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百点満点のエスコート(2)
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この店の試着室は、日本にあったような簡易的なものでなく、専用部屋として設けられていた。
靴を脱いで入る、ふかふか絨毯が敷かれた試着コーナー。そこにある衝立の後ろから、私は出入口側の応接セットをひょいと覗いた。
(レフィー、さっきからずっと商品を売り込まれていない?)
小声のため内容までは聞こえないが、明らかに上機嫌な店員の声のトーン。応接セットのテーブルには、書類らしき紙が数枚。今もレフィーがペンを手に紙に何か書いている。
試着する度にレフィーに見せているが、私が声を掛けるまで先程から毎回こんな感じ。これはここに入った際に、彼が「気に入ったものがあれば全部買いましょう」なんていったものだから、上客だと目を付けられたに違いない。
レフィーはどう見ても労働者階級のなりではないものね。まあそれ以前に人間ですらないけれども。
「ああ、ミア。着替え終わりましたか?」
五着目――持ち込んだ最後のドレスにして、ようやくレフィーの方から声を掛けてくれた。
椅子から立ち上がったレフィーが、私の方へと歩いてくる。
そして、
「とても可愛いですよ」
彼は褒めてくれた。
――前の四着とまったく同じ台詞で。
「……レフィー」
いつも以上に棒読みに近いそれに、さすがに「ふぅ」っと溜息が出る。
「確かに私は例の本に、「着替えた姿を褒めよう」的なことを書いたけど、別に無理をしてまで言わなくていいからね」
律儀にやってくれるのはありがたいが、その態度は逆効果だ。
けどレフィーはこれが初デート。減点なところが見つかって、逆にほっとしたというか何というか。
「無理に言っているわけではありません。ただ、その服を着ていようがいまいが貴女は可愛いので、服を着替えたから言うというのは、しっくりこないなと思っていただけです」
「ぐっ」
ええぃ、百点満点だよこの天然タラシが……!
「ところで、ミア。今着ている服も気に入りましたか?」
「えっ、ああ、そうね。うん、気に入ったわ」
夫婦漫才をやっている場合じゃない。そういやこの場には店員さんもいたのだ。買う買わないの意思表示は、早い方がいい。
「では、それも買いましょう。それから、この後はその服でデートに行きますよ」
「わかったわ」
このまま出かけるというレフィーの意見に、素直に頷く。
王都でシクル村の慣習を知っている人間に出会うとは思わないが、それでもあの服は『生け贄』の衣装。着ていて気持ちのいいものじゃない。
靴を脱いで入る、ふかふか絨毯が敷かれた試着コーナー。そこにある衝立の後ろから、私は出入口側の応接セットをひょいと覗いた。
(レフィー、さっきからずっと商品を売り込まれていない?)
小声のため内容までは聞こえないが、明らかに上機嫌な店員の声のトーン。応接セットのテーブルには、書類らしき紙が数枚。今もレフィーがペンを手に紙に何か書いている。
試着する度にレフィーに見せているが、私が声を掛けるまで先程から毎回こんな感じ。これはここに入った際に、彼が「気に入ったものがあれば全部買いましょう」なんていったものだから、上客だと目を付けられたに違いない。
レフィーはどう見ても労働者階級のなりではないものね。まあそれ以前に人間ですらないけれども。
「ああ、ミア。着替え終わりましたか?」
五着目――持ち込んだ最後のドレスにして、ようやくレフィーの方から声を掛けてくれた。
椅子から立ち上がったレフィーが、私の方へと歩いてくる。
そして、
「とても可愛いですよ」
彼は褒めてくれた。
――前の四着とまったく同じ台詞で。
「……レフィー」
いつも以上に棒読みに近いそれに、さすがに「ふぅ」っと溜息が出る。
「確かに私は例の本に、「着替えた姿を褒めよう」的なことを書いたけど、別に無理をしてまで言わなくていいからね」
律儀にやってくれるのはありがたいが、その態度は逆効果だ。
けどレフィーはこれが初デート。減点なところが見つかって、逆にほっとしたというか何というか。
「無理に言っているわけではありません。ただ、その服を着ていようがいまいが貴女は可愛いので、服を着替えたから言うというのは、しっくりこないなと思っていただけです」
「ぐっ」
ええぃ、百点満点だよこの天然タラシが……!
「ところで、ミア。今着ている服も気に入りましたか?」
「えっ、ああ、そうね。うん、気に入ったわ」
夫婦漫才をやっている場合じゃない。そういやこの場には店員さんもいたのだ。買う買わないの意思表示は、早い方がいい。
「では、それも買いましょう。それから、この後はその服でデートに行きますよ」
「わかったわ」
このまま出かけるというレフィーの意見に、素直に頷く。
王都でシクル村の慣習を知っている人間に出会うとは思わないが、それでもあの服は『生け贄』の衣装。着ていて気持ちのいいものじゃない。
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