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最後の晩餐が始まりました。(1)
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そうこうしているうちに、約束の時間。
私は中庭に設けられた席で、紅茶に口を付けつつ向かいに座るリヒト王子を盗み見た。
サラリとした白銀の髪は、甘さと清潔感を兼ね備えた絶妙のショート。青紫色の瞳は、国名であるアイオライトの宝石のようで。穏やかな空気を纏った彼は、傍にいるだけで周りをホッとさせる。
私が見ていることに気付いた彼は、こちらに微笑んでみせた。前世の記憶が戻った今の私の彼に対する第一印象は、『絵本に出て来るような王子様』だ。
そう思ったのは、現時点でのヴィオレッタの恋心の影響もあるだろう。ヴィオレッタに転生したことで私は、彼女が最初はリヒト王子のことを想っていたことを知った。
(これはヴィオレッタも惚れるでしょうよ)
この感想は、何も彼の容姿や仕草だけを言ったわけではない。
第一に、テウトリカ家を訪れたリヒト王子は、手ずから摘んだという見舞いの花を持ってきていた。育てたのも彼だという。プレミアム感半端ないその花は、若手メイドのプルプルする手で極めて慎重に私の部屋に飾られた。
第二に、彼が従者に持たせた手土産の菓子。礼を言ってその場でメイドに預けたが、包装でわかる。あれは私が食べてみたいと言った店のものだ。
それについては強請ったわけではなく、それどころかまったく別の雑談中にチラッと話に上っただけ。それをリヒト王子は覚えていた。――だけでもすごいのに、その話をしたのが今日の学園の帰り道というね。仕事が早過ぎでしょう。
推しという枠を飛び越えて、私も普通に惚れた。現在のヴィオレッタの恋心に、心から納得行った。
「ヴィオ。身体はもう平気? 僕との予定があったからといって、無理はしていない?」
「ありがとうございます。もう何ともありませんわ」
「そっか。でも僕はヴィオの性格を知っているからね。君の「平気」は頭からは信じないことにしてる」
「あれは不可抗力というものです」
にこにこ顔のリヒト王子の言い分に、私はこちらも負けじと澄まし顔で返した。
彼が言いたいのは、おそらく私の六歳の誕生日パーティーでの出来事だ。
そこで私は、リヒト王子の次に踊った少年とのダンス中に、足首を捻ってしまった。にもかかわらず、その後もダンスを続けて。それに気付いた彼がそのことを私の父に伝え、しかも彼は私が叱られないよう配慮までしてくれた。
一応自分が主役のパーティーだったのだ、たった二曲でもう踊れませんとは言えなかった。ちなみにその後、父の代わりにリヒト王子には、やんわり窘められた。
(まあ確かにそれ以外でも、これまでのヴィオレッタは遠慮がちなところがあったのかも)
悪役令嬢どころか一般的なご令嬢に比べても、私は「あれが欲しい、これが欲しい」と言った覚えがない。思ったこともない――というわけではなく、やはり我慢していたことが多かったと思う。私は、私が常に注目を浴びる立場であることを理解している。だから言っていいのか悪いのか、考えた末に言葉を呑み込んだことが少なくない。
(そうなると、そんな私に「好きな相手がいる」と言わしめた相手って、相当すごいのでは?)
リヒト王子は推しだったし、この世界でも惚れた。しかし、そんな人物がいると思うと、かなり気になる。……とか考えていたら、リヒト王子にちょいちょいとカップを持った私の手をつつかれた。
私は中庭に設けられた席で、紅茶に口を付けつつ向かいに座るリヒト王子を盗み見た。
サラリとした白銀の髪は、甘さと清潔感を兼ね備えた絶妙のショート。青紫色の瞳は、国名であるアイオライトの宝石のようで。穏やかな空気を纏った彼は、傍にいるだけで周りをホッとさせる。
私が見ていることに気付いた彼は、こちらに微笑んでみせた。前世の記憶が戻った今の私の彼に対する第一印象は、『絵本に出て来るような王子様』だ。
そう思ったのは、現時点でのヴィオレッタの恋心の影響もあるだろう。ヴィオレッタに転生したことで私は、彼女が最初はリヒト王子のことを想っていたことを知った。
(これはヴィオレッタも惚れるでしょうよ)
この感想は、何も彼の容姿や仕草だけを言ったわけではない。
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第二に、彼が従者に持たせた手土産の菓子。礼を言ってその場でメイドに預けたが、包装でわかる。あれは私が食べてみたいと言った店のものだ。
それについては強請ったわけではなく、それどころかまったく別の雑談中にチラッと話に上っただけ。それをリヒト王子は覚えていた。――だけでもすごいのに、その話をしたのが今日の学園の帰り道というね。仕事が早過ぎでしょう。
推しという枠を飛び越えて、私も普通に惚れた。現在のヴィオレッタの恋心に、心から納得行った。
「ヴィオ。身体はもう平気? 僕との予定があったからといって、無理はしていない?」
「ありがとうございます。もう何ともありませんわ」
「そっか。でも僕はヴィオの性格を知っているからね。君の「平気」は頭からは信じないことにしてる」
「あれは不可抗力というものです」
にこにこ顔のリヒト王子の言い分に、私はこちらも負けじと澄まし顔で返した。
彼が言いたいのは、おそらく私の六歳の誕生日パーティーでの出来事だ。
そこで私は、リヒト王子の次に踊った少年とのダンス中に、足首を捻ってしまった。にもかかわらず、その後もダンスを続けて。それに気付いた彼がそのことを私の父に伝え、しかも彼は私が叱られないよう配慮までしてくれた。
一応自分が主役のパーティーだったのだ、たった二曲でもう踊れませんとは言えなかった。ちなみにその後、父の代わりにリヒト王子には、やんわり窘められた。
(まあ確かにそれ以外でも、これまでのヴィオレッタは遠慮がちなところがあったのかも)
悪役令嬢どころか一般的なご令嬢に比べても、私は「あれが欲しい、これが欲しい」と言った覚えがない。思ったこともない――というわけではなく、やはり我慢していたことが多かったと思う。私は、私が常に注目を浴びる立場であることを理解している。だから言っていいのか悪いのか、考えた末に言葉を呑み込んだことが少なくない。
(そうなると、そんな私に「好きな相手がいる」と言わしめた相手って、相当すごいのでは?)
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