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第2章 波乱のギルド検定試験
cys:30 それぞれの決意と思惑
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エミリオの髪にそっと手を置いたまま、愛を宿した瞳で言葉を零したレイ。
その時脳裏に再び淡い記憶が蘇る。
『真の美しさ。それを教えてくれるヤツがレイ、お前の運命の相手だ』
───アルカナート。私は……
レイは瞳をそっと閉じたまま、自分の愛するアルカナートを心の中で見つめた。
すると、アルカナートはレイに向かってニヤリと彼らしく微笑んだ。
───アルカナート……!
その微笑みを受けたレイは、スッと目を開き立ち上がり、ノーティスに凛とした瞳を向ける。
「ノーティス、合格よ。試験も、私の男としてもね♪」
「えっ?!」
ビックリして、目を大きく見開いたノーティス。
「な、何を言ってんだよレイ」
「あらノーティス、私じゃ不満なの?」
「い、いや、そーじゃないけど……」
ノーティスが顔を赤くして口ごもると、隣でルミが顔を火照らせ声を上げる。
「レ、レイ様っ! 突然何を仰ってるんですか!」
「あら? アナタもしかして、ノーティスと付き合ってるのかしら?」
「ち、ち、違いますっ! 私はノーティス様の執事です」
ルミが慌ててレイに向かい両手を振ると、レイは上半身を乗り出してルミにスッと顔を近づけた。
「ふーん、じゃあノーティスがいいなら、別に問題は無いわよね?」
「そ、それはそーですけど……」
「フフッ♪ アナタ可愛いわね」
レイはルミに妖しげに微笑むと、そのままノーティスの方へ顔を向けた。
「ノーティス。アナタも可愛いわ♪まるでさっきまでとは別人みたい」
「な、何を言ってんだよレイ」
「あーぁ、照れちゃって♪ クリスタルの輝きも技もあの人譲りだけど、そーゆー所は全然違うわね」
「えっ、どういう事だ」
ノーティスがそれに一瞬驚くと、レイは微笑みながら軽く上目遣いで見つめた。
「あの人……アルカナートとはね」
「レイ!なぜそれを?!」
するとレイは、軽く溜息をついて微笑んだ。
「分かるに決まってるでしょ♪ だって私、アルカナートの弟子なんだから」
「えっ、あっ、もしかして……」
ノーティスはロウから聞かせてもらった、アルカナートとの修行時代の話を思い出した。
「レイ、キミか! 師匠の行く所行く所、ずっと着いていってた女の子って」
そーゆー事かという顔をして驚いたノーティスに、レイは胸の前で腕を組んで軽く口を尖らす。
「フンッ、なによ。ロウからそう聞いたのかもしれないけど、そんな事ないから」
「そーなのか? ロウからは、キミは師匠の事を大好きで、ちょっといなくなると、アルカナートどこー? って、騒いでたって聞いたんだけど……」
ノーティスが軽く疑った感じでそう言うと、レイは恥ずかしさで顔をカアッっと紅潮させ、ノーティスにグイッと上半身を乗り出した。
「うるさいわねっ! 昔の事だし、第一……それの何がいけないのよっ!」
「いや、いけなかないけど、ロウから聞いてた話からだと、レイの事はイメージ的に思い浮かばなくてさ……」
ちょっと焦った顔でレイに両手を向け体を引くノーティスに、レイはよりキッとした顔で詰め寄る。
「ねぇ、勝手にイメージ決めないでくれる!」
そこまで言われ、ちょっとイラッとしてレイに軽く身を乗り出したノーティス。
「いやいや、そーゆーイメージを作ってるのはレイだろ」
「なによ」
「なんだよ」
お互い上半身を前のめりにさせて、睨み合う2人。
その光景を、立ったまま見ているルミと寝たまま見てるエミリオは、互いに視線を向け、コレ何? という顔を浮かべた。
「あのーーエミリオさん……これ、一体どういう状況でしょうか?」
「ハァッ……そんなの、ボクが尋きたいよ」
脱力し軽く瞳を閉じたエミリオの側で、ルミもレイとノーティスのやり取りを、ホケーっと見つめている。
「あーーですよね。さっきまでのあの壮絶な戦いは何だったんでしょう」
「ホント、2人共今は何だか子供みたいだ。ハハッ……痛っ」
傷の痛みに不意に顔をしかめたエミリオを、ルミは心配して上から顔を軽く覗き込んだ。
「エミリオさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫、ありがとう」
エミリオは心配してくれたルミにお礼を言うと、痛めた身体をググッと起こし立ち上がった。
「エミリオさん、無理して立たなくても……」
心配そうに見つめるルミの側で、エミリオはノーティスとレイの2人を見つめて、息を大きく吸った。
「ノーティス! お姉様!」
エミリオの叫びを受けたノーティスとレイは、エミリオの方へサッと振り返る。
「エミリオ……」
「エミリオっ!」
レイはノーティスを残したまま、エミリオにタタッと駆け寄り両肩をガシッと手で掴んだ。
「ダメじゃない、エミリオ。ムリに立ち上がったりしたら!」
「いいんだよ姉さん、帰ろう」
レイに、傷だらけの顔を向け微笑んだエミリオ。
その顔はどこかスッキリしていて、レイはエミリオが一つ成長した事を感じた。
「エミリオ……」
「悔しいけど、アイツのお陰で分かったよ。今までボクがどれだけ酷い……いや、醜い事をしていたか」
そう零したエミリオは、レイに支えられながらノーティスにサッと振り向いた。
「ノーティス!」
「なんだ、エミリオ」
「……姉さんは、姉さんは絶対渡さないからな!」
「はっ?」
思ってたのとは全く違う答えをぶつけてきたエミリオに、虚をつかれた顔をしたノーティス。
「あのなエミリオ、俺は別にレイと……」
「黙れっ! ノーティス、俺は絶対お前より強くなってお前を倒す! その為にもっと修行して、姉さんとクロスフォード家の誇りを守るんだ!」
そう言い放ったエミリオの眼光は鋭かったが、その瞳に邪な色は一切ない。
そんなエミリオを、少し涙を滲ませ見つめているレイ。
「エミリオ、あなた……!」
レイに肩を支えられているエミリオに、ノーティスは不敵に微笑む。
「……エミリオ。今度はちゃんと決闘を受けるよ。例え、ルミと紅茶の予定が入っててもな」
「絶対だぞ!」
「ああ、今のエミリオとならいい勝負が出来そうだ」
ノーティスはエミリオにそう答えると、レイに向かい微笑んだ。
「レイ、いい弟を持ってるじゃないか」
「当たり前でしょ。私の弟なんだから♪」
自慢気に微笑んだレイに、ノーティスは嬉しそうに一瞬瞳を閉じた。
「フッ、そうだな」
そして、軽く切なそうな眼差しをレイに向ける。
「それと、2つも合格を認めてくれてありがとう。ただ、受け取るのは試験の合格だけにしとくよ。もう1つは、俺には荷が重すぎる」
ノーティスはそう言って軽く苦笑した。
もちろん、ノーティスはレイの事を女としても魅力的だと感じてはいる。
けど、駆け出しの自分はそんな場合じゃないと思うし、何より、今もし付き合ってしまえば、エミリオの気持ちを無視してしまう事にもなるからだ。
「ふーん……そう♪」
その気持ちを察したレイは凛とした笑みを浮かべると、ノーティスの頬にチュッと軽くキスをした。
「なっ!?」
「フフッ♪ これで仮予約は完了ね」
そう言われて顔を真っ赤にして照れるノーティスに、エミリオとルミは同時に叫ぶ。
「ノーティス!」「ノーティス様っ!」
キスをしたのはレイなのに、レイは全く責められずノーティスだけが責められる事に……
「なんでだよ、俺は何も……」
「ノーティス! なんで勝手に姉さんにキスされてんだよ!」
「そーですよノーティス樣、はしたないです!」
「いや、ちょっと待てお前ら。どー考えたら、そうなる……」
ノーティスが弁明しようとすると、ルミは頬を赤く染めてノーティスの手をギュッと握り、出口に向かい強く引っ張った。
「もう行きますよ、ノーティス樣。ちゃんと試験は合格されたのですから、いつまでもここにいてはレイ様達のお邪魔になります」
「いや、ちょ、ちょ、ちょっと待てってルミ」
「待ちません。行きますよ」
ルミはノーティスの手を強く引きながら、ハッとしたように気付くとレイの方へ振り向いた。
「レイ樣、合格通知ありがとうございました。後、エミリオさんもお体お大事にして下さい」
嫉妬に怒りながらも、サッとそう告げ2人に向かい綺麗にお辞儀をしたのは、さすが執事と言うべきとこだ。
ただ、ルミはその華奢な身体のどこにそんな力があるんだと思うぐらい、ノーティスをズルズルと強く引っ張りながら出口に向かっている。
「ルミ、俺はまだ2人にちゃんと挨拶してない」
「いいんです、ノーティス樣。あれだけ色々あったのですから、もう充分です」
「いや、色々あったからこそだな……」
「私が代わりにご挨拶しましたよね」
「あーだけどーー」
ルミに引きずられていくノーティスを、ちょっとポカンとしながら見つめていたレイとエミリオは、2人が試験場から出ていくと、顔を見合わせ互いに微笑んだ。
「フフッ」
「ハハッ」
「エミリオ、よかったわね♪」
「うん……あっ、でも……姉さんはいいの?」
「何が?」
「だって……アイツの事……ノーティスの事好きなんだろ?!」
哀しそうな顔を向けるエミリオに、レイは余裕の顔で胸を張る。
「別に、そんな事無いわよ。あんなのただの冗談」
「ウソだ! だって姉さん……」
哀しい顔で見つめるエミリオの唇に、レイはそっと人差し指を縦に添えて微笑んだ。
「それにエミリオ、アナタがノーティスを倒すんでしょ? それとも、アレは嘘だったの?」
するとエミリオはバッと後に退き、レイの指を唇から離した。
「姉さん、そんなの本当に決まってるじゃないか!」
「フフッ♪ でしょ。私はアナタを応援してるし愛してるわ」
「ううっ、姉さんっ!」
そう声を上げ、ギュッととレイに抱きつくエミリオ。
その頭をレイは優しく撫でながら、甘くせつない眼差しを湛える。
───ノーティス、礼を言うわ。けど私、アナタの事諦めないから。アナタはあの人が教えてくれた、私の運命の人なんだから……
◆◆◆
その頃、ルミに引きずられているノーティスの事を、少し離れた場所から好奇心に満ち溢れた瞳でワクワクしながら眺めている女がいた。
あの王宮魔道士のアンリだ。
「むむむむむーーっ、底しれぬヤツだと思ってはいたが、まさかアルカナートと同じ、勇者の光を宿すヤツだとはのーーーこれは、ただ見ているだけなんて勿体無さすぎだニャ♪」
アンリは嬉しそうにそう呟やき、ニヤッと笑った。
その時脳裏に再び淡い記憶が蘇る。
『真の美しさ。それを教えてくれるヤツがレイ、お前の運命の相手だ』
───アルカナート。私は……
レイは瞳をそっと閉じたまま、自分の愛するアルカナートを心の中で見つめた。
すると、アルカナートはレイに向かってニヤリと彼らしく微笑んだ。
───アルカナート……!
その微笑みを受けたレイは、スッと目を開き立ち上がり、ノーティスに凛とした瞳を向ける。
「ノーティス、合格よ。試験も、私の男としてもね♪」
「えっ?!」
ビックリして、目を大きく見開いたノーティス。
「な、何を言ってんだよレイ」
「あらノーティス、私じゃ不満なの?」
「い、いや、そーじゃないけど……」
ノーティスが顔を赤くして口ごもると、隣でルミが顔を火照らせ声を上げる。
「レ、レイ様っ! 突然何を仰ってるんですか!」
「あら? アナタもしかして、ノーティスと付き合ってるのかしら?」
「ち、ち、違いますっ! 私はノーティス様の執事です」
ルミが慌ててレイに向かい両手を振ると、レイは上半身を乗り出してルミにスッと顔を近づけた。
「ふーん、じゃあノーティスがいいなら、別に問題は無いわよね?」
「そ、それはそーですけど……」
「フフッ♪ アナタ可愛いわね」
レイはルミに妖しげに微笑むと、そのままノーティスの方へ顔を向けた。
「ノーティス。アナタも可愛いわ♪まるでさっきまでとは別人みたい」
「な、何を言ってんだよレイ」
「あーぁ、照れちゃって♪ クリスタルの輝きも技もあの人譲りだけど、そーゆー所は全然違うわね」
「えっ、どういう事だ」
ノーティスがそれに一瞬驚くと、レイは微笑みながら軽く上目遣いで見つめた。
「あの人……アルカナートとはね」
「レイ!なぜそれを?!」
するとレイは、軽く溜息をついて微笑んだ。
「分かるに決まってるでしょ♪ だって私、アルカナートの弟子なんだから」
「えっ、あっ、もしかして……」
ノーティスはロウから聞かせてもらった、アルカナートとの修行時代の話を思い出した。
「レイ、キミか! 師匠の行く所行く所、ずっと着いていってた女の子って」
そーゆー事かという顔をして驚いたノーティスに、レイは胸の前で腕を組んで軽く口を尖らす。
「フンッ、なによ。ロウからそう聞いたのかもしれないけど、そんな事ないから」
「そーなのか? ロウからは、キミは師匠の事を大好きで、ちょっといなくなると、アルカナートどこー? って、騒いでたって聞いたんだけど……」
ノーティスが軽く疑った感じでそう言うと、レイは恥ずかしさで顔をカアッっと紅潮させ、ノーティスにグイッと上半身を乗り出した。
「うるさいわねっ! 昔の事だし、第一……それの何がいけないのよっ!」
「いや、いけなかないけど、ロウから聞いてた話からだと、レイの事はイメージ的に思い浮かばなくてさ……」
ちょっと焦った顔でレイに両手を向け体を引くノーティスに、レイはよりキッとした顔で詰め寄る。
「ねぇ、勝手にイメージ決めないでくれる!」
そこまで言われ、ちょっとイラッとしてレイに軽く身を乗り出したノーティス。
「いやいや、そーゆーイメージを作ってるのはレイだろ」
「なによ」
「なんだよ」
お互い上半身を前のめりにさせて、睨み合う2人。
その光景を、立ったまま見ているルミと寝たまま見てるエミリオは、互いに視線を向け、コレ何? という顔を浮かべた。
「あのーーエミリオさん……これ、一体どういう状況でしょうか?」
「ハァッ……そんなの、ボクが尋きたいよ」
脱力し軽く瞳を閉じたエミリオの側で、ルミもレイとノーティスのやり取りを、ホケーっと見つめている。
「あーーですよね。さっきまでのあの壮絶な戦いは何だったんでしょう」
「ホント、2人共今は何だか子供みたいだ。ハハッ……痛っ」
傷の痛みに不意に顔をしかめたエミリオを、ルミは心配して上から顔を軽く覗き込んだ。
「エミリオさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫、ありがとう」
エミリオは心配してくれたルミにお礼を言うと、痛めた身体をググッと起こし立ち上がった。
「エミリオさん、無理して立たなくても……」
心配そうに見つめるルミの側で、エミリオはノーティスとレイの2人を見つめて、息を大きく吸った。
「ノーティス! お姉様!」
エミリオの叫びを受けたノーティスとレイは、エミリオの方へサッと振り返る。
「エミリオ……」
「エミリオっ!」
レイはノーティスを残したまま、エミリオにタタッと駆け寄り両肩をガシッと手で掴んだ。
「ダメじゃない、エミリオ。ムリに立ち上がったりしたら!」
「いいんだよ姉さん、帰ろう」
レイに、傷だらけの顔を向け微笑んだエミリオ。
その顔はどこかスッキリしていて、レイはエミリオが一つ成長した事を感じた。
「エミリオ……」
「悔しいけど、アイツのお陰で分かったよ。今までボクがどれだけ酷い……いや、醜い事をしていたか」
そう零したエミリオは、レイに支えられながらノーティスにサッと振り向いた。
「ノーティス!」
「なんだ、エミリオ」
「……姉さんは、姉さんは絶対渡さないからな!」
「はっ?」
思ってたのとは全く違う答えをぶつけてきたエミリオに、虚をつかれた顔をしたノーティス。
「あのなエミリオ、俺は別にレイと……」
「黙れっ! ノーティス、俺は絶対お前より強くなってお前を倒す! その為にもっと修行して、姉さんとクロスフォード家の誇りを守るんだ!」
そう言い放ったエミリオの眼光は鋭かったが、その瞳に邪な色は一切ない。
そんなエミリオを、少し涙を滲ませ見つめているレイ。
「エミリオ、あなた……!」
レイに肩を支えられているエミリオに、ノーティスは不敵に微笑む。
「……エミリオ。今度はちゃんと決闘を受けるよ。例え、ルミと紅茶の予定が入っててもな」
「絶対だぞ!」
「ああ、今のエミリオとならいい勝負が出来そうだ」
ノーティスはエミリオにそう答えると、レイに向かい微笑んだ。
「レイ、いい弟を持ってるじゃないか」
「当たり前でしょ。私の弟なんだから♪」
自慢気に微笑んだレイに、ノーティスは嬉しそうに一瞬瞳を閉じた。
「フッ、そうだな」
そして、軽く切なそうな眼差しをレイに向ける。
「それと、2つも合格を認めてくれてありがとう。ただ、受け取るのは試験の合格だけにしとくよ。もう1つは、俺には荷が重すぎる」
ノーティスはそう言って軽く苦笑した。
もちろん、ノーティスはレイの事を女としても魅力的だと感じてはいる。
けど、駆け出しの自分はそんな場合じゃないと思うし、何より、今もし付き合ってしまえば、エミリオの気持ちを無視してしまう事にもなるからだ。
「ふーん……そう♪」
その気持ちを察したレイは凛とした笑みを浮かべると、ノーティスの頬にチュッと軽くキスをした。
「なっ!?」
「フフッ♪ これで仮予約は完了ね」
そう言われて顔を真っ赤にして照れるノーティスに、エミリオとルミは同時に叫ぶ。
「ノーティス!」「ノーティス様っ!」
キスをしたのはレイなのに、レイは全く責められずノーティスだけが責められる事に……
「なんでだよ、俺は何も……」
「ノーティス! なんで勝手に姉さんにキスされてんだよ!」
「そーですよノーティス樣、はしたないです!」
「いや、ちょっと待てお前ら。どー考えたら、そうなる……」
ノーティスが弁明しようとすると、ルミは頬を赤く染めてノーティスの手をギュッと握り、出口に向かい強く引っ張った。
「もう行きますよ、ノーティス樣。ちゃんと試験は合格されたのですから、いつまでもここにいてはレイ様達のお邪魔になります」
「いや、ちょ、ちょ、ちょっと待てってルミ」
「待ちません。行きますよ」
ルミはノーティスの手を強く引きながら、ハッとしたように気付くとレイの方へ振り向いた。
「レイ樣、合格通知ありがとうございました。後、エミリオさんもお体お大事にして下さい」
嫉妬に怒りながらも、サッとそう告げ2人に向かい綺麗にお辞儀をしたのは、さすが執事と言うべきとこだ。
ただ、ルミはその華奢な身体のどこにそんな力があるんだと思うぐらい、ノーティスをズルズルと強く引っ張りながら出口に向かっている。
「ルミ、俺はまだ2人にちゃんと挨拶してない」
「いいんです、ノーティス樣。あれだけ色々あったのですから、もう充分です」
「いや、色々あったからこそだな……」
「私が代わりにご挨拶しましたよね」
「あーだけどーー」
ルミに引きずられていくノーティスを、ちょっとポカンとしながら見つめていたレイとエミリオは、2人が試験場から出ていくと、顔を見合わせ互いに微笑んだ。
「フフッ」
「ハハッ」
「エミリオ、よかったわね♪」
「うん……あっ、でも……姉さんはいいの?」
「何が?」
「だって……アイツの事……ノーティスの事好きなんだろ?!」
哀しそうな顔を向けるエミリオに、レイは余裕の顔で胸を張る。
「別に、そんな事無いわよ。あんなのただの冗談」
「ウソだ! だって姉さん……」
哀しい顔で見つめるエミリオの唇に、レイはそっと人差し指を縦に添えて微笑んだ。
「それにエミリオ、アナタがノーティスを倒すんでしょ? それとも、アレは嘘だったの?」
するとエミリオはバッと後に退き、レイの指を唇から離した。
「姉さん、そんなの本当に決まってるじゃないか!」
「フフッ♪ でしょ。私はアナタを応援してるし愛してるわ」
「ううっ、姉さんっ!」
そう声を上げ、ギュッととレイに抱きつくエミリオ。
その頭をレイは優しく撫でながら、甘くせつない眼差しを湛える。
───ノーティス、礼を言うわ。けど私、アナタの事諦めないから。アナタはあの人が教えてくれた、私の運命の人なんだから……
◆◆◆
その頃、ルミに引きずられているノーティスの事を、少し離れた場所から好奇心に満ち溢れた瞳でワクワクしながら眺めている女がいた。
あの王宮魔道士のアンリだ。
「むむむむむーーっ、底しれぬヤツだと思ってはいたが、まさかアルカナートと同じ、勇者の光を宿すヤツだとはのーーーこれは、ただ見ているだけなんて勿体無さすぎだニャ♪」
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