竜の花嫁 ~夫な竜と恋愛から始めたいので色々吹き込みます~

月親

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恋愛から始めませんか(2)

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 私は自宅に本を取りに行ったと思った。思ったら、竜の家にいた。
 そう言いたくなるほど、本を見せた後の竜のシクル村脱出は早かった。
 あ、脱出の際には「ご褒美ですか、超ありがとうございます」と思いながら、羽の生えたアルマジロトカゲに乗らせていただきました。
 竜の家は、外観は一般的な石レンガな建物だったものの、中に入れば家なのか書庫なのかという有様だった。洞窟のような巣でなかっただけ、よしとしよう。
 そして帰宅した竜は現在、私をそっちのけで本を読み耽っている。部屋の中央に位置するソファに座ったかと思うと、一歩も動いていないし一言も話していない。出入口付近に立ち尽くしている私についても、当然一瞥もくれていない。

(ものすごく真剣に読んでるよ……私の『薄い本』を……!)

 そう、『薄い本』。私が彼に提示したのは、自作の同人漫画だった。
 実は見せる前から、本好きの彼なら興味を示すだろうと思ってはいた。というのもこの世界、娯楽小説はあっても、何と漫画が存在しなかったのである。
 その事実を知ったときは嘆いた。嘆いたが、立ち直りは早かった。何せ前世では、元漫研所属のオタク。無いなら自分が描けばいいの精神は、魂レベルで刻まれている。そうして、前世で取った杵柄の漫画を描く技術と、今世で取った杵柄の整った筆跡。これを掛け合わせての薄い本が、この世界に爆誕したのだった。
 ……おっと、彼が読み終えたようだ。本を閉じて表紙を穴が空くほど見つめている。

「『恋するあなたへ ~初めてのデート編~』……」

 うん、音読はしないで。恥ずかしさに叫びたくなるから。

「全編通して絵が付いている本は、初めて見ました。それにこれ、手書きの本ですね。つまり世界に一冊しか無い。何て貴重なんでしょうか」

 男性が目をキラキラとさせながら、大切そうに表紙を撫でる。

(い、居た堪らない……)

 『恋するあなたへ ~初めてのデート編~』は、タイトルから恋愛指南書のように見えるも、中身は私の妄想百パーセント。「こうすればいい」というアドバイスではなく、「こんなデートをしてみたいね」という女性同士でキャッキャ楽しむ使用法を想定して描いたものだ。
 本来なら男性に見せるような真似はしない。これを見せるということは、「私、痛い女です」と暴露するも同然なのだから。

「あの村では、こういった絵付きの本が流行していたのですか?」

 言いながらこちらへ歩いてくる彼の両手は、それはそれは大事そうに薄い本を抱えていた。

「貴女の家から運び出したバスケットに、それなりの数がありましたよね」

 ええ、鍵付きバスケットいっぱいに、私の夢と希望と妄想と欲望を詰め込みましたとも! ちなみに恋するあなたへ(以下略)以外は全部オフィスラブです!!

「今見せた形式の本は漫画というのだけれど、漫画を描いているのは村では私だけだと思うわ」
「!? 貴女、本を書く人間だったんですね。貴女のような人が番だとは、私はとても運が良い。単なる実験対象と思っていましたが、それ以上の興味が湧いてきました」
「実験……」

 本人目の前にして、それ言っちゃう? ……あ、初っ端から「拾いにきました」とも言ってたか。今更だった。

「漫画のお陰で、貴女の話す『恋のステップ』の有用性も理解できました。いいですよ、付き合いましょう。漫画を試すのも面白そうです」
「えっ、本当に?」

 やった! やりました! 描けて良かった、少女漫画。
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