時司るリトルメイジ

温水康弘

文字の大きさ
上 下
17 / 39
閑話休題001 とある小学生の一日

その二

しおりを挟む
「という訳で本日の定例会議を終わります」

 現在午後五時半頃。
 私とさもなは学校が終わった直後に私が経営している会社「三条スイーパーカンパニー」の本社ビルにいた。
 そこの会議室で私とさもな、それと書記としてバカ調に自称魔王のカヤちゃん。
 そして……実務一家の主任である光前寺宗吾の姿があった。
 もっとも定例会議といっても近頃の近況報告とかの報告が主だ。
 何しろうちの会社は三条財閥グループの中ではあらゆるトラブル対処を目的に設立された会社だ。
 故に本来は赤字部門会社でないといけない。
 もっとも私が経営しているうちは黒字を維持させてもらってるがな。
 
「司ちゃん!さぁ行こう」
「えっ、さもな何処に行く気?」
「何言ってるの!今日はこの後料理の特訓するっていったでしょう。おたけさんも待ってるから」

 あぁ、そうだった。
 いつもならこの後は宗吾を連れて外食なのだが今日はそうはいかないみたいだ。
 こうして私は会社の食堂へ。
 そこには食堂の主であるおたけさんが待っていた。

「社長、話はさもなちゃんから聞いてるわよ。料理の修行がしたいんだって?」
「は、はい」

 私が食堂内にある料理室に入ると既に色々な食材と包丁や鍋とかの料理用具も予め用意されていた。

「司ちゃん!今日は野菜炒めを作ろうね」
「野菜炒め……ってカレーやシチューじゃないの?」
「あれは確かに司ちゃんでも作れそうだけど煮込むのに結構時間がかかるからね。それに……」

 さもなは私に食堂を見せる。
 なんとそこには宗吾とバカ調、それにカヤちゃんの姿が。

「ほら本日は司ちゃんの料理を食べたいと皆集まってるよ」
「だから今回は短時間で作れる野菜炒めにした訳ですよ社長」
「はは……これは参ったわね」

 これで完全に私に逃げ場は無くなったな。
 素直に観念して……いざクッキング!

 とりあえず包丁で用意してあった野菜と肉を手ごろな大きさへ切る。

「司ちゃん、やればできるじゃない。そう!そのぐらいの大きさでいいわよ」
「そ、そうかしら」

 実の処、刃物の扱いは結構慣れていたのだ。
 もっとも私の場合は小さな頃にまだ三条財閥の総裁になる前の父親に連れられて山奥へサバイバルキャンプに行き、そこで刃物の扱いを覚えたのだが。
 結構こうゆう経験は今になって生きてくるものだな。
 とりあえず肉と野菜を切り終えたら今度はフライパンを火で熱くする。

「はい司ちゃん、オイルでフライパンにしいて」
「わかった」

 私はさもなの指示でフライパンの上にオイルを……って突如フライパンが大炎上!

「キャーッ!司ちゃんオイル入れすぎだよ」
「…………」

 私は自分の懐からスマートフォン型魔具を出して即時間を巻き戻す。
 ほんの五秒ぐらいなら魔具の内臓バッテリーでも問題ない。
 時間を巻き戻してオイルを入れる前に戻した上でもう一度再挑戦。

「ふぅ、今度は上手くいったみたいね」
「では今度はお肉からね」
「えっ?野菜と一緒に入れないの」
「今回使うのは豚肉だからね。先に入れて十分に焼かないと美味しくないよ」

 私はお肉をフライパンの中に入れて手にしたお箸で動かしながら焼いていく。
 焼いていくとお肉の匂いがしてきた。
 これは美味しそうだな。

「そうだ司ちゃん、これは好みの問題だけどこの塩コショウを少し入れたらいいよ」

 それから私はさもなの指示に従い料理を続けていく。
 さて、いよいよ野菜を入れる時だ。

「今よ司ちゃん!」
「うん」

 野菜がフライパンの中に入り、いよいよ野菜炒めの料理はクライマックスだ。
 さもなとおたけさんから聞いたら、あまり野菜は火を通しすぎないのがコツだとか。
 私は懸命にお箸で懸命にかき回す。
 最後は更に塩コショウを振りかけて出来上がり!
 さもな曰く好みでマヨネーズとかソースをかけるといいとか。

「司ちゃん、やればできるじゃない」
「…………これ、本当に私が作ったの?」
「そうだよ!てっきり司ちゃんフライパンを大爆発させるんじゃないかと心配したんだから」
「さもな、いくらなんでもひどいわよ」
「はは……とにかく後は盛り付けしようね」

 では出来上がった野菜炒めを食べる人数分の皿に盛りつけて食堂で待っている皆に配膳。
 更におたけさんとさもなが作っていた暖かい白いご飯とお味噌汁も用意。
 こうして、私が作った野菜炒めにおたけさん&さもなが作っていたご飯と味噌汁による今夜の夕食が出来上がった。

「おっ、これは美味しそうな野菜炒めだな」
「お兄ちゃん、それは司ちゃんが作った野菜炒めだよ」
「「「えっ?」」」

 やはりというべきか、今夜のおかずを私が作った事を知るや宗吾にバカ調、おまけにカヤちゃんまで不安そうな顔してる。
 私って料理に関しては完全に信用がないな。
 そこへ助け舟を出したのは外ならぬ、さもなだった。

「こ~ら~っ!折角司ちゃんが苦労して作ったのにそうゆう態度はなに!そんな大都してると今夜の夕食はなしだよ」
「さ、さもな……そんな怖い顔をするではない」
「確かにこれは失礼だったな。ではとりあえず食べてみようかな」
「社長の野菜炒めですか……もう臨死体験は覚悟したほうがいいですね」
「じゃあ、調お姉ちゃんはいらないんだね」
「うひぃぃぃぃっ!さもなちゃん手厳しい」

 バカ調の奴が生意気な事言ってるが、さもなの言葉で他の皆は快く食べてくれそうだ。
 という訳で、私とさもなも席に座って……頂きます!

「!?これは結構いけるな。俺は野菜炒めといえばマヨネーズだから……うん、マヨネーズで俺好みになったぜ」

 良かった、一番気になった宗吾の反応はいいようだ。
 それにしても宗吾って野菜はマヨネーズが好きなのかしら?

「これは美味いのじゃあ!これが社長殿が作ったものとは正直信じられんのう」
「それはあんまりだと思うよカヤちゃん。けど初めてにしてはここまで美味くなったのは驚いたなぁ」

 カヤちゃんとさもなの評判もいいみたいだ。
 この二人は出来上がった野菜炒めそのままで食べている。
 塩コショウが効いているのか、それとも野菜と肉の味が引き出されているのかな。

「もぐもぐ……あれ?普通に食べられる。あの社長がこうゆうの作るとは明日は豪雪かな」

 おい(怒)
 このバカ調、美味いなら素直に言いなさい。
 今度また料理する機会があればコイツだけ下剤でも入れてやろうかしら。
 さて、他の皆の評判はいいみたいだし……今度は私が食べてみようかしら。

「…………美味しい。本当に私が作ったの?」

 意外と肉と野菜は十分に火が通っており塩コショウの味がその味を引き締めている。
 また、少し食べた後で野菜炒めにソースを加える。
 すると更に別の味わいを感じる。
 正直これを私が作ったとは信じられない。
 私は無我夢中で夕食を頂いた。

「ねぇ司ちゃん、どう?自分で料理を作った感想は」
「…………悪くはないわ。何というか達成感を感じるわ」
「そうそう!だから料理って楽しいものなんだよ。今度は別の料理に挑戦しようね」
「そうね、気が向いたらまたお願い」

 とりあえず夕食を終えて後片付けをした後で今夜は解散となった。
 それぞれが家路につく中で私は宗吾に送ってもらう事になった。
 勿論この前の臨時賞与で与えた白いフェラーリに乗せてもらってだ。
 すっかり暗くなった夜道を白いフェラーリが疾走していく。

「それにしても社長が料理だなんて意外でしたよ」
「珍しいわね、宗吾が私の事を素直に褒めるなんて」
「お世辞ではないからそこは安心してください。いつも金の事しか頭にない筈の社長が意外と女の子らしい一面もあるんだなと思いまして」

 これは驚いた。
 いつもなら守銭奴、クソガキと言ってくる宗吾が珍しく笑いながら私を褒めているなんて。
 私……は多分赤面していると思う。
 その時、私はさもなが言ってた事を思い出した。
 男は胃袋を掴んだ者の勝ち。
 本当にその通りだ。
 現に宗吾は私が作った料理で笑顔を見せている。

「また……作ってあげようか、料理」
「そうですね、今度は野菜炒め以外でお願いしますよ社長」
「まぁ……最善は尽くすわ」

 やれやれ、これはとんだリクエストだな。
 また、さもなにご教授お願いする事になりそうだな。
 だけど……今回は宗吾の笑顔が見れただけでも個人的に満足だ。

 それから屋敷まで送ってもらい宗吾と別れて屋敷の中へ。
 私は専属のメイドに頼んで料理の本をいくつか見せてもらった。
 メイドの奴、私が料理に興味を示した事に驚いていたようだ。
 私は自分の部屋に戻り机の上で初心者向けの料理本に目を通す。
 定番のカレーやシチュー、それにうどんやハンバーグまで。

「さ~て、今度はどれを作ろうかしら?」

 気が付けば私も料理作りの虜になっていた。
 正直難しいのや本格的なのは無理だと思うが私はまた宗吾の笑顔が見たい。
 なんだか楽しくなってきた。
 
 そして、その日の夜に見た夢。
 宗吾が私が作った色々な料理で大喜びになっている夢だった。
 いつか……それが現実になればいいと思う私だった。
 


 だけど、そんな私達に次の事件が待っていた。

 次回エピソード002 転売ヤーには地獄への片道切符




しおりを挟む

処理中です...