忌み子王子とワガママ姫

朝比奈

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ワガママ姫の一目惚れ

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   シリウス様を探すこと数分。意外と直ぐに見つかったシリウス様を確保した私は、丁度いい木の木陰を見つけ、そこにシリウス様を座らせた。

「まさかシリウス様が、エスコートを途中でほおり投げるお方だったとは、思っていませんでしたわ」

   ツーンとそっぽを向き、いかにも、私今怒ってます!という態度で私はシリウス様に話しかけた。

「それはっ·····、す、すまない、アナベル姫」

「本当に、そう思ってますの?」

「ああ。反省している」

   そう言っているシリウス様の声は沈んでいて、本当に落ち込んでいるみたいだった。

「··········なら何故、他の女性が来た途端に私を置いていかれたのですか?  彼女はシリウス様のなんなのですか?」

  私は先程から気になっていた事を聞いてみた。

「え、あ、いや·····」

   口ごもるシリウス様に私はムッとして近づいた。

「言えないのでしたら、これ以上は聞きませんわ。でも、他のご令嬢が来たからと言って、婚約者であるわたくしを置いて行っていい理由にはなりません。以後、このような事はなさらないでくださいませ」

「··········ああ、分かった」

   私の言葉にシリウス様は少し固まった後に、しっかりと頷いてくれた。

「分かってくださったのでしたら良かったですわ」

   そろそろ許してあげよう、そう思い私はにっこりと笑った。

   反省してもらった所で、私はシリウス様に手を差し伸べた。シリウス様は一瞬、きょとんとした後に、ハッとして、おずおずと私の手を握った。

「次は何処を案内してくださるの?」

「!  は、離れに美しい塔があるんだ、その、アナベル姫もきっと気に入ると思う」

「まあ、楽しみですわ」

   意外と力強いシリウス様の手の温もりを感じながら、私はエスコートに身を委ねた。


□    □    □    □    □


───そして、その日の夜。


   たっぷり時間をかけてお風呂に入った私は、気持ちの良い倦怠感を感じながら、ベットに腰掛けていた。

「楽しかったなぁ·····」

   ふと、昼間の事を思い出し本音が漏れた。

   まだシリウス様と出会ってからたったの一日だが、今日だけでも、シリウス様の誠実さや優しさを知ることが出来た。

   結局、今日は最後まで仮面を外してはくれなかったけど、いつかは素顔を見せてくれるかな·····。

「···············」

   今日、一日過ごしてみて、少しだけ考えたことがある。

   それは、もし、仮面の下がこの世界のイケメン·····私にとってはブサイクでも、シリウス様となら、上手くやっていけるんじゃないかって事。

   まあ、程度にもよるかもしれないけど。

   婚約破棄も簡単じゃないもの·····。


「それにしても、結婚かぁ····」

   ··········もし、噂がデマで、顔も性格も最悪なら、お兄様に助けて貰おうかなって考えていたんだけど。

「シリウス様、普通に良い人だったな·····。体型だって物語の騎士様みたいに整ってたし·····、顔は分からないけど、今のところ不満は無いんだよね·····、それに優しかったし(ボソッ)。でも·····」


   それでも、改めて結婚について考えてしまう。

   私は前世でも、結婚経験なんてなかった。
   それに記憶があるからこそ、結婚についてのイメージも多分この世界の人達とは違う。

    シリウス様は確かに良い人だった。けど、猫を被っている可能性もある。結婚した瞬間、態度が変わるかも知れない·····。


   でも、まだ一日目。

「ふぅ·····」

   これから見極めれば良いかな。

   もう眠いし、また明日考えよ·····。

   だんだん瞼が重くなり、ウトウトし始めていた私は、バタリとベットに寝転がり、まくらを抱きしめて、そのまま眠った。


□     □     □     □     □


   そして、次の日。

   疲れていたのか、いつもより遅い時間に起きた私は、一人で朝食を取った。

   そして、その後も特にする事がなく暇だった私は、シリウス様に会いに、普段仕事をしていると聞いた執務室に向かっていた。

   すると。どこからか風を切る音が聞こえてきた。

   なんの音だろう·····?
   そう思い、窓の外を見た。

「···············え」

   一瞬、見間違えかと思った。
   でも、違う。見間違えじゃない!!

   私はぎょっとした。

「あ、あれは·····」

   窓の外には黒髪黒目の青年がいた。

   ここからでは顔はよく見えないが、遠目から見ても、だいぶ整って見える。

「·····っ、」

   まさかっ·····!

   善は急げ。

   なんて言葉が私の頭に浮かんだ。

   気がつけば私は、青年の姿をはっきり見ようと、早足で歩いていた。


  ───そして·····

「··········あ、~~~~!!!!」

   柱の影から、黒髪の青年を覗いた。

   いたっ!ほんとにちゃんと居た!!

   私が一目惚れした、シリウス様の肖像画にそっくりな美青年が、汗をかきながら、剣の素振りをしていた。 

   と、その時──。


「·····!!!!」

   葉っぱを巻き込んだ風が黒髪が揺らし、長めの前髪がふわりと上がった·····。───そう思った時、青年と目が合った。

   私は咄嗟に柱に隠れて、息を潜めた。

   わ、私が見てたってバレたかな·····

   顔の前で両手を合わせ、俯いた。


   し、心臓の音ががうるさい·····。·····きっと、私、今、凄く恥ずかしい顔をしてる·····。

   ───もう一度見たい。

   ───話をしてみたい。

   しかし、私がちょうどそう思った瞬間·····。

「あら、ほんとに?」

「ええ、もちろんよ!  ふふふ、楽しみね·····」

   どこからか、女性達の楽しそうな声が聞こえてきた。

   私はその声に驚き、咄嗟に慌てて立ち上がった。そして、その場から逃げた。


□    □    □    □    □


   コツコツコツコツ·····

   落ち着け·····落ち着け·····落ち着くのよ、私·····

   コツコツコツコツコツコツ

   そう思っても、心臓がうるさいくらいに鳴り響き、顔の熱は治まらない。

   歩くスピードはどんどん早くなる。


   もう、どこに向かっているのかも分からない。ただ、ただ、早くこの熱を冷まさないと·····と、そう考えていた。
   


   ああ·····、私·····、私·····。

   昨日、シリウス様と婚約したばかりなのに·····。

   なんで·····、こんな·····。

   嘘でしょ·····?


「どうしよう·····」


   痛いくらい高鳴る胸の鼓動に、熱を持つ頬に、嫌でも気付かされてしまう·····。

「私·····」


   私は、きっと、彼に一目惚れした。


   ───たった今、恋に、落ちてしまった。



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投稿が遅くてすみません!!
ここまで読んでくれている方々、本当にありがとうございます!(*' ')*, ,)✨ペコリ
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