忌み子王子とワガママ姫

朝比奈

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《閑話》忌み子王子の読書

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「アレン·····俺は今、眠っていたのか?」

「·····はぁ?」

   シリウスの素朴な疑問に対し、補佐のアレンはつい素で言い返してしまった。

   アナベル姫を部屋に送り戻ってきてからというもの、シリウスは終始ぼーっとしていた。それもそう、まるで今日の出来事が、自分の都合の良い妄想だったのでは·····と、つい、そんなことを考えてしまったからだ。

「殿下、失礼ですが、ついに·····」

(頭までおかしくなってしまわれたのですか?)

   アレンはその先を飲み込んだ。
   ダメだ。これは絶対に言ってはいけない。

   言いかけた時点でもうダメだと思ったが、それに対し、シリウスはまだ何処かうわの空だった。

(殿下は大丈夫なのだろうか·····)

   アレンはシリウスの変わりように戸惑いながらも、アナベル姫の事を聞いても良いのか、頭を悩ませた。

(とりあえず、先に殿下に頼まれた書物を探しに行こう)

──────────────────


『婚約者である私を』と、アナベル姫は確かに言った。それに、シリウスにとしては気を使ったつもりだったが、アナベル姫は自分を残して去ってしまったシリウスに可愛らしく怒っていた。

「ふふっ、ふふふふ」

思わず笑ってしまった。
にやけがとまらない。楽しい。

誰かの事を思って、ここまで心が踊った事などこれまでにあっただろうか。それも、今日、初めてあった姫に対して。

いや。ない。絶対に無かった。

シリウスは上機嫌のまま鏡の間前に立ち、再び先程の仮面をつけた。

「おはよう、アナベル姫。昨夜はよく眠れましたか? ゴホン、眠れたか?」

   シリウスは、誰もいない空間にアナベル姫を想像する。この後はなんて話しかけようか、会話が止まってしまわないように、いくつか話題を探しておかなければ。


───────────────────



「殿下、頼まれていた書物をお持ち致しました。こちらに置いてもよろしいでしょうか?」

   いつの間にか戻ってきたらしいアレンが、一冊の本をソファーとセットになっているシリウスがいる所とは少し離れたテーブルに置きながらたずねる。

「いや。すぐに読みたい、悪いがここまで持ってきてくれ」

「はい。かしこまりました」

「ああ、ありがとう」

   そう言ってシリウスは万年筆を置き、一冊の本を受け取った。

『これさえ読めば間違いなし!恋愛マスターの100の道のり!』

   ふむ。先程のものと合わせて読んでみよう。

   シリウスはアナベル姫の笑顔を思い出しながら微笑んだ。


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