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社会貢献のススメ(4)
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結局、陛下から頼まれたのは魔法の触媒となる植物の世話だった。
やること自体は、土に栄養と水を与えるという普通の栽培方法だ。しかし、その種類が非常に多く、また植物によって花弁だったり種だったり触媒になる部位が違う。
触媒の大半は、そのほとんどが専用の土に植えられ、一部は与える水の採水地まで決まっている。これは確かに別の仕事の片手間でやるには、難しいかもしれない。
(えーと……イスカの森の水、と)
私は幾つも並ぶジョウロの中から、今使う採水地のラベルが貼られたものを手に取った。朝のうちに水遣りを終えないといけない一種のための水だ。
最初にここ、魔王城の中庭に案内されたときこそ多種多様な花が咲く光景に感動したが、十日経った今では『ザ・職場』。出勤と同時に効率よく世話をしなければ、あっと言う間に夜になる。
勤務中もレフィーは『キスの時間』をしにやって来るので、それも考慮した時間管理をしなければいけない。『キスの時間』ですら彼の妥協案、その回数を減らして欲しいとは言えない。……私もしたいし。
(忙しいけど、後になるほど楽になるはず)
触媒は必要数をまとめて植えているので、一度収穫してしまえば次を植える必要はない。きっと最初の今が一番大変な時期で、ここを越えれば多少は余裕ができると信じている。
私は胡蝶蘭草の花壇の前に立ち、ジョウロを傾けた。
(あっ、咲いてるのがある!)
花壇の端から順に水遣りをして中央まで来たとき、私は小さな白い花を見つけた。
名称を聞いたときからそんな気はしていたが、草っぽいことを除けばまんま白い胡蝶蘭だ。
(胡蝶蘭よりちょっとだけ小ぶりかな。可愛い)
最初に触媒の世話と聞いたときには、どんなおどろおどろしい植物が出てくるかと思っていたけれど。実際は、胡蝶蘭草も含めてどれも可憐な花ばかりで、これは他の花が咲くのも楽しみだ。
(早速、陛下に報告しないと)
触媒は鮮度が大事。早いところあの亜空間収納に仕舞ってもらわねば。私は気持ち急いで、残り半分の水遣りを再開した。
と、そこへレフィーがやってくる。今はキスの時間ではないから、見学(花ではなく私の)に来たのだろう。私がこの仕事をもらってから、彼は毎日……それも日に数回来ている。
「レフィー、ここに来るまでに陛下は見かけた? 見かけていないなら、普段いそうな場所はわかる?」
「ああ、胡蝶蘭草が咲いたのですか」
「そうなのよ。だから陛下に見せ――って、あああっ」
ボトッ
まだ充分水が入っていたジョウロが、鈍い音を立てて地面に落ちる。そんな漫画のような真似をやってしまうくらい、私は衝撃を受けた。
「ブチッと……ブチッと行ったね、レフィー……」
レフィーの手には、今の今まで私の目を楽しませていた白い花が。何て惨いことを。
躊躇いの「た」の字も無く、秒で摘みましたよ、この男。
やること自体は、土に栄養と水を与えるという普通の栽培方法だ。しかし、その種類が非常に多く、また植物によって花弁だったり種だったり触媒になる部位が違う。
触媒の大半は、そのほとんどが専用の土に植えられ、一部は与える水の採水地まで決まっている。これは確かに別の仕事の片手間でやるには、難しいかもしれない。
(えーと……イスカの森の水、と)
私は幾つも並ぶジョウロの中から、今使う採水地のラベルが貼られたものを手に取った。朝のうちに水遣りを終えないといけない一種のための水だ。
最初にここ、魔王城の中庭に案内されたときこそ多種多様な花が咲く光景に感動したが、十日経った今では『ザ・職場』。出勤と同時に効率よく世話をしなければ、あっと言う間に夜になる。
勤務中もレフィーは『キスの時間』をしにやって来るので、それも考慮した時間管理をしなければいけない。『キスの時間』ですら彼の妥協案、その回数を減らして欲しいとは言えない。……私もしたいし。
(忙しいけど、後になるほど楽になるはず)
触媒は必要数をまとめて植えているので、一度収穫してしまえば次を植える必要はない。きっと最初の今が一番大変な時期で、ここを越えれば多少は余裕ができると信じている。
私は胡蝶蘭草の花壇の前に立ち、ジョウロを傾けた。
(あっ、咲いてるのがある!)
花壇の端から順に水遣りをして中央まで来たとき、私は小さな白い花を見つけた。
名称を聞いたときからそんな気はしていたが、草っぽいことを除けばまんま白い胡蝶蘭だ。
(胡蝶蘭よりちょっとだけ小ぶりかな。可愛い)
最初に触媒の世話と聞いたときには、どんなおどろおどろしい植物が出てくるかと思っていたけれど。実際は、胡蝶蘭草も含めてどれも可憐な花ばかりで、これは他の花が咲くのも楽しみだ。
(早速、陛下に報告しないと)
触媒は鮮度が大事。早いところあの亜空間収納に仕舞ってもらわねば。私は気持ち急いで、残り半分の水遣りを再開した。
と、そこへレフィーがやってくる。今はキスの時間ではないから、見学(花ではなく私の)に来たのだろう。私がこの仕事をもらってから、彼は毎日……それも日に数回来ている。
「レフィー、ここに来るまでに陛下は見かけた? 見かけていないなら、普段いそうな場所はわかる?」
「ああ、胡蝶蘭草が咲いたのですか」
「そうなのよ。だから陛下に見せ――って、あああっ」
ボトッ
まだ充分水が入っていたジョウロが、鈍い音を立てて地面に落ちる。そんな漫画のような真似をやってしまうくらい、私は衝撃を受けた。
「ブチッと……ブチッと行ったね、レフィー……」
レフィーの手には、今の今まで私の目を楽しませていた白い花が。何て惨いことを。
躊躇いの「た」の字も無く、秒で摘みましたよ、この男。
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