忌み子王子とワガママ姫

朝比奈

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忌み子王子の婚約

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「ごめんなさい、ごめんなさい」

   何度も何度も頭を下げるのは先月婚約を結んだばかりのご令嬢。

   その顔は真っ青で今にも倒れてしまいそうなほどだった。と言うのも、何か特別な事があったからでは無い。

   ご令嬢が真っ青なのは、俺の顔を近くで見たからだ。この大きな目に透き通った肌、高い鼻に薄い唇。まるで世の“化け物”の代表であるかのような俺は、近くで見るの吐き気を催すほど、この世界では受け入れられないものだった。それと、もう一つ。それは、俺の髪や瞳の色だった。

「···············」

   もうしばらく感情を宿すことのなくなった瞳でご令嬢を見下ろした。

   周りは皆、「可哀想に」と、俺の婚約者になったご令嬢に言う。言われた婚約者はまるで悲劇のヒロインのように、涙ながらに皆に慰めてもらう。

   そして、そこに俺が来れば真っ青になって倒れたり、悲鳴をあげた者もいた。面と向かって俺に「化け物」と言うものもいた。

   もう、慣れた。

   こんなもの、今更、何ともない。
   何とも思わない。

   ただ、また、いつもの様に騎士を呼んで、ご令嬢の世話を任せよう。そして、また、新しく婚約者を探せばいい。

   ───いや。もう·····いいか。

   もう、疲れた。


   俺は片手を上げて近衛を呼ぶと、いつも通りに命令した。そして、数人の護衛とともに部屋へと戻る。




   部屋に戻った俺は一人、ため息をついた。

「また、父上に怒られるのだろうか·····」


──それにしても
   ごめんなさい、ごめんなさい·····か。

   一体、彼女たちは俺に何が悪いと思ってそう言っているのか·····。

   いや。余計なことを考えるのはやめよう。



─────────────────────


   その話が出たのは、父上から呼び出された時。

「シリウス、来たか」

「はい」

   突然の呼び出しに、今日の一件の事だろうと見当を付けていた俺は、今度は何を言われるのかと、内心不安に思いながらも、父上の言葉を待った。

「また、婚約が流れるようだな」

「·····申し訳ありません」

「いや、まあ、良かったかもしれん」

「?」

   ああ、やっぱりその話か。そう思ったのもつかの間、父上は一枚の手紙を広げ、俺の方にひっくり返した。

「お前に婚約の話が来ている。相手は隣国リレットの末っ子姫だ」

「····················、っ!!」

   俺は暫く、自分が何を言われたのかが分からなかった。

   俺に、婚約の話が·····?しかも相手は、お姫様だって·····?  それに、リレット王国の末っ子姫と言えば“ワガママ”って有名な人ではないか。そんな人が、何故·····。

「良かったな。ああ、もう返事は出しておいた」

   父上はそう言ってニンマリと笑った。

「今度は逃すでないぞ」


(·····いや、いやいやいや。無理だろ·····普通に考えて)

   しかし、俺の心中なんてどうでもいいのか、父上は言いたいことだけを言うと、「もうよい、下がれ」そう言って俺を追い出した。



   バタン、と音を立てて閉められた扉。

   突然の婚約に俺は呆然としていた。
   一体、俺はこれから、どうすれば良いのか。

   とはいえまだ時間はあるはず。
   それまでに、何か対策を考えよう。



   まさか一週間後、婚約式があるとも知らない俺は、この時、そんな呑気なことを考えていた。


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