入院先で出会った『お姉さん』に恋をした話

minori0310

文字の大きさ
1 / 6

好きだったあの人へ

しおりを挟む
空が広くなり暖かさが顔を出した春先の午後。
緑豊かな土手の一角でキャッチボールをしていた

ボールを握った手に視線をやり、右腕を背後に回す。
指先から離れたボールが弧を描いて飛んでいき、
数メートル先に立っている男の子のグローブにすっぽりと収まった。

「オレ、四年生になったらチームに入る」

男の子は振りかぶりながら言って、ボールを投げ返した。

グローブが音を立ててボールを捕まえる。

腰を落として構える男の子のグローブを目掛けて、再びボールを投げた。

「オレ、賢斗けんとみたいなかっこいいピッチャーになるんだ」

「僕よりもっといいピッチャーになれるよ」
 
飛んできた球を胸の前で捕球する。

「そうすればきっと、優笑ゆらさんも喜ぶと思う」
 
雲のない青空を見上げて呟くと、男の子は白い歯を見せた。
 
左手にはめたグローブにはペンで書かれたメッセージが残っている。

それは優笑さんが残したメッセージであり、
僕がここまで野球を続けることができた理由でもあった。

「ねえ、賢斗は姉ちゃんのこと好きだったの?」
 
ボールを投げずに、ぼーっとグローブを眺めていたからだろう。

男の子がこちらへと駆け寄ってきて、純粋な瞳を向けて言った。
まだ背は低く、顔にはあどけなさが残っている。
 
男の子に問われ、優笑さんと過ごした日々の思い出が浮かび上がった。

あの人は、最後まで笑顔で前向きに生きていた。

あの日、優笑さんが誕生日会に誘ってくれたからこそ今の僕がいる。
少し強引でそそっかしい人だったが、その分優しくて影響力のある人でもあった。

「うん。好きだよ。今もね」
 
グローブに残された優笑さんの言葉に目をやり、淡々と答えた。
砂や泥で汚れたグローブには、『野球、止めるなよ』と書かれている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん

菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...