かこちゃんの話

けろけろ

文字の大きさ
17 / 20

海を探すか、足を手に入れるか

しおりを挟む
 スピアの話によると、目の前にいる華子穂に似た女の子はフラワーチャイルズというらしい。
「フラワーチャイルズは華子穂のなかの可能性たちなんだ」
スピアは言う。ライオンの鬣のような髪をした女の子は幸介をじっと見つめている。デニムのオーバーオールは原色ばかりで継ぎ接ぎしリペアされている。
 「華子穂の可能性……? こういう可能性を秘めていると?」
「いやいや、違うよ。フラワーチャイルズとしてここにいるのは、すべて目覚めた可能性たちさ」
「ということは」これが華子穂の本来の姿か……。幸介はまじまじとその姿を見つめる。似ているようで似つかないような感覚を覚えるその子を。
「間違ってはいけない。可能性は目覚めても、表象するかどうかはまた別の話さ。フラワーチャイルズはあくまでも可能性たち・・・・・であって華子穂ではない」
こころを見透かしたようにスピアは言う。
「それで」幸介はやっとそう口にした。
「君たちはどうしたいんだ」
「ああ、そうさ」スピアが話し始めると、フラワーチャイルズがそれを引き取った。
「私たち華子穂に逢いたいの!」
意外な事だった。そんなこと訳ないじゃないか。
「ほう……!」
ついそう声を出していた。
「なんだ、それだけ?」
「『なんだそれだけ』?」
スピアが棘のある声で繰り返す。
「君は……、あなたは今の状況が分かっているの? その足、この世界。これはみんなあなたの内的宇宙だよ。どうやってここから出るの? その足で、見渡す限りの砂漠をさ!」
スピアの声は最後は絶叫に近かった。
グゥの音も出ない。
「君たちが連れてきたんじゃ……」
「違うね」
スピアは仰向けに寝そべったままの幸介の周りを歩きながら辺りを見回す。
「ファンタジーはもう一つの現実。君と僕らで出口を見つけなければ、僕らはここで干からびることになる」
やけに踏まれた砂の擦れる音が大きく響いた。陽射しがジリジリと熱い。
死。圧倒的な、空間に溢れる死!

 スピアとフラワーチャイルズは木でできた担架に幸介を乗せて運ぶ。
「すまないね……」苦々しい悲痛な面持ちで幸介は言う。
「いいのさ」スピアは言う。
彼は枯れた木を見つけると、外套の内から刃の広い小刀を出して、それを切りつけて落とし、また外套の内から取り出したロープで縛り、手際よく担架を作ってしまった。
そこへフラワーチャイルズと二人、無言のまま幸介を乗せると、あたかもこれまでもそうしてきたかのように歩き出した。
 華子穂に逢う。そのことへの覚悟を幸介は感じずにはいられない。
 きっと長い旅になる。そのことも感じずにはいられない。この旅が、ではなく、この二人の旅が。
 「考えてもごらん」スピアが長い指で荒い砂を踏み歩きながら言う。「もし、ここが海だったなら」と。
「その時、きみは……、あなたはどれだけ自由になる?」
幸介は顎を突き出し、頭上へ目を向ける。絶えず歩を進めるスピアの後頭部が見える。そこに付いた耳、黒いハットも。シルクのハットは太陽光でふさふさと白く光っている。
 自由。
幸介は考える。この人魚の身体で、果てもないような海へと辿り着いたなら、と。
光。圧倒的に、眩むような、白く、または青い光。
 自由か……。幸介はほとんど音を出さずに言う。
 太鼓が鳴っているみたいだ。
幸介は思う。
まるで生きているみたいだ・・・・・・・・・。裡側から何かが膨らむようで、きつく目を閉じた。そうしないと、弾けそうだった。その感触を一杯味わいたかった。
 「悪い」幸介は放心して言った。
「俺を、海に連れてってくれないか。もう、こんな砂漠でのたうち回っては生きれそうもない」
「元より」スピアの後頭部。声は楽しそうに笑っていた。
 俺は人魚。魔法で人間になる、なんて御伽噺は信じない。海で、泡のように生きたい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...