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第6章 魔力クリスタルの深淵

cys:109 ビーチデートと見知らぬ場所

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「ふ~ん、初めて聴いたけど、まあ、いいんじゃないか」
「もうっ、ノーティス様。それ、絶対思ってないですよね」
「い、いや、そんな事は……ないよ」
「ハアッ……」

 ルミは水着姿で残念そうに溜め息を吐くと、ガクッと肩を落とした。
 同じく水着姿のノーティスの隣で。

 なぜ水着姿なのかといえば、今ジークとレイ、メティアとの5人で海に来ているからだ。

 そして、海に来た時に音楽と芸能の都である『第2都市イドラ』の超人気グループ『ミュトス』の連中と一悶着ひともんちゃくを起こした。
 そのメンバー達が、ルミやレイやメティアにちょっかいを出してきたのがその原因。

 けど、ノーティスの活躍により何とか収まり、その時にちょうどひょっこり姿を出してきたアンリとロウの協力もあり、ミュトスの皆からお詫びとして生演奏をしてもらっているのだ。

 レイはミュトスにはさして興味が無いが、元々大ファンであるルミとメティアはビーチでの生演奏に興奮して、瞳をキラキラ輝かせていた。

「あっ、メティアさん。神曲きましたね!」
「うん! 『ラビリンス』切なくて最高だよね♪」

 そんな感じで満面の笑みを浮かべていたのだが、ノーティスに感想を尋ねたのが間違いだったのだ。
 未だ女心れ~点のノーティスに。

「いや、会いたくて震えるけどもう会わないって、どういう事かなって……いや、そんな会いたいなら会えばいいのに」
「……分からないですかね~~ノーティス様」
「う~~~ん……あっ、忙しいのか! そっかそっか。なるほどね」
「ノ、ノーティス様?!」

 あまりにもズレ過ぎた解答に、目を丸くしたルミ。
 これが冗談で言ってるならまだいいんだが、ノーティスは今のを大真面目に言ってるから。

「いや、ルミ。お陰で俺も、ちょっとは女心というのが分かってきたよ」

 ノーティスが自信に満ちた顔でそう言った時、隣からメティアが片手をノーティスの肩にポンと乗せてきた。
 ん? とした顔で振り返ったノーティスをメティアは見つめる。
 もう重症で助からない人に向けるような、ある意味慈愛に満ちた瞳で。

「ノーティス。全然違うよ」
「なっ、そーなのかメティア」
「うん。違う。全然違うよ」
「う~ん……あっ、じゃあアレだ! 会いたいけど体調不良で……」

 ノーティスがそこまで言いかけた時、メティアはいつもと違う、張り付いたようなスマイルでノーティスを見つめたまま、肩に乗せてる手にグググッ……と、力を込めた。

「ノーティス。音楽を聴く時は静かにしよっか」
「あっ、あぁ。そうだなメティア……」

 目をしぱしぱさせながら、そう零したノーティス。
 恋愛脳は壊滅してるが、他はむしろ抜きん出てるし感受性が強いので、メティアがかなり怒ってるのを察したのだ。

───とりあえず黙っておこう……

 ノーティスが心でそう零す中、メティアはそのままルミの事を見つめた。

「ルミさんも、質問はやめて一緒に聴こ♪ ねっ♪」
「あっ、あーーそうだね。人には向き不向きガあるし」
「そうそう♪」

───ん? 今のセリフはどっかで聞いたような……

 ルミとメティアが仲良く聴き、ノーティスが思い悩んでる側で、ジークは男泣きをしている。

 ジークは元々、酒と戦いとレイにしか興味が無い根っからの戦士だ。
 なのでミュトスが来た際は、けっ、なんだあんな奴ら、位にしか思っていなかったが、レイが冗談でミュトス好きだと言った瞬間、必死になって覚えようとした。

 だが、元々小洒落た物には拒否反応を示す性格も相まり、名前もゴッチャになってしまう始末。

 さっきノーティスと話してた時は、特に酷かった。

『ミン……トスに、ラビットか……覚えなきゃな……』
『ジーク、無理だ。やめとこう。ついでに言うと、ラビットじゃなくてラビリンスだ。ウサギじゃない』
『えっ、あっそーか。ウサギじゃなくてラビットだな』
『だから違う。ウサギじゃない』
『ああん? もう訳わかんねーよ!』
『いいんだジーク、もうやめとけって。そういうのは頭に入らないように出来てるんだよ』

 と、まあこんな始末だったが、いざ曲を聴いてみるとジーク的にはメチャメチャよかったらしく、おいおい泣きながら応援している。

「サイコーだぜ! ラビントスーー!!」

 グループ名と曲名がシャッフルしてしまっているが、あれだけ聞き入ってるなら許してもらえるだろう。



 と、まあ、そんな感じでバタバタだったデート(?)も終わり、そろそろ解散の時間を迎えたノーティス達。

「しかし、アンリがまさかプロデューサーの仕事もしてたなんて驚いたよ」
「ニャハハハッ♪ まあ、色々やりたい事が多いからのーー。趣味の一環じゃ」
「フッ、趣味にしてはスケールがデカいな」
「ん~~~そうかニャ? ノーティス、お主こそカッコイイし、モデルとかも出来るんじゃニャいか?」
「モ、モデル?」

 ナイナイという顔をしたノーティスに、アンリはニヤッと笑った。

「もったいないニャ。モデル業界は可愛い子達がいっぱいおるし、勇者兼モデルなんてモテモテだと思うがのぉ」

 アンリが猫口でそう言った瞬間、ルミとメティアがアンリにバッと身を乗り出した。
 2人共思いっきり顔をしかめている。

「ダメです!」「そんなのダメーー!」

 また、それと同時にレイがアンリに微笑んできた。

「あらアンリ、いいの? 貴女だってノーティスの事を好きでしょ」

 するとアンリは、猫口のままクリッとしたエキゾチックな瞳を斜上に泳がせた。
 アンリの気持ちはなかなか読めない。

「ニャ~~~それはどーかのーー」
「アンリ。貴女やっぱり可愛いわね」
「レイには負けるニャ。それにレイ、お主もノーティスがモデルやるのは許さん口かの?」

 そう問われると、レイは妖しく自信に満ちた笑みを浮かべた。

「フフッ♪ 許すも許さないも無いわ。私は私の愛を貫くだけだから」
「そうか。さすがレイだニャ」

 アンリはそう答えながら感じていた。
 レイがノーティスを好きである事を。

───本当にあ奴は、よくモテる男よの。まっ……いいんだけどニャ♪

 アンリが心でそう呟くと、ロウがスッと告げてくる。

「アンリ、そろそろじゃないか」
「おっ、そうじゃの。それじゃ、ボチボチ解散するニャ」
「ちなみにアンリ」
「ん? あっ、それは!」

 瞳を輝かせたアンリ。
 ロウが片手に持っているチケットがその理由だ。

「そう……ネコトーナメントの決勝戦チケットだ」
「ニャンと! あの……ネコによるネコの為の大会のか!」
「そうだ。当たったんだ。抽選で。2枚。さあ、どうする」
「もちろん行くニャーーー♪」

 ロウに飛びついたアンリ。
 まるで猫のようだ。

 そんな光景を軽く微笑みながら見つめていたノーティスは、ルミを呼ぶ。

「ルミーーそろそろ行くぞ」
「あっ、はいノーティス様っ!」

 水着姿でテテッと駆けてきたルミは、いつものクセでその姿のまま車のドアをガチャッと開けた。
 それを見て、キョトンとしたノーティス。

「ルミ、着替えないのか?」
「あっ! すすすすいませんノーティス様っ! 今着替えてきます!」

 顔を真っ赤にして更衣室に走っていったルミを見て、ノーティスはちょっと呆けた感じで思っていた。

───全く。可愛いよなルミ。でも、主人と執事の関係じゃ告白とかしたら引かれるよなーー。でもなーー

 ノーティスはそこまで思った時、ハッ! とした。

───これか! あの歌の意味は! はぁ……全然違かったな。そりゃルミも怒るハズだ。

 奇跡的な気付きをしたノーティスだが、ルミが自分を好きだという事は分からず悶々もんもんとしている。

───でも……まっ、いいか。気にしても仕方ない。

 そう気持を切り替えたノーティスは皆にバイバイし、ルミと一緒に車に乗った。

 今日は色々あったせいもあり、ルミの快適な運転と車の軽い振動が心地よい眠りへとノーティスをいざなう。
 それに加え、ルミが寝てていいなんて優しい言葉をかけてくれたので、ノーティスは助手席に座ったままスヤッと眠りに落ちてしまった。


 たが、問題はそこからだった。
 ノーティスが目を覚ますと隣にルミはいなく、外に出てみると目の前に広がっていたのだ。

 見たこともない光景が……!
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