4 / 27
最後の晩餐が始まりました。(1)
しおりを挟む
そうこうしているうちに、約束の時間。
私は中庭に設けられた席で、紅茶に口を付けつつ向かいに座るリヒト王子を盗み見た。
サラリとした白銀の髪は、甘さと清潔感を兼ね備えた絶妙のショート。青紫色の瞳は、国名であるアイオライトの宝石のようで。穏やかな空気を纏った彼は、傍にいるだけで周りをホッとさせる。
私が見ていることに気付いた彼は、こちらに微笑んでみせた。前世の記憶が戻った今の私の彼に対する第一印象は、『絵本に出て来るような王子様』だ。
そう思ったのは、現時点でのヴィオレッタの恋心の影響もあるだろう。ヴィオレッタに転生したことで私は、彼女が最初はリヒト王子のことを想っていたことを知った。
(これはヴィオレッタも惚れるでしょうよ)
この感想は、何も彼の容姿や仕草だけを言ったわけではない。
第一に、テウトリカ家を訪れたリヒト王子は、手ずから摘んだという見舞いの花を持ってきていた。育てたのも彼だという。プレミアム感半端ないその花は、若手メイドのプルプルする手で極めて慎重に私の部屋に飾られた。
第二に、彼が従者に持たせた手土産の菓子。礼を言ってその場でメイドに預けたが、包装でわかる。あれは私が食べてみたいと言った店のものだ。
それについては強請ったわけではなく、それどころかまったく別の雑談中にチラッと話に上っただけ。それをリヒト王子は覚えていた。――だけでもすごいのに、その話をしたのが今日の学園の帰り道というね。仕事が早過ぎでしょう。
推しという枠を飛び越えて、私も普通に惚れた。現在のヴィオレッタの恋心に、心から納得行った。
「ヴィオ。身体はもう平気? 僕との予定があったからといって、無理はしていない?」
「ありがとうございます。もう何ともありませんわ」
「そっか。でも僕はヴィオの性格を知っているからね。君の「平気」は頭からは信じないことにしてる」
「あれは不可抗力というものです」
にこにこ顔のリヒト王子の言い分に、私はこちらも負けじと澄まし顔で返した。
彼が言いたいのは、おそらく私の六歳の誕生日パーティーでの出来事だ。
そこで私は、リヒト王子の次に踊った少年とのダンス中に、足首を捻ってしまった。にもかかわらず、その後もダンスを続けて。それに気付いた彼がそのことを私の父に伝え、しかも彼は私が叱られないよう配慮までしてくれた。
一応自分が主役のパーティーだったのだ、たった二曲でもう踊れませんとは言えなかった。ちなみにその後、父の代わりにリヒト王子には、やんわり窘められた。
(まあ確かにそれ以外でも、これまでのヴィオレッタは遠慮がちなところがあったのかも)
悪役令嬢どころか一般的なご令嬢に比べても、私は「あれが欲しい、これが欲しい」と言った覚えがない。思ったこともない――というわけではなく、やはり我慢していたことが多かったと思う。私は、私が常に注目を浴びる立場であることを理解している。だから言っていいのか悪いのか、考えた末に言葉を呑み込んだことが少なくない。
(そうなると、そんな私に「好きな相手がいる」と言わしめた相手って、相当すごいのでは?)
リヒト王子は推しだったし、この世界でも惚れた。しかし、そんな人物がいると思うと、かなり気になる。……とか考えていたら、リヒト王子にちょいちょいとカップを持った私の手をつつかれた。
私は中庭に設けられた席で、紅茶に口を付けつつ向かいに座るリヒト王子を盗み見た。
サラリとした白銀の髪は、甘さと清潔感を兼ね備えた絶妙のショート。青紫色の瞳は、国名であるアイオライトの宝石のようで。穏やかな空気を纏った彼は、傍にいるだけで周りをホッとさせる。
私が見ていることに気付いた彼は、こちらに微笑んでみせた。前世の記憶が戻った今の私の彼に対する第一印象は、『絵本に出て来るような王子様』だ。
そう思ったのは、現時点でのヴィオレッタの恋心の影響もあるだろう。ヴィオレッタに転生したことで私は、彼女が最初はリヒト王子のことを想っていたことを知った。
(これはヴィオレッタも惚れるでしょうよ)
この感想は、何も彼の容姿や仕草だけを言ったわけではない。
第一に、テウトリカ家を訪れたリヒト王子は、手ずから摘んだという見舞いの花を持ってきていた。育てたのも彼だという。プレミアム感半端ないその花は、若手メイドのプルプルする手で極めて慎重に私の部屋に飾られた。
第二に、彼が従者に持たせた手土産の菓子。礼を言ってその場でメイドに預けたが、包装でわかる。あれは私が食べてみたいと言った店のものだ。
それについては強請ったわけではなく、それどころかまったく別の雑談中にチラッと話に上っただけ。それをリヒト王子は覚えていた。――だけでもすごいのに、その話をしたのが今日の学園の帰り道というね。仕事が早過ぎでしょう。
推しという枠を飛び越えて、私も普通に惚れた。現在のヴィオレッタの恋心に、心から納得行った。
「ヴィオ。身体はもう平気? 僕との予定があったからといって、無理はしていない?」
「ありがとうございます。もう何ともありませんわ」
「そっか。でも僕はヴィオの性格を知っているからね。君の「平気」は頭からは信じないことにしてる」
「あれは不可抗力というものです」
にこにこ顔のリヒト王子の言い分に、私はこちらも負けじと澄まし顔で返した。
彼が言いたいのは、おそらく私の六歳の誕生日パーティーでの出来事だ。
そこで私は、リヒト王子の次に踊った少年とのダンス中に、足首を捻ってしまった。にもかかわらず、その後もダンスを続けて。それに気付いた彼がそのことを私の父に伝え、しかも彼は私が叱られないよう配慮までしてくれた。
一応自分が主役のパーティーだったのだ、たった二曲でもう踊れませんとは言えなかった。ちなみにその後、父の代わりにリヒト王子には、やんわり窘められた。
(まあ確かにそれ以外でも、これまでのヴィオレッタは遠慮がちなところがあったのかも)
悪役令嬢どころか一般的なご令嬢に比べても、私は「あれが欲しい、これが欲しい」と言った覚えがない。思ったこともない――というわけではなく、やはり我慢していたことが多かったと思う。私は、私が常に注目を浴びる立場であることを理解している。だから言っていいのか悪いのか、考えた末に言葉を呑み込んだことが少なくない。
(そうなると、そんな私に「好きな相手がいる」と言わしめた相手って、相当すごいのでは?)
リヒト王子は推しだったし、この世界でも惚れた。しかし、そんな人物がいると思うと、かなり気になる。……とか考えていたら、リヒト王子にちょいちょいとカップを持った私の手をつつかれた。
0
あなたにおすすめの小説
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
気づいたら悪役令嬢でしたが、破滅フラグは全力で避けます!
腐ったバナナ
恋愛
目を覚ますと、乙女ゲームの世界で悪役令嬢として転生していた私――リリナ・フォン・ヴァルデン。
ゲームでは、王子への婚約破棄やヒロインへの嫌がらせが原因で破滅する役回り。
でも、私はもう一度人生をやり直せる!
フラグを確認し、全力で回避して、自由に、そして自分らしく生きると決めた。
「嫌なイベントは全部避けます。無理に人を傷つけない、そして……自分も傷つかない!」
だけど、自由奔放に行動する私のせいで、王子もヒロインも周囲も大混乱。
気づけば、破滅するはずの悪役令嬢が、いつの間にか一目置かれる存在になってしまった!?
【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。
これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは?
命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
異世界で悪役令嬢として生きる事になったけど、前世の記憶を持ったまま、自分らしく過ごして良いらしい
千晶もーこ
恋愛
あの世に行ったら、番人とうずくまる少女に出会った。少女は辛い人生を歩んできて、魂が疲弊していた。それを知った番人は私に言った。
「あの子が繰り返している人生を、あなたの人生に変えてください。」
「………はぁああああ?辛そうな人生と分かってて生きろと?それも、繰り返すかもしれないのに?」
でも、お願いされたら断れない性分の私…。
異世界で自分が悪役令嬢だと知らずに過ごす私と、それによって変わっていく周りの人達の物語。そして、その物語の後の話。
※この話は、小説家になろう様へも掲載しています
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる