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忌み子王子の誤算
しおりを挟む俺は昔からよくこの庭園に来ていた。
たまたま遭遇した人に罵倒される事もあったが、それでも俺は、この静かな美しい空間が好きだった。
「綺麗ですわね」
アナベル姫が俺の隣でうっとりと庭園を眺めている。
気に入って貰えて良かった、そう思うのと同時に、少し試してみたくなった。
だから、限られたものしか入れない庭園がある事、そして、そこにある花は半年後に花開くのだといい、アナベル姫の反応を見た。
半年後も、そして、その先も、俺の隣にいてくれないかと、随分と遠回しな言い方だが、アナベル姫の意志を知りたかった俺は、ドキドキしながら答えを待った。
「ええ、是非見てみたいですわ」
そう言ってアナベル姫は目の前に広がる庭園を見ながら、楽しそうに笑った。
その笑顔に、問いかけたくなる。
傍に居てくれるのか、と。
忌み子で、不細工で、権力以外魅力なんてない俺と、本当に結婚しても良いのかと。
一度考え出すと止まらない。ネガティブ思考にハマりそうになった俺に、アナベル姫の心地よい声が聞こえる。
「あの、シリウス様·····?」
俺はハッとして直ぐにネガティブ思考をどこかにやって、アナベル姫に答えた。
「·····なんだ?」
「いえ、少し·····元気が無さそうに見えたので·····」
そう言うアナベル姫は俺のことを心配しているみたいだった。
俺は本当に、何をしているんだ、せっかくアナベル姫といるのに。
·····それにしても、アナベル姫は、よく気がつくな
そんなに分かりやすかったのだろうかと自問自答するも、答えは出ない。
俺は、ひとまずアナベル姫に謝ることにした。
「すまない、少し、考え事をしていた·····」
「考え事ですか?」
「ああ、気にしないでくれ」
俺がそう言うと、アナベル姫は特に何も聞かずに居てくれた。そして、その後も笑顔で話しかけてくれた。
俺はアナベル姫に花の特性などについて話しながら、ゆっくりと庭園を見て回った。
これは、俺が昔、夢見ていた事だ。
誰か、誰でもいい。ずっと、誰かと一緒にこういうゆったりとした時間を過ごしてみたいと思っていた。
あまり会話は無かったが、それでも俺はこの瞬間に感動していた。
「キャッ!」
聞き覚えのある悲鳴が背後から聞こえた。振り向くとそこには、つい最近婚約破棄したメアリ嬢がいた。
まずい、最悪だ·····。
俺がそう思った時にはもう手遅れだった。
メアリ嬢は顔面蒼白で震えながら俺の名前を呼び、カーテシーをしようとしたのだろう、スカートの裾をギュッと握りしめながら、腰を曲げようとした。
だが、震えすぎて上手くいかなかったのか、腰が抜けてヘナヘナとその場に座り込んだ。
俺とあっただけで、今にも泣いてしまいそうなメアリ嬢。
彼女を見て、アナベル姫は何を思っただろうか。今、俺の隣で彼女はどんな表情をしているのだろう。
──怖い。見たくない。
俺はグラグラと揺れる思考の中、なんとか、赤毛の騎士であるリュークにメアリ嬢の介抱と、アナベル姫を部屋に送るように指示を出した。
リュークはメアリ嬢のいとこだ。
きっと、上手く収めてくれるだろう。
俺は逃げるように庭園の奥へと歩いた。
□ □ □ □ □
一人で庭園を歩いていると、だんだん気持ちが落ち着いてきて、俺の中に後悔が押し寄せる。
もっと、上手く立ち回れたはずだ、と。
きっとアナベル姫は今、何が起こったか分からずに困惑しているかもしれない。
いや。メアリ嬢から事情を聞いて、慰めているのかも知れないな。
落ち着きようのない不安を俺は深いため息と共に考え込んだ。
だから·····、だから、これは予想外だった。
「シリウス様、置いていくなんて酷いですわ」
その声にびっくりして勢いよく後ろを振り向むく。ふわっと甘い香りが漂ったのを感じた瞬間、ギュッと洋服を掴まれた。
「やっと、つかまえましたわ」
「アナベル姫ッ」
その時、俺の目に映ったのは正しく天から降りてきた天使のような美しさをもつ女性。
天使は満面の笑みを浮かべていた。
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