メイ・ディセンバー ラブ

しまおか

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りん~②

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 そんなある日、私の隣の課で入社二年目の同期でもある岸本きしもと愛可理あかりが、千絵達一年目の四大卒女子との揉め事に巻き込まれた。きっかけは、彼女の下に配属された樋口ひぐち裕子ゆうこという一年目の子が、仕事上でミスをした事だ。そのフォローを、愛可理が手伝う羽目になった一件からだった。
 裕子には、入社六年目の中堅である遠藤えんどう先輩が教育係としてついていた。その遠藤が課長の指示により、お昼一時から開かれる会議に必要な資料の用意を、裕子と二人で行う予定だったらしい。
 その為会議の前日から依頼され準備をしていた遠藤達は、会議が開かれる午前中の十時頃までに、資料を揃え終えるはずだった。
 しかしあろうことか、裕子が大事な資料の一部を誤ってシュレッダーしてしまったのだ。遠藤達は慌てて資料を揃え直したけれど、先輩自身が別の会議に出席しなければならなかったという。その為残りの準備を、愛可理に託したのだ。
「お願い、岸本さん。シュレッダーしてしまった資料はもう揃え直したから、後は他の資料と順番通りに並べて、二十部コピーしたらホッチキスで止めるだけなの。樋口さんと一緒に、資料がちゃんと会議に間に合うよう見てあげて」
 そう愛可理に告げた遠藤は、十一時十五分ほどから席を外して出て行った。資料は会議が始まる一時より三十分前の、十二時半までに仕上げればよかったという。
 そこで愛可理は簡単な作業だと思い、お昼の時間を他の事務員と交代して貰った上で、裕子のフォローについた。私達の会社では、女性事務員が誰も課の中にいなくならないようにと、昼食時間を十一時半からの一時間と、十二時半からの一時間に別れて取ることになっていたからだ。
 その日の愛可理のお昼は、早番の十一時半からだった。だがそうなると資料の準備ができない為、遅番の子と代わったのだろう。
 しかし問題はそこから起こった。遠藤先輩が見本として用意した資料を、集めた原本の通りに並べいざコピーをする際、裕子は再びミスをしたのだ。
 一部の資料の順番を誤った状態で二十部コピーしてしまい、あとはホッチキスで止めるだけ、という段階でその間違いに愛可理は気がついた。
「ちょっと樋口さん、順番間違っているじゃない! 見本通りに入れ替えないと!」
 その時点で、丁度十一時時半を少し回ったところだった。よってもう一度順番を並び替え、二人でセットすれば会議三十分前には十分間に合う時間だった。
 だがそこで千絵が、他の一年目の女性達と連れ立って、同期の彼女を呼びに来たのだ。
「裕子も今日、お昼は早番だったわよね。来月の三連休で行く温泉旅行の打ち合わせをしなきゃいけないから、早く行きましょう」
 彼女達一年目は入社して半年が経ち、少し会社に慣れてきた時期でもあった。だからか十一月の三連休を利用し、仲のいい同期達で旅行に行く計画を立てる余裕も出てきたのだろう。 
 しかしそうした考えや慣れが、仕事上の油断や緊張感の欠如を生み出していた。裕子のミスも、そんな一つの現れだったかもしれない。
「ごめんなさいね。樋口さんは急ぎの仕事があるのよ」
 愛可理はそう言って、チラリと裕子を見た。当然彼女もこの状況なら、お昼の当番は遅番に交代しているものだと思っていた。もしまだであれば、他の事務員の子と代わって貰わなければならない。そう考え、依頼し易いように気を利かせて言ったつもりだった。
 しかしお昼の当番は、遅番より早番の方が人気は高い。早番の方が、会社の周りにある店は空いているからだ。遅番だと空いてくるのが、一時近くになってからになる。
 その為評判のいいお店だと、混んでいてなかなかすぐに座れなかったりする。それが十一時半からなら、余裕を持って入ることができるのだ。
 そこで裕子の口から出たのは、驚くべき言葉だった。
「すいません、岸本先輩。私達、どうしても早番で食事して旅行の打ち合わせをしなければいけないので、後はお願いできますか?」
 一瞬この子は何を言っているのだろう、と我が耳を疑ったらしい。これには愛可理も怒った。
「何言ってるの! これって元はと言えば、あなたが遠藤先輩とやるはずだった仕事でしょ! それにあなたのミスが重なって、とっくに仕上がっているはずが、今までかかっているんじゃないの。私はあくまで手伝いなんだから、あなたが最後まで責任持ってやりなさい。食事は遅番の人と交代してもらえばいいでしょ!」
「裕子さん、それって後どんな仕事が残ってるの?」
 千絵が愛可理の叱咤をまるで無視して、彼女に尋ねた。
「後は並べ替えて、セットするだけなの」
 そう抜けぬけと答えた言葉を聞き、今度は千絵の口から信じ難いセリフが発せられた。
「じゃあ四大卒のあなたしかできない仕事ではないでしょう。短卒の人だって、誰だってできる仕事じゃないの」
 この時の会話は偶然、私も聞いていた。余りにも露骨な差別発言に愕然とした。ちょうど他にも短大卒の先輩方が聞いていたけれど、同じ思いだったに違いない。
 言葉を失っている愛可理に、千絵は止めを刺した。
「じゃあ、裕子は私達と一緒に行きますので岸本先輩、後の事はお願いしますね」
 そう捨て台詞を残すと、彼女達はそそくさと部屋を出て行き、外へと食事に出かけてしまった。
「何、今の口の聞き方!」
 これには愛可理よりも、周りで聞いていた他の諸先輩達が怒りだした。しかしそこで何を言っても、やらなければいけない仕事が残っている事には変わらない。
 愛可理は先輩達が数人で集まり、千絵達の悪口を言い合っているのを余所に、黙々と一人で資料の整理をし始めていた。
 コピー機が発達した時代であれば、この程度の資料のセットは一瞬にしてホッチキス止めまでして終わっていただろう。だから例え食事を終え十二時半に戻ってからやっても、間に合う程度の仕事だ。
 しかし当時のコピー機に、そんな便利な機能は付いていなかった。速度もそれほど早くない。用紙をホッチキス止めするのも手作業だ。その為一人で十二時半までに終わらせるのは、そう簡単な作業で無かった。
 見るに見かねた私は、同じ課の先輩に断りを入れて彼女の手伝いをすることにした。周りにいた人達も仕事の依頼内容と経緯から、間に合わせなければならない仕事だとすぐ理解したようだ。よって別の課の仕事を私が手伝う事を咎めず、好意的に受け止めてくれた。
「りん、ありがとう」
「いいよ。さっさと終わらせて、お昼は一緒に食べよう。資料さえ揃えてしまえば、後は遠藤先輩に任せればいいから」
「うん、そうする」
 やがて資料の準備は無事整い、会議室に運び二人でセットされた二十部を並べ終わり、席に戻ってきたのがちょうど十二時半だった。
 するとそこで別の会議を終えた遠藤先輩が、他の事務員から事情を聞き終え戻っていたらしく、激怒している所に出くわした。
「岸本さん、準備は終わったのね? お疲れさま! 今川さんも隣の課なのに、手伝ってくれて有難う。でも樋口さんったらなんて子かしら! 自分のミスで余計な時間がかかったというのに、あれからまた失敗した事を棚に上げ、しかも先輩に押し付けて自分は旅行の打ち合わせですって! 西木って子もいい加減にしてもらわなきゃ! 入社半年程度しか経っていない、大した仕事もできないひよっこが四大卒だ、短大卒だって言える立場じゃないのよ! これはもう、私が注意するだけじゃ済まないわ! 課長や男性社員からも、しっかり注意して貰うから!」
「そうよ。あの子達、四大卒だからっていい気になっているんだわ! ここでビシッと言っておかないと、私達の気も治まらない!」 
 日頃からの鬱憤も溜まっていたのだろう。ものすごい剣幕でやりとりしている諸先輩方に、圧倒されていた愛可理と私はしばらく固まっていた。しかしそこで声がかかった。
「二人は行っていいわ、お昼でしょ。後はこっちで対応するから」
 遠藤に指示され、私は愛可理と一緒に昼食を取る為外に出た。すると偶然にも、食事を終えた千絵達とすれ違ったのだ。時間はもう十二時半を少しまわっている。
 しかも仕事が無事終わったかどうかの確認も無いまま、彼女達は軽く目礼だけして通り過ぎて行った。愛可理はもうこの時点で、何も言う気が失せていたようだ。
 少しお店が空き始めた七百円の洋風ランチを出しているお店に、私達は入った。パスタとサラダのついたセットを注文し、先程までの気分の悪い話題に全く触れることなく、
「りんは今度の連休、どうするの?」
「どうもこうも、大人しくお家でのんびりしてようと思って。出かけたってどこも混んでるし、お金を使うだけだからね」
「そうだよね。私もお金貯めないといけないから、無駄使いできないし。でもずっと家の中で一人ってのもねぇ」
「じゃあ、二人でどこかぶらりと、ウィンドウ・ショッピングでもする? お金かからないから。でも外でお茶するくらいは使うけど」
「いいね。どこにいく? 渋谷? 新宿? それとも銀座?」
などとこっちはこっちで、気楽な話題をして盛り上がっていた。二人はとても気があう仲だった。
 私が愛可理と知り合ったのは、今の会社に入る為の入社試験面接を受けている時だ。たまたま席が隣で声をかけあったのが最初だった。そこで二人には、共通点が多くあった事を知ったのである。
 例えば二人とも地方から短大を受けて上京し、今は一人暮らしで東京の会社に入る為就職活動をしている点。また二人とも一人っ子の一人娘である点。
 だが一番は、二人共が“あかり”という名だったからだ。私は星に凛と書いてあかりと読む。だが幼い頃から “りん”と呼ばれることが多かった。その為私は彼女を“あい”と呼んでいた。
 他にも両親が離婚していて、就職し社会人となって自立できれば、もうどちらの親の世話にもなりたくないと思っている点も全く同じだった。
 二人は入社式で再会し、隣同士の課に配属されて仲良くなった。どこか同じ匂いを感じた二人が親しくなるのに、時間はかからなかった。
 休日には一緒に出かけ、お互いの家を行き来するほどになり、泊まっていくことも多々あった。一人っ子同士なのに、まるで昔からの仲の良い姉妹のような関係だった。
 考え方も行動も、二人はよく似ていた。女の子同士で何人かでつるみ、あの子はどうだ、この子はどうだと陰で悪口を言い、表面上ではそんな素振りも見せず付き合うことを私達は嫌った。
 だからといって、女子達と距離を置くわけでもない。グループの輪には入るが、そうした話題になるとなるべく避けるよう気を付けていただけだ。
 争いごとも好きでは無い。嫌な事があったとしたら何も言わず、ただ再び同じ問題が起こらないよう注意した。近づかない事を心掛け、人となるべく関わらないようにするのが私達だった。
 今回の千絵と裕子の件も、正直言えば腹は立つ。だがそういう人達だから、今後は特に気をつけようと思っただけだ。怒りを抑えきれず、何か言おうとまでは考えてもいなかった。
 その感覚が彼女も同じだった。今回最も被害を受けた彼女なら、愚痴を吐き続けたとしても仕方がない。だがそうしなかった。裕子の人間性を、彼女もある程度予測していたからだろう。
 呆れてはいたが、改めて頭に血を上らせはしなかった。
「あそこまで自分勝手だと、ちょっとすごいね」
 彼女は会社を出る時、そう一言呟いただけでお昼の時間はその話を避けていた。そんな私も、彼女と楽しく食事をし終わり会社に戻る頃には、そんなトラブルがあったことすら忘れていたほどだった。
 しかし私達が会社に戻ると、そこには厳しい現実が待っていた。昼食から戻ってきた愛可理を見るなり、遠藤は席を立った。
「ちょっと岸本さん、待ってたのよ。一緒に会議室に来て頂戴。今川さんも来てくれないかな。あなたの課の人には、しばらく席を外す許可を既に取ってあるから」
 有無を言わさぬ勢いに釣られ、二人は自分の席に座る間もなくそのまま彼女の後について、会議室へ向かうこととなった。
 その僅かな間に私は自分の課の席に視線を移すと、いってらっしゃい、お気の毒にねぇという目で見つめていた課の先輩を見つけた。 
 その為軽く頭を下げ、席を外す事を申し訳ないと思いながら、千絵の所在を確認した。だが彼女はいなかった。愛可理の課にも、裕子の姿は無かった。
 ということは、これから向かう部屋に彼女達がいるのだろうか。遠藤が私達の目の前にいるのなら、別室で千絵達は課長ないし男性社員か誰かに、叱られているのだろうか。
 そう予想しながら彼女に促され、会議室のドアを開けて入った私達は驚いた。
 そこに男性社員は誰もおらず、遠藤率いるおつぼね様軍団と私達の同期である入社二年目の子達、さらにもう一つ上の先輩達、合わせて総勢十数名が、腕を組んで千絵達を睨み据えていたからだ。
 対して千絵達も負けてはいない。そこにいたのは千絵と裕子だけでは無かった。彼女達の同期、つまり入社一年目の大卒の子達が十名ほど集まり、お局様達に対抗する姿勢で立っていたのだ。
「あなたが岸本さん? 隣の子が今川さんね」
 顔だけは知っている、入社二十年は経っているだろうベテラン女性事務職の大橋おおはしという人が、会議室に入ってきた私達の顔をちらりと見た。背はそれほど高く無いが、年齢も四十近いだけあって貫禄充分の姉御だ。
「さあ、まずは謝って貰いましょうか、樋口さん。あなたのやったことは職務上、大変無責任で先輩である岸本さんに迷惑をかけた。判るわね? それとあなたがいない分を、隣の課なのに手伝ってくれた今川さんにも、ちゃんと頭を下げてお礼を言いなさい」
 え? そんな、と身を引いた私達に、すっと集団から一歩前に出た裕子は、意外にも素直に頭を下げた。
「岸本先輩、仕事を任せきりにして申し訳ございませんでした。今川先輩もお手伝いして頂き、有難うございました。ご迷惑をおかけして済みませんでした」
 彼女は想像していたよりも、ずっと落ち着いた声だった。反省している気持ちは、全く伝わって来ない。だが自分の非を認めた点は、それなりに感じ取れる謝罪の言葉だった。
 そう言われてしまえば、こちらから何も付け加える事は無い。諸先輩方が沢山いる中で、何かこれ以上裕子を叱るのは愛可理も必要ないと判断したのだろう。黙って頷いていた。
 私の立場では、一言お礼と謝罪があれば十分だ。手伝いをしたのも、あくまで私の自己判断だ。裕子が今後そのようなミスをしなければ、元々別の課の子だから何も言うことなど無い。だから私もその横で同じく静かに頷いた。
 だがそれだけではいけなかったようだ。
「なによ、それだけ? 腹が立たないの、あんた達。この子達が何って言ったのか覚えてる? 先輩の私達が短卒だと馬鹿にしたのよ! だからこんなに皆が、集まってきているんじゃない! これで済む訳ないでしょ!」
 大橋の近くに立っていたお局の一人が、こちらに向って怒鳴った。あまり見たことの無い人で、愛可理も私も思わぬ所からの攻撃により、たじろいでしまった。
 そこで遠藤が間に入った。興奮しているお局様に対し、顔を引き吊らせながら冷静に説明をしていた。
「いえ、樋口さんは何も言っていないんですよ。確かにこの子は自分で二回もミスをして、資料を揃える仕事に余計な時間をかけました。にもかかわらず私がいないことを利用し、フォローに入ってくれた岸本さんに押し付け食事に出かけた。その点については、先程から彼女は悪いと思い、反省して謝罪をしているのですから」
 だがお局の怒りは収まらない。
「そんな事は、さっきから何度も聞いて判ってるわよ! 資料を揃える仕事は“四大卒のあなたしかできない仕事ではないでしょう。短卒の人だって、誰だってできる仕事じゃないの”と言ったのは、この西木って子でしょ! でもね。この子も口にしなかっただけで同じように思っていたから、自分は遊びの相談をしたくて岸本さんに仕事を押しつけたんじゃない! 短大卒で年下の岸本さんを馬鹿にしていたのよ! 私が怒っているのはそこなの! 岸本さん、あんな仕事上の謝罪をさせただけじゃ済まないわ! これは私達全員に対しての侮辱なの! もっと叱りなさい! あなたは馬鹿にされたのよ!」
 ここで黙って立っていた千絵が、すっと前に出て発言した。
「これも先程から何度もご説明しましたけれど、樋口さんがそんな言葉を一言でも発したのですか? 彼女は言っていませんよね。四大卒云々うんぬんの話は私が言ったことで、樋口さんは私達の昼食の誘いを断れずに席を外しただけです。それで自分のミスにより、遅くなった仕事を岸本さんに手伝って頂きました。その事は反省していると、何度も言っていますよね。だから今彼女はその件について、ちゃんと謝ったじゃないですか。それとも謝罪の仕方が悪いとでも言うのですか? 土下座でもしないといけないのですか?」
 敬語を使いながらも、背が高く目がきりっとした迫力のある顔で千絵が見下ろすようにそう告げると、お局様は一瞬その勢いに押されそうになっていた。
 だが大卒だからと言って、入社一年目の新人に言われっぱなしのお局様では無い。年も上で社会の荒波を乗り越えここまで働いてきた強者つわものは、そこから一気に畳み返した。
「あんたが何偉そうなこと言ってんの! そうよ! 第一あんたが、四大卒がどうの、短卒がどうのって言い出したからこんな騒ぎになってるんでしょ。あんた、入ってきたばかりの新人のくせに仕事の何が判ってるの。四大卒の何が偉いのよ、言ってみなさい!」
 千絵も負けてはいない。お局様の目を上から見下みくだすような態度で反論した。
「少なくとも短大卒の方々より、しっかりと勉強をして大学に入り、四年間という時間をかけより深く学んでいます。それは会社も認めているんじゃないんですか。大卒の私達と短大卒の方とは、基本給も違いますよね。これってそういう事ではありませんか」
 確かに私達の会社で事務員は短卒が多いけれど、四大卒の先輩も中にはいる。その人達は同じ仕事をしているというのに、短大卒よりも基本給が高く設定されていた。だがその逆もある。高卒の先輩方は短卒の人よりも基本給が低かった。
 千絵達の年代になると事務職は全て四大卒になったが、やはり私達より高い基本給で入社している。その為一年目と二年目における逆転現象が、年齢だけでなく給与においても起きているのが現状だ。
「だから何? 一年目のあなた達が二年目の先輩よりも年上で給与が高いから、四大卒じゃなくてもできるような仕事は、短大卒の先輩にやらせておけばいいって事なの? あなたの言葉は、そう言っている事と同じなのよ! あなたは短卒の私達先輩に、喧嘩を売っているのよ!」
 興奮するお局に対し、千絵はあくまで冷静に反論した。
「喧嘩を売っている訳ではありません。ただあの時、私が樋口さんに聞いたところ、残された仕事は書類を二十部並べ直し、ホッチキスで止める作業でした。それは四大卒の彼女じゃなきゃできない仕事ではなく、誰でもできる仕事なのよね、と確認をしただけです。それにあの時間は樋口さんも私達も、お昼の時間でした。昼食を取る為の休憩は、労基法に基づいて決められた労働時間では無い休み時間です。誰もが持つ当然の権利です。その当然の権利を行使したことは、間違いじゃありませんよね?」
「何が権利よ! 新人の分際で何を権利、権利って自分勝手な主張しているのよ!」
「権利を主張するのに、新人もベテランも関係ないと思います。それなら先輩は、労基法に違反してまでもお昼の休み時間を削って仕事をしろ。そうおっしゃるのですか。それならそれで私達も上司にその旨を報告し、法に違反する業務命令であることを抗議します」
 私と愛可理はうんざりしていた。どんどん話の論点がずれていく。結局は互いが気に入らないので、今回の機会を利用し抗争しているようなものだ。
 第一ここで言い合いしている人達とその周りを取り囲む人達は、業務時間中なのに何故集まってきているのか不明だ。
 この場の話し合いではせいぜい、当事者の千絵と裕子、愛可理と私や仕事を依頼した遠藤、さらに事務職のトップとして指導教育する責任者の大橋、の六名がいれば事足りるだろう。
 だからいま千絵と口論しているお局様やそれを取り巻くお局様軍団と、千絵の周りにいる新人達合わせて十名ほどの面子は、仕事をさぼる理由をつけてここにいるのではないかと思ったほどだ。
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