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百点満点のエスコート(3)
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(一気に鮮やかになったなあ)
応接セットの横にある姿見に全身を映しながら、その場でくるりと回ってみる。
ベースは、クリーム色のワンピース。腰の辺りで切り替えがあり、そこからラッフルスカートになっている。スリットが入った七分袖には、ワインレッドな編み上げ紐の装飾が。そして背中にはジッパー代わりの大量な胡桃ボタン。ボタンに至っては、統一感を保ちつつもすべて色も柄も違っている。
紐は予め結び、ボタンは上から二つまでだけ外して、後はズボッと被って着ましたとも。色気のない着替え方で、申し訳ない。けれども、私が買いに来たのはあくまで普段着るための服。脱がされるための服では、断じてない。だからデザイナーさん、許して欲しい。
「この服は、今すぐ処分します」
レフィーが、私が最初に着ていた白いドレスを手に取る。
家に帰ってからではなく、今すぐとは。早く脱げとは言っていたけれど、まさかそこまで目の敵にしていようとは。
「処分でしたら、こちらで承りますが」
一歩引いて私たちを見ていた店員さんが、スッとレフィーに寄る。
流れるような動きだ。プロだ。
「そうですか、では――」
(ん? 何だろあれ)
店員さんと話しているレフィーの身体が、突然に何本もの青紫色の筋に包まれた。
前世のテレビ番組で見た、静電気によく似ている。パリパリという音も聞こえるから、余計にそれっぽいというか。とにかくレフィーが電気っぽい光を纏っている。
何か魔法でも使っているのかな。――そう思った直後だった。
「いっ!?」
レフィーの手から、ドレスが消えた。
消えただけなら今朝の花束のこともあり、それほど驚かなかったと思う。
が、
「この灰の処分をお願いします」
「……」
代わりに現れたものが、大問題だった。
(ええー……そこまで目の敵に?)
謎の技術で散らばらず球体でまとまった灰を、レフィーが店員さんに手渡す。
私と一緒に呆然としていた店員さんが、ハッとしてそれを受け取る。既に顔色以外はまったく笑顔が崩れていない。プロだ……。
「それではデートの続きをしましょう、ミア」
他の四着を例によって亜空間に仕舞ったレフィーが、出入口に向かって歩き出す。
私たちを送り出す店員さんのお辞儀が、さっきより深い気がする。目を合わせてはいけない客と認定されたね、これは。
「レフィーって、竜は竜でも何竜なの?」
店の扉を潜りつつ、私はレフィーに尋ねてみた。――ある程度の予想を立てて。
「雷竜ですよ」
「やっぱり……」
それっぽい、すごくそれっぽい。そして電気っぽい光は、ぽいどころか電気だったらしい。
雷竜。麻理枝先輩の漫画で、鉄塔に雷落として粉々にしていたっけ。だからシクル村で雨雲を呼んで土砂降りなんて真似もできたのか。納得。
「ああ、手を繋ぐのは待って下さい」
「え?」
もはや自然な動きで触れようとした私の手を、レフィーにスッと避けられる。
予想外のことに私は、つい彼をまじまじと見てしまった。
「まだ少し帯電しているので、触ってはいけません。……失敗しました」
そう口にしたレフィーのばつの悪い顔が珍しくて、逆に得した気分にさえなってくる。
「じゃあ平気になったら、レフィーから繋いで」
「わかりました」
加えてそんな二つ返事まで来たなら、もう上機嫌になるに決まっている。
私は軽い足取りで、レフィーと並んで街道を歩き出した。
応接セットの横にある姿見に全身を映しながら、その場でくるりと回ってみる。
ベースは、クリーム色のワンピース。腰の辺りで切り替えがあり、そこからラッフルスカートになっている。スリットが入った七分袖には、ワインレッドな編み上げ紐の装飾が。そして背中にはジッパー代わりの大量な胡桃ボタン。ボタンに至っては、統一感を保ちつつもすべて色も柄も違っている。
紐は予め結び、ボタンは上から二つまでだけ外して、後はズボッと被って着ましたとも。色気のない着替え方で、申し訳ない。けれども、私が買いに来たのはあくまで普段着るための服。脱がされるための服では、断じてない。だからデザイナーさん、許して欲しい。
「この服は、今すぐ処分します」
レフィーが、私が最初に着ていた白いドレスを手に取る。
家に帰ってからではなく、今すぐとは。早く脱げとは言っていたけれど、まさかそこまで目の敵にしていようとは。
「処分でしたら、こちらで承りますが」
一歩引いて私たちを見ていた店員さんが、スッとレフィーに寄る。
流れるような動きだ。プロだ。
「そうですか、では――」
(ん? 何だろあれ)
店員さんと話しているレフィーの身体が、突然に何本もの青紫色の筋に包まれた。
前世のテレビ番組で見た、静電気によく似ている。パリパリという音も聞こえるから、余計にそれっぽいというか。とにかくレフィーが電気っぽい光を纏っている。
何か魔法でも使っているのかな。――そう思った直後だった。
「いっ!?」
レフィーの手から、ドレスが消えた。
消えただけなら今朝の花束のこともあり、それほど驚かなかったと思う。
が、
「この灰の処分をお願いします」
「……」
代わりに現れたものが、大問題だった。
(ええー……そこまで目の敵に?)
謎の技術で散らばらず球体でまとまった灰を、レフィーが店員さんに手渡す。
私と一緒に呆然としていた店員さんが、ハッとしてそれを受け取る。既に顔色以外はまったく笑顔が崩れていない。プロだ……。
「それではデートの続きをしましょう、ミア」
他の四着を例によって亜空間に仕舞ったレフィーが、出入口に向かって歩き出す。
私たちを送り出す店員さんのお辞儀が、さっきより深い気がする。目を合わせてはいけない客と認定されたね、これは。
「レフィーって、竜は竜でも何竜なの?」
店の扉を潜りつつ、私はレフィーに尋ねてみた。――ある程度の予想を立てて。
「雷竜ですよ」
「やっぱり……」
それっぽい、すごくそれっぽい。そして電気っぽい光は、ぽいどころか電気だったらしい。
雷竜。麻理枝先輩の漫画で、鉄塔に雷落として粉々にしていたっけ。だからシクル村で雨雲を呼んで土砂降りなんて真似もできたのか。納得。
「ああ、手を繋ぐのは待って下さい」
「え?」
もはや自然な動きで触れようとした私の手を、レフィーにスッと避けられる。
予想外のことに私は、つい彼をまじまじと見てしまった。
「まだ少し帯電しているので、触ってはいけません。……失敗しました」
そう口にしたレフィーのばつの悪い顔が珍しくて、逆に得した気分にさえなってくる。
「じゃあ平気になったら、レフィーから繋いで」
「わかりました」
加えてそんな二つ返事まで来たなら、もう上機嫌になるに決まっている。
私は軽い足取りで、レフィーと並んで街道を歩き出した。
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