いゴミを捨てに行ってくる。
 パンダさんは手伝ってあげようかと、言っているように見えたが、首を左右に振り、美野里の隣にいてあげてねと、玄関を閉めた。

 戻ると、「もう、起こしてと何度も言っているでしょう」
「ねーパンダさん、私一人にして行っちゃうのよ。酷くない?」ごみ捨てに一度も行ったことがないだろうと、心の中で呟いていた。

 起き上がると、その場で脱ぎだしシャワーに向かった。
 洗濯機に入れてくださいと、あれほど……。白衣一枚で出てくると、「このパンツじゃないよー未来、上から二番目の」と声がした。

 上から二番目とはどれだ、これか、これなのか、いや、こっちかと探していると、「これよ」と「えー!」それ下着の意味が、ゴクリと唾を飲み込むと「エッチ」と言葉が。

 朝食。打ちっぱなしに行き、帰宅しお昼も済ませた。

 どこか、美野里がそわそわしていた。
 時計を見たり、玄関を見たり、スマートフォンを見つめたり、落ち着かない様子だった。
 パソコンの前で何か作業をしている。洗濯物を取り込み、僕は整理整頓をしていた。

 すでに、薄暗くなっており、日が沈むのが早かった。
 美野里は立ち上がって、インターフォンを覗いたり、戻ってくるなり、時計を見つめたりと落ち着きがなかった。
 パソコンを覗き込むと、人間ドックの流れが表示されていた。
「……ん?! 病院に行くの?」と尋ねると「行くのは、未来でしょう。私が調べているの」

 なぜか、怒られてしまった。

 ピーンポーン

 びっくりと、美野里の顔が硬直した。

 ピンポーン
 ピンポーン、ピンポーン
 ピン、ピン、ピン、ピン
 ピンポーン

 ――美野里は微動だにしなかった。

   ◇

 何か注文したかなと、俺はインターフォンのモニタを覗くと「えー!」と大声で、振り返ると、頷く、美野里。

「遅くなりました、美野里ちゃん、本当に駅からすぐなのね、高級マンションだから、すぐにわかった。やるわね新穂君」
 一体何がどうなっているのか、頭の整理が付かなかった。どうして加奈さんがここにと。

「わるいけど、新穂君は、席を外してもらえるかしら」美野里は、「大黒鮨で待っていてね」
 どのことだろうと、一人で大黒鮨に入った。「お、ぼっちか、フラれたのか? そんなことは無いよな」と大将の声と共に店内から笑いが聞こえた。

   ***

 静まり返った部屋は、エアコンの音と冷蔵庫のファンの音のみだった。
 お茶を注ぐ音でさえ耳に響いていた。
 美野里の手が少し震えていた。

「ありがとう、それでは、お話を聞かせてくださいね、美野里ちゃん」
 お茶を一口、どこから話そうか……。ゆっくりと目をつぶり、ゆっくりと深呼吸、肩の力が抜けていくのを感じた。

「私のお話ですね、未来と同じ歳です。生まれたときから、一緒に遊んでいました。幼馴染です」

「実家は近いところなの?」加奈はお茶を口に含みながら、聞いてきた。

「はい、ここから車ですぐです。歩いてでも行けます。駅の反対側ですね」
「どうして、実家で暮らさないの?」疑問に思った加奈は、本質を問い詰めた。
 言うべきか、言わないべきか、この話を聞きにきたのですよね。膝の上の手を強く握った。

「私小学生の時に」、「小学生の時とは」と加奈が詰め寄った。

「体調が悪くて」、「体が弱かったのかしら」とさらに詰めてきた。

 言うしかない。「癌でした……」
 予想していた展開と違ったのか、加奈が驚いて、お茶をこぼした。
「……でした? は過去形なのだけど、詳しく」と顔を前に出した。

「はい、中学校三年生の時に、余命宣告を受け、泣きました。どうして私なのと、死にたくないと、好きな人が居ると」
「少し長くなります」

「もちろんよ、美野里ちゃんの事を聞きにきたのだから」

「わかりました。助からない事を告げられ、私は大好きな未来と花火大会に行きました。初めてのデートです」
「花火大会が終わると、新穂両親と一緒に、アメリカにわたり、コールドスリープとの事。この間はまったく記憶がないのです」

「目が覚めたとき、私はまだ、あの花火の音の中にいるつもりだったんです。でも、鏡を見たら大人の女性になっていて……」
「未来と過ごすはずだった時間が、全部消えてしまったのが、何より悲しかった」ドクターが根治していると話し出すと、色々な事がこみ上げて、嬉しくて泣きました。

「新穂両親! あの世界的AGIを医療展開した、医学界の奇跡、え、未来君のご両親なの、名字が同じだから、もしかしてとは、思った事もあるのだけれど」それで、それでと加奈は詰め寄った。顔が近かった。

「私は勉強をしながら、たくさんの検査を受け、そしてスタンフォードを卒業しました」

「その間、すべて新穂さんが、私の世話をしてくださったのです」

「卒業後、新穂さんに、息子を任せた、幸せになるのですよ」顔を何度も上下に振る加奈。

「義理のお父さん、お母さんになるのだから、他人行儀の挨拶はやめてねと、笑いながら、泣きながら、私を日本に送り出してくれました」

「嘘でしょ……? あの『コールドスリープ』の都市伝説、本当だったの? しかもそれを成功させたのが、新穂くんのご両親……。あの一家、本当に人類の限界を超えてるわね」

 お茶を注ぎ、「その事、新穂君は知っているの?」 加奈は美野里の手を取った。

「いえ、話していません。電話がありアルファードと、私が誕生日プレゼントであるとだけは」加奈が握る手に力が入った。

「つまり、新穂君は、美野里ちゃんが癌である事も、克服した事も知らない?」

「はい、知らないと思います」「もう一つ良いかしら、どうして実家に行かないの?」そう話している加奈の頬に、一筋の涙が。

「これは私も良くわからないのですが、私の両親に話すのは、年末にしてもらえないかと、大晦日だそうです」

 話を聞き終わった加奈は上を向いて、涙を拭いていた。「話してくれてありがとう、がんばったのね」加奈がそういうと、今度は私が涙が出てきてしまった。

「罪な男よね、未来君、そう思わない」涙を拭きながら「はい、本当に、酷いですよね、まったく」いつのまにか二人は笑い声に変わっていた――。

   ◇

 インターフォンが鳴った。
 未来が帰ってきたのかなと? 立ち上がると、早苗ちゃんと男性だった。「私が勝手に呼んだの、良いよね」「はい」と笑顔で答え迎え入れた。

 きれいな部屋、隅々に整理整頓されている。「広いー。初めまして、ではないけれど、あらためて、はじめまして、おじゃまします」

「あら、営業の」
「はじめまして、千葉 一馬ちば かずま です。こちらが、未来さんの彼女さんなのですね」

「違うのよ、彼女ではなく、婚約者」と加奈。
 たった今、美野里ちゃんから聞いた話を、再度、正確に話し始めた。話が終わると、私を含め四人の目には、涙が溢れていた。

 全員が深呼吸をして「ところで、早苗ちゃん」
「はい、今日からお付き合いする事になりました、一馬と。初デートなのに、早く来なさいと連絡があって」

「美野里さん、辛かったのですね、先輩と幸せになってくださいね。応援しています」また早苗は泣き出してしまった。一馬くんの肩に……。

「ちょっとだけ、良いかしら、この流れだと私だけぼっちなのですけど、美野里ちゃん、二番目じゃだめ?」

「ダメです」と大笑い。

「それじゃー、新穂君に東大卒を紹介してもらうかしら、それでどう?」笑いながら「はい、もちろん」と答えた。

 おまたせーと四人で大黒鮨に「お、美野里ちゃん、やっと来たね。奥の座敷があるから、そっちにしよう。ほら、未来、案内してあげて」

「乾杯」
「美味しい、え、こんなにおいしいお寿司屋さんが、船橋にあるの知らなかった……」話に花が咲いて、大盛り上がり。

 一部、話が……かみ合わない新穂君を見て、加奈は、楽しそうに笑う新穂君をじっと見つめた。(おかしい。記憶力お化けの新穂君が、どうして一番大切な『美野里ちゃんの実家の場所』や『空白の期間』に、こんなに無頓着なの……? )

 加奈の脳裏に、一つの仮説が浮かび上がった。
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