竜の花嫁 ~夫な竜と恋愛から始めたいので色々吹き込みます~

月親

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そんなこんなで初デート(1)

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「全冊、読み終えました」

 レフィーが読み終えた漫画を自分でも読んでいたところ、彼から読了の声が。
 早っ。一冊の頁数が少ないとはいえ、冊数は数百はあったはず。それを全部とな!?

「どれも面白かったです。新作を楽しみにしています」

 何その懐かしさ溢れる台詞。同人誌即売会で差し入れとともに言ったり言われたりする台詞だよ、それ。

「それでは早速、デートを実行しましょう」
「早速過ぎる!」
「金貨三枚で足りますか?」
「き……デートで買うのは商品であって、店舗ではありません!」

 レフィーが無造作にワゴン上段に並べた金貨に、私はドン引きした。
 まばゆい光を放つ、金貨三枚。たった三枚と侮るなかれ。通常市場に出回っているのは銅貨であり、ちょっとお高い買い物をするときでも使うのは銀貨まで。金貨となると、宝石など相当高額な取り引きでもないと見る機会がない。

「何を買うつもりで――の前に、どうやって手に入れたの、そのお金」

 滅多にお目にかかれないが、金貨はちゃんとした貨幣。人間の街で使える正式な通貨だ。人間ではないレフィーが、どうして持っているのか。よもや旅人から巻き上げたりなんかは……

「火山地帯まで行って黒曜石を生成し、それを売っています」
「まさかのハンドメイド作品の売り上げ!」

 そしてハンドメイドのスケールが違う!

「心配せずとも相場は知っていますよ。人間の街には、よく行くんです。懇意にしている本屋に入荷した本を全種類取り置いてもらっていますので、そこで金貨で支払い、銀貨に崩してもらっています」
「本を全種類……」

 何という上客。それは両替に利用されたとしても、諸手を挙げてウェルカムだろう。

「本屋の次は、仕立屋ですね。貴女の服を買いに行きましょう」
「あっ、そうか服も持ち出せたのか……」

 レフィーの言葉に、邸から漫画を持ち出したときのことを思い出す。
 叔父さんと鉢合わせたくないとぼやいたら、レフィーは二階にある私の部屋に直接窓から入ってくれた。飛んでじゃなくて、人型のまま跳んで。
 着地直後は何が起きたのかわからなくて、呆けてしまったのは仕方ないと思う。その後、立ち直って、目的の物を見つけて。けれど、そのまま私が漫画入りバスケットを手に竜なレフィーに乗ったわけではなかった。
 私の手からバスケットを取り上げた彼は、一瞬その場で読みたそうな間を置いた後、目に見えない収納箱に入れたのだ。こう右上についっと動かしたら、パッと消えて……うん、何を言っているのか私もわからない。
 でも初めて見たはずのその光景に、どうしてか既視感があった。よくよく思い返してみれば、それもそのはず。前世で麻理枝先輩が描いていた異世界ファンタジー漫画で、度々出てきたシーンだったのだ。
 先輩曰く、「ゲームで剣や鎧を大量に持ち歩けるのだから、異世界では亜空間収納は日常スキル」とか何とか。私のこれまでの生活ではお目にかからなかったあたり、『日常』というわけではなさそうだけれど、亜空間収納自体は実在したらしい。この大発見を先輩に報告できないのが、無念である。
 そうか。レフィーに頼んだなら漫画だけでなく、他にも色々持ち出せたのか。自力では持って行けないから、思い至らなかった。

「いえ、服については貴女が気付いていても、持ってはきませんでしたよ」

 なんてことを考えた側から、そんなことを言われる。

「空間に入れられるカテゴリ制限とかがあるの?」
「制限はありません。単に、要不要の問題です。別の男が貴女に買い与えた服を貴女がこの先着る機会などない。着ない服なら持ってくる意味がないでしょう」

 突然の独占欲的発言。

「本当は今身に着けている服も脱いで欲しいのですが、人間は衣服で体温調節をしているという話でしたから、そこは目をつぶります。そうでなければ、早々に剥いで魔法で服を出したんですけれどね」

 からの、追い剥ぎ未遂告白。竜の執着……噂に違わない。
 そうか、レフィーの服(という名の布)は魔法で作り出していたのか。言われてみれば、竜から人になった瞬間には服を着ていたものね。パッと出たり消えたり、そんなのが普通の服なわけなかった。
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