竜の花嫁 ~夫な竜と恋愛から始めたいので色々吹き込みます~

月親

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思い出を消さないで(2)

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「孤児になったあいつを引き取ってやったのは俺だ。一人では死んでいたのだから、数年の延命に感謝すべきところを、あいつは恩を仇で返したようなものだ! 貴様も同罪だぞ、外から来て村の事情も知らずに連れ去った。あいつがのうのうと生きているから、生け贄とならなかったから、私の村はこんな有様になっているのだ!」

 叔父さんがレフィーに捲し立てる。先程言われた「何て言い様」という言葉、そっくりそのまま返したい。
 出て行って、反論したい。けれど、それをすると叔父さんは私に矛先を変えて、却ってレフィーの手を煩わせるのが目に見えている。これまでろくな反抗もできなかった叔父さん相手に、いきなり言い負かす自信なんてない。
 でも、私にだけならともかく、レフィーへの誹謗中傷は許せない。弱気なことを考えていないで、ここはガツンと行くべきでは。
 私は気合いの炎で自身を熱して――

「私の村、……ですか」

 しかしそれは、レフィーの纏う空気が変わったことで一瞬にして冷やされた。

「この人間がここに留まる理由を、ようやく理解できました。村を出れば、何も持たない流れ者。だから村の長という肩書きに固執していたわけですね」
「なっ!?」
「そしてこの人間は……どうやら死にたいようです」

 台詞以上に、身も心も凍らせるような声に叔父さんは半歩後退った形で固まった。
 不穏な雰囲気に、同じく固まりかけていた私も、膝を叱咤してじゃがんでいた体勢から前屈みになる。

「この人間の村だというなら、それごと消してしまいましょう」

 刹那――
 ズトォオオオオオンッ
 大地を揺るがすほどの轟音が、村の空に鳴り響いた。

(落雷!?)

 キーンと鳴る両耳を押さえながら、私はレフィーが隠れていた木の裏へと移った。
 悲鳴を上げてしまった気がするが、ただでさえ煩い雨の中の雷音だ、叔父さんには聞こえなかっただろう。
 木の裏で立つ姿勢が取れた私は、そこから周辺を見渡した。
 音と同時に光った雷はあまりに近過ぎて、方角が特定できない。そう思ったのも一瞬で、探すまでもなくその場所は見つかった。

(木が……)

 高台になっている邸からは、シクル村全体が見渡せる。特に正門から一直線上にある湖と広場の大樹は、毎日のように見ていた景色だった。
 当たり前のように見ていた。それなのに、そこにあるはずの大樹が忽然と消えていた。

(あの場所は……儀式の)

 今日、あの近くに降りたときのことを思い出す。
 楽団の楽器に、儀式参列者用の絨毯。大樹とともにレフィーが何を標的としたのか、わかってしまった。
 大樹が消滅するほどの威力だ。ここからでは詳細は見ることができないが、あの辺り一帯が焼け焦げたのではないだろうか。雨乞いの儀式の痕跡が、跡形もなく消えるほどに。

「!?」

 呆然と村を見下ろしていた私の背に、突如ぞわりとした悪寒が走った。
 今、また空気が変わった。確信を持ってそう言えるほどの変化に、バッとレフィーを振り返る。

「な、何なんだお前は。その格好、まさか本物の王都の魔術士だというのか……?」

 レフィーの周囲を、幾つもの青紫色の光の筋が走っていた。
 あれは以前にも見たことがある。王都の服屋で、同じく静電気のようなそれを纏ったレフィーが、生け贄の装束を灰にした。

(まさか……)

 儀式が行われた広場は消失した。それなのにレフィーはまだ、電気を纏っている。
 そうだ。彼は、「村ごと消す」と言った。ならば村ごと消されるのは、彼が「死にたいようだ」と判じた人間。

(まさかじゃない。レフィーは本気で叔父さんを殺そうとしている!)

 レフィーの纏う電気がさらに膨れ上がるのと同時に、私は木の陰から飛び出した。

「駄目! レフィー!!」

 すべての音が騒がしくて、自分でさえ自分の声がよく聞こえなかった。

「ミア?」

 だからそれでも私の声を拾い、振り返ってくれた彼が嬉しかった。
 それがレフィーに抱き付いた私の、最後の記憶で。触れたと感じる間もなく、私の意識はブツリと途切れた。

「ミア!!!」

 彼の悲痛な叫びを――私が聞くことはなかった。
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