10 / 69
そんなこんなで初デート(1)
しおりを挟む
「全冊、読み終えました」
レフィーが読み終えた漫画を自分でも読んでいたところ、彼から読了の声が。
早っ。一冊の頁数が少ないとはいえ、冊数は数百はあったはず。それを全部とな!?
「どれも面白かったです。新作を楽しみにしています」
何その懐かしさ溢れる台詞。同人誌即売会で差し入れとともに言ったり言われたりする台詞だよ、それ。
「それでは早速、デートを実行しましょう」
「早速過ぎる!」
「金貨三枚で足りますか?」
「き……デートで買うのは商品であって、店舗ではありません!」
レフィーが無造作にワゴン上段に並べた金貨に、私はドン引きした。
まばゆい光を放つ、金貨三枚。たった三枚と侮るなかれ。通常市場に出回っているのは銅貨であり、ちょっとお高い買い物をするときでも使うのは銀貨まで。金貨となると、宝石など相当高額な取り引きでもないと見る機会がない。
「何を買うつもりで――の前に、どうやって手に入れたの、そのお金」
滅多にお目にかかれないが、金貨はちゃんとした貨幣。人間の街で使える正式な通貨だ。人間ではないレフィーが、どうして持っているのか。よもや旅人から巻き上げたりなんかは……
「火山地帯まで行って黒曜石を生成し、それを売っています」
「まさかのハンドメイド作品の売り上げ!」
そしてハンドメイドのスケールが違う!
「心配せずとも相場は知っていますよ。人間の街には、よく行くんです。懇意にしている本屋に入荷した本を全種類取り置いてもらっていますので、そこで金貨で支払い、銀貨に崩してもらっています」
「本を全種類……」
何という上客。それは両替に利用されたとしても、諸手を挙げてウェルカムだろう。
「本屋の次は、仕立屋ですね。貴女の服を買いに行きましょう」
「あっ、そうか服も持ち出せたのか……」
レフィーの言葉に、邸から漫画を持ち出したときのことを思い出す。
叔父さんと鉢合わせたくないとぼやいたら、レフィーは二階にある私の部屋に直接窓から入ってくれた。飛んでじゃなくて、人型のまま跳んで。
着地直後は何が起きたのかわからなくて、呆けてしまったのは仕方ないと思う。その後、立ち直って、目的の物を見つけて。けれど、そのまま私が漫画入りバスケットを手に竜なレフィーに乗ったわけではなかった。
私の手からバスケットを取り上げた彼は、一瞬その場で読みたそうな間を置いた後、目に見えない収納箱に入れたのだ。こう右上についっと動かしたら、パッと消えて……うん、何を言っているのか私もわからない。
でも初めて見たはずのその光景に、どうしてか既視感があった。よくよく思い返してみれば、それもそのはず。前世で麻理枝先輩が描いていた異世界ファンタジー漫画で、度々出てきたシーンだったのだ。
先輩曰く、「ゲームで剣や鎧を大量に持ち歩けるのだから、異世界では亜空間収納は日常スキル」とか何とか。私のこれまでの生活ではお目にかからなかったあたり、『日常』というわけではなさそうだけれど、亜空間収納自体は実在したらしい。この大発見を先輩に報告できないのが、無念である。
そうか。レフィーに頼んだなら漫画だけでなく、他にも色々持ち出せたのか。自力では持って行けないから、思い至らなかった。
「いえ、服については貴女が気付いていても、持ってはきませんでしたよ」
なんてことを考えた側から、そんなことを言われる。
「空間に入れられるカテゴリ制限とかがあるの?」
「制限はありません。単に、要不要の問題です。別の男が貴女に買い与えた服を貴女がこの先着る機会などない。着ない服なら持ってくる意味がないでしょう」
突然の独占欲的発言。
「本当は今身に着けている服も脱いで欲しいのですが、人間は衣服で体温調節をしているという話でしたから、そこは目をつぶります。そうでなければ、早々に剥いで魔法で服を出したんですけれどね」
からの、追い剥ぎ未遂告白。竜の執着……噂に違わない。
そうか、レフィーの服(という名の布)は魔法で作り出していたのか。言われてみれば、竜から人になった瞬間には服を着ていたものね。パッと出たり消えたり、そんなのが普通の服なわけなかった。
レフィーが読み終えた漫画を自分でも読んでいたところ、彼から読了の声が。
早っ。一冊の頁数が少ないとはいえ、冊数は数百はあったはず。それを全部とな!?
「どれも面白かったです。新作を楽しみにしています」
何その懐かしさ溢れる台詞。同人誌即売会で差し入れとともに言ったり言われたりする台詞だよ、それ。
「それでは早速、デートを実行しましょう」
「早速過ぎる!」
「金貨三枚で足りますか?」
「き……デートで買うのは商品であって、店舗ではありません!」
レフィーが無造作にワゴン上段に並べた金貨に、私はドン引きした。
まばゆい光を放つ、金貨三枚。たった三枚と侮るなかれ。通常市場に出回っているのは銅貨であり、ちょっとお高い買い物をするときでも使うのは銀貨まで。金貨となると、宝石など相当高額な取り引きでもないと見る機会がない。
「何を買うつもりで――の前に、どうやって手に入れたの、そのお金」
滅多にお目にかかれないが、金貨はちゃんとした貨幣。人間の街で使える正式な通貨だ。人間ではないレフィーが、どうして持っているのか。よもや旅人から巻き上げたりなんかは……
「火山地帯まで行って黒曜石を生成し、それを売っています」
「まさかのハンドメイド作品の売り上げ!」
そしてハンドメイドのスケールが違う!
「心配せずとも相場は知っていますよ。人間の街には、よく行くんです。懇意にしている本屋に入荷した本を全種類取り置いてもらっていますので、そこで金貨で支払い、銀貨に崩してもらっています」
「本を全種類……」
何という上客。それは両替に利用されたとしても、諸手を挙げてウェルカムだろう。
「本屋の次は、仕立屋ですね。貴女の服を買いに行きましょう」
「あっ、そうか服も持ち出せたのか……」
レフィーの言葉に、邸から漫画を持ち出したときのことを思い出す。
叔父さんと鉢合わせたくないとぼやいたら、レフィーは二階にある私の部屋に直接窓から入ってくれた。飛んでじゃなくて、人型のまま跳んで。
着地直後は何が起きたのかわからなくて、呆けてしまったのは仕方ないと思う。その後、立ち直って、目的の物を見つけて。けれど、そのまま私が漫画入りバスケットを手に竜なレフィーに乗ったわけではなかった。
私の手からバスケットを取り上げた彼は、一瞬その場で読みたそうな間を置いた後、目に見えない収納箱に入れたのだ。こう右上についっと動かしたら、パッと消えて……うん、何を言っているのか私もわからない。
でも初めて見たはずのその光景に、どうしてか既視感があった。よくよく思い返してみれば、それもそのはず。前世で麻理枝先輩が描いていた異世界ファンタジー漫画で、度々出てきたシーンだったのだ。
先輩曰く、「ゲームで剣や鎧を大量に持ち歩けるのだから、異世界では亜空間収納は日常スキル」とか何とか。私のこれまでの生活ではお目にかからなかったあたり、『日常』というわけではなさそうだけれど、亜空間収納自体は実在したらしい。この大発見を先輩に報告できないのが、無念である。
そうか。レフィーに頼んだなら漫画だけでなく、他にも色々持ち出せたのか。自力では持って行けないから、思い至らなかった。
「いえ、服については貴女が気付いていても、持ってはきませんでしたよ」
なんてことを考えた側から、そんなことを言われる。
「空間に入れられるカテゴリ制限とかがあるの?」
「制限はありません。単に、要不要の問題です。別の男が貴女に買い与えた服を貴女がこの先着る機会などない。着ない服なら持ってくる意味がないでしょう」
突然の独占欲的発言。
「本当は今身に着けている服も脱いで欲しいのですが、人間は衣服で体温調節をしているという話でしたから、そこは目をつぶります。そうでなければ、早々に剥いで魔法で服を出したんですけれどね」
からの、追い剥ぎ未遂告白。竜の執着……噂に違わない。
そうか、レフィーの服(という名の布)は魔法で作り出していたのか。言われてみれば、竜から人になった瞬間には服を着ていたものね。パッと出たり消えたり、そんなのが普通の服なわけなかった。
0
あなたにおすすめの小説
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
〘完〙なぜかモブの私がイケメン王子に強引に迫られてます 〜転生したら推しのヒロインが不在でした〜
hanakuro
恋愛
転生してみたら、そこは大好きな漫画の世界だった・・・
OLの梨奈は、事故により突然その生涯閉じる。
しかし次に気付くと、彼女は伯爵令嬢に転生していた。しかも、大好きだった漫画の中のたったのワンシーンに出てくる名もないモブ。
モブならお気楽に推しのヒロインを観察して過ごせると思っていたら、まさかのヒロインがいない!?
そして、推し不在に落胆する彼女に王子からまさかの強引なアプローチが・・
王子!その愛情はヒロインに向けてっ!
私、モブですから!
果たしてヒロインは、どこに行ったのか!?
そしてリーナは、王子の強引なアプローチから逃れることはできるのか!?
イケメン王子に翻弄される伯爵令嬢の恋模様が始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる