50 / 69
思い出を消さないで(1)
しおりを挟む
私とレフィーは先回りをして、邸の前庭に潜んでいた。道を行かず畑を突っ切れば、実は半分程の距離でここまで来られる。私たちのようにぬかるみに足を取られる心配がなければという、前提はいるが。
レフィーは背の高い木の裏に、私のその横にある植木の陰にしゃがんで待つ。しばらくして、泥棒はようやく姿を現した。
欲張って荷物が重かったのか、泥棒は目に見えて疲れていた。先程から、数メートルおきに立ち止まっては、よろよろと進んでいる。これ以上盗みを働いても持ち運べないのではと思うほどだ。
(もしかして、ここを根城にしているの?)
泥棒の様子から行って、彼は一仕事終えて帰ってきたのかもしれない。
そう推測して見ていれば、泥棒は玄関扉の前で麻袋を下ろした。そして案の定、何の警戒も無しに扉を開けた。
鍵が回った音がしたので、こじ開けたのではなく、どこかから入手した鍵を使ったらしい。鍵を盗まれるなんて、ケチな叔父さんにしては珍しい失敗をしたものだ。
『どうやらここに住み着いているようですね』
「!?」
いきなり念話で話しかけてきたレフィーに、私は驚いて危うく声を上げかけた。
以前、竜なレフィーがしてきたので、念話自体は初めてじゃない。しかもそのときは、姿が変わっても会話できるのは便利だ、としか思わなかった。
今回は先入観というか、人の姿のまましてきたので動揺した。その姿でもできたのね、念話。
『やはり向かっていたのはこの家でしたか。ここは覚えています。ミアの漫画を取りに来ました。ミアが暮らしていた家ですね?』
こちらへちらりと目だけを向けてきたレフィーに、私は頷いてみせた。私は念話は聞けても送れないので、ジェスチャーで返すしかない。
「例えもうミアが住んでいなくとも、ミアがいた場所に盗人が住むというのは面白くありません」
って貴方、もう普通に話しているし! しかも泥棒の前に飛び出しているし!
まあレフィーなら、相手が刃物を持っていようが銃器を持っていようが、関係無いのかもしれないが。
私は素手でも負けること必至なので、このまま隠れさせてもらう。
「誰だ!?」
泥棒が、いきなり現れたレフィーに比喩ではなく跳び上がる。
大声まで上げて――そのことで、私は彼の正体に気付いた。
(叔父さん?)
泥棒の顔を注視して、そこでやっと聞き間違いでないことがわかる。
私の知る叔父さんは、いつも王都で売っているような上等な服を着ていた。だから、村の一般的な男性と変わらない格好だったことで、今まで気付くことができなかった。
飾り気の無い、麻を織った農作業向けの服。このような服を、初めから叔父さんが持っていたとは考えにくい。先程のようにどこかの家から拝借したものと思われる。
上等な服というのは、手入れが難しい。管理してくれる人がいなくなったことで、駄目にしてしまったのだろう。
「待て、見覚えがあるぞ。そうだ、アルテミシアと邸の側を歩いているのを見た。あの竜の飼い主なのか!?」
言うなり、叔父さんがキョロキョロと辺りを見回す。儀式の日に現れた竜を連れてきていないか、確認する素振りに見えた。
しばらくそうしてから、叔父さんが安堵の表情になる。竜の姿が見えないことにほっとした、といったところだろうが……それが目の前にいるのよね。本人に向かって飼い主とか言っちゃったよ、叔父さん。
「ここへ来た私たちを見たというなら、この人間がミアを蔑ろにしていた叔父なわけですか」
「あいつがそう言ったのか!? 何て言い様だ!」
竜がいなければレフィーなんて、ただの若造と思っているのだろう。格好と違って横柄な態度は、私のよく知る叔父さんのままだった。
レフィーは背の高い木の裏に、私のその横にある植木の陰にしゃがんで待つ。しばらくして、泥棒はようやく姿を現した。
欲張って荷物が重かったのか、泥棒は目に見えて疲れていた。先程から、数メートルおきに立ち止まっては、よろよろと進んでいる。これ以上盗みを働いても持ち運べないのではと思うほどだ。
(もしかして、ここを根城にしているの?)
泥棒の様子から行って、彼は一仕事終えて帰ってきたのかもしれない。
そう推測して見ていれば、泥棒は玄関扉の前で麻袋を下ろした。そして案の定、何の警戒も無しに扉を開けた。
鍵が回った音がしたので、こじ開けたのではなく、どこかから入手した鍵を使ったらしい。鍵を盗まれるなんて、ケチな叔父さんにしては珍しい失敗をしたものだ。
『どうやらここに住み着いているようですね』
「!?」
いきなり念話で話しかけてきたレフィーに、私は驚いて危うく声を上げかけた。
以前、竜なレフィーがしてきたので、念話自体は初めてじゃない。しかもそのときは、姿が変わっても会話できるのは便利だ、としか思わなかった。
今回は先入観というか、人の姿のまましてきたので動揺した。その姿でもできたのね、念話。
『やはり向かっていたのはこの家でしたか。ここは覚えています。ミアの漫画を取りに来ました。ミアが暮らしていた家ですね?』
こちらへちらりと目だけを向けてきたレフィーに、私は頷いてみせた。私は念話は聞けても送れないので、ジェスチャーで返すしかない。
「例えもうミアが住んでいなくとも、ミアがいた場所に盗人が住むというのは面白くありません」
って貴方、もう普通に話しているし! しかも泥棒の前に飛び出しているし!
まあレフィーなら、相手が刃物を持っていようが銃器を持っていようが、関係無いのかもしれないが。
私は素手でも負けること必至なので、このまま隠れさせてもらう。
「誰だ!?」
泥棒が、いきなり現れたレフィーに比喩ではなく跳び上がる。
大声まで上げて――そのことで、私は彼の正体に気付いた。
(叔父さん?)
泥棒の顔を注視して、そこでやっと聞き間違いでないことがわかる。
私の知る叔父さんは、いつも王都で売っているような上等な服を着ていた。だから、村の一般的な男性と変わらない格好だったことで、今まで気付くことができなかった。
飾り気の無い、麻を織った農作業向けの服。このような服を、初めから叔父さんが持っていたとは考えにくい。先程のようにどこかの家から拝借したものと思われる。
上等な服というのは、手入れが難しい。管理してくれる人がいなくなったことで、駄目にしてしまったのだろう。
「待て、見覚えがあるぞ。そうだ、アルテミシアと邸の側を歩いているのを見た。あの竜の飼い主なのか!?」
言うなり、叔父さんがキョロキョロと辺りを見回す。儀式の日に現れた竜を連れてきていないか、確認する素振りに見えた。
しばらくそうしてから、叔父さんが安堵の表情になる。竜の姿が見えないことにほっとした、といったところだろうが……それが目の前にいるのよね。本人に向かって飼い主とか言っちゃったよ、叔父さん。
「ここへ来た私たちを見たというなら、この人間がミアを蔑ろにしていた叔父なわけですか」
「あいつがそう言ったのか!? 何て言い様だ!」
竜がいなければレフィーなんて、ただの若造と思っているのだろう。格好と違って横柄な態度は、私のよく知る叔父さんのままだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる